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2025.01.05
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.102】 エレガントからチャーミングへ 気分上がる「気飾り」 2025年春夏ファッションの6大トレンド
写真左から「プラダ」「シャネル」「ミュウミュウ」「ステラ マッカートニー」
2025年春夏コレクションでは控えめなデコラティブ(装飾性)が勢いを増した。ミニマルやクラシックが主流でありつつも、シルエットや量感にいくらか起伏を持たせて、ありきたりに見えにくいアレンジが盛り込まれている。主張を強める方向感は「エレガントからチャーミングへ」。内面を映し出すかのようなスタイリングが目立つ。自分らしさを写し込んで気持ちを盛り上げるような「気飾り」が新傾向。従来の着方を揺さぶる「ずらし、崩し、はずし」を仕掛けて、キャラクターの多面性を示すようなコーディネートも提案され始めた。
◆エアリーファンタジー(Airy Fantasy)
写真左から「ロエベ(LOEWE)」、「プラダ(PRADA)」
モードの裏テーマは引き続き、「暑さ」だ。薄手ウエアをチープに見せないクチュール仕様の清涼アイテムが春夏ルックにリュクスを薫らせる。スタイリングの軸は軽やかなレイヤード。シアー服を羽衣のように重ねて、幻想感を醸し出したり、透けないアイテムとの重ね着で立体感を引き出す手法だ。さわやかに過ごせるような素肌見せも上品さをキープする着方が新しい。過剰な露出を控えつつ、カットアウトやスリット、シースルーでヘルシーに演出する。刺繍やビジュー、ワイヤー、メタリックでシアー服に気品を添える。バレエコアはロングトレンド化する気配を濃くしている。
◆ボーホーロマンス(Boho Romance)
装いのカルチャーミックスが広がる。時代や地域を越えた「時空ミックス」に加えて勢いづくのは、ムードのミックス。ボヘミアン(ボーホー)とロマンティックのマリアージュはその好例だ。イメージの異なるテイストをあえて引き合わせることで、適度なノイズが生まれる。ウエスタンやマリンリゾート、アート、コンサバティブなどのクロスオーバーも試される。ルーミーなシルエットが登場し、ドレープやフリルがロマンスを演出。70年代ヴィンテージ調カラー、ノスタルジック柄、トロンプルイユ、フリンジなどがキーディテールに。つば広帽子やビッグネックレス、フレアスカートが1950~60年代ムードを漂わせる。
◆ハイスポーツ(High Sports)
「日常のモード化」が加速する。デイリーウエアにグラマラスやアッパーのテイストを持ち込んで、気負わないリュクスコーディネートに仕上げる。コンフォート(着心地)重視の流れを追い風に、スポーティーなテイストが広がりを見せている。正統派のテーラードがアスレティックと融合。スイムウエアをセットアップに組み込むといったチャレンジングな着こなしがスポーツ系アイテムの出番を増やす。クロップドトップスが一段と定着。ブラトップやタンクトップは多彩な着こなしで相性を発揮する。ハーフパンツやウインドブレーカーも打ち出されている。ポロシャツやトラックスーツは健やかで伸びやかな装いに導く。
◆パワーガールズ(Power Girls)
エイジレスがユースカルチャーと交わり、若々しさを引き出す。これまではカジュアルなイメージの強かった「ガーリー」が大人仕様にグレードアップ。フレッシュ感に加え、強さやリッチテイストもプラス。トラッドをひねった「ネオ・プレッピー」が支持を広げる。ドレス系ではミニドレスやスリップドレスがガーリーとフェミニンの境目を溶かす。少女っぽさを印象付けるリボンやメリージェーン靴のようなアイコンアイテムもリバイバル。足元にはソックスやレギンスがコケットやはつらつ感を寄り添わせる。バッグチャームや重ね巻きのベルトなど、大人ガーリー流の小物アレンジも登場している。
◆ボリュームクチュール(Volume Couture)
薄着でライトに見えやすい春夏ルックに、あえて量感を持たせる提案が相次いだ。ボリュームで装飾性を高め、クチュール仕上げの上質感を印象付ける。表現が広がってきたサマーレイヤードとも調和。シアーアイテムを重層的にまとって、バレエや夜会服のたたずまいに。膨らみとシェイプ(絞り)を組み合わせて、ルックにめりはりを加える。リボンやパニエがダイナミックな起伏を生んで装いの表情を深くした。パフスリーブやペプラムなどの量感のあるディテールは華やぎと愛らしさを引き立てている。エレガントさを帯びたボリュームルックは鮮度が高い。軽やかでありながら、品格を保った春夏ルックは涼感と量感も兼ね備える。
◆オフィスクール(Office Cool)
セットアップ系(スーツを含む)の装いがほのかに主張を帯びる。ミニマルとクラシックの潮流を引き受ける装いとして存在感が高まる。お仕事ルックの代表格だったが、普段使いに誘う。ややスリリングなアレンジを加えた「オフィスサイレン(Office Siren)」が着方のバリエーションを拡張。きちんと感や端正さが持ち味だったお仕事ルックにフェミニン感や茶目っ気を足し込んでいる。ジャケットはオーバーサイズが浸透。シャツスーツは軽やかな着映えだ。見慣れたパンツスーツにはランジェリーやショートパンツを組み入れるアレンジが相次ぐ。ワイドパンツは強いイメージを導き、テーラードスーツは他者にもたれかからない「凜々しい女性」のアイコンとなりつつある。
2025年春夏トレンドに共通しているのは、型にはまらない着こなしへの流れだ。大胆なイメージチェンジは避けながらも、装飾性を自分好みに盛り込みたいという、着る側のマインドシフトが背景にうかがえる。ミニマルやクラシックの「基本軸」と折り合いをつける格好で、意外感やユーモア、スポーツ感を織り交ぜていくのがこれからの流儀に。こなれた着映えに整えやすいだけに、広く支持を得てロングトレンド化しそうだ。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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