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2024.11.03
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.100】「日常のラグジュアリー」を提案 広がるシーンミックス 2025年春夏ニューヨーク&ロンドンコレクション
写真左から「マイケル・コース コレクション」「コーチ」「バーバリー」「ジェイ ダブリュー アンダーソン」
2025年春夏のニューヨーク&ロンドンコレクションでは「日常のラグジュアリー」が掲げられた。リアルクローズを軸に据えて、ロマンティックやエフォートレスな要素を薫らせている。伝統的でスタンダードなアイテムに、手仕事のディテールやウィットフルなひねりを加えるアレンジが相次いだ。さらに、フォーマルやスポーツをデイリーウエアに持ち込むシーンミックスの提案も目立つ。国際情勢を映して穏やか色や花柄などのピースフルな表現が勢いづいた。
■ニューヨークコレクション
◆マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)
Courtesy of MICHAEL KORS COLLECTION
シックとリゾートをねじり合わせて、日常的なリュクスを歌い上げた。洗練とロマンティックを交差させて二面性をまとわせている。キーピースは細身のドレス。ウエストシェイプを利かせて、優美なシルエットに仕上げた。背中や胸元が開いたデザインは、ほのかにヌーディーな印象を与え、1950年代のクラシック映画に通じるヴィンテージ感や女優ムードを帯びた。オールブラックや黒×白の色調はジェントルラグジュアリーな風情で、刺繍やレースにイタリア職人の手仕事技が宿る。スイムウエアとフォーマル服をテーラリングで仲立ちするアプローチを提案。ビーチとパーティーと行き来する自然体レディーの装いだ。
◆トリー バーチ(Tory Burch)
お得意のエレガンスとエフォートレスに、スポーツのひねりを持ち込んだ。長くきつい暑さを踏まえて、スイムウエアをタンクトップ風の街着にアレンジし、スパンコールの刺繍で華やかさを加えた。トラックパンツでアスレティックな気分を漂わせ、機能美も織り込んだ。ウエストにワイヤーを入れたスカートが細感を際立たせる。フィット感の高い、ノースリーブのコンパクトなトップスが健康的で優美な曲線を描く。袖が細く長いシャツはしなやかな着映えを演出。ベルトを使ったウエストマークが新発想のボディーコンシャスを引き立てている。
◆コーチ(COACH)
Courtesy of Coach/Photo by Isidore Montag
プレイフルで若々しい装いにニューヨーク愛を詰め込んだ。アメリカンクラシックに解釈を加え、NY流リアルクローズに整えている。「I LOVE NY」プリントのTシャツにボトムスはチノパンという典型的なアメリカンカジュアルに、テーラードジャケットを羽織って格上げ。コンパクトなミニドレスにもクチュール感を盛り込んでいる。ショートパンツと正統派ジャケットの長短アシンメトリーで動感を引き出した。キャップがアクティブな表情を添え、古着テイストやストリート気分が同居してこなれ感を演出している。レザーやデニムには再利用素材が用いられ、Z世代のサステナビリティ意識にも寄り添ったコレクションとなっている。
◆3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)
流麗さとエフォートレスを兼ね備えた、ブランドの持ち味を示すルックをそろえた。クリーンでエアリーなムードを軸に据えた、軽やかでフェミニンな着映え。ソフトでしなやかな素材感も健在だ。控えめに素肌を透かし見せるレースがキーマテリアル。植物モチーフを写し込んで、繊細な着姿に導いている。シアー服でレイヤードを組み上げ、涼やかな雰囲気を醸し出す。風をはらんで、服の端々が弾む。素肌見せを多用しつつ、品格はキープ。デニムルックにもフリルやドレープを引き合わせて、レディーライクに整えている。ウエラブルとロマンティックを響き合わせて、伸びやかな多幸感を盛り込んだ、20周年の節目にふさわしい、集大成のようなコレクションだ。
■ロンドンコレクション
◆バーバリー(BURBERRY)
「コード(約束事)の書き換え」が裏トレンドとして勢いづく中、伝説的アイテムのトレンチコートをライトに仕立て直した。シルクポプリンやリネンを用いて、春夏向きの短め丈ライトアウターに再構築。逆に、トレンチコートのアイコニックなディテールを、ドレスに写し込んだ。本来は武骨なアウトドアやミリタリーをウエアラブルにアレンジ。カーゴパンツも角を落とした。着古したような風合いを特殊加工で引き出し、控えめなヴィンテージ感を帯びさせている。フィールドジャケットのようなユーティリティー系アイテムでシーンフリーの着こなしに誘った。アウトドア服でも気品を保ち、イージーエレガンスの装いにまとめ上げている。
◆ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)
ガーリーとウィットの交差を試した。シルエットはミニマルだが、ユーモラスな遊びを随所に仕掛けている。レザー仕立ての円盤形スカートは硬質なチュチュ風。短冊状の布を連ねたミニドレスはボディーを「梱包」したかのよう。ボリューミーなコクーンスカートはコンパクトトップスとの量感コントラストを生んだ。シルクサテン仕立てのノースリーブ・ミニドレスは、つやめきを放ち、あでやかでキュート。一方で、アーガイルの極大モチーフをトロンプルイユ風にあしらい、遊び心を注ぎこんだ。アート批評文で埋め尽くされたミニドレスは知的な刺激が隠し味。チャーミングとエスプリを同居させて、ミニマルから高揚感や反骨マインドを引き出してみせた。
◆アーデム(ERDEM)
マスキュリンとフェミニンが交じり合うジェンダーフリュイドな装いを打ち出した。エレガントでレディーライクなテイストに強みを持つデザイナーが英国流テーラリングを迎え入れた。ピンストライプ柄のダブルブレスト・スーツは凜々しさを備えた本格仕立て。一方、ランジェリー感を帯びた、ブラレットとスリップドレスのコンビネーションは懐かしげでたおやか。ウエストから膨らんだドレスは古風なたたずまいで、床まで届くトレーンが優美。アシンメトリーに流れ落ちるドレスには刺繍、ビジュウ、リボンを贅沢にあしらっている。ドレスの足元にはローファーを迎え、1920年代風のレトロ感と現代的なジェンダーミックスを響き合わせた。
ミニマルの素っ気なさを、様々なアプローチで乗り越える試みが相次いだ。エアリーやレイヤード、ボディーコンシャスなどの提案がルックに深みや動感をもたらした。熱暑をしのぐシアー素材やコンパクトなフォルムが装いを軽やかに見せている。デイリーとエレガンスをしなやかに折り合わせ、自分好みの着こなしに導く「日常のラグジュアリー」がおしゃれの新コードに位置付けられていた。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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