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2018.06.06
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.50】強さとしなやかさが同居 服にメッセージを込めて~2018-19年秋冬ファッションの6大トレンド~
宮田理江のランウェイ解読 Vol.50
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強さとしなやかさを兼ね備えた「ネオフェミニスト」が主人公――。2018-19年秋冬シーズンのファッショントレンドは自分らしさを主張するトーンが一気に上がる。サイズや時代、性別などの決まり事をあえて無視するかのような融通自在の着こなしが広がる。女性の尊厳をあらためて重んじる動きを受けて、服にメッセージを込めるスタイリングも盛り上がりそう。時空を超えた、型にはまらないコーディネートが新たな女性像を描き出す。
◆ビー・ジャイアント Be giant!
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ビッグシルエットの勢いが常識的な枠からあふれ出る。ワンサイズ上の量感にとどまっていたオーバーサイズを超えた「ジャイアントフォルム」がファニーな着姿に導く。キーアイテムは詰め物がたっぷりのパッディッド(パッド入り)アウター。中綿やダウンを詰め込んでふくらませた、キルティングのコートやブルゾンが圧倒的なもこもこボリュームで、装いにパワーをもたらす。フリースやボア、エコファーもさらに活気づく。マウンテンパーカのようなアウトドア系の羽織り物も量感がアップ。特大の毛布にくるまれるようなブランケットアウターやビッグポンチョはきれいなテントラインを描き、落ち着きや朗らかさを印象づける。
◆ストリートエレガンス street-elegance
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(左から)Dolce&Gabbana、GUCCI
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ヒップホップ気分がリュクスと交わる。もともとは居場所の異なるストリートとエレガンスがクロスオーバー。若々しさとラグジュアリーが融け合う。スケート文化と縁の深いフーディーやコーチジャケット、スウェット・セットアップといった、ユースカルチャーの目印的なアイテムに、ボウタイ・ブラウスやコルセット(ビスチェ)などをミックス。グランジムードを帯びたネルシャツ、アウトドア風味のアノラックも復活。サッカー観戦用のビッグマフラーにも光が当たる。髪を覆うフード付きのカットソーは新顔。リボン、スカーフなど、優美な小物・ディテールを、ストリートアイテムに添えるミックスコーディネートがムードを深くする。
◆レトロテック retro-tech
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(左から)MOSCHINO、Alexander Wang
どこか懐かしげな雰囲気と、未来的(フューチャリスティック)なハイテク感覚という、ほとんど真逆のテイストが同時に盛り上がる。テクノロジー感を象徴するPVC(ビニール)素材のつやめき、銀箔風のシルバーメタリック、宇宙服を思わせる過剰サイズなどが理系やギークの気分を醸し出す。光沢やまばゆさを帯びたコーティング、パテントレザー、ホログラム、リフレクター(反射材)、ジップ、スパンコールなどが投入される。一方、レトロムードを演出するのは千鳥格子、ジオメトリック柄、ビビッドカラーなど。丸っこい靴のメリージェーン、ネッカチーフ、ケープ、ダッフルコートなどもノスタルジックな着映えに誘う。
◆パワーウーマン power woman
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(左から)GIVENCHY、SAINT LAURENT
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(左から)Giorgio Armani、JIL SANDER
今の社会的空気を背景に、弱さを見せない女性像が提案されている。1980~90年代を連想させる、強めのショルダーラインがアイコン。テーラードのパンツスーツがパワードレッシングを印象づける。ボリュームたっぷりの肩掛けファーストールや、フェイクファー、ネオンカラー、玉虫色、アニマル柄などの押し出しの強さが目に付く。ゴールドグリッター、ビッグバックルベルト、ブランドロゴ使いも80~90年代の気分。厚底靴、ハイウエスト、ケミカルウォッシュドジーンズがリバイバル。「媚びない女」のイメージが新たなフェミニストの装いを形作る。
◆アメリカンボーホー American boho
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西部開拓時代を懐かしむかのような、フォークロアテイストが勢いづく。ウエスタンシャツやバッファローチェック柄、ペザントドレスなどがキーアイテム。足元はウエスタンブーツで決まり。ワークウエア方面からはジーンズ、ムートン、ボア使いも有望。注目のディテールはフリンジやパッチワーク、ステッチだ。ロングトレンド化したブリティッシュ以外の伝統的な素材やモチーフにも目が向く。フェアアイル柄、ノルディックモチーフ、ネイティブアメリカン模様、ペイズリー、カウチン編み地はニットウエアにボヘミアン風味を宿す。マキシ丈ドレス、バケットハットも、のどかな着姿を生む。
◆フィロソフィールック philosophy look
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(左から)JW ANDERSON、PRADA
着る人の意識や哲学(philosophy)、ポリシーを示す着方が台頭しつつある。LGBTQ+カルチャーへの自然なまなざしを象徴するレインボーカラーはその一例。ジェンダーや人種、ライフスタイルなどの多様性をしなやかに受け入れ、ニュートラルに応じていく態度を示す装いが提案されている。窮屈さを遠ざけたニットドレス、性差を見えにくくするパンツスーツ、シーンを選ばないトラックスーツなど、これまでの約束事から逃れて、自分本位の着こなしを可能にするアイテムが支持を広げる。素材のハイブリッド使いや、体を守るような「プロテクションアウター」も主体的な服選び、芯の強さなどのイメージをまとわせる。
服が好みや人柄を映すのは、以前から知られているが、18-19年秋冬シーズンには世の中との向き合い方を自らファッションで表現する着こなしが広がりそうだ。服との「一心同体」化が進む中、メッセージ性を帯びたアイテムが相次いで企画されていて、内なる自分を進んで「発信」する演出も広がりを見せそうだ。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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