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2024.09.12

【2025春夏東京 ハイライト4】メッセージ性を強調

写真左から「アンリアレイジ オム」「ヨシオ クボ」「オー・ゼロ・ユー」「ユェチ・チ」

 

 「楽天ファッション ウィーク東京 2025春夏(Rakuten Fashion Week TOKYO 2025S/S)」では、各ブランドが独自のコンセプトやテーマを鮮明に打ち出し、これまで以上にメッセージ性を強調したコレクションが数多く披露された。2000年代の原宿ファッションやファッションのクリエーションとお笑いの融合、戦争の影響を受けた子供たちの感情、さらには環境配慮型のサステナビリティを表現するコレクションなど、会場や演出、モデルにまでこだわり抜いた多彩なラインナップが印象に残った。また、ファッションウィーク期間中に行われた関連イベントも盛況で、業界全体の取り組みも注目を集めた。

 

アンリアレイジ オム(anrealage homme)

 1回目のコレクションでは2000年代の原宿を大きなテーマにした「アンリアレイジ オム」。2回目の今回はデザイナー自身が小学生の頃に見ていた景色や、服を作る前に感じていた本当の原風景を表現できないかと考え、純粋さに加えて、不思議な歪みや、通常では考えられないあり方、未熟さ、欠けている部分や足りない部分といった要素を取り入れた。
 
 秩父宮ラグビー場に登場したのは、パールをあしらったジャケットとショートパンツ、カタカナ表記の「オム」と書かれたジャケット、骸骨などのストリート的なモチーフやアイテム、ファミコンゲームのカクカクしたキャラクターのような低解像度のアイデア。「アンリアレイジ」がこれまで発表してきたアイデアやモチーフを使用しながら、アイテムやデザインは前回以上にカジュアルで素朴なものとなっている。
 
 炎のモチーフやパンク風のヘアスタイル。「アンリアレイジ」らしいデザインに、四半世紀前のムードをアレンジして加えている。ゆがみやステッチも重要な要素となっている。海外で人気のレトロな任天堂ゲームや、1990年代の「トゥオーフォーセブンワンワントゥオー(20471120)」やウォルター・ヴァン・ベイレンドンクによる「ウォルト(W.&.L.T.)」の影響もわずかに感じられた。
 
 昨年、東京・表参道のスパイラルガーデンで行われた「アンリアレイジ20周年記念展覧会『A=Z』」では、「ブランドの『根っこ』にあるものを、たくさんの人に見てもらいたい。今後は、20年間に発表したコレクションの中で消えずに残ってきたものを凝縮しながら、20年後にも残るものを作りたい」と話していた森永邦彦。

 オムでは、ラグジュアリーブランドのメンズがアーカイブコレクションのアイデアに、ストリートのトレンドや音楽などの影響を加えるのと同様に、異なるアプローチを取っている。「アンリアレイジ」では、新しいデザインやパーマネントコレクションを目指し、ドラえもんからインスピレーションを受けたデザインも発表してきたが、2000年代の原宿ファッションの原風景をテーマにした今回のコレクションは、藤子・F・不二雄作品「未来の想い出」というタイトルを思い起こさせた。
 
 「アンリアレイジは、非日常を可視化したいというブランドコンセプトを持っており、これまでも服自体を非日常的に作ろうとしてきましたが、オムでは、外見的な非日常性を可視化するというよりも、着る人の心やメンタルが日常の中で変わっていくような、より内面的な非日常性をベースにしています。アンリアレイジの低解像度のモチーフや、シーズンごとのテーマである“パワー”のボリューミーなウェア、『夢中』のビーズで装飾されたウェア、パールのモチーフなどの要素をメンズウェアに装飾的に取り入れました。次のパリコレクションで発表するウィメンズは、全く違う、新しい試みに挑戦します」と森永邦彦。

ヨシオ クボ(yoshiokubo)

「ヨシオ クボ」2025春夏コレクション Courtesy of yoshiokubo

 

 テーマは“守・破・離”。今年でブランド20周年という節目を迎え、これまでのクリエーションを土台に、新たなアイデアで再構築。長く愛され、いつまでも「捨てられない」一着を生み出すため、記憶、構築、経験を振り返り、ブランドの土台として続く「切り替え」、誰も見たことがない、見せたくなる技を駆使した「テクニカル」、そして今やりたいことを詰め込んだ「ギャザー」の3つのシリーズで構成したコレクションを発表した。

 

 水族館などさまざまな場所でプレゼンテーションを行ってきた久保嘉男が選んだのは、東京・新宿区のルミネtheよしもと。30分近く続いた新喜劇の後に現れたのは、対照的に実験的なデザインだった。ギャザーをアクセントにしたデザインや、切り替えによってさまざまな機能や素材を組み合わせたユーティリティウェア。赤やオレンジなどの鮮やかな色を使ったデザインは、ドレープのように見え、機能とエレガンスが融合している。

 

 しわの寄ったジャケットやパンツ、ユーティリティなミリタリー。スポーツとリラックス、快適性、装飾性などをミックスしたリアルクローズ。つなぎの上にライダースをプリントしたトロンプルイユも印象に残る。ユーティリティと機能性、エレガンスやアバンギャルドなど、相反するさまざまな要素をリミックスしながら相乗効果を生み出したデザイン。吉本新喜劇とコレクション発表を融合させたのも納得のデザインだ。「良かったです。夢でした」と久保嘉男。

 

コニテンプラ(52tenbo+)

「コニテンプラ」2025春夏コレクション ©JFWO

 

 テーマは“Independence(自立)”。体が大きくて自分に似合うファッションがなく、困っているなど、悩みを持つ人の思いをインスピレーション源に、「オシャレに臆することなく、堂々と自分らしく、シルエットという固定観念から自我を解放します。人も服もたゆたう流れに身を任せ、ありのままで」というコンセプトをショーで表現した。

 

 渋谷ヒカリエ・ヒカリエホール・ホールAで行われたショーには、小児がんや自閉スペクトラム症、福山型筋ジストロフィー、ダウン症候群の方々、プロのモデル、大柄のモデル、元バレーボール選手や柔道オリンピック銀メダリスト、現役大相撲力士も参加。日本語と英語に加えて手話通訳も行い、さまざまな体型や身長、体の状況に対応したコレクションを発表した。ひまわりをテーマにした5色の生地で多様性を表現したドレス、自尊心をテーマにしたアシンメトリーなシャツ、大和魂をテーマに着物を再利用して強さを強調したデザインなど、色や素材でも多様性を表現している。

 

 小錦八十吉は「みんな一人ひとりにそれぞれの美しさがある。背が高くて痩せているだけでなく、いろんな人が堂々と社会に出て、自信を持って胸を張り、外に出られるような、そういう服を作るファッションデザイナーになりたいと思います」とあいさつ。

 

 鶴田能史は「来シーズン以降もショーを継続するかどうかについては、もちろん考えています。単なる打ち上げ花火で終わらせるつもりはありません。我々は、この素晴らしい舞台でメッセージを発信するために、このブランドを立ち上げました。今回のショーを通じて、プラスサイズのファッションを広めることで、多くの人々に知ってもらうことができると思っています。我々が発信することで、多くの人々に知ってもらうべき重要な情報がたくさんあります。そのためにも最先端の舞台で発信し続けていくつもりです」と話した。

 

オー・ゼロ・ユー(O0u)

「オー・ゼロ・ユー」2025春夏コレクション ©JFWO

 

 アダストリアの子会社ADOORLINKが運営する「オー・ゼロ・ユー」が、ブランド初のランウェイショーを開催した。テーマは“LIVING IN A CIRCULAR WORLD”。今回のテーマには、循環する丸や地球、歩いて戻るとまた元に戻るという循環のイメージが込められている。資源の使い方や文化、流行も、無理にその枠を超えようとすると歪みが生じる。自然体で、平和かつ健康に、角のない状態で生きたいという思いが反映された。

 

 会場は東京・江東区のテレコムセンタービル。ショーでは、白いコートやファーライクなパンツ、袖部分に半透明の布を重ねたジャケットやコートなどが登場。会場中央に設置されたオブジェを覆う白い布と調和するアイテムや、トレンドであるドレープやギャザーを取り入れたアイテム、フリルやコラージュといったデザインも披露された。環境に配慮した素材を使用しながらも、美しさを損なわない作品が揃っていた。また、椅子の上に置かれたウサギのぬいぐるみがアクセサリーとして活用されているのも印象的だった。

 

 デザイナーの近藤満は今回のコレクションについて「オー・ゼロ・ユーというブランドは、丸や透明性をテーマに設立されました。今回の初めてのコレクションにあたり、もう一度そのテーマとしっかり向き合い、立体的な円や筒の形に包まれるような世界観を表現しました。それは、いわば丸い地球で暮らすという意味にも通じており、丸という形を徹底的に再解釈したコレクションに仕上げました。

 

 椅子の上にあったぬいぐるみは、今回のテーマ“丸い地球に暮らす”というコンセプトの一環です。私たちは、環境配慮型ブランドとして3年半前にデビューしました。これまでサステナブル素材の使用を強調してきましたが、それ以上に大切なのは、人や環境に対する思いやりや、物に対する愛着だと考えています。今回のぬいぐるみはその象徴です。リサイクルポリエステルのファーを使って作られたこのぬいぐるみを通じて、私たちのブランドの思いを服だけでなく、より多くの方に伝えたいと考えています」と説明した。

 

へオース(HEōS)

「ヘオース」2025春夏コレクション Courtesy of HEōS

 

 「へオース」は、“nightmare”をテーマに、戦争で被害を受けた子供たちが抱える苦しみと希望の間で揺れ動く感情を、幻想的かつ印象的なダークファンタジーの世界で表現した。コレクションは、戦場の夜、子供たちの視点、そして未来への希望で構成されている。

 

 会場は渋谷ヒカリエ・ヒカリエホール・ホールA。大音量とスモークによる戦地や世紀末的なムードの中、切りっぱなしのコートやエレガントなスカート、透けるプルオーバー、プリントシャツなどが登場した。トレンドの透ける素材やスキンカラーのドレス、デニム、グラデーションのコートやジャケット、どこか懐かしい室内装飾を思わせるデザインも目を引く。破壊と再生、日本的な要素とアバンギャルドが融合している。

 

 デザイナーの暁川翔真はリリースに「戦争の恐怖と、その中で失われつつある無垢な命への関心を呼び起こし、同時に絶望の中でも見いだせる希望を描きたい。子供たちに未来を信じて前に進む力を伝えたい。観る者すべてに、考える機会を提供したい」と書いている。

 

ユェチ・チ(YUEQI QI)

「ユェチ・チ」2025春夏コレクション Courtesy of YUEQI QI 

 

 2018年にセントラル・セント・マーチンズ美術学校ニットデザイン科を卒業し、「シャネル(CHANEL)」の刺繍アトリエで経験を積んだユェチ・チは、今シーズン、新国立競技場の室内練習場でコレクションを開催した。コレクションは、刺繍をあしらったサッカーや野球のユニフォーム風の背番号付き透けるトップスと、膨らんだミニスカートでスタートした。

 

 ハートモチーフを使ったドレスや、透けるサッカーのユニフォームに刺繍をドッキングしたトップスなど、スポーツとラグジュアリーをミックスし、レースや下着のようなムードをコラージュしたデザインが続く。透ける素材と刺繍、デニムをリメイクしたようなデザインも特徴的だ。前回は昭和喫茶で未来的な要素と強さが共存するコレクションを発表したが、今回はスポーツやアップサイクルを連想させるデザインが増加。ジャージの上下を刺繍で飾ったデザインや、「アディダス(adidas)」とコラボレーションした鮮やかな色使いのアップサイクル風デザインも登場した。力強さと繊細さを併せ持つコレクションだ。

 

東京ファッションウィーク期間中での取り組み

 

 

 

トラノイトーキョー(TRANOÏ TOKYO)

写真:ベルサール渋谷ファーストに設えた「トラノイトーキョー」の会場 Courtesy of  TRANOÏ TOKYO

 

 トラノイは9月4日と5日の2日間、ベルサール渋谷ファーストで「トラノイトーキョー」を開催した。日本、韓国、中国、ヨーロッパから計175ブランドが参加した。初開催となる今回は、2日間で3,499人が来場した。三越伊勢丹、ユナイテッドアローズ、シップス、ビームス、トゥモローランドなど、日本の主要バイヤーに加え、韓国、シンガポール、台湾、中国からも多くのバイヤーが来場した。「出展した甲斐があった。たくさんのバイヤーにも見てもらえ、新規も獲得できた」(「ディウカ(divka)」)など、会場は常に混雑しており、入場待ちの列やオーダーが続いたという。

 

 トラノイのマネージングディレクターであるボリス・プロヴォは、「ファッションウィークに合わせることが、日本のマーケットにとって最も魅力的だと考えていたので、その点が当たった。今後は、連動してショーを行うブランドをそのままここで展示会できるようにしていきたい。今シーズン見たカミヤなど、お声がけしたいブランドもある。そのため、今後は『トラノイトーキョー』の知名度をさらに上げながら、ファッションウィークとの関係を深め、どのブランドがここに参加すると双方にとって良いのかを考えていかなければならない。ネットワークをさらに構築したいという思いがある。また、規模を拡大し、ショーやイベントをもっと増やしていきたい」と話した。

 

マロニエファッションデザイン専門学校

 Courtesy of MARRONNIER COLLEGE OF FASHION DESIGN

 

 関連イベントとして、創立75周年を迎えるマロニエファッションデザイン専門学校が、これからの日本のファッション業界を担う若者と社会を結ぶプロジェクトとして、最終日に渋谷ヒカリエ・ヒカリエホールAでランウェイショーを開催した。

 

 「楽天ファッション ウィーク東京」では、今年3月にもエスモードジャポンの卒業コレクションショーが行われたが、今回のショーは、日本の人口減少に伴い、専門学校で学んでも卒業生が繊維ファッション業界に進まないなどの状況に対応したもの。

 

 日本ファッション・ウィーク推進機構は、昨年からファッションウィーク期間中にノミネートがあれば積極的かつ前向きに取り組んでいこうという方針を取っているが、今回は卒業コレクションではなく、リクルート活動を目的としたショーを開催した。当日は“ART of passion”をテーマに、学生たちが作品を発表。「マロニエファッショングランプリ(MARRONNIER FASHION GRANDPRIX)」のグランプリ作品なども紹介され、学生たちはバイヤーに自身の力量をアピールした。

 

 リクルート活動やバイヤーへのアピールという目的に対して、トレンドや量産ではないクチュール的なデザインが気になったが、岡本剛二校長は 「ブランドは、もちろんトレンドを加味しながらショーを展開しますが、同じことをしても。学生らしさやエネルギー、可能性、そしてファッションに対するものづくりの熱意を、まずしっかりと見てもらおうと思いました。「今の市場では、オートクチュール的な一点物やステージ衣装、アイドルの衣装などが、一般の服とは少し異なる仕事として存在しています。今回、ジャーナリストやインフルエンサー、スタイリストも来場しているので、今後は学校として衣装の貸し出しも行っていきます」と語った。

 

 

 

 今シーズン、「ミューラル(MURRAL)」の村松祐輔にショーの意味について聞くと、「ミューラルにとってショーは、ブランドを支える顧客や関係者に向けて行うものであり、ブランドの成長を見せる機会です。続けていくことが一番大事だと思いますし、続けていくからこそ見えてくる、強くなれる部分が絶対にあると思います。そのために自分たちはどうしたらいいか、そして何を訴えたいのかを考えること、誰のために、なぜやるのかを明確にすることが大切だと思っています」とコメント。

 

 また、「サポートサーフェス(support surface)」の研壁宣男は「人が実際に着ているのを見ないと、その空気感は伝わりにくい。展示会で1人1人に説明するより、一度に見せる方が効率的で、誰でもわかりやすい。服は人が着るものです。どんな形であれ、ショーには意味がある」と話した。参加数がすべてではないが、次回のファッションウィークでは今シーズン以上に、さらに多くのすばらしいコレクションが見られることを期待したい。

 

 

 

取材・文:樋口真一

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