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2024.09.11

【2025春夏東京 ハイライト3】エレガンスとリアルな美を追求

写真左から:「フェティコ」「ピリングス」「ミューラル」「ヴィヴィアーノ」

 

 「楽天 ファッション ウィーク東京 2025春夏(Rakuten Fashion Week TOKYO 2025S/S)」では、エレガンスとリアルな美を追求したデザインが目を引いた。透け感のある素材やドレープを巧みに用いることで、軽やかさと優雅さが融合したシルエットが印象に残った。スキンカラーやベージュ、自然を感じさせる色が主流となり、花や植物をモチーフにしたグラフィックも見られた。1980年代の要素を取り入れながら、現代風にアレンジされたボディコンシャスなラインとビッグシルエットが共存し、エレガンスと快適さを両立させたスタイルが展開された。

 

 さらに、光と影を活かしたデザインが、美の本質を際立たせる新たなアプローチとして取り入れられ、日常生活に溶け込みやすいファッションとして提案された。メンズブランド同様、レディースブランドでもコレクションの数は減少したが、参加したデザイナーたちは独自性を強調し、得意技やこれまでの技術を進化させながら、新たなアプローチと方向性を探っている。

 

テルマ(TELMA)

「テルマ」2025春夏コレクション Courtesy of TELMA

 

 「NEXT BRAND AWARD 2025年度」の支援デザイナーに選ばれた中島輝道による「テルマ」は、初日トップを切って渋谷ヒカリエ・ヒカリエホールAで2025春夏コレクションを発表した。美しいグラフィックと色彩を駆使し、自然と未来が共存するコレクションを披露した。

 

 今回のコレクションでは、京セラドキュメントソリューションズのインクジェット捺染プリンター「フォレアス(FOREARTH)」を用いたプリント技術が駆使されている。光を感じさせるボーダーやゴールドなど、自然を感じさせる色彩とグラフィック、風のようにしなやかに動く布が生み出すドレープが、自然と未来の融合を象徴しているかのようだ。

 

 花を抽象的に描いたプリントや幻想的なグラフィック、オプアートの要素が加わり、自然とアートが調和したデザインが展開された。木目調のプリントやシワのあるテクスチャが施され、光と影のコントラストが見事に描かれており、自然の静かで力強いエネルギーを感じさせる。

 

 オリジナルの柄や素材に加え、日本的な「間」や空間の使い方も取り入れており、「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」や「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」での経験を積んだデザイナーの経歴が反映された洗練されたコレクションだった。しかし、それ以上に際立っていたのは、斬新な美しさと新鮮さ。「言葉にできるなら服は作らない」という三宅一生の言葉を思い起こさせる、視覚的インパクトの強いデザインだった。

 

フェティコ(FETICO)

「フェティコ」2025春夏コレクション Courtesy of FETICO

 

 “ザ・シークレット”をテーマに、1980年代のスタイルをモダンかつフェミニンに解釈した作品を発表した。

 

 アライアのミューズであり、スーパーモデルという言葉がなかった時代に、マルペッサやスザンナ・リンスメイヤーとともに80年代後半にモデルとして活躍したベロニカ・ウェブからもインスピレーションを受けた今シーズン。水や海、波に囲まれたような幻想的な映像を背景に、ランジェリーのようなトップスとスカート、体の美しさを強調し、まるで服の中を泳いでいるようなドレスが登場した。

 

 肩や背中など、体の美しさを強調しながら、装飾やロマンチックなモードがプラスされ、淡いピンクやライムグリーンなど、美しい色や花のようなイメージも加わっている。また、1980年代にパリファッション界の若き帝王と呼ばれたクロード・モンタナからインスピレーションを受けたデザインやディテールも加えられている。彫刻的でドラマチックなデザインで、女性の背を高く見せる服を作り続けたモンタナの影響を受けた、肩ラインを強調するトップスも加わった。

 

 80年代のボディコンシャススタイルや、ミステリアスでノスタルジックなムードが融合したコレクション。アライアの女性の体の美しさをリサーチしながら、80年代の強さをさまざまな角度から探るなど、新しい表現を模索しているようなコレクション。しなやかさと強さを兼ね備えた今回の変化と挑戦が、秋冬シーズンにどうつながるのかも注目される。

 

 舟山瑛美は「ちょっと秘密を持ったミステリアスな女性の魅力を描きたい、という思いがありました。コレクションを作る際にはいつもヴィンテージなどをリサーチしますが、たくさんの古着を見ている中で、自分がピックアップしたアイテムがどれも80年代のもので、そこに惹かれる何かがあるのだろうという点がフックとなり、80年代から着想を得ることにしました。また、80年代をリサーチしている中でピーター・グリーナウェイ監督の映画「数に溺れて」に出会い、そこに登場するミステリアスな秘密を持つ女性たちや、監督が描く淡い色彩の世界観、つかみどころのない白昼夢を見ているような感覚に非常に魅力を感じ、その曖昧さがインスピレーションとなりました。その世界観を融合させようと思い、コレクションを制作しました」と話した。

 

ピリングス(pillings)

「ピリングス」2025春夏コレクション Courtesy of pillings

 

 これまでの重厚な作り込みから一転、軽やかで透明感のある新しいディレクションが打ち出された。特に注目されたのは、未来的なムードを感じさせるニットや半透明の素材を使用したパンツ、布帛シャツなどのアイテム。これらのアイテムは、どこかロボットのようなモードを思わせるデザインで、軽さや新しさを強調している。

 

 シワを寄せたドレープを活かしたシャツも印象的で、従来の春夏コレクションでは見られなかった、新しい試みが随所に見られた。特に、ニットは、ハンドニットで見せてきたような素朴さを排し、軽やかで洗練された表現を追求している。

 

 半透明のニットやドレス、さらにレースやカーテンを固めたようなドレスは、ニットで編んだレースカーテン柄をハンドの樹脂コーティングで固めたもの。まるで未来のファッションを体現するかのような存在感を放っている。

 

 また、蟻をモチーフにしたアクセサリーなど、同ブランドが続けてきた遊び心あふれるディテールやアクセサリーなども随所に施されており、全体的に軽快でありながらも洗練された雰囲気が漂う。

 

 春夏コレクションということもあるだろうか。ニットは引き続き多用されているが、今回のコレクションではより軽さと美しさが追求され、これまでのニットとは一線を画す新しい表現が際立っていた。

 

 さらに、パンツもクリーンで明るく、未来的なシルエットが目を引く。ロボットを彷彿とさせる独自のデザインが、今回のコレクションのテーマを象徴しているようだ。

 

 このコレクションは、作り込みをせず、リアルなバランスと軽やかさを大切にしており、快適性や機能性もデザインに取り入れている。未来的でありながら、実用性も兼ね備えたコレクションは、同ブランドの新しい方向性を示唆するものと言えるだろう。

 

 「今回はデコラティブではない部分で何か表現ができないかという考えがまずありました。そういった面で自然にシルエットが浮かび上がってきたのと、本当に過剰ではない、シンプルな日常着に微妙なシワを加えたり、タックを取ったりして、そういうところで何か表現できないかと考えました。ニットも今回から薄手のカーディガンなどもすべて自動編み機で編んでおり、ニットの割合自体は少なくないのですが、軽い印象になったため、少なく感じるのかもしれません」と村上亮太。

 

ヴィヴィアーノ(VIVIANO)

「ヴィヴィアーノ」2025春夏コレクション Courtesy of VIVIANO

 

 2025春夏シーズンからメンズコレクションを始動した中で、ウィメンズコレクションの方向性について自問し続けた結果、デザイナーが感じた愛しい気持ちを今回のコレクションに反映させた「ヴィヴィアーノ」。フェミニンとマニッシュが共存しながら、それぞれの良さを強調するデザインやスタイリングなどはリアルとファンタジーが共存するデザインを続けながら、新たな方向性としてドレスラインをスタートしクチュールの美しいドレスも更に進化させた。

 

 会場として選ばれたのは、小笠原伯爵邸。歴史ある建物の優雅な雰囲気が、コレクション全体の洗練されたムードを一層引き立てていた。観客が席に着くと、そこにはリリースに書かれた「適切な形で愛を与えていくと、良い答えを返してくれる。植物を育てることと服作りはとても似ている。同じ薔薇でも、まったく同じ花を咲かせることはない。その瞬間のために情熱と愛を注ぐことは、とても美しい行為だ」という言葉を象徴するように、スコップとシャベルが置かれており、まるで自然の中で花を育てるかのような演出がなされていた。

 

 ショーは、タキシードを彷彿とさせるジャケットと膨らんだミニスカートからスタート。続いて、黒の花を模したドレスやジャンプスーツなどが登場し、エレガントさとフェミニンさ、オートクチュールの要素とマニッシュなスタイルが交互に表現された。ブラトップとワークパンツなど、これまでのシーズンでもフェミニンとマスキュリンを組み合わせたデザインが見られたが、今シーズンはさらに進化し、レース素材で作られたトレンチコートも印象的だった。

 

 また、花の様にラッフルを重ねたアイテムやチュールを使ったドレスなど、紫やグリーンの花をイメージしたドレスは、まるで花を身にまとうかのようなデザインで、女性の美しさを引き立てた。これらのドレスは、まるで美術館に展示されるかのような芸術性を感じさせ、夜の装いとしても一層強化されていた。特に、パールをあしらった黒のドレスや、フィナーレに登場したウェディングドレスは、他の東京コレクションでは見られないほどの存在感を放っていた。

 

 今回のコレクションは、オートクチュールメゾンやラグジュアリーブランドと共通するエレガンスを備え、「ヴィヴィアーノ」らしい洗練された世界観を表現していた。

 

ミューラル(MURRAL)

「ミューラル」2025春夏コレクション Courtesy of MURRAL

 

 村松祐輔と関口愛弓による「ミューラル」のテーマは“SEEM”。「花はなぜ美しいのか?」という問いを軸に、花と美の関係を深く探求した今シーズン。今回のコレクションで大きなインスピレーション源となったのは、ドイツの植物学者で写真家でもあるカール・ブロスフェルト(Karl Blossfeldt)の著書「Urformen der Kunst」(1928年)。モノクロで撮影された植物の写真集は、被写体そのものは自然のものでありながらも、どこか奇妙でありつつもエレガントな印象を与える独特な世界観と、アンバランスさが、「ミューラル」が追求する美しさのきっかけとなったという。

 

 ポーラ青山ビルディングの1階ロビーで開催されたコレクションでは、ウエストを花の茎のようにシェイプしたデザインや、抽象的なグラフィックを大胆に使用。レースを重ね、半透明の効果を生かしたアイテムが多く見られた。今シーズンの主なモチーフとなっているレースは、0.2ミリの極太コードをエンブロイダリーレースとして使用したもの。刺繍自体は、0.2ミリの極太コード、かすりのラメ糸、レーヨン糸の3種類の糸を使い型紙を起こして、一日がかりでセットすることで、独自の世界観を生み出したという。

 

 ロングアンドクリーンのトーンを基本にしながら、ハーフパンツやミディ丈のスカート、ランダムヘムのスカートドレス、ドレーピングなどを取り入れ、美しさの幅を広げることに挑戦した。光と影が織りなすドレープの美しさは、自然と人工が融合したかのようなコントラストを感じさせる。「美」とは定義づけが難しく、個々の価値観や内面に深く結びついているものだと再認識させ、新たな視点を提供することを目指したコレクション。

 

 「花はシーズンの言葉を表現するものとしてずっと僕らの中にあったんですけど、何が美しいのかという点を掘り下げたことは実はなくて。「Urformen der Kunst」を見た時、植物がただ佇んでいるだけなのにもかかわらず、そこにエレガンスと奇妙さを素直に感じました。エレガンスなんだけど、どこか奇妙。奇妙なエレガンスというスタイルを今回目指しました。メッシュ、アシメトリー、流れるようなシルエット、丈のフィニッシュなど、全てが今までのミューラルの枠に収まらないように2人で試行錯誤しました」と村松は話した。

 

サポート サーフェス(support surface)

「サポートサーフェス」2025春夏コレクション Courtesy of support surface

 

 テーマは“未完成の完成品”。あなた色に染まる服を目指し、独自の世界観をさらに深めた。

 

 会場は大手町・三井ホール。夕日が差し込む幻想的な空間で発表された今回のコレクションでは、白のトップスやドレープスカート、横から見せる美しいドレープが特徴のパンツなどが披露された。これらのアイテムは、自然を感じさせるニットや「サポートサーフェス」らしい洗練されたデザインが目を引く。光と影が織り成す美しいコントラストの中に、どこか物語を感じさせる要素があり、肩を抜いた着物のようなデザインも印象的だ。

 

 今シーズンのコンセプトは完成させすぎず、人が着て初めて完成するということ。空間とモデルの体が出会い、そこから生まれる新しい形が見どころとなりました。歩いたり動いたりすることで生まれるダイナミックなデザインが、服を単なる美しい装いから、人そのものを美しく見せるアイテムへと昇華させている。

 

 コレクション全体を通じて、水の上に映る風景のように揺れるシルエットも目立つ。ヨーロッパのデザイナーたちが作り上げる完璧なドレープとは異なり、「サポートサーフェス」は布を漂わせるようにデザインし、着る人に自由を残している。服は、身に着けた人が動くことで初めて完成するという考えは、まさに日本的なアプローチも感じさせた。

 

 前回のコレクションでは、同ブランドならではの“可愛い”というテーマに挑戦した「サポートサーフェス」。今回のテーマは、同ブランドがすでに独自の世界観を確立し、常に新しい表現を探求し続けていることを示しているように見える。

 

 テーマについて、研壁宣男は「具体的にこのデザインというわけではなく、空気感を重視してデザインしています。年を重ねるごとに、デザインが凝り固まってしまう部分があり、そこに対してデザインしなければと頑張りすぎると、やりすぎたデザインになってしまうことがあります。何を目指しているのかといえば、結局は作品を作りたいというよりも、人を美しく見せたいということです」と説明した。

 

セイヴソン(Seivson)

「セイヴソン」2025春夏コレクション Courtesy of Seivson

 

 “TRACES”をテーマに、女性の身体を通して現代社会に蔓延する社会現象を表現したコレクションを発表した。多層の布地や破壊的なテクスチャのカット、流線型のシルエットを使用し、事実が歪められることで生じた表面的な傷跡をデザインで表現した今シーズン。

 

 心臓の鼓動のような音が流れる中、傷や包帯、テープを巻き付けたようなムードのデザインが登場。スキンカラーや黒、白を基調としたボディコンシャスなデザインと、1980年代を彷彿とさせるオーバーサイズのシルエットが共存していることもポイントになっている。

 

 幾重にも重ねられた布は情報過多を象徴し、破壊的なカットは傷を、流線型のシルエットは事実の歪曲を表現。また、コラージュのように様々な素材やパーツを組み合わせたデザインも目を引いた。

 

 情報が溢れ、現実が歪む現代社会を反映しつつ、様々な経験を経て傷つきながらも回復を遂げた身体を称賛。その「痕跡」をデザインで表現したコレクション。

 

 ヅゥチン・シンは「ブランドを設立して7年が経ち、今年、日本でセイヴソンジャパンを設立いたしました。これまでの7年間の経験と足跡を込めて、今回のコレクションを発表いたしました。これまで使用してきた生地に加え、新たに京都の西陣織の生地やエコ素材も採用しました。今後も京都の伝統的な素材を活用して発表を続けていきたいと考えています。また、日本を拠点に、今後はパリやヨーロッパにも目標を据えて進めていきたいと思います」と語った。

 

 

取材・文:樋口真一

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