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2024.09.09

【2025春夏東京 ハイライト2】 多様化する東京メンズブランド 高まる若手デザイナーへの期待も

写真左から:「サルバム」「シンヤコヅカ」「カミヤ」「バルムング」

 

 「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、Rakuten FWT)」に参加するメンズブランドは減少傾向にある。それは、開催時期が海外メンズコレクションから2か月以上遅いこともあって海外マーケットを視野にいれているブランドたちがRFWTの開催を待たずにコレクションを発表するからだ。ただ、その分若手デザイナーたちに注目が集まりやすく、ブランドをアピールする絶好の機会になるというプラスの側面も感じられる。また、「東京ストリート」と言われるほど東京メンズと言えばストリートが強い印象もかつてあったが、現在はクチュールやカルチャー、実質重視などブランドの多様化も見られ、各ブランドがそれぞれの個性と強みをいかしている。パリやミラノに発表の場を移した先輩たちと同様に、未来の東京ファッションを背負っていくであろうブランドがしっかりと、また着実に実力をつけてきていると思えた今シーズンであった。

 

 また、「バイアール(by R)」では、現在はフランス法人も設立しパリにアトリエと直営店を構える「サルバム(SULVAM)」が凱旋ランウェイショーを開催し、後進の若手デザイナーや学生たちに大きなモチベーションを与えた。

 

サルバム(SULVAM)

「サルバム」2025春夏コレクション Courtesy of SULVAM

 

 藤田哲平デザイナーが手掛ける「サルバム」は3年ぶりに東京でのランウェイショーを開催した。会場は自身の母校でもある「文化服装学院」。今回学校をショーの舞台に選んだのは、ファッションの道を志す若者たちに少しでも早く「ファッションの現場」を見せて体験してもらいたかったからだという。実際に今回のショーでは藤田デザイナーがパターンをひいたアイテムを6人の学生たちが縫製工場に行って制作を行ったり、スタイリングやヘアメイクに参加したり、PRや当日の会場案内など、コレクション運営に多くの学生が関わったという。学生たちが縫製に関わったのはショー中盤で登場した真っ赤なセットアップ。それらのアイテムは量産されず、文化服装学院に寄贈されるそうだ。

 

 今年は「サルバム」にとってブランドを設立してから10年という節目。その集大成となるコレクション、そしてウィメンズラインの初めての本格的なお披露目ということもあり開催前から多くの注目を集めていた。クラシック、フォーマル、エレガンス、そういった装いの本質に目を向け、「即興演奏」と表現されてきたメンズコレクション。ブランドを象徴する独創的なカッティングやドレーピングを、鮮やかな配色やジャガード、ステッチといった遊びを加えてアイテムに落とし込んだ。そしてその美しさと対比させる反骨精神。ダメージや解体からの再構築といったディテールも、ブランドの美意識を通してエレガントに表現されていた。

 

 そしてブランドの意志はそのままに、女性への敬意を起点とし、強さ、女性らしい美しさを表現するウィメンズコレクション。アシンメトリーや切りっぱなしのディテール、服から覗く肌のバランスなど、ブランドが得意とする服地の個性をいかしたパターンメイキングが存分に発揮されていた。

 

 ショー終了後、デザイナーの藤田デザイナーは、「ショーは楽しかった。ブランドを10年やってきて続けることの難しさを実感しているけど、まだまだやりたいことはあるし、もっといろんな表現をしていきたい。今回学生と一緒にできたことで初心に返れた。学生たちにもコレクションの経験を通して何か感じ取ってもらえたらな、と思う」と語った。

 

シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA)

「シンヤコヅカ」2025春夏コレクション Courtesy of SHINYAKOZUKA

 

 毎シーズン、いろいろなモノ・コトから得たインスピレーションから絵を描いて、その絵をベースにコレクションを作っていく「シンヤコヅカ」は、国立競技場でランウェイショーを開催。ブランド設立から10年を迎える今シーズン、「いろんなきっかけを集めたショーにしたい」と、15年前に小塚信哉デザイナーが自ら描いた「いろをわすれたまち」という絵本を現在の解釈で描き直したものをベースにコレクションを紡ぎあげた。絵本のストーリー自体はファンタジーではあるものの、それは小塚デザイナーにとってはリアルなものであるという。

 

 ストーリーの中でキーになっているカラーがブルーで、ブランドを象徴する色でもありつつ、今シーズンのキーカラーにもなっている。この10年目という節目を「20年目への第一歩」と捉え、ブランドを象徴するバギーパンツを改めて打ち出したり、自身で描いた絵画やイラストをアイテムにのせたり、ペイント風のパターンを用いたりと、これまでのブランドの軌跡を辿るようなコレクションとなった。その中でも繊細なレースやカラフルなツイード、シースルーなど時代の流れを汲んだエレガントな素材でも多様なブランドの表現力を見せていた。

 

 「絵の中に入ってもらえるようにインビテーション型にした」というバッグは「土屋鞄」と、絵描きを想起させる帽子は「キジマ タカユキ(KIJIMA TAKAYUKI)」とコラボレーションした。

 

カミヤ(KAMIYA)

「カミヤ」2025春夏コレクション Courtesy of KAMIYA

 

 3回目のランウェイショーながらもすっかりRFWT注目ブランドの一つとなっている「カミヤ」。コレクションはもちろん、毎回斬新な会場選びや印象的な演出も話題となる。今シーズンは、秋葉原の高架下をランウェイに見立て、ショーを行った。

 

 今シーズンのテーマは“マニッシュ・ボーイ”。これは、アメリカのミュージシャン、マディ・ウォーターズ(Muddy Waters)が1955年に発表した楽曲。神谷康司デザイナーは、「音楽そのものが素晴らしいのはもちろん、歌詞の中で『I am a man(俺は男だ)』というワードが幾度と登場し、その言葉が時を超えて、現代社会に異論なく従順する若者へ『男たるもの』を教えうける歌のようだ」。と今回このテーマを選んだ。

 

 印象的なアイテムは、レザーライダースジャケットとヒッピーデニムを高解像度でスキャニングした、トロンプ・ルイユのTシャツやブルゾン。そして、ワイヤーで歪みやうねりを形にしたデニムアイテムが、未熟者ならではの「愛らしいエラー」を表現している。テーラードジャケットにあしらったアゲハ蝶は、神谷家に伝わる家紋がモチーフだという。BGMに流れるジャズとは対照的に若いエネルギーを感じた今回のコレクション。これは、「カミヤ」が考える男の哲学、かっこよさを、迷える若者に伝えるべく紡がれたコレクションであった。

 

 神谷デザイナーは、地方のセレクトショップに出向く際、ブランドを愛してくれる若者のコーディネートからヘアスタイリング、時には恋愛の相談にまでのっているという。SNS時代においても、直接触れ合って互いの熱を感じながら「男たるもの」を教える必要性を肌で感じているという神谷ならではの若者たちへの応援メッセージを強く感じた。

 

バルムング(BALMUNG)

「バルムング」2025春夏コレクション Courtesy of BALMUNG

 

 RFWTでランウェイショーを実施するのは2020春夏コレクション以来となった「バルムング」。ブランドらしい近未来的要素と東京カルチャー、アートを詰め込んだ独創的なコレクションを見せた。

 

 今シーズンのショータイトルは“Movement/Circle”。新宿区四谷にある撮影スタジオを会場に、高さをいかして立体的な2階建てのランウェイを設置。そしてモデルたちが2階から飛び降りるといった驚きの演出を行った。

 

 コレクションはブランドらしい立体的なフォルム、かつ宇宙服を思わせるような近未来的なアイテムを中心に、フェイクファーのしっぽがついたキャップやレッグウォーマー、腰パン、へそ出しなど東京のY2Kカルチャーの要素を加えていた。今回強い印象を残したカラフルなグラフィックは、ビジュアルアーティストの「MINORIMURATA」とのコラボレーション。機械的でメタルっぽい質感のグラフィックがより未来的な印象を与えつつも、モチーフとなっているのは動物や宗教的な意味を持つ果物であるなど、その対比の面白さも「バルムング」らしさを強調した。

 

 また、今シーズン、ランウェイでコレクションを発表するにあたってこだわったポイントは、多様なモデルの起用だという。性別、身長、髪の色、体型、本当に様々な個性のモデルをキャスティングし、ポップ、アングラなど様々なカルチャーをミックスしたコレクションをモデルの個性においても表現していた。

 

ヴィルドホワイレン(WILDFRÄULEIN)

「ヴィルドホワイレン」2025春夏コレクション ©︎JFWO

 

 2024春夏シーズンから3シーズン連続でのRFWT参加となった「ヴィルドホワイレン」。今シーズンは公式会場であるヒカリエでランウェイショーを行った。テーマは、“Wholly oneself(完全なる自分自身の意)”。

 

 クチュール、テーラーを中心とした立体裁断のパターンを基本としたブランドらしさはそのままに、今シーズンはウィメンズのアイテムを増やしてよりエレガントさを意識したという。ベルトや細い布を多数つなぎ合わせたようなドレスや、様々な素材を自由に組み合わせたりレイヤードさせたりと、まるでアートピースのようなアイテムが次々に登場する。そして、ショルダーアーマーのような立体的なボレロや、チェストアーマーを想起させるビスチェなど、今シーズンの裏テーマである「レディーソルジャー」を表現するアイテムも印象的だ。メンズでも甲冑をイメージしたような艶のあるレザーのセットアップなど、アームアーマーのようなアイテムも登場し、力強いコレクションを見せつけた。

 

 デザインから縫製まですべて一人で行うというループ志村デザイナー。「コレクションのために音楽も作り、絵も描き、今出せるものはすべて出しきった。こういった芸術表現が世界に広がってもっと世界が平和になってくれたらうれしい」とショー終了後に語った。

ミツル オカザキ(MITSURU OKAZAKI)

「ミツル オカザキ」2025春夏コレクション ©︎JFWO

 

 原宿のギャラリースペースでランウェイショーを行った「ミツル オカザキ」。岡﨑満デザイナーが、「スポーツなどで選手たちが対戦している瞬間とか、その戦っているという状況が狂気的で美しいと思った」と、“狂気”をテーマにコレクションを作り上げた。

 

 ただ、狂気とは言えその中に見出した美しさを表現するために、あくまでもエレガントなコレクションを目指したという。例えばジャケットやシャツに開けられた楕円形の穴。「破れ」という表現でも、きれいな形の楕円にすることによって洗練された印象を与えている。また、シャツやパンツに大量につけられたスナップボタンは、開閉することによってシルエットやスタイリングの印象に変化をつけることができる。これは人間の正気と狂気の切り替えを表現しているものだ。

 

 一方で、平和の象徴である鳩が黒い糸で刺繍されていたり、血しぶきを想起させるペイントを靴に施したりと、ダークなメッセージ性の強いアイテムも登場する。ただ、真っ赤なルックから始まったショーのラストルックは、真っ白なシャツとパンツで狂気から正気に戻る様を表現し、ポジティブなメッセージをその演出に込めていた。

 

マーカス コビントン(MARCUS COVINGTON)

「マーカス コビントン」2025春夏コレクション©︎JFWO

 

 アーティストやアイドルの衣装を手がける市川マーカス知利。その市川デザイナーが2024年4月にスタートしたアパレルブランドが「マーカス コビントン」だ。東京のファッションウィークへは初参加となる。

 会場の中央には高いランウェイを設置。その周囲にある蛍光色のライトの間をウォーキングしながらショーを進行した。“SMASH!!!!”というテーマを掲げ、パンチの効いたコレク ションを発表した。

 全体に見られるのはユーティリティデザインのデフォルメだ。トレンチコートやミリタリージャケットのディテールや部位を強調するように異素材をドッキングや切り替えなどのテクニックを活用。さらにマットとシャイニー、スムースとヘアリーなどコントラストの効いた素材づかいや色づかいで快活なイメージを与えた。

 風になびくフリュイドが軽やか。それらを生み出すのはシアーやメッシュ、レースなどの素材だ。長めに結ばれたドローストリング、無数に装着したロープ、フリンジのようなテープなどもルックに動きを加えた。

ハイドサイン(HIDESIGN)

「ハイドサイン」2025春夏コレクション Courtesy of HIDESIGN

 

 多種多様なワークユニフォーム(作業着)を手掛けるデザイン集団の「ハイドサイン」。多種多様な職業のワーカー専用のディテールを、構築的・機能的に落とし込んだアイテムを展開している。

 

 今シーズンは“ブルーカラー”をテーマに、主に生産現場に従事する労働者にフォーカスし、猛暑や異常気象から身を守るためのガジェット機能を搭載したアイテムを発表した。例えば年々厳しくなっていく猛暑を乗り切るためのファンを備えたエアフローウェア。ファンを搭載した衣類はすでに存在し、外で働く人の定番アイテムとなってきているが、タウンユースとしては野暮ったさが否めない。そこで「ハイドサイン」は、エアを取り込んだ際にもボリュームを低減するディテールと短丈のバランス感で、スマートな印象を保てるベストとジャケットの2種類を打ち出した。また、飲料などを持ち運べる保冷機能を備えたベストも登場。

 

 パンツは職種ごとの動きによってバリエーションを用意。運送業、科学者、とび職など様々な職種でそれぞれに合った3D構造になっており、長時間履いていても適切な立体感により着圧が低減され快適に過ごせるという。

 

 派手さやショーのインパクトではない、実質的な機能を打ち出す「ハイドサイン」。そのユニークなアプローチで日本の技術力の高さを世界に示していくことが期待される。

 

 

 

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