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2024.04.03
【2024秋冬東京ハイライト5】「楽天ファッション・ウィーク東京」終了後も有力ブランドのコレクションが続く
写真左から「フミエ タナカ」「ケイスケ ヨシダ」「ジュン アシダ」「ピリングス」
楽天ファッション・ウィーク東京2024秋冬終了後も有力ブランドのコレクションが続いている。デザインは記憶や好きなものと、未来的なムードやクリエーション、リアルが共存したデザインが目を引く。また、ウィズコロナ、アフターコロナを経た後、クリエーションとともに求められているコンフォート、着心地の良さや快適さ、動きやすさにもしっかりと対応している。
フミエ タナカ(FUMIE TANAKA)
”OLD BOOK SMELL”をテーマにした今回。会場に選んだのは赤坂プリンスクラシックハウス。洋館のような建物。全席指定。席にはパリコレクションなどのように名前の書かれた紙が置かれている。恵比寿ガーデンプレイスセンターエリアでのコレクションや、オールスタンディングで行われたザ・ガーデンホールでのUAのライブパフォーマンスとのジョイントショーとは全く違うムード。
クラシックなデザインなのかと思わせたが、オープニングに登場したのはショッキングイエローとでも呼べそうな鮮やかなイエローを使ったジャケットとパンツ。まるで光を着たような色は、一人一人の人が特別な存在であり輝いていることを象徴したもの。
ミニマムな形のジャケットの襟元にはアクセントとしてボタンを並べたようなデザインをプラスしている。イエローのキルティングコートには光を浴びて花が咲くように裾に花のモチーフが描かれ、花プリントのブラウス、黒と白の刺しゅうで作られた、たくさんの花。万華鏡の中にある、たくさんの花のようなプリントを使ったワンピースなど、花のモチーフや着るモデルを花にしてしまったようなデザインが続く。
コートの上に重ねたニットのブラトップや帯のようなニットなどのギミックや、ウエスタンモチーフ、エキゾチックやサステナブルなムードなどもプラスしているが、全体の印象は軽く、エレガント。テーマである”OLD BOOK SMELL”とは全く違う。
そして、ワイヤーとたくさんのチェーンで作られた、シャンデリアや光、アクセサリーを着てしまったようなドレス。メタリックなパーツをつないだデザインやシャンデリアのようなド
スカート部分も最初はチェーンを使ってイメージを表現することができなかったため、ペチコートのワイヤーを採用。テープを作ってワイヤーを入れてくるみ、もう一度ワイヤーで留め付けた。更に、前後の重さを均等にするために、後ろにタッセルを付けるなど、ち密な計算と手仕事によって、重さを感じさせない、シャンデリアのようなドレスが創られたという。
得意技を更に追求しながら、自然や未来、田中文江らしいエネルギーに満ちたコレクション。テーマや会場とデザインの対比など、いい意味での裏切りさえも心地いい。田中文江は今回のテーマとコレクションについて「このショーが年月を経て古い本のように心に残るものになれば。今回はフミエタナカの服が好きなお客様だけのためのショー。小さいころ好きだった本が今の自分を作っている。そんな本のようなショーを作りたいという気持ちで作りました。ワイヤーのドレスは、人は鎧を持っているけど、それも輝いているということを表現しています」などと話した。
ケイスケ ヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)
吉田圭佑の母校である立教大学正門でランウェイショーを行った「ケイスケ ヨシダ」。鐘の音が鳴り響く中で登場したのは、オーバーサイズのグレーのジャケットと白いシャツにネクタイ、ショートパンツという制服スタイル。メガネをかけ、手にはランドセルを持っている。
ワンピースや白いシャツとプリーツスカートにもネクタイを合わせる。子供時代、すぐに大きくなることから大きめの制服にしたように、サイズはほとんどがオーバーサイズ。百合の紋章を付けた帽子、たくさんのワッペンを並べたコートとショートパンツ。学生服のもととなったとも言われているという、牧師のカラーシャツのようなアウター。制服とともに、学位授与式のガウンや教会をイメージしたような黒、白、赤。ベルベットの輝き。制服やユニフォームに代表されるシンプルなデザインは、色を変え、コートやマントになるなど、徐々にデフォルメされたり、アンバランスになったり、アバンギャルドになったりと、変化していく。
ランドセルのような雰囲気のアウターもある。サファリのようなアイテムは旅立ちなのだろうか。先生や教授のような雰囲気のモデルもアクセントになっている。一年前のコレクションでも美しいデザインが目を引いた「ケイスケ ヨシダ」。今シーズンは原点に返り、次にスタートしようとしているようなコレクションにも見える。
ユキトリヰ(YUKI TIRII)
プレスリリースに「年齢に関係なく自分が好きなものを、着て欲しい」と書いた鳥居ユキ。コレクションは黒のサテンからスタート。ウエストをシェイプさせ、衿にはファーを付けたボンディングジャケットとタイトスカートからスタート。インナーには箔プリントを使い、黒いサングラスをかけている。
ジャケットとパンツ、黒のブルゾンとここ数年定番の様になっているサイドライン入りパンツやスカートなど、黒のサテンはトレンドのクワイエットラグジュアリーからストリート、スポーツスタイルまで、鳥居ユキらしいスタイルに昇華しながら、自在に表情を変えていく。
また、前回の春夏コレクションではライダースジャケットとTシャツを重ねたようなトロンプルイユ(だまし絵)が注目を集めた「ユキトリヰ」だが、今回はノルディック柄、ニットをプリントしたようなデザインを提案した。
ニットの帽子とノルディック柄のニットをプリントしたTシャツに様々なチェックをつないだスカートや、ベストとノルディック柄のプリント。本物のニットとトロンプルイユ、立体的な柄とプリントの組み合わせが更に軽さを強調。ノルディック柄のトロンプルイユは秋や暖冬にも対応するもの。ドレープやブリーフなどもできるのではと思えるようなトロンプルイユ。迷彩柄のニットとともに登場する、ツイードやプリーツなども、もしかするとトロンプルイユではと思うほど軽い。
鳥居ユキの大好きな花や植物のイメージや光、水などの自然のモチーフ、エネルギーを服にしてしまったようなデザインやプリントは今シーズンも健在。芝生のようなファーを使ったバッグや同素材の衿を付けたコート、大きさの違うドットを組み合わせた柄、葉脈を思わせるフリル、フラワーボタン。花モチーフ、光のようなスパンコール、クロコダイル風素材、自然を描いた絵画を着ているようなデザインなど、自然の様に軽く、四季の様に表情を変えていく。
着物の様にウエストをシェイプしたチェックのコートも光や風を感じさせる。クワイエットラグジュアリーにも対応するデザインからSNSなどで見ればニットを着ているようにしか見えない今の時代と快適さを両立させたトロンプルイユ、花や自然のモチーフなど、好きなものを集めながら、来場するセレブリティなど見る人や着る人を笑顔にし、夢を与える、プレタポルテの原点ともいえるデザイン。画家の様に好きなテーマを続けながら、立ち止まらず、更に軽く、フレッシュになっている。
ジュン アシダ(jun ashida)
前回60周年を記念するコレクションを発表した「ジュン アシダ」。長い歴史を持つブランドが次にどんなコレクションを見せるのかも注目された今回。スタート前から流れていた未来を感じさせる音とブルーの照明が消え、登場したのはストライプも印象的なグレーのロングジャケットとパンツ、ドレープが美しいワンピース、女性の体の美しさをカッティングで強調したジャケット、光沢のあるジャケットなど、女性が社会で活躍するシーンをイメージしたというデザイン。
働くシーンからパーティまで対応する様々なデザインやマニッシュとフェミニンが共存するデザインが続く。無駄を省いたデザインには、時代を象徴するようにエレガントでありながら強いイメージを表現するピンヒールを合わせている。
中盤の赤やグリーン、レンガ色など、自然を感じさせる美しい色を使ったシリーズは、日常に着ることを意識し、高品質な素材を、デイリーな素材に置き換えたもの。体の線を美しく描くデザインやトロンプルイユ、サステナブルや自然を感じさせる斜めに花を描いたドレスなど、バリエーションは豊富だが、履いているのはピンヒール。
一方、後半はゴールドとクロコダイル風、メタリックなムードの素材と大胆なジャガードで描いたアラベスク柄を組み合わせたデザイン、メタリックと照明のようなオレンジのオプアート風ドットを組み合
「前回は60周年でアーカイブを使い、歴史や移り変わり、現在を見せましたが、今回はジュン アシダのあるべき姿は何だろうという原点に立ち返り、ジュン アシダのこれからあるべき姿、ジュン アシダの軸である高品質でエレガントというものを今の時代だったらどう表現するのかを考えてコレクションを制作しました。また、エレガントなワンピースをシフォンではなくシルクジャージで作るなど、上質ということだけでなく、動きやすさ、リラックス感、着た人にしかわからない、見た目よりもずっと着心地がいいということも意識して素材なども選びました」と芦田多恵。
ピリングス(pillings)
村上亮太がデザインする「ピリングス」は宮沢賢治をイメージしたコレクションを発表した。会場は、花巻農業高校の中にある宮沢賢治のアトリエと空気感が似ていることなどから選ばれたという自由学園明日館講堂。
コレクションは夜行バスのシートの柄からインスパイアされたという、ブルーのニットのシリーズからスタート。ブルーのニットに描かれた柄は花のように見えたが、デザイナーによれば、シートの柄が流れ星に見えたことが、銀河鉄道の夜のイメージにつながって、今回の柄のきっかけとなったという。
編地が複雑に絡み合い、花のように見えるニットや、ケーブル編ニットの編地の中にたくさんの小さな人形が入ったニット、石が付いているように見えるニットなど、物語を感じさせるニット。付いていたのは、ニットを編んでいる天使や花を持っている天使、宮沢賢治が鉱石のマニアだったことから選んだ鉱石。
また、宮沢賢治のイメージをストレートに表現したのは、茶色のレザーにたくさんの鳥の柄は、アーティストに依頼して熱で描いたよだかの柄。よだかの星と表現した人間像がリンクしたことから描いた。オーバーサイズのジャケットとパンツなど同ブランドらしいアイテムや蜘蛛の巣にも花のようにも見えるニットワンピースなどとともに現れた、立体的な円やカーブを乗せたショートパンツも印象的だが、違和感のある立体的なドレープでわだかまりを抱えて動いている様子を表現しているという。抽象画や芸術作品を見ているようなコレクション。
村上は「創造的なものを創るのではなく、見てもらった人に想像してもらう、人の想像のきっかけになることができないかと思った。何かに見えるなというところを楽しんでほしい」と説明した。
ヒスイヒロコイトウ(HISUI HIROKO ITO)
”HexaBliss(六角形の至福)”をテーマに、ファッションと現代アートを融合したコレクションを見せた。楽天ファッション・ウィーク東京最終日、「アンリアレイジ オム(anrealage homme)」のコレクション終了後、22時過ぎ、ミヤシタパークのノースとサウスの間の渡り廊下ミタケブリッジで行われた今回。建築家の松田和久によるパビリオンが置かれた会場。
パビリオンから登場した4人のモデルたちの着る黒のトップスの背中には6人の絵が描かれているが六角形の顔の中にある目や口は「NO WAR」という文字になっており、「数年前からの日々の世界中の戦争の様子はとても悲しいとしみじみ思いました。例え、狂った今の世の中でも、戦争はしてはいけません。早く止めないといけません」というデザイナーの思いを表現している。
そして、モデルたちが積み上げられた六角形の布のような服を身に着け、ポーズをとり、シャツや六角形のプリントの袖を付けたワンピースの六角形を強調。スポーティなトップスには6の数字。張力のつり合いによって均衡を保つテンセグリティのテントの様に、テンセグリティを服に応用し、平面と立体を共存させたようなデザインやヘッドピースなども登場。
オーメンなど、狂った奇妙なイメージの数字である6。3Dとアバターなどで、6を服のパターンに落とし込んだデザインを更に強調した。ハプニングアートやゲリラショーを見ているようなコレクション。ランウェイショーを超えようとする見せ方への挑戦などは20年以上前のデビューコレクションから一貫している。
審査基準を厳しくする一方で、海外ビジネス強化のため海外からのバイヤーやプレスの誘致を再開した今シーズンの楽天ファッション・ウィーク東京。最終日、「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」や「アンリアレイジ オム」のショーが行われる前に、印象に残ったコレクションを聞くと、海外招致ジャーナリストのゾエ・スーエンさんは「コウタグシケン(Kota Gushiken)」を、ユージーン・ラブキン氏は「ハイドサイン(HIDESIGN)」のほか、「ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)」、「シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA)」、「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」をあげた。
また、9月に開催するトラノイ・トーキョー(TRANOÏ TOKYO)に向けて来日したトラノイのCEOボリス・プロヴォスト氏は、「ミカゲシン(MIKAGE SHIN)」、「ミスターイット(mister it.)」、オンラインで見た「タナカ(TANAKA)」がよかったという。東京ならではの強いブランドを海外に押し出していきたいという思いから、ブランド力の強いブランドにフォーカスした狙いは伝わったようだ。
だが、楽天ファッション・ウィーク東京終了後に発表したブランドも、独自にコレクションを開催できる力を持ったブランドがほとんどで、会場から招待客、演出まで徹底的にこだわっているため、今シーズンの東京のベストコレクションやトップ5の一つになりそうなコレクションも少なくない。顧客など本当にみたい人、見せたい人がほとんどであるため、規模は小さくても、会場の熱気は、インフルエンサーが並ぶファッション・ウィークに勝るとも劣らないように見えた。
取材・文:樋口真一