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2024.03.27

画像生成AIとファッション業界の未来

「ファッション力 (Fashion Ryoku )」記事一覧

記事提供:ファッション力 (Fashion Ryoku)

 

Interview : Masahiro Kubo 

Text : Ewori Wada 

Interview photo : Ewori Wada

 2022年11月、チャットGPTが一般公開されたことにより加速度的に注目を集め始めた生成AI。その性能は日々飛躍的に向上し、文章、画像のみならず動画や音声もAIによって生成が可能となった。

 

 今号のファッション力では、画像生成AIをデザインに取り入れる「セヴシグ」のほか、生成AIを業務に導入しはじめた「ワールド」、生成AI活用支援ツール「Maison AI(メゾンAI)」開発元の「オープンファッション」の2社を取材。ファッション業界は画像生成AIとどう付き合っていくのか。デザイナー、アパレル企業、AI開発企業、それぞれの視点から話を聞いてみた。

 

  • 扉絵はメゾンAIを使用して生成した。プロンプトには、「画像生成AIとファッション業界の未来」と入力している。

SEVESKIG

 

“AIに求めるのは完璧なものよりも不完全さ”

長野 剛識 Takanori Nagano
東京モード学園卒業後、大手アパレルメーカー、ドメスティックブランドを経て、2012年にSEVESKIG(セヴシグ)を立ち上げる。2020年、株式会社NOAを設立。

■2024-25年秋冬コレクションについて教えてください
 今回のコレクションは、五色人伝説の青人にあたるオーストラリアの「アボリジニ」がテーマでした。「The Dreaming」というアボリジニの思想から「夢」に着想を得て、希望的な夢と寝て見る夢、ナイトメアみたいな明暗を表現しました。コレクションでは、ナイトキャップを意図したヘッドドレスも作りました。

 アボリジニの要素は表立って見えてはいませんが、レントゲンみたいに生き物の中身を描くロックアートをイメージしたアイテムや、点描画をテキスタイルに落とし込んだアイテムなど、概念的なところを取り入れています。
 画像生成AIを使用したのは、Tシャツなどのプリントアイテム。テーマであるアボリジニの伝承をプロンプトに入力して生成しました。点描画のテキスタイルは、生成したAI画像を元に僕が点描で描いています。

 

■画像生成AIを使っていて感じることは?
 AIに完璧なものは求めていないです。僕が使用している「Midjourney(ミッドジャーニー)」という画像生成AIは、メインのビジュアルに対してはかなり正確に画像を生成してくれるんですけど、背景に明らかに変な部分が出てくる。あえてそういうバグを採用しています。そのバグって、今じゃないと出てこないんです。AIはどんどん性能が上がっていくけど、完璧になっちゃうと面白くない。

 僕はアニメっぽいものを生成することが多くて、例えば、プリントTシャツのグラフィックのために画像生成AIを使用すると、ちょっと気持ち悪い、よく分からないキャラクターがいっぱい生成される。そういう不完全さが、今の画像生成AIのいいところかなと思います。斜め上からくるのが面白いんですよ。

 

■画像生成AIを使用するようになったきっかけは?
 昔から、パソコンやアイフォーン、アプリケーションなど、新しいものが出てきたらすぐに食いつくタイプでした。
 元々グラフィックデザイナーをやっていて、18歳の頃から「イラストレーター」や「フォトショップ」を使ったり、映像を作ったりしていました。そうして映像制作をする中で、最近「アフターエフェクト」の勉強のためにチャットGPTを取り入れました。アフターエフェクトの使い方をチャットGPTに聞きながら、ユーチューブの解説を見る、という感じでAIを取り入れながら独学で学び、その延長線上で画像生成AIにも興味を持ちました。

 

■今後の画像生成AIとの付き合い方は?
 未完成なものが好きなんです。だから今後AIが完璧になりすぎちゃうと、もう面白くないって思っちゃうかもしれないですね。
 チャットGPTもどんどんアップデートしていってる。一応新しいもの好きなので、プラグインは入れますけど、今のAIらしい未完成さが残っていれば今後も使っていきたいです。自分で描くには面倒くさいなとも思うので(笑)。

 

  • SEVESKIG 2024-25A/W Collection「Dream:夢」

works

  • AI画像を下絵にした点描画をのせたテキスタイル

  • TシャツにプリントしたAI画像のプロンプトには、アボリジニに伝わる創造神「エインガナ」について入力している

アパレル企業は画像生成AIとどう付き合っていくのか

ワールド F3Director
小堺 利幸さん Toshiyuki Kosakai
服飾衣料資材のサプライヤーを経てワールドグループに入社。現在はワールドの新規事業開拓を担うF3事業部のディレクターを務める。

OpenFashion 代表取締役CEO
上田 徹さん Toru Ueda
2014年に株式会社オムニス(現 株式会社OpenFashion)を設立。ファッションとテクノロジーをかけ合わせたサービスやプロダクトの開発に取り組んでいる。

 

■ワールドの生成AIに関する取り組みについて教えてください。
小堺:弊社のような規模の会社だと、生成AIについても興味のある人、無い人がいっぱいいるので、オープンファッションに生成AIに関するセミナーをやってもらいました。計6回ほどセミナーを開いてもらい、実際にオープンファッションが提供する生成AI活用支援ツール「メゾンAI」(※1)を触るというのを100名くらいのメンバーが参加して進めました。

AIの導入自体はもうオープンで、誰でも使いたければ使えるんです。ただ、何に使ったらいいか、何ができるかというのに対しては、セミナーを受けたメンバーから伝搬して1人でも2人でもチームに広がっていけばと思っています。セミナー以上の高度な使い方をしたい場合は、オープンファッションに窓口になってもらい個別に対応してもらっています。

※1 ファッション業界に特化した生成AI活用支援ツール。文章生成と画像生成の両方に対応しており、企業やチームなど、情報共有したい単位で自由にユーザーが作成できる「ワークスペース」の機能を備えている。

 

■企業における生成AIの立場とは?
上田:インパクトとしては画像生成AIよりも文章生成AIの方が大きいです。企画書を作るとか、マーケットリサーチとか、文章で考える仕事が多いので。

画像生成AIもインパクトはあるけれど、ワールドのブランドはコレクションに出るような、デザイン性を要求されるブランドが大量に存在している訳ではないので、画像生成AIを使ったクリエイティブよりは、店舗運営や企画職の方に向けた文章生成AIの方が、企業で活かしやすいのかなと思います。

 

■デザイナーに限らず、いろんな職種の方に向けて生成AIを導入する形で動いている?
上田:企業において、デザインの仕事をする人たちの割合はほんの一部で、文章は全員が使うので、「企業効率を上げましょう」となると文章生成AIの方がインパクトは大きいですね。

 

小堺:画像生成AIをもう少し広く捉えると、ツールとしていろんなことができるようになる前提ですけど、それを業務に落とし込んでいくと、今は手描きでデザインを起こした方が絶対早いですね。タブレットを使ってデジタル上でデザインを起こしても、それは結局は手描きであるわけで。

画像生成AIの方ができることもこれから進化していくとは思いますが、今は思った通りのものが作れないデメリットの方が立ってしまっている。画像生成AIで作られたものがお客様や内部で見て検討するものに変わっていく、という意味ではすごく可能性を秘めていると思います。けれど、今はまだシフトできていないですね。

 

上田:企画書のデザイン提案として画像生成AIを使ってる会社はあって、クライアントに「こういうイメージですか?」と実運用しているんですね。画像生成AIに対して意欲と関心が強い人たちは先行して使っている。

 

小堺:入口を間違えると使いにくく、難易度が高くなるとは思いますね。オープンファッションがやったセミナーはかなり盛り上がっていたし、参加したメンバーは、もう何十人かが継続して生成AIを使っているので、その進め方は良かったのかなと。

 

■画像生成AIを使用している方たちの反応は?
小堺:生成されるスピードも含めて、驚きはもちろんあると思います。あとは「楽しい」ですよね。自分で好きなキーワードを入れて、瞬時にパターン化されて出てくるというのは、デザイナーとして楽しい。アイデアを想起させる力もあるから、触るのは早いんですよ。

ただ、実際に洋服を作っていくとなると、ディテールを直したり、デザインを一部だけ変えたりが必要になってくる。途端に難易度が上がってしまって、結局手で描くことになるので、今はアイデア出しや柄に対して使われ始めているのかなと見ていて思います。

 

■生成AIの未来像は?
上田: 例えば 3D生成AIはわりとでき始めていて、生地の質感表現とか物性系のデータについても今年、来年には精度が高くなってくると思います。今、先行してゲーム業界と映像業界に生成AIの技術革新が起き始めているので、他の業界でも時間の問題かなと。

画像生成AIはまだ技術的に使いづらい部分が多いので、扱いづらいという点がクリアできれば、一気に使われるようになるだろうなと思います。1、2年くらいでもう皆が当たり前のように使うだろうと。

 

小堺:我々も今はデジタルで置き換えるより手でやった方が速いと考えているけれど、デジタルに利便性を感じるようになればその先はもう大きく発展するだろうということは見えている。それが分かっていても、時間が無いから「手でやっときます」とアナログの手段を取っちゃうからどうしても逆転しないんですよね。ビジネスだと取引先との関係もあるし、既存のブランドが一気に変わっていくのは難しいんじゃないかな。

 

上田:最近僕の周りでも議論に挙がるのが、人間とAIのハイブリッドワークについて。AIが担えるものが増えて、じゃあ人間には何が残るのかという哲学的な問いがここ2、3年で起きると言われてます。なのでAIには何ができて、何ができないのかを追っていかなきゃいけない。

AIの世界は日進月歩で、1ヶ月で1、2年分の技術が進むんですよ。技術の進歩の測り方があって、それがテキスト、音、動画メディアの順だと考えられています。スマートフォンが2007年に出てきて、「ティックトック」を皆がようやく使い始めたなというのにかかった時間がおよそ16年。今、生成AIは、その16年を一瞬で進歩している。だから、生成AIは時間が経つにつれて、ティックトックとかユーチューブくらい当たり前のものになると思います。

 

■今の話を受けて小堺さんはどうですか?
小堺:アパレルメーカーとしては、服は気持ちを動かすものであり、肌に触れるものでもあってデジタル化することは無いので…。

 

上田:逆にここだけは人にやってほしいと思うことはありますか? 僕はそこが人間の付加価値だと思っていて。

 

小堺:難しい質問ですね。思うにAIができないことって無い気はしますけど。でも、流行は作り出せない気もしますね。データや計算を元に考えるような、デジタルな仕事はAIの方が得意でも、流行は世の中とお客様のモチベーションの掛け算で生まれると思います。

気持ちはデジタル化できないと思いますね。「ロジカルにこれが売れてる」「このキーワードが」とやっても万人にそれが刺さるわけじゃない。限りなくAIがその人に合うものを持ってきてくれる場面はあるだろうけど、最後の一押しは人間の力かなと思います。

 

■それぞれの今後の展望について教えてください。
小堺:画像生成AIについては、デザインよりはマーケティングや販売の場面で使われる方が先に来そうな手応えはあって、それは効率も含めてどんどん進んでいっても、差し支えないかなと思います。デザイン領域のところは、企業として画像生成AIをどう活用していくかというのがまだ見えていないですね。クリエーションも含めて、生成AIは誰でも活用できるけれど、個人で進めると外からマネジメントできない。やっていることの中身が見えないまま進むと起きる弊害もあるでしょうから、そこが企業としては次の大きな課題ですね。ただ、メゾンAIには他の生成AIには無い「ワークスペース」という機能があります。部署など一定のグループで部屋を分け、生成した文章や画像の共有、閲覧ができる機能です。そのワークスペース機能を踏まえて、オープンな形で生成AIを使用できるようになれば、企業での生成AI運用の問題点も改善されて、ビジネスとしてできることも出てくると思います。ですから、今後はメゾンAIを早い段階でさらに開発、普及させていくことになると思うけど、先ほど言ったようにデザイン領域は、AIだけでやるものではないなとも思っています。

 

上田:今、メゾンAIで統計的に何がどういう風に作られているかも含めて、ある程度企業の資産、戦略的なデータとしてメゾンAIをどう捉えていくかが本格的な議論になってきています。生成AIの導入の方向付けを小堺さんともやり始めていて、導入する過程で飛躍的に生成AIの浸透が図られるのはもう見えているので、皆が使いやすい環境作りを少しずつやっていけるといいのかなという気がしています。

現状、AIのポテンシャルが大きすぎて、把握できていない使い方がたくさんある。なんでもできちゃう分、活用方法を捉えに行くのがすごく難しくて、運営は後手に回りやすい。まだ僕らが多くの人の需要に追いつけていないです。でも、AIは数か月単位でどんどん進化しているので、現状の扱いづらさなどの問題は解決されていくでしょうね。

 

アパレル業界は、まだ画像生成AIの黎明期、加速度的に広がるのは間違いなさそうだ。

 

TOKYO AI Fashion Week

OpenFashion主催のイベント「TOKYO AI Fashion Week」が「Rakuten Fashion Week TOKYO」と同時期に開催される。

■イベント開催
 楽天ファッションウィーク東京では初となるAIを活用したファッションデザインコンテストが2024年2月15日から3月31日まで開催される。デザイン画が描けずとも、生成AIを活用して表現することでコンテストに参加ができる。

 

■セミナー「ジェネレーティブAIとファッションの未来 #3」
 生成AIがファッション業界にどのような影響を与え、将来をどう変革していくかについての未来像を描き出すトークイベントを開催する。
日時:2024年3月16日
開場 13:30 開演 14:00 終了 16:00予定
場所:ワールド北青山ビル 1F&オンライン

教育現場で活用される画像生成AI

 杉野服飾大学服飾学部流通イノベーションコースでは、2、3年生を対象にメゾンAIを使用した実習授業を行っている。この授業はオープンファッションの提供する、企業や教育現場への生成AI導入推進を目的とする「OpenFashion GAI Program」により行われたもので、学生たちは授業内で生成AIにおける社会変化や技術を学び、その後メゾンAIでの画像生成に取り組んだ。SNSなどを活用して、生成したい画像のイメージをリサーチしたりと工夫を凝らして、細部にこだわった画像生成に挑戦した。

 

■「ファッション力 (Fashion Ryoku)」

杉野学園出版部が発行しているフリーマガジン。2008 年 6 月より、毎回パリ プレタポルテ、オートクチュール終了時を目安に年 4 回発行。
デザイナーインタビュー、コレクション報告、スナップ、座談会などを掲載している。

 

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