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2024.03.24

ファッション力編集長のパリコレクション雑記 PARIS FASHION WEEK MEN’S / HAUTE COUTURE

ファッションの意味を問い直す日々

 2024-25年秋冬パリメンズと24年春夏オートクチュールのファッションウィーク(PMFW/PHFW)が、2024年1月15日~21日、22~25日にそれぞれ開かれた。さらには、大型のトレードショー「フーズネクスト」や小規模なメンズトレードショー、コレクティブショールームや個展がパリ市内各所で開催され、世界中からブランド、バイヤーが集まり、パリのプラットフォームとして相変わらずの強さを見せつけてくれた。今回の雑記帳は、近年のショーの在り方や世界とファッションの行く末について考えてみたい。

 

 昨今のショーといえば、セレブの来場に対する過剰報道と壮大な演出に目が行きがちだ。「誰それが来場した」と流れてくる報道の大半がそっちの話だ。肝腎の作品やクリエーションに関する批評は、どこに行ってしまったのか。

 

 社会という大きな枠組みで振り返ってみよう。世界は、この20~30年で一変した。経済が発展し、それに伴って「皆が豊かになる社会」を夢見た1970年代以降、まずは先進資本主義国がその目的を「ある程度」達成したかに見えた。90年以降、東西対立「冷戦時代」が終結し、資本主義化した東側諸国や社会主義を名乗る中国までもが「一国二制度」と称して豊かさを求めて、先進国を手本に経済発展を突き進めてきた。そして世界の人々は、皆それなりに豊かになるはずだった。

 

 だが現実は違った。経済発展は、貧富の差を縮め、格差が少なくなると思われたが、先進国内では、その後格差はむしろ拡大傾向にあり、少しは豊かになったように見えるが、一握りの富裕層がとてつもない富を蓄積することにより、データとしては、格差の拡大が進行してしまったのだ。さらには世界規模で見ても、先進資本主義国とグローバルサウスの格差も拡大した。

 

 そこに追い打ちをかけているのが、気候危機だ。分かりやすい例がある。人口の1%に満たない富裕層のプライベートジェットが排出する温室効果ガスが、実にすべての航空機が出すCO2の半分を占めるというのだ。

 

 さて、話をファッションに戻そう。ラグジュアリーメゾンのターゲット戦略は、紛れもなく富裕層だ。さらには、それに羨望の眼差しを送るファッションビクティム(犠牲者)に、常に富と所有への欲望を掻き立てるための宣伝装置と化したのが今日のショーの演出と拡散の在り方だ。もちろん、気候変動への対応もCSR(企業の社会的責任)上、怠らない。だがそのメゾンのトップのアティチュード(姿勢)を見れば、それがグリーンウォッシュに過ぎないということがすぐに分かる。そう、プライベートジェットで世界中を飛び回っているではないか。

 

 ファッションの本質は、自己表現だ。それを着ることで「気分が上がる、前向きになる」、あるいは「何かのメッセージを伝える」というマインドウェルネスを満たすものだ。もう一つは、ファッションというカテゴリーにおいて、新しい価値を生み出す、大げさに言えば人類の創造性の発露の一つという視点もある。その観点に立ち返って、ショーの表現方法や作品の評価をきちんと伝えるべきではないかという問い掛けが、前述の状況に対するアンチテーゼとして当然浮かび上がってくるはずだ。

 

 さて今回は、メンズから一つ、クチュールから一つ、印象に残ったコレクションを紹介したい。まずは、クチュールのトリを飾った「メゾン マルジェラ」の「アーティザナル」コレクションだ。鳴り止まない拍手と興奮の渦は、なかなか見られない光景だった。メンズもトリを飾った「GmbH(ゲーエムベーハー)」を紹介したい。ショーが始まる前にデザイナー二人がマイクを手に持ち、交互に演説を始めた。いや演説というより、メッセージを読み上げたというのが正しいかもしれない。ベルリンを拠点とする二人のデザイナーデュオは、それぞれトルコ、パキスタンにルーツを持ち、時折、涙で声を詰まらせながら、平和と分断の解消を訴えた。

 

 ファッションを「表現の自由」を謳歌する手段のひとつと捉え、その最先端の発露でもあるパリというプラットフォームに身を置いてみて感じることがある。それはファッションに真正面から向き合い、澄んだ眼差しで直視し、考えてみることの重要性だ。同時に世の中を俯瞰することで、ファッションビジネスの実態と社会との関係性が浮かび上がってくる。この二つの視座を忘れないでほしいと書き残して、筆を置きたい。

 

MAISON MARGIELA

 オートクチュールウィークの最後に開かれた「メゾン マルジェラ」の「アーティザナル」コレクションは、セーヌ川に掛かるアレクサンドル3世橋下のイベントスペースを古い酒場に設えた。パリの街を舞台にしたムービーが映し出され、最後のシーンは、まさにアレクサンドル3世橋の袂に入ってくる男を映し出す。そしてあたかもその続きのように、男の登場でショーはスタートした。コルセットで締め上げられたウエストに対して、ボリュームを持たせたヒップで、まるでミツバチのようなXラインのシルエット。ふくよかな女性モデルやジェンダーレスなモデルが登場して、酔っぱらいのようによろめきながら客席の前を通り、時折オーディエンスに手を伸ばしてからかうような仕草も見せる。アーティザナルは、最高峰のラインだけに仕付け糸があちらこちらにディテールとしてあしらわれていたり、レースやチュールもふんだんに使われて、贅沢な中にアップサイクル、リメイクの技法がふんだんに盛り込まれた。顔は、陶器人形のような艶のあるメイクを施し、ベルエポックが甦ったような時代がかった演出に酔いしれた観客からは、ショーが終わった後、興奮と熱狂の中、拍手、拍踏が鳴り止まないという珍しい光景で幕を閉じた。

 

GmbH

 ショーをスタートする前に「GmbH」のデザイナーデュオが語ったスピーチは、「9・11」以降のナショナリズムの台頭と民族間の対立に対する「人間愛」による克服、パレスチナで繰り広げられている悲劇の終結への願いなど10分間にも及んだ。そしてスピーチが終わると大きな拍手に包まれ、ショーがスタート。テーマは国連(UNITED NATIONS)を捩った「UNTITLED NATIONS」で、オリーブの枝と北極点から見た地球を描いた国連マークのプリントがひび割れたパーカーが象徴的だ。さらにはアラブ系とユダヤ系それぞれの伝統的なモチーフやアイテムを用い、様々なワールドミュージックをBGMに使って「世界の分断」に対するアンチテーゼとして提示した。これら一連の表現は、ファッション表現の持つ自由度の高さを証明するものであり、根底を流れる「人類愛」への賛歌とも言える。賛否両論は在ろうが、自由に発し、自由に批評し、互いを認め合い、平和に共存する以外に私たちが存在できる世界はあり得ないと感じさせてくれるショーだった。

 

  • インビテーションにはUNTITLED NATIONSのタイトル

■「ファッション力 (Fashion Ryoku)」

杉野学園出版部が発行しているフリーマガジン。2008 年 6 月より、毎回パリ プレタポルテ、オートクチュール終了時を目安に年 4 回発行。
デザイナーインタビュー、コレクション報告、スナップ、座談会などを掲載している。

 

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