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2024.03.22

【2024秋冬東京 ハイライト4】幼少期の記憶や好きなもの、デザイナーの内面性を表現するデザイナーたち

写真左から「チカ キサダ」「ヴィヴィアーノ」「フェティコ」「タナカダイスケ」

 

 スイートメモリーズ。楽天ファッション・ウィーク東京2024秋冬では、新しいディレクションや新しい表現、アプローチにチャレンジするブランドがある一方で、幼少期の記憶や好きなもの、デザイナーの内面性、夢などを表現したようなコレクションも目立った。一年前のクラシックやノスタルジーとは少し違う、デザイナーの内面を描く表現は一歩間違えれば私小説的になってしまうが、東京のデザイナーたちは、好きなものを集めながら、軽く、クリーンに仕上げている。こうした表現はゴスロリ、アイドル、メイドカフェ、コスプレ、少女漫画、制服、子供服など、海外が注目する日本的な要素とも共通するようにも見える。シースルー、レース、フリルなども多い。一方、サスティナブル、アップサイクル、エコロジーなどはテーマから姿を消した。

 

フェティコ(FETICO)

Courtesy of FETICO

 

 テーマは”Eternal Favorites”。東京国立博物館の表慶館で、幼い頃から好んでいたベルベットのドレスに、レースやフリルがあしらわれた子供服。ヴィクトリアン・ゴシック様式のインテリア、モノクロームのアート、フェティッシュなスタイルなど、好きなものからインスピレーションを得たコレクションを見せた。

 

 セーラーカラーのジャケットやベルベットドレス、オフショルダーのドレスなど黒と白でスタートしたコレクションは、十字のスリットから肌がのぞく。黒のジャケットの上に乗せた白のブラトップ、ウエストをシェイプしたボディコンシャスなジャケットとパンツ。黒と白のレースやニットとボディウエア、アウターの上にレザーのミニやブラトップを重ねるコーディネート。

 

 そして、十字のスリットから派生したという花柄を付けたニット。色は黒と白がほとんど。好きなものを集めながら、バランスが取れた、シャープで、クワイエットラグジュアリーという言葉も思い出させる。禁欲とセクシー、マニッシュとフェミニンが共存するコレクション。

 

 舟山瑛美は「年を重ねることにネガティブ。女性がエイジングを理由に自由な感性を失っていくことは悲しいこと。いくつになっても少女のような心で、好きなものに囲まれていたいなと思って、その気持ちをすなおにコレクションにしました」と語った。

 

チカ キサダ(Chika Kisada)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 “砂漠の花”をテーマに、19世紀の労働者階級から現代のワークウエアをリサーチし、アイデアを取り入れたデザインや、ダンスを始める前の基礎的なポーズをパターンに落とし込んだデザインを発表した。

 

 会場はデザイナーがバレエを習い始めたころのバレエ教室の世界観に近かったことから選ばれたLIGHT BOX STUDIO 青山。一年前のガーデンホールとは全く違う狭い空間。ビアノの音とともに三人の子供たちが階段を下り、トゥシューズを履き、柔軟体操を始める。どこか一年前を思い出させる演出が期待感を高める。

 

 そして、登場したのはマニッシュな黒のジャケットとパンツ。後ろから見るとインサイドアウト。顔をベールで覆い、小さなクリノリン風のオブジェを合わせる。かつてのオートクチュールのように狭い会場に現れる、バレエの衣装を思わせるミニドレス、マニッシュなワンピース、コルセットを彷彿させるブラトップ。ワークウエアの上に薄い布を乗せたデザインやクリノリンを合わせたスタイリングなどマニッシュなデザインやワークウエアとバレエ衣装を共存させたようなデザインは継続。

 

 また、背筋が伸びるようなポーズなどをパターンに落とし込んだデザインは、馬に乗ることやバイクに乗ることから乗馬服やライダースジャケットが生まれたように、バレエの動きの残像とともにポーズを落とし込もうと考えたという。家具や室内装飾を思わせる花柄のドレスやダウンなども美しい。

 

 幾左田千佳は「今回は頭の中のメモリーが現れるような演出にしました。昨年3月、「バイアール(by R)」(2023秋冬)で参加して、モノづくりのインスピレーションをすごく得られたので、世界観を感じていただきたいと考え、ショーをしたいと思いました。これからもショーを継続していきたいと思っています」と話した。

 

ペイデフェ(pays des fées)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 “サークル・イン・スクエア”をテーマにしたコレクション。円の中に手を描いたワンピースや手をプリントしたコートを着たモデルたちは手に風船を持ち、ステージを進む。シルバーのクリップを付けたシャツドレス、コート。顔を覆うことで自由になるフェティッシュなマスクや顔を覆う布が二つ付いたアクセサリーなど、「ペイデフェ」ならではと言える、少女の猟奇性や内面性を描いたような独特のモチーフと演出。

 

 シルバーのボタン。横断歩道のような柄。円形の中にある手が持っているのは、ガラス片やプラスチック片などで、大きな円を付けたドレスはドイツ・バウハウスのオスカーシュレンマーなど、構成主義を思わせるドレスは、テーマである直線を連想させるために作られたという。

 

 球体を愛する少女の猟奇的な物語やシュルレアリスムなどとも共通しそうな不思議な世界と独自の表現。自身の内面を描いた作品。「思春期の肉体を無機質化したい気持ち。思春期、第二次性徴期に、人形やガラス片になりたい気持ちを表現しました」と朝藤りむ。

 

ホウガ(HOUGA)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 “モデスト・アドベンチャー、ささやかな冒険”をテーマに、冒険家が外に出ていくようなイメージを表現した。小さな草花を刺しゅうしたようなコンパクトな黒のダウンとミリタリーやアウトドアスポーツのようなカーキのミニスカートから始まったコレクション。

 

 フリルやギャザーを多用したデザイン、何通りにも着られるアイテムなど、「ホウガ」らしいデザインは続いているが、サファリやダウン、ボタンを取り外すことによって数種類の丈になるダウン、光沢のあるミリタリーテイストのパンツ、パラシュート風ドレスなど、冒険というテーマに合わせたスポーティーで機能的なデザインも目を引いた。

 

 グリーンやピンクなどの色使いは、雑草は小さく弱いけど、抜いても抜いても生えてくることや花の色などから使ったという。ショー後の取材では涙も見せた石田萌。「これまでのホウガの国の中にこもっているような感じでしたが、そこから飛び出していきたいという心境になりました」。

 

ヴィヴィアーノ(VIVIANO)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 ヴィヴィアーノ・スーがデザインする「ヴィヴィアーノ」。テーマはʻʼWhatʼs New?ʼʼ。高輪 貴賓館でドレスにこだわったようなコレクションを発表した。前回はマリンスタイルやデニムなど、軽くリアルなアイテムも多かったが、今シーズンは赤や黒のレースのドレスや花のようなドレスなど、得意とするドレスがほとんど。階段を下りてきたモデルたちは立ち止まり、ポーズをとり、進んでいく。

 

 また、ハートのモチーフを使ったドレスやファー、シャンデリアのように光るドレス、オートクチュール的なリボンをアクセントにしたデザイン、中国などエスニックをイメージさせるタッセルをポイントにしたデザインなど、装飾的でロマンチックなデザインも目を引く。

 

 イエローやブルーの透ける布を重ねた一目で「ヴィヴィアーノ」とわかるドレスは、アシメトリーで変化を付けた。得意とするドレスとロマンチックでラグジュアリーな世界に徹底したコレクションだ。

 

タナカダイスケ(tanakadaisuke)

Courtesy of tanakadaisuke

 

 “おまじないをかけたようなお洋服で、自分の中にいるまだ見ぬ自分と出会えますように。”をコンセプトに、田中大資の得意とする刺繍をベースにロマンチックで幻想的なコレクションを展開する「タナカダイスケ」。渋谷ヒカリエ ヒカリエホールAを夢の世界に変えてしまったようなコレクションを見せた。

 

 会場中央には雨や雪のような光が降り続ける。ロマンチックなピンクのワンピース、制服などのような雰囲気のジャケットとミニスカートやパンツ、ピンクのシャツにはネクタイを合わせる。

 

 クリノリン風ドレスは舞踏会で着るガウンやアイドルの衣装のようにも見える。レースとデニムやコートの組み合わせ。透ける素材や光沢のある素材、プリーツなどをドッキングしたピンクのドレス。マニッシュとフェミニンを共存させているが、印象はピュアでロマンチック。

 

 スウェットやクラッシュデニムなどを使ったメンズとの対比も印象的。好きなものにこだわりぬいた、イノセントなコレクション。

 

タエ アシダ(TAE ASHIDA)

Courtesy of TAE ASHIDA

 

 「”SENSE OF SMALL DISCOMFORTS”、日常にあるちょっとした違和感-それが新しい時代をつくりあげる」と題した「タエ アシダ」。グレーのコートとスカーフプリントのシャツ、コルセット風のレザーベルトに、遠くから見るとデニムにもベルベットにも見えるボトムスとブーツのコーディネートからスタートした今回。スカーフプリントのワンピースにもレザーベルトを組み合わせる。

 

 ブルゾンにクロコダイル風のスカート、マニッシュなグレーのジャケットには透けるシルバーのスカートと真っ赤なロングブーツ。シックなはずのジャケットとラップスカートは赤で大胆に生まれ変わり、黒のロングブーツを合わせる。

 

 そして、レザーとスパンコールの組み合わせ。アバンギャルドなデザイナーとは違い、シュルレアリスムのような過激さはないが、決まりにとらわれないコーディネートは今回の特徴。素材もベルベットがボンディングされていたり、透けるくらい薄くなっていたりと、通常とはまったく違う表情に見せているという。

 

 「日常に違和感を感じていて。それが何なのかを考えた時、時代が移り変わる中で、知らないこと、理解できないことが次の日には日常になっている、違和感が新しい時代を作るのだと思い、全体のテーマにしました」という芦田多恵。

 

 今後についても「人間の感性は重要ですし、アトリエを大切にしたい。でも、10年後こうなりたいということはなくて。時代がどんどん変わっていくので、こうなりたいと思っても10年後にはきっと違う。時代の移り変わりが速いのでサーフィンをしているように、どんな波が来るのかを感じる。それで納得するところに到達できれば」などと話した。

 

クイーン アンド ジャック(Queen&Jack)

Courtesy of Queen&Jack

 

 スクールをモードにすることをテーマにする「クイーン アンド ジャック」。今シーズンから「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」で、「タオ(トリコ コムデギャルソン)(TAO (COMME des GARÇONS))」の企画・パターンナーとして働いた経験を持つ富塚尚樹を起用。更に王林がゲストモデルとして登場するなど、新たな展開を感じさせるコレクションを見せた。

 

 出張の際に立ち寄ったイタリア南部世界遺産の街 「マテーラ(Matera)」からインスパイアされたという今回。ショーは王林の着るチェックをドッキングさせたジャケットから始まった。

 

 レイヤード風などトロンプルイユ、ルーズソックスにもレッグウォーマーにも見えるデザイン、ドッキングやデフォルメ、前後の違ったデザインなどで生まれ変わったコートや制服。数年前、海外でも話題となったランドセルやプリーツスカート、フリルをアクセントにしたベストなど、外国から見た日本のムードをイタリアの高級素材と仕立てでラグジュアリーに仕上げた。

 

 フィナーレは再び王林が焼きりんごをイメージしたドレスで登場。赤いリボンがリンゴの皮、内側はリンゴの果肉を表現したという。海外での展開について富塚は「最初から、ミラノ、パリを目指すブランドというコンセプトだし、日本のカルチャーを持って行って戦いたい、いけるんじゃないかと。世界に見てもらった方がいいと思っているし、がんばって日本のファッションを盛り上げていきたい」と話した。

 

ミスターイット(mister it.)

Courtesy of mister it.

 

 砂川卓也による「ミスターイット」のテーマは”COUTURE RHYTHM”。ノースリーブのジャケットと同素材のボレロや袖を組み合わせたようなデザインや、ボレロのようなシャツとオフショルダーのシャツドレスをつないだようなドレスで始まったコレクション。

 

 曽祖父の代からスカーフを作り続ける家系に生まれ、幼少期の自宅に当たり前のようにあったという、スカーフを服に仕上げたようなドレスや前後の長さが違うスカート、ドットなど様々な柄をパッチワークしたようなジャケット、ベストなど、ほとんどのデザインにはテーマである”COUTURE RHYTHM”の文字をプラスし、ルックのバストラインを強調している。これはドレーピングにおける基点が胸元にある事実から着想したもの。顔をプリントしたTシャツも目の部分を犯人のように”COUTURE RHYTHM”の文字を書いたベルトで隠している。

 

 また、デザイナーが自身のルーツをさぐる旅に出て出逢った、奄美大島の職人たちと作った泥染め。パフクッションのような柔らかさや多くの人と共有できる誠実なこころのかたちを表現したという赤や黒、白のハートのモチーフをつないだワンピースやベスト。モデルの目が見える小さなサングラスも印象的だ。

 

 素材は、デッドストックの贅沢な生地に今の技術を用いて加工を施したシャツ地、シルクで知られる京都の製法技術を活用したナイロンのテキスタイル、シルク着物を綿に戻し、糸にし、オーガニックコットンと混ぜて織ったデニムなどクラシックに現代のエッセンスやテクニックを融合させたという。

 

ジョウタロウ サイトウ(JOTARO SAITO)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 テーマは“日陰のプリズム”。いつも斉藤上太郎のモノづくりの中にある、薄暗い灯りに象徴される日本の伝統美として論じられた「陰翳礼讃」を再解釈。アレンジを加え、現代のキモノスタイルの一つとして提案することにチャレンジした。

 

 黒地に大胆な赤い花、柄と柄の組み合わせ。洋服の世界ではクレイジーパターンとも呼ばれることがある大胆な柄も暗い色と深さで下品には見えない。日本庭園の砂模様を思わせる柄の上に乗った花、羽織の裏の赤、透けるデザインや絵巻物のような柄。メンズでは、細い帯と着物の下にフーディを着たように見えるアクセサリーなども登場した。

 

マリメッコ(Marimekko)

Courtesy of Marimekko

 

 楽天グループが日本のファッションブランドを支援するプロジェクト「バイアール」でコレクションを発表した「マリメッコ」。“ドレスアップとドレスダウン”をコンセプトにした今回。今年60周年を迎えたウニッコ柄のグレーのニット、ウニッコモチーフが飾られたブラックのスカートとシルバーのネックポーチからスタートした。

 

 白いプリーツシャツには白いウニッコをプリント。白の上に黒の楕円を描いたワンピースやスカートなど「マリメッコ」らしい自然を感じさせるグラフィカルなアイテムはもちろんあるものの、黒いブルゾンの上に黒のウニッコモチーフを加えるなど、アイテムと同じ色や近い色でウニッコを描いた主張しすぎないデザインが続く。

 

 また、ピンクと白でウニッコを描いた黒のワンピースなどに加えて、楕円を描いたダウンコート。以前、パリコレクション会期中にパリ装飾芸術美術館などで行われたプレゼンテーションでも黒のウニッコは印象的だったが、アイテムやバリエーションも広がっている。

 

 ブランド初となるデニムライン「マリメッコ マリデニム(Marimekko Maridenim)」は、オーガニックコットンとリサイクルコットンを使用して、水の量に配慮しながら、メタルパーツの使用を最小限に抑え、製品が終わりを迎えた際にできる限りリサイクルしやすいようデザインされたもの。

 

 また、白のウニッコモチーフをプラスしたブルゾン、胸に小さなウニッコを刺しゅうしたボーダーニット。ピンクにピンク、黒に黒、白に白など、同色や近い色でウニッコの柄やモチーフを使ったアイテムと、大胆で一目で「マリメッコ」とわかるウニッコや幾何学柄を使ったアイテムのコーディネートも登場。

 

 ラストはドレスアップともダウンとも捉えられる、ブラックのウニッコモチーフのスカートとジップアップスウェット。表現やアイテムを広げ、シックにもカジュアルにも着られるなど、新しい方向を見せた。

 

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