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2024.03.20

中国バイヤー待ちは大人の傾向と同じ 2024秋冬 子供服見本市「プレイタイム・パリ」

 パリの子供服トレードショー「プレイタイム・パリ(Playtime Paris)」が2024年1月27~29日、パリ南東部郊外、ヴァンセンヌの森にあるパルク・フローラル見本市会場で開かれた。コロナ前の2020年1月に行われた2020秋冬シーズン以来の取材となった今回は、「コロナ前から、どう変化し、トレードビジネスの仕組みに違いは生まれたのか」が焦点となった。

 

7割近くまで回復した出展者数

 パリの冬らしい天気、寒々しく、一日の中で、雨が降っては、陽が差す時もあり、ほぼ曇天。そんな典型的な気候の中、メトロ・シャトー・ド・ヴァンセンヌ駅からシャトルバスで5分、公園入口に到着して、さらに徒歩3分で森に囲まれた見本市会場に到着する。外は寒くても中は熱気があり汗ばむのがいつものパターンなのだが、今回は様子が違う。そう、ウクライナ戦争の影響で欧州はどこも光熱費が高騰しており、暖房の温度を抑えているため、室内でも薄ら寒いという状況になってしまった。まずは、第一の大きな変化だ。

 

 表とグラフを見てほしい。出展者数は、41ヶ国から320ブランドでコロナ前比31.3%減となった。コロナ以前には、パリ市内でキッド・アパートメントという新興のトレードショーが開かれていたが、コロナで消滅してしまった。パリでの総出展者数という意味では、35.1%減になったと言える。とはいえ、コロナ後にリアルな展示会としては、「良くここまで回復したな」と感心する。

 

韓国のバイイングパワーの強さを感じる

 来場者は65ヶ国から4,722人を迎えた。国別ではフランスが33.5%、海外が66.5%で初来場は15%だった。ちなみに2023年7月展のリポートでは、海外からの来場者の上位10ヶ国はオランダ11.8%、ベルギー9.7%、ドイツ6.1%、スイス4.3%、スペインとイタリア3.7%、米国2.9%、韓国2.7%、日本2.4%、スウェーデン1.6%、ポーランド1.5%とある。韓国と日本がコロナ後、昨年夏に初のトップ10入りとなったことを考えると、コロナからの回復に欧州内から一歩後れを取っていたことが窺える。また韓国が引き続きコロナ前同様に日本を上回っていることについては、メンズ、ウィメンズと共通して、韓国のバイイングパワーの強さを示しているとも見て取れそうだ。

 

 主要な来場小売業は、マリーゴールド・モダン・キッズ(アメリカ)、マジック・エディション(韓国)、プレイ(ベルギー)、キッズ21(シンガポール)、ナミブティック(イタリア)、ギャラリー・ラファイエット(フランス)、新世界(韓国)、エル・コルテ・イングレス(スペイン)、フェンウィック(イギリス)、ル・ボン・マルシェ(フランス)、プランタン(フランス)、ザランド(ドイツ)、スモーラブル(フランス)など専門店、百貨店、EC企業が並ぶ。

 

 一方コロナ下で進んだデジタルの要素については、同展が進めている「オーダーウィズ(OrderWizz)」というB2Bのデジタル受発注プラットフォームが着々と地歩を固めてきたようだ。コロナ前のピカフロール社・セバスチャン・ド・ユッテン代表のインタビューでは、「655ブランド、3,047人のバイヤーが登録」と述べていた。

 

果敢に挑戦する日本ブランド

 プレイタイム・パリには日本から4ブランドが出展した。うち1ブランドは、英国のショールームからの参加だ。

 

  • 日本ではお馴染みの「フィス」

 コロナ後初出展となった「フィス(FITH)」は、既存でオランダ、イタリア、シンガポール、米国から5件が訪れ、新規では米国で6件のほか、英国の卸を通じた欧州エリアの販売も広がっているという。ブースに立つ販売政策部の三浦深生さんは「来てくれた方は事前に出展リストでチェックして来場する方がほとんど。傾向としては他ブランドにはないアイテムを求めており、値段よりは素材感、アイテムの見た目、加工感を重視しているバイヤーが多いと感じた」とディスティネーションになっている事が奏功していると見ているようだ。ただ「展示会自体はまだまだ活気が戻りきっていない印象で、アジアから特に中国からのバイヤーが少ないというのもその理由の一つではないかと思う」と中国への期待を滲ませた。

 

  • リーズナブルなバックパックが人気の「オーシャン・アンド・グラウンド」

 4回目の出展となった服飾雑貨「オーシャン・アンド・グラウンド(OCEAN & GROUND)」は、人気のデイパックを前面にエプロンも見せた。既存では、フランス、英国、オランダ、ベルギーなど5社と商談し、新規は、ベルギー、スイス、スペインなどを加えて30社と商談をこなした。特に多かったのはベルギー、オランダの小売りで、フランスについては、コロナ前よりも減った印象だそう。全体に「目的意識が向上しているリテーラーが多く、前向きな商談ができた」という。

 

  • 人気のあったナイロンのDAYPACK CRAZYは、3,520円(税込)

  • コロナ後、初出展となった「ヌヌフォルム」

 コロナ後は初の出展となった「ヌヌフォルム(nunuforme)」は、既存で中国と米国が来場し、英国、ベルギー、イスラエル、トルコなど15件ほど新規のコンタクトがあった。バイヤーの様子については、「米国のバイヤーが戻ってきたイメージで、中国も優良な店からそろそろ動き始めている。ヨーロッパはフランスの地方、周辺国は来場していたが、コロナ前に一度出展した時と比べて中東のバイヤーが減ったようだ」と変化を語った。さらに興味を持つアイテムがアジアとその他の国で大きく違っており、米国からは、ダークな色目のロング丈ワンピース、ジャンパースカートとセットアップにした袖にフリルをあしらったブラウスなどに人気が集中したそうだ。「今後、海外に向けて、どのような展開をすれば良いのかの道標ができた出展となった」という。

 

  • ロング丈ワンピース(左)とジャンパースカート・ブラウスのセットアップ(右)

 このほか、かつてキッド・アパートメントに出展していた英国のパドラーズ・ショールームが「イースト・エンド・ハイランダーズ(EAST END HIGHLANDERS)」でブースを構えていた。

 

リアルを補完するデジタルの役割鮮明に

 やはりリアルにフェーストゥフェースでコミュニケーションを取れるフィジカルな場は、人間にとってかけ替えの無いものだ。それだけに、こうしたB2Bでもサンプルを触り、色や感触を確かめ、濃密で人間的な会話や商談が繰り広げられる場の設定という意味でトレードショーやショールームの必要性に陰りを感じることは微塵もなかったというのが率直な感想だった。

 

 さらにそれを補完するものとしてB2B受発注デジタルプラットフォームが存在し、オーダーを簡便にしてくれるならば、それは、さらに人間的なコミュニケーションやクリエイションにかける時間を増やしてくれる存在として欠かせないものになってくるだろう。年に1~2回くらい、こうした場所で「やあ、元気かい。最近どう」と互いの近況報告と変化を肌で感じる場があっても良いとつくづく思った次第だ。普段メールのやり取りでは伝えることのない「えっ、結婚したの」「子供が生まれたの」「引っ越して生活パターンが変わったんだ」などという他愛もないがビジネスを豊かにする小さなスパイスを与えてくれるだろう。

 

 

 

取材・写真/アナログフィルター「Journal Cubocci」編集長 久保雅裕

アナログフィルター「ジュルナル・クボッチ」編集長/東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)代表理事・議長

 ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。「senken h」を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

 大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア「Journal Cubocci」を運営。2017年からSMART USENにて「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」ラジオパーソナリティー、2018年から「毎日ファッション大賞」推薦委員、2019年からUSEN「encoremode」コントリビューティングエディターに就任。2022年7月、CFD TOKYO代表理事・議長に就任。この他、共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。

 コンサルティングや講演活動の他、別会社でパリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアの開催、合同展「SOLEIL TOKYO」も主催するなどしてきた。日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。

 

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