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2024.02.29

【2024秋冬ミラノ ハイライト2】活発化するポスト・クワイエットラグジュアリーの考察

写真左から「フェラガモ」「エトロ」「マックスマーラ」「エルマンノ シェルヴィーノ」

 

 2024年2月20日から25日に開催されたミラノ・ウィメンズ・ファッションウィーク。依然として、クワイエットラグジュアリーのトレンドが続く中、そんな流れにマッチしたイタリアらしいヘリテージを持ったブランドのコレクションを紹介する。

 

ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)

Courtesy of BRUNELLO CUCINELLI

 

 今シーズンのテーマ、“ANTE LITTERAM(アンテ・リテラム=ラテン語で「文字や言葉になる前」)”に因み、展示会場となったミラノショールームは、1920年代の知識人が集まるカフェをイメージした演出。アメリカの女性詩人、エドナ・セント・ヴィンセント・ミレイの作品の中のフレーズ、「BEAUTY NEVER SLUMBERS!(美は眠らない)」がインスピレーション源となっており、カフェの各所にはこのフレーズが見出しになったタブロイド判が置かれている。コレクションでは、テーマとして掲げているように、文字や言葉になる前から存在する、普遍的な「美」の本質への追求をし、エドナのような知性と強さに溢れたタイムレスなエレガンスを表現する。

 

 そして今シーズン、「ブルネロ クチネリ」は今の一大トレンドである「クラシックラグジュアリー」の先を行く「ジェントル ラグジュアリー」を提唱する。これはこれまでも同ブランドが常に提唱してきたバランスという概念をベースに、身も心も調和するのが美しさであり、そのためには自分にも優しく、自己肯定できるような着こなしをしようという提案にまで派生させたもの。

 

 テーラードの仕立ての中に、チュールやフェザー、スパンコールやラミネートなどの優しい要素を加えたり、テーラードジャケットとスカート、またはベストとスカートのセットアップなど、メンズスーツのイメージをウィメンズの要素で昇華している。素材にもこだわり、起毛素材やコーデュロイなどの暖かくて快適なものや、ボンディングやダブルクロスなどの職人技の効いたこだわりの素材が多く登場しているのも特徴だ。色使いも「ブルネロ クチネリ」の不朽の色、グレーを見直しつつ、ブラウンやパナマ、ウォームホワイト、クリームなどの暖かみのある優しい色が多用されている。

 

エトロ(ETRO)

Courtesy of ETRO

 

 「ザ・モール」というイベント会場にて、今シーズンはメンズ・ウィメンズ混合ショーを行った「エトロ」。今回のテーマは“ETRO ACT”。古代の演劇では舞台において、キャラクターの性格や感情はマスクによって表現されマスクを変えることで演じ分けていたことから、ランウェイ上に様々な表情をした巨大なマスクを設置し、その脇をモデルが歩くような演出がなされている。

 

 今回のコレクションでは、そんな古代の織物を連想させるような素材や、金箔で描いたようなモチーフが登場。ラッピングや巻き付け、アシンメトリーなシルエットやレイヤードに、時代を超越したようなノマド感が漂う。「エトロ」のアイコンであるペイズリーはより大胆になり、それがテーラードジャケットや、マキシロングのドレス、プリント・オン・プリントのドレスとパンツのレイヤードなどで多用されるが、渋みのある控えめな色だったり、オプティカルな要素を加えて使っているので、モダンで実用的だ。チュールやサテンのドレスとボックスシルエットのジャケットやデニムジャケットを合わせた、今っぽいコーディネートも見られる。

 

 「ウォルフォード(Wolford)」とのコラボで、ペイズリーをあしらい、「エトロ」のために特別にデザインされたボディスーツ、ジャンプスーツ、ドレス、トップス、タイツなどの「エトロ × ウォルフォード」コレクションも登場。

 

 全体的に黒や抑え気味な色を使っていたにもかかわらず、「エトロ」らしさを十分出していた今回のコレクション。ブランドイメージはキープするためにアーカイブの焼き直しを続けるブランドもあれば、クリエイティブ・ディレクターが変わる度に全く別のモノになってしまうブランドもある中、マルコ・デ・ヴィンチェンツォの微妙なさじ加減で、「エトロ」は堅実にアップデートを続ける。

 

ブリオーニ(BRIONI)

Courtesy of BRIONI

 

 これまではメンズコレクションの時に、一部ウィメンズのルックも発表していた「ブリオーニ」だが、今シーズンはウィメンズコレクションだけの展示会をミラノショールームにて行った。「ブリオーニ」ならではのクラフトマンシップを活かし、ブランドの基本理念である精巧さ、洗練さ、軽さや着心地の良さを反映したワードローブを、女性らしいシルエットで提案する。

 

 当然のごとく、ディナージャケットやコート、ケープ、シャツ、トラウザーズなどのテーラリングのワードローブから発展したアイテムが繰り広げられるが、ウエストを絞った女性らしいシルエットで表現されたり、ゆったりしたドレープを活かした流れるような作りとなっている。20世紀初頭に活躍した天才マルチアーティスト、マリアノ・フォルチュニからインスパイアされたプリーツもある。2枚の生地を重ね丹念に継ぎ目なく縫い合わせた手の込んだ技法であるダブルスプリッタブル仕立てのジャケットや、着た時にボタンの部分が開いてしまわないようにフェイクボタン仕立てになっているニットドレス、どんな体系の女性でも美しく着こなせるようなラップシャツなど、「ブリオーニ」の技術と着る人への思いやりに溢れたルックが登場するが、これはビスポークに強いブランドだからこそできることだろう。

 

 「ブリオーニ」の世界観はまさに今のクワイエットラグジュアリーにマッチしているが、「ブリオーニ」は常にぶれることなく上質を提供し続けており、時代が「ブリオーニ」に寄って来ただけのこと。以前はショーをやっていたこともあるブランドだけに、今後のウィメンズの拡大に期待したい。

 

マックスマーラ(Max Mara)

Courtesy of Max Mara

 

 「パラッツォ・デル・ギアッチョ」というイベント会場でショーを行った「マックスマーラ」。今シーズンは、ジャーナリスト、脚本家、パフォーマーとしても多彩な才能を発揮し、同性も対象とした華麗な恋愛遍歴でも知られるフランスの国民的作家コレットをインスピレーション源に、人生を自らコントロールできる完璧な女性像を描く。

 

 「マックスマーラ」の代表的アイテムであるコートが、ネイビーやブラック、スモーキーグレー、そしてお得意のキャメルなど、ベーシックな色使いで繰り広げられる。マキシロングコートをメインに、コレットが作品の中で描いた、オフィサーコートやピーコートも登場。そんな中に、スリップドレスやショーツ、ビジュー使いやスカートのバック部分にあしらったフリルなどフェミニンな要素がプラスされる。体のラインを浮き上がらせるハイゲージのニットも女性らしさを強調する。

 

 1910年代の日本の影響を受けた卵形シルエットから着想を得たキモノスリーブのボンバー風コートや、幅広のニットバンドと帯のような細いストラップベルトによるウエストマークなども見られる。

 

 ルックのほとんどはワントーンか黒とのツートーンというシンプルさ。ミニマルになればなるほど、洋服のクオリティが目立つものだが、それを余裕で見せつけたコレクション。究極のエレガンスが漂う、実に「マックスマーラ」らしいコレクションだった。

 

エルマンノ シェルヴィーノ(Ermanno Scervino)

Courtesy of Ermanno Scervino

 

 「ザ・モール」というイベント会場でショーを行った「エルマンノ シェルヴィーノ」。鋭利で保護的なものと露出的で開放的なもの、ハードなエッジと女性らしい丸みを組み合わせ、そのキーコードを再構築した。

 

 グリザイユからピンストライプ、ヘリンボーンまで、伝統的なメンズファブリックを使用し、ウエスト部分を絞った砂時計フォルムのジャケットが多数登場。それにはビスチェやブラ、そしてハイウエストのワイドトラウザーを合わせたり、ミニドレスのように見えるマイクロ丈のボトムを合わせたコーディネート。コルセットもさまざまなバリエーションで繰り返し登場し、硬質な女性らしさを表現している。

 

 ドロップショルダーのチェスターコートから、刺繍の施されたレザートレンチやシアリングコートまで、メンズライクなアウターにフェミニンな要素をプラスする。さらに「エルマンノ シェルヴィーノ」お得意のレースや刺繍、スパンコールやフリンジといった素材が施されたミニドレスも多数登場する。

 

 メンズウェアの要素をかなり色濃く入れ、その一方でコントラストを付けるべくフェミニンさも強調した今シーズンの「エルマンノ シェルヴィーノ」。そんな両極に振ったコレクションは意外と新鮮でもあった。

 

フェラガモ(Ferragamo)

Courtesy of Ferragamo

 

 今シーズンは、「フェラガモ」がブランドをスタートした1920年代にフォーカス。狂騒の20年代と呼ばれたこの時代は、アメリカでは女性に選挙権が与えられ、女性がどんどん外に出始めた解放の時期であると同時に、その一方で禁酒法の影響で人が隠れて内に潜んで楽しむ傾向もあった時代。そんな2面性のある当時を反映しつつ、洋服こそが自由を謳歌し、自己表現できる手段であるという姿勢からコレクションは生まれている。

 

 ヘビーウェイトな紳士服生地を使ったテーラードスタイルには太いベルトが効果的に使われ、コートの裾の部分や襟に施されたり、ドレスに縫い付けられ、ユニフォーム的な雰囲気を加える。または巨大化したラペルが施されたテーラードコートやボクシーシルエットのジャケットを、片襟だけ立てたコーディネートも。禁酒法時代の闇バー(スピークイージー)に通う人々が、ケープをまとって着ているものを隠していた当時を象徴するような「身を守る」という発想から、ケープや、太ももまであるウェーダーなども登場する。その一方で、ビスチェ風のラッカー仕上げのオーガンジーのドレス、透け素材を使っていたり深いスリットを入れたドレス、うろこのようにパテントレザーを重ねたミニドレス、フェザーやスパンコール使いなどフェミニンな要素も多い。

 

 「私はいつも、物事を徹底的に見直します。歴史を振り返り、その時代の象徴や流行したものを、よりクリーンでモダンに再定義するのが好きなのです」と語るマクシミリアン・デイヴィス。すべて社内の職人の手によって仕上げをする「フェラガモ」のクラフトマンシップとのベストマッチで、そのコレクションはシーズンごとに魅力を増す。

 

スポーツマックス(SPORTMAX)

Courtesy of SPORTMAX

 

 「トリエンナーレ」という建築・デザイン関係の複合施設でショーを行った「スポーツマックス」。今シーズンはドイツ人歌手ニコのアルバムタイトルから引用した“カメラ・オブスキュラ(Camera Obscura)”がテーマ。そのニコと共に、グレイス・ジョーンズ、デボラ・ハリー、アニー・レノックス、スージー・スーなどの80年代のミュージックシーンの伝説的なディーヴァたちがインスピレーション源となっている。そしてアルバムのジャケットにインスパイアされたプリントが、様々なアイテムに施されている。

 

 印象的なのは、ジャケット、コートからドレスに至るパワーショルダーの鋭角的なフォルム。この彫刻的なイメージは大きなリボンが付いたタイトスカートや、ウイングのついたドレスでも見られる。メンズライクなテーラード仕上げのジャケットやコートの胸元にはフェイクのチーフのディテールを施し、帯のような太いベルトを巻き付けてウエストを強調する。ファーやフリンジをあしらったアシンメトリーなドレスやビスチェ風ドレスなど官能的なドレスも登場する。

 

 その一方で、テクニカル素材やブラックレザーのボクシングショーツなどスポーティなアレンジや、バッファローモチーフをサイドに施したドレスやカウボーイ風オーバーパンツなどウエスタンの要素も混じる。

 

 最近、ファム・ファタル的でセンセーショナルなコレクションが続く「スポーツマックス」。トレンドの王道は押さえつつ、今シーズンもなかなか攻めた提案をしており、その我が道を行く姿勢を高く評価したい。

 

 ミラノファッションウィークの総括として、クワイエットラグジュアリーのトレンドの継続が揚げられるが、今シーズンはその延長線上として次に来るものを模索したり、このトレンドに独自の視点でアプローチする考察が見られた。「外にひけらかさない上質」というクワイエットラグジュアリーの考えは、洋服は外観だけではなく内面を見つめるものだという、より精神性を持つ方向に広がり、それは自分を肯定し、自信を持つというエンパワメントだったり、実用性や快適さへの追求という形で表現される。それを伝統的な服飾文化を探求し、現代風に自分らしく昇華したブランドもあれば、日常的、または継続的なものを別の角度から考察して新しいものに仕上げるブランドもある。

 

 1月の秋冬メンズコレクションでは、テーラリングの中にウィメンズのディテールを入れ込んだジェンダーレスの流れがあったが、ウィメンズでも同様に、メンズのファブリックやディテールをフェミニンなアイテムに使用したり、それを女性らしいシェイプに仕上げたものが多くみられる。またはメンズライクなアイテムに、ランジェリードレスやレースやチュールなどの透け素材のアイテム、深いスリットの入ったスカートやマイクロ丈のボトムなど、フェミニンなアイテムとコーディネートしている。

 

 世界中で起こっている戦争や災害などで先行き不透明な時代において、ファッション界に大きな変化を求めないムードがあるということはメンズコレクションの時も書いたが、その流れは続いている様子だ。秋冬コレクションだということもあるし、暗いムードが流れているわけではないが、圧倒的に黒が多いファッションウィークでもあった。

 

取材・文:田中美貴

画像:各ブランド提供(開催順に掲載)

>>>2024秋冬ミラノコレクション

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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