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2024.03.04
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.95】タイムレスをもうひとひねり ラグジュアリーを再定義 2024-25年秋冬ニューヨーク&ロンドンコレクション
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写真左から「マイケル・コース コレクション」「コーチ」「バーバリー」「アーデム」
2024-25年秋冬のニューヨーク&ロンドンコレクションは、時流に左右されない「タイムレス」にひねりを加える提案が相次いだ。クラシカルやレトロが勢いづき、継続トレンドのミニマルやクワイエットラグジュアリーにムードを上乗せ。一方で1990年代風の「強さ」を感じさせるアプローチも。さらに、ダークミステリアスやプレイフル、地元らしさ、アウトドアなどのテイストを盛り込むクリエーションが広がった。
◆マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)
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凜としたムードが漂う、ニューヨーク流のクワイエットラグジュアリーを打ち出した。ダブルブレスト・ジャケットにスリット入りスカートで合わせたファーストルックが方向感を示す。強みのテイラードスーツを軸に据えて、1990年代ライクにマスキュリンとエレガンスを融け合わせている。肩を張り、脇を絞ったシェイプは「着るエンパワーメント」のようだ。
スーツにニューヨーカー精神を託した。配色は黒、白、グレーの無彩色を主体に、ピンク、キャメルを少々。ニットとレースのマリアージュを試している。タンクトップやダブルベルトにジャケットの肩掛けを多用し、芯の強さを印象付けている。コートには大襟を配し、ファーのポイント使いでボリュームを出して、めりはりを生んだ。大ぶりのトートバッグとトップハンドルのミニバッグが装いにリズムを添えている。
◆トム ブラウン(THOM BROWNE)
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エドガー・アラン・ポーの詩「大鴉(おおがらす)」に着想を得て、ダークでミステリアスなムードを立ちこめさせた。黒と白を主役に選んで、ゴシックホラー風の風情を醸し出している。キーモチーフのカラスは不気味かわいいムード。スーツやタキシードを柱に据えながらも、手の込んだテーラリングでアンサンブルを解体。肩を張った、ボクシーな量感はどこかファニー。多彩なトリミング(縁取り)がロングコートやジャケットに動きを加えている。
ジャケットは肩から落とし、極端なアワーグラス(砂時計)シルエットを描いた。ドレスはコクーンシルエットで朗らかに弾ませている。肩掛けや長短レイヤードで量感を操り、ミニスカートはボリューム落差を際立たせている。コートやジャケットを飾ったのは、オリジナルのチェック柄。ダークファンタジーとウイットが交じり合う大人向け絵本のようなコレクションでNYのフィナーレを飾った。
◆コーチ(COACH)
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地元ニューヨークへの愛着と敬意を示した。キャミソールトップスとデニムパンツ、パーカとタキシードを交わらせるような自由度の高いミックスコーディネートで気取らないラグジュアリーに着地させている。バッグに添えるチャームを装いのアイコンに位置付けた。自由の女神像や「I Love New York」のマグカップなど、NY土産の定番をモチーフに選んだ。ヤンキースのキャップも盛り込んだ。
レザーやデニムを採用し、ユーズド加工でこなれた風情やヴィンテージ感を漂わせている。セーターのボトムレスコーデはフレッシュな見え具合。大きめバッグやゴツめブーツがボリュームに起伏をプラス。ジャラジャラのチャーム重ね付けとバッグの2個持ちがルックに動感をもたらした。自分好みを貫くニューヨーカー流の着こなしを織り込んだ、10周年を迎えたスチュアート・ヴィヴァース氏のメッセージを感じさせるコレクションだ。
◆トリー バーチ(Tory Burch)
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すっきりしたクリーンなムードに、構築的なシェイプで都会的なシルエットを打ち出した。スリーブレスのコンパクトなセットアップが今の傾向を映し出す。ウエストを軽く絞って、ゆるやかに裾広がりした、ランプシェード風の曲線がボディに沿う。台形や四角を模した幾何学的シルエットが懐かしげなたたずまいに導いている。
素材のバリエーションで装いを多彩に表現した。クロコダイル調のレザーや半透明のコートは目新しい。毛足の長いシャギー素材でボディを埋め尽くした。黒タイツを使った「ボトムレス」風のスタイリングも提案。髪を覆うフード一体型のセカンドスキンのようなニットトップスはアクティブでヘルシー。鮮やかなオレンジやブルーの差し色であでやかさを演出。ブランド設立20周年の節目にフォルムと質感で新章を開いた。
■ロンドンコレクション
◆バーバリー(BURBERRY)
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アウトドアのエレガンスを歌い上げた。トレンチコートやダッフルコートなど、多彩なアウターを主役に据えている。ブランドアイコンのトレンチはベルトをはずして、ボディをしなやかに包み込む。あごを隠すほど高い立ち襟、裾を開けた斜めの打ち合わせが縦に長いロング&リーンのシルエットを描き出す。アースカラーがアウトドア感を引き立てる。ミリタリーオリーブはプロテクション気分を漂わせている。
ファーのポイント使いや編み込みのフリンジがボリュームを添えた。レザースカートやファーバッグも用意して、異なる素材感を交じり合わせている。プリーツとチェック柄を配した、キルト風のフレアスカートも懐かしげ。シアリングやジャカード織が手仕事テイストを盛り込んだ。タフ感とあでやかさをねじり合わせて、野を行く貴婦人ライクな女性像をまとわせていた。
◆ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)
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穏やかでありきたりの「日常」をウィットフルに裏切った。ニットのセットアップは編み目の輪っかが極太で巨大。まるで顕微鏡で拡大したかのようなデフォルメを加えて普段着をオブジェ化した。いわゆる「肌着」のようなセカンドスキン風の薄手トップスをマイクロミニ丈ショートパンツにマッチング。ベーシックアイテムにひねりを加えている。モデルが付けたおばあちゃん風のグレイウィッグヘアも日常に潜む違和感を際立たせた。
ありふれたありきたりアイテムをあり得ない見え具合にトランスフォームした。へリンボーンのテーラードジャケットはジャイアントサイズに誇張。子どもが親の服を着たようなブカブカ加減が愛くるしい。ワンピースにもたるみやドレープを配して、余白で遊んだ。カーテンの飾りタッセルはワンピースのストラップに転用。レトロやノスタルジックをプレイフルにいじって、のどかな見掛けの裏に、コンセプチュアルなたくらみを宿した。
◆アーデム(ERDEM)
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欧米で最高レベルのドレスアップ機会といわれるオペラに出掛けるような装いをそろえた。伝説のオペラ歌手、マリア・カラスをイメージ源に選んで、エレガンスを深掘り。ドレスやスカート・セットアップを柱に据えて、ハイエンドな出で立ちに誘った。パンツが極端に少ないところにも、クラシカルな夜会服モードがうかがえる。マント風アウターを重ねたスリーピースが格上のレディー感を宿らせた。
ブラトップに大襟コートを重ね、サプライズなスタイリングを仕掛けた。毛足の長いシャギーなファードレスはゴージャスの極み。千鳥格子はマルチカラーで彩り、フラワーモチーフには幾何学的模様を重ねてプレイフルに。レザー仕立てのストラップドレス、シルキーなパジャマルックも見せた。二の腕まで覆うロンググローブが貴婦人テイストを薫らせていた。
「趣味のよさ」「日常のおしゃれ」をブランドそれぞれに探るようなクリエーションが目立った。SDGsやサステナビリティ意識を背景に、着続けやすさが重視され、コンフォートやプロテクションを押し出したアイテムも増えた。レザーの再評価が進んだのも一例だ。スタンダードやデイリーに磨きを掛けて、リアル感の高い形でラグジュアリーを再定義する「もうひとひねり」の試みがコレクションの鮮度を高めていた。
画像:各ブランド提供
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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