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2024.01.18

THE STORE by C’/麻布台ヒルズに出店 コンセプトに徹して「上質」を求める大人の女性に、よりフォーカスする

 アバハウスインターナショナルが運営する大人の女性に向けたライフスタイルストア「THE STORE by C’(ザ ストア バイシー)」。Comfort(心地良さ)、Culture(文化)、Casa(家)、Current mode(今の気分)は、私たちのCuriosity(好奇心)を満たしてくれるという5つの「C」を備えた「衣」「住」のアイテムを編集し、カリフォルニアの開放的な空気感とともに伝えるブランドとして、2018年に立ち上げた。同年に代官山に旗艦店、21年にニュウマン新宿店を出店し、求心力を高めてきた。3店舗目となるのが、23年11月24日にオープンした麻布台ヒルズ店だ。旗艦店と比べコンパクトな売り場だが、「For beautiful life」のコンセプトに徹し、生地や縫製にこだわったオリジナルライン「COCUCA(コキュカ)」を軸に、デニムなどのセレクトアイテム、ファインジュエリーに特化したアクセサリーなど、培ってきた強みをMDに収斂(しゅうれん)した。店舗限定アイテムもあり、「ここだけ」の魅力も備える。ザ ストア バイシーというブランド、麻布台ヒルズ店の店作りについて、ディレクターの奥泉衣映さんに聞いた。

奥泉衣映(おくいずみ・きぬえ) THE STORE by C’ディレクター

大手アパレルのブランドで販売職を経て、ニットの企画を担当。2010年、アバハウスインターンショナル入社。「DESIGNWORKS(デザインワークス)」の商品企画、バイイングを手掛ける。18年、「THE STORE by C’(ザ ストア バイシー)」を立ち上げ、ディレクターに就任。

ブランドの根幹を追求、培ってきた強みをMDに

 「初めてロサンゼルスの空港に降り立ったときに、カリフォルニアの空気は自分に合っていると直感したんです。そういうことってあるじゃないですか」とザ ストア バイシーのディレクター奥泉衣映さん。英国を中心とする西欧のクラシック&モダンを体現した「デザインワークス」の企画やバイイングに携わっていた頃も、「自分の好みはどちらかというとアメリカのテイストだった」という。

 

 デザインワークスの服作りや買い付けを9年間にわたり経験後、フリーランスのディレクターとして活動していたときに、アバハウスインターナショナルが新たなライフスタイル提案型セレクトショップを立ち上げることになり、声がかかった。「自分が好きなテイストで構わないと了承していただき、スタートさせたのがザ ストア バイシー。カリフォルニアといってもハイソサエティーな邸(やしき)が立ち並ぶマリブの、開放感があって、時間がゆったりと流れる感じを表現したかった」と奥泉さんは話す。

 

 旗艦店となる代官山店をアバハウスインターナショナルが運営する複合施設「スピークフォー」に出店したのは2018年秋のこと。ウェアは「大人のための上質な日常服と休日服」がコンセプトのオリジナルライン「COCUCA(コキュカ)」を軸に据え、ニューヨークとカリフォルニアで買い付けたセレクトアイテムを中心に構成し、家具や食器、スキンケアアイテム、観葉植物、書籍など暮らしまわりの品々を複合。各カテゴリーをマリブの空気感を体現した「部屋」に集積し、カリフォルニアのカルチャー、ライフスタイルを提案した。

 

 コキュカは着る人にとっての心地良さを追求した生地や縫製、ベーシックなデザインにひねりを効かせたディテールが魅力。ニットやシャツは人気で、ブランドのシグネチャーアイテムとなった。セレクトではデニム、ファインジュエリーに特化したアクセサリーやビンテージのインディアンジュエリーが好評だ。これらブランドの顔となっているアイテムに絞り込み、21年にはニュウマン新宿に出店した。代官山店よりも売り場面積は小さいが、得意分野に特化したMDでコロナ下、その後も好調を続けている。

 

 3店舗目となる麻布台ヒルズ店は、ニュウマン新宿店とほぼ同じ23坪。今後の動向が注目される施設で、アパレルの新業態も多く出店しているが、ザ ストア バイシーが選択したのは「ブランドの根幹であるコンセプトを体現し続ける」ことだった。そのベースの上に、店舗限定のカプセルコレクションや別注アイテムなども揃え、「上質」を求める大人の女性によりフォーカスしたMDを編集している。

 

  • 2023年11月にオープンしたTHE STORE by C’(ザ ストア バイシー)麻布台ヒルズ店

  • 「COCUCA(コキュカ)」のコーディネート

着たときに美しく見えるフォルムへのこだわり

 売り場は四角い構造の中に壁やエントランスのウインドー、オリジナルのラックやショーケースなどで曲線を多用し、柔らかく心地良い空間を生み出した。サボテンなど多肉植物がカリフォルニアの温暖な気候や、ゆったりと流れる時間をイメージさせる。顧客にとってはリュクスなコレクションをストックしたクローゼットのような感覚で巡れる空間だろう。

  • 緩やかなカーブを描く壁とラック

  • テーブル什器にはセレクトアイテムが並ぶ

  • ジュエリーの円形ショーケースは麻布台ヒルズ店のオリジナル

 既存店と変わらず動きが良いのは「ベーシックシャツ」。ブランドのデビュー時から継続しているアイテムで、毎シーズン、生地やディテールを変え、進化させてきた。「羽織るだけで決まるというか、フォルムをかなり重視して作っている」という。23-24年秋冬コレクションで人気なのは、後身頃を長くとり、ヨークから裾までタックを入れることで、着用すると背中からヒップを包み込むようなシルエットを描くタイプ。袖下に長めのスリットが入っていて、袖口の大きさは2つのボタンで調整でき、全て外せばポンチョ風にも着こなせる。21年から展開する一格上の「ベーシックシャツ プレミアム」では、今季はイタリア・プラトーの老舗ファブリックメーカー「CANGIOLI(カンジョーリ)」によるレーヨン・シルク混のサックスストライプ、スペインの「SIDGRAS(シドグラス)」のブラックストライプの生地を採用した。2万円台のベーシックシャツより1万円ほど高価になるが売れている。

  • ベーシックシャツとダブルフェースロングジレのコーディネート

  • CANGIOLI(カンジョーリ)の生地を使ったベーシックシャツ プレミアム

 ピンストライプの「フォルムジャケット」は、尾州産地のウール生地のストライプを白からサックスに変えて別注し、国内のテーラリング工場でセミダブルに仕立てた。「ダブルだとメンズっぽくなり、シングルだと真面目に寄ってしまうので、あえてセミダブルに。厚めの肩パッドで肩を強調しつつ、ウエストより少し高めの位置で絞ることで、女性らしいシルエットに仕上げました。私たちが仮縫いやトワルチェックで最も注力しているのは、女性が着たときにすっきりと美しく見えること。そこに尽きると思うので、ミリ単位でサイジングしています」と奥泉さん。グレーとブラックの2色展開で、「グレー地にサックスのストライプは早々に完売した」。

 

 得意とするニットでは、チャンキーニットのタートルネックプルオーバーとカーディガンを打ち出す。接結編みと成型編みを同時に進める高度な技術によるダブルフェースニットで、「ニットを知っている人が見ると思わず唸ってしまう、ちょっと玄人ウケするアイテム」だ。プルオーバーはイタリアのBiagioli(ビアジョリ)社のラムウールを使ったコード糸、カーディガンは同社のハイゲージのウールカシミヤ糸で編み上げた。カーディガンは9万円台とコート並みの価格だが、20年に投入して以来、好調を続けている。

 

  • フォルムジャケットはテーラードでエレガンスを表現

  • 大人カジュアル印象のチャンキータートルプルオーバー

  • 上質なウールをダブルフェース編みしたチャンキーカーディガン

 店舗限定のカシミヤ100%のカプセルコレクションも揃えた。コート2型と、ニットのカーディガン、プルオーバー、パンツの計5型。コートは尾州産地で織り出したカシミヤのダブルフェース仕様で、リバーコートとハーフコートに仕上げた。ともに一般的なグレーよりもライトで気品あるトップグレーを採用し、表側は薄め、裏側は濃いめと色合いのニュアンスが心憎い。ハーフコートは大きな襟がローブのように裾まで続くデザインで、ミドル丈にすることでフェミニンな趣を醸し出す。一方、リバーコートはベーシックな形だが、袖下にスリットを入れ、コンシールファスナーで開閉可能に。開けてインナーを見せるなど、気分に合わせた着こなしを楽しめる。「着る人の個性が引き立ち、素材が最大限、生きるデザインを心掛けています」と奥泉さん。カシミヤのダブルフェースなので軽く、温かいのも嬉しい。

 

 ニットはカシミヤ山羊の産毛を厳選し、高い技術で紡績されたアラシャンカシミヤを使用。軽さ、温かさ、伸縮性を兼ね備えた糸で、心地よいフィット感を生むよう、前と後ろの身幅や胸幅、背幅などのサイズを一般的なニットウェアとは変えて立体的に編み上げた。

 

  • 麻布台ヒルズ店限定のカシミヤハーフコートとカシミヤリバーコート

  • カシミヤニットのプルオーバー、パンツ、カーディガン

セレクトに凝縮された意思と感性

 現在、品揃えに占めるオリジナル比率は約70%。セレクトアイテムは30%程度だが、ザ ストア バイシーのMDに対する意思と感性が凝縮された内容となっている。

 

 仕入額ベースで最も構成比が高いのがジュエリーで、「強化しているカテゴリー」だ。ファインジュエリーとインディアンジュエリーに絞り込み、ザ ストア バイシーらしいセレクトで見せる。例えばインディアンジュエリーは現行品ではなく、ビンテージに特化し、ニューメキシコとメキシコで買い付けている。Cippy Crazy Horse(シッピー クレイジーホース)はコティプエプロ族のトップアーティストで、ナバホ族などのインディアンジュエリーとも異なるアート性の高いジュエリーを手掛けている。叩いて銀密度を高める鍛造(たんぞう)という日本刀と同じ技術を用い、全工程を1人で担うため量産が難しいだけに希少性も高く、世界中にファンが存在する。ナバホ族では、多様な技術の組み合わせでシルバーと宝石によるデザイン性の高い作品を生み出すHerman Vandever(ハーマン・バンデバー)、ブレスレットの造形が高い評価を得ているAaron Toadlena(アーロン・トアードレナ)らのインディアンジュエリーを扱う。

 

  • インディアンジュエリーはビンテージにこだわる

 ウェアのオリジナル比率が高まっている中で意外だが、デニムは米国製を中心にセレクトアイテムのみで構成する。ウィメンズに特化したロサンゼルスのプレミアムデニムブランド「Citizens of Humanity(シチズンズ オブ ヒューマニティ)」や「GOLDSIGN(ゴールドサイン)」、男性らしさと女性らしさなど相反する概念をミックスした服作りを特徴とするウィメンズブランド「KHAITE(カイト)」、メイド・イン・L.A.にこだわる「AGOLDE(エ ゴールドイー)」などから買い付けた粒選りのアイテム揃い。ストックホルムを拠点とするデニムブランド「TOTEME(トーテム)」は、18年の立ち上げ時より継続して仕入れをしている。アイテムはイタリア製で、ワイドパンツもカジュアルに寄り過ぎないリュクスなモダンさが好評だ。

 

  • 「TOTEME(トーテム)」のジーンズ

 2月からは「100%アップサイクル」を目標とするロンドン発の新鋭デニムブランド「E.L.V.DENIM(イーエルヴィー デニム)」を麻布台ヒルズ店限定で展開する。デッドストックやビンテージのデニムアイテムを素材として、新たなアイテムを構築する「A ZERO-WASTE DENIM BRAND」からチョイスしたのは、Gジャン、パンツ、シャツ。「例えばGジャンは状態の異なるGジャンを真ん中で裁断し、組み合わせています。色の落ち具合はもちろん、ポケットの大きさや位置、襟の高さが左右で違っていたり。ストライプのデニムシャツもつなぎ合わせで、クレイジーストライプのよう。そういうことを子供っぽくならないように、デザインに昇華させているんですね。全てユニークで、全て1点物。店頭で一つひとつ手に取って好みのデザインを選ぶ楽しさを共有できるブランドです」。

 

  • Gジャン(E.L.V.DENIM)

  • デニムパンツ(E.L.V.DENIM)

  • ストライプのデニムシャツ(E.L.V.DENIM)

 コロナ禍が明け、海外での買い付けも復活した。昨年(23年)は久しぶりにパリを巡ったという。「ザ ストア バイシーをスタートして5年が経ち、私自身も歳を重ねて、ヨーロッパのブランドを見たときに改めて『美しいものには、やはり心を惹かれるんだな』と思ったんですね。美しさという意味では、アメリカのブランドとは一線を画する何かを感じた。また、上質な服を長く大事に着ていきたいという気持ちも、以前より自分にしっくりきていると感じます」と奥泉さん。そんな思いはコキュカの24年春夏コレクションに投影されている。ブランドコンセプトの「For beautiful life」にも通じる「BEAUTIFUL THINGS」をテーマとし、美しいものに惹かれる気持ちにフォーカスする。目に見える美しいものは、目には見えない美しい音や言葉、気持ち、考え方などの背景があって成り立っていることから、サブテーマを「All things wise and wonderful」とした。原点からブレないという強い思いを携え、奇をてらわずブランドを磨いていく。そんな姿勢が垣間見えた。

 

写真/遠藤純、アバハウスインターナショナル提供
取材・文/久保雅裕

 

■関連リンク
THE STORE by C’公式サイト:https://thestorebyc.com/

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

 

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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この記事は「encore(アンコール)」より提供を受けて配信しております。

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