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2024.01.18
【2024秋冬ミラノメンズ ハイライト2】アイテムトレンドはテーラリングを中心とした進化系定番モノ 素材や仕立てにフォーカス
写真左から:「ゼニア」「トッズ」「イザイア」「ブリオーニ」
今シーズンのミラノメンズでは、テーラリングを中心としたメンズの普遍的アイテムを、ラグジュアリーな素材や仕立てで実現する傾向がみられた。多くのブランドが提案するのはリアルクローズで、そこにシグニチャーを加えたり、色で遊んだり、ディテールにこだわることで個性を出している。そのディテールとして、前シーズンにも多少見られたフェミニンな要素を加えたり、テクノロジーと結び付けた試みも見られる。ポストコロナによるビジネス環境の変化もあってか、自然(または都会と自然の対比)をテーマにしたブランドも多く、カラーパレットはアースカラーがメインとなり、アウターのバリエーションを厚めにしている。
結局のところ、クワイエットラグジュアリーのトレンドが継続しているのだが、そこには世界各地で起こっている戦争や災害など、現在の先の見えない社会状況において、大きな変化を求めないムードがあるのかもしれない。
さてハイライト2では、素材や仕立てへのフォーカスが今シーズンのトレンドになっていることを受けて、クラシック系のテーラーブランドや、モノづくりにこだわったブランドのコレクションをレポートする。
ゼニア(ZEGNA)
「ゼニア」2024秋冬コレクション Courtesy of ZEGNA
今シーズンもミラノメンズのフィナーレを飾った「ゼニア」。ショー会場となったコンベンションセンターMICOの巨大な空間の真ん中には、天井から幻想的に落ちて来るビキューナカラーのカシミア原料によって山ができており、その周りをモデルたちが歩く。
”IN THE OASI OF CASHMERE”をテーマに、 前回の秋冬コレクションに続き、今シーズンもカシミヤにフォーカス。カシミアの汎用性、貴重性、トレーサビリティ、そしてさまざまなテクスチャーや表面へと姿を変える性質に注目し、バリーション豊かなアイテムに進化させることで、それらを組み合わせてパーソナルで自由なスタイリングを提案する。これは「ゼニア」が一貫して持ち続ける考え方だ。
今シーズンは特にトランスフォーメーションのアイデアで、ディテールやスタイルを進化させたり、実用性や機能性をデザインに落とし込んだアイテムが登場する。
ボクシーシルエットのジャケットはワイドラペルやショールカラーのようなラペルなどバリエーションを効かせ、実用的なメガポケットが付いたものもある。この外付けポケットはオーバーシャツやブルゾン、ジレにも使われ、デザイン面でも面白さを加えている。スーツの代わりとなるような、七分丈のタートルネックとフロントにシームを施したワイドパンツのセットアップも多数登場する。
レイヤードを活かしたコーディネートが特徴的で、それらの多くは暖かみのあるアースカラーやブルー、ブラックなどのトーンオントーンでコーディネートされているが、素材の違いによって微妙な色相が重なり合うことで独特のニュアンスを醸し出す。
今回もショーの後にはモデル達がランウェイに残り、間近でルックを披露するという、製品に自信があるからこそできる演出がなされた。最高級の素材を武器にした、「ゼニア」だからこそ作れるコレクションは、特に素材や仕立てのラグジュアリーさにスポットライトが当たる今シーズンの中で、ひときわ力を発揮していた。
ラルディーニ(LARDINI)
「ラルディーニ」2024秋冬コレクション Photo by Antonio De Masi
ピッティから発表の場をミラノに移し、ますますモダンに変革を遂げている「ラルディーニ」。今回は、50年代にできたミラノ初の29階建ての高層ビルの最上階にあり、360度のビューが見渡せる邸宅でプレゼンテーションを行った。
今シーズンのテーマは“Elegance is a perpetual Evolution”。クラシックなテーラリングを、ディテールや重量感、色などでモダンに昇華したコレクションだ。真っ赤なミリタリー用生地のオーバーレングスコートや、ウール/ポリエステル混のスカーフ付きシャツをダブルのブレザーに合わせたコーディネートなど、都会的なテイストのアイテムをキールックとして繰り広げ、足元にはアンクルブーツをあわせる。ジャケット丈は全体的に少し長めで、パンツはタイトなものが登場。軽量のニット類も多い。
実際のところは、プレゼンテーション会場に展示したルックは少なめだったが、ルイージ・ラルディーニ曰く、「商品を大々的に見せるというよりも、ジャーナリストや顧客たちと話をして共に過ごす時間を大切にしたかったから」だとか。そんな姿勢からも「ラルディーニ」がファクトリーブランドから脱却し、イメージ的な部分の押し出しを強化している様子がうかがえる。
ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)
「ブルネロクチネリ」2024秋冬コレクション Courtesy of BRUNELLO CUCINELLI
今シーズンもピッティに続き、ミラノショールームでも発表を行った「ブルネロ クチネリ」。ミラノでのプレゼンテーションは「アメリカンジゴロ」的なイメージで、バーカウンターの前にモデルが並び、ダンディな雰囲気。昨年イタリアのペンネに建設されたスーツ製造拠点を移動したことに因み、サルトリアのエッセンスがさらに加えられた。
“A FREE SOUL CALL(自由な魂の叫び)”をテーマとし、これまでのメンズファッションのルールから少し離れて、自由な着こなしやディテール変化を取り入れたフレッシュで新しいスタイルを提案する。例えば、同じ色でもわずかにトーンが違う素材や畝の太さが違うコーデュロイをコーディネート。高級な要素とカジュアルな要素のミックスも見られ、カシミアのブルゾンの内側にはキルティングが施されていたり、タキシードにトレンチをコーディネートしたり。その一方で同素材のトップとパンツをあえて合わせてオールインワンのように見せるコーディネートも見られた。また前シーズンからフォーカスしているペイズリーは今シーズン益々存在感を増し、シャツやジャケット、ネクタイなどにさりげなく登場している。
また今回3シーズン目となるスキーウェアのシリーズも登場。どちらかというとアフタースキー向けのイメージだったが、スーツに使うようなフランネルに撥水加工を加えており、実は機能性もアップしている。
クラシックでありながらトレンドを牽引する「ブルネロ クチネリ」。今シーズンも次の流れを作りそうな提案がたくさん見られた。
ブリオーニ(BRIONI)
「ブリオーニ」2024秋冬コレクション Courtesy of BRIONI
今シーズンの「ブリオーニ」は、“The culture of human touch (ヒューマンタッチの伝統文化)”というテーマで、歴史のあるミラノ文化協会の建物にてプレゼンテーションを行った。
これまでも軽さや心地よさを重視してきた「ブリオーニ」だが、今回も軽さ、快適さ、精巧さへのさらなる探求がなされている。テーラリングはより軽くシンプルになり、その一方でスポーツウェアにも仕立ての技術が取り入れられている。コートやブレザー、トレンチコート、レザーのディテールを施したジャケット、軽量ダウンなどアウターが充実。スポーティなフィールドジャケット、ブルゾン、アノラック、ニット類も多数登場する。
それをビキューナ、キャメル、コーヒーブラウン、ミッドナイトブルーのアースカラーを基調とした落ち着きの色合いで表現する。世はクワイエットラグジュアリーが一大トレンドとなっているが、変わることなくアンダーステイトメントな最上質を提供してきた「ブリオーニ」の前には、そんなキャッチフレーズを使う事さえはばかられる。
トッズ(TOD’S)
「トッズ」2024秋冬コレクション Courtesy of TOD’S
今シーズンもお馴染みのネッキ宮で展示会を行った「トッズ」。今シーズンは、「マテリア(素材)」というテーマそのままに、素材に重きを置いたコレクションだ。靴にルーツを持ち、職人技の効いた革製品で知られるブランドではあるが、今回はあえて洋服にフォーカスし、布帛の充実度をアップしている。会場では職人が縫製作業をする様子や、仕立て職人の影絵風ムービーのインスタレーションが繰り広げられた。フィッティングモデルも通常より多めで、ウェアに注力している様子がうかがえる。
ウールデニムのブルゾンやローゲージニット、表革のディテールを効かせたスエードブルゾンなどのワークウェアやカジュアルアイテムも、上質素材を用いた丁寧な作りで仕立てている。テーラリングにも重点を置き、クラシックなスーツやチェスターコート、トラウザーも多数登場する。
そんな足元を飾るのは、スープスキンのライニングを付けたスエードのW.G.ブーツや、アフタースキーの世界からのイメージでレザーにシープスキンをトリミングした新作ブーツも登場。アイコニックアイテムであるゴンミーニ バブルは、毛足の長いファーやクロコダイル、新素材のカシミアソフトレザーなどウェアの素材を反映したマテリアルが使われている。
今回のメンズコレクションはデザインチームによるものだが、次のウイメンズコレクションからは、新クリエイティブディレクターのマッテオ・タンブリーニがコレクションを手掛けることが決まっている。洋服にもますます力を入れる「トッズ」の次のシーズンが楽しみだ。
イザイア(ISAIA)
「イザイア」2024秋冬コレクション Courrtesy of ISAIA
5年ぶりにメンズファッションウィーク中にイベントを行った「イザイア」は、かつての教会を改装したクラブ「ガットバルド」にて、初のランウェイショーを開催。本拠地であるナポリテイストに溢れる「イザイア」らしく、厄除の象徴としてナポリのシンボルにもなっている唐辛子が店中を飾る。
コレクションは活気に満ちた80年代のナポリからインスピレーション。当時の文化的レボルーションの提唱者である俳優マッシモ・トロイージへのオマージュでもある。そのトロイージの作品「Morto Troisi, Viva Troisi」をもじって、テーマは“MORTO ISAIA, VIVA ISAIA(イザイアは死に、イザイアは生きる)”としているが、そこには過去と現在を融合させて未来を形作るというブランドの取り組みも暗喩している。
コレクションではサルトリアルテイスト溢れるクラシックなアイテムに、鮮やかな色、豊かな質感、大胆なモチーフが多用される。メンズの定番色ネイビーやグレー、ブラウンに加えて、鮮やかなイザイアレッドのジャケットやコートやサンゴ色のセットアップ、オールホワイトのコーディネートもあれば、レモンイエローやライトパープルの差し色もある。コートとパンツのチェックオンチェックのコーディネート、大胆なピークドラペルのコートやジャケットなど大胆な柄使いやディテールも登場。その一方で、生地を縮絨して防水性と起毛感を持たせたカセンティーノから、総裏地付きで手縫いされたダブルブレストのスエードトレンチコートやジャケットに至るまで、カジュアルなアウターも充実している。
ショーの後にはナポリに因んだ歌やナポリ民謡を生バンドが奏で、スーツ姿のオジサマたちも踊りだす大盛り上がり。ここがミラノであることを忘れてしまうような一夜となった。
セッチュウ(Setchu)
「セッチュウ」2024秋冬コレクション Courtesy of Setchu
世界中からますます熱い注目を集めている「セッチュウ」。会場となった小さなバールでは、モデル達が来場客の中に紛れて飲食したり談笑したり。主催者側も招待客側も小さな空間に混じり合っている様子はテーマである“THE LIMINAL SPACE WHERE IS BORDERLESS(境界のない限界空間)”に繋がっているかのようだ。
インスピレーションは紙を手でくしゃくしゃにすることで生まれる、平らで何も触れられていない領域、しわのある領域、そしてすべてが可能である不確実な境界空間といった3 つの領域。それはタイムレスなデザイン、仕立ての手作りの要素、遊び心のある機能性という、ブランドの核となるコンセプトにも重なる。
同じ色でも素材によって異なった色合いになることの面白みを活かしたトーンスタイルのコーディネートや、肩掛けして縛ったジャケットやシャツのレイヤードによる崩しを入れている。ソフトなタータンチェックのモヘア、 極太の糸で深い畝を表現したウールツイルギャバジン、張りのあるデニムなどに加え、超軽量の紙とサトウキビのリサイクル繊維や、洗濯機で洗えるジャカードカシミア生地、沖縄で作られたペーパーオックスフォードなど、こだわりの素材が使われている。
今シーズンはアクセサリーにも力を入れ、ラムスキンのバッグも登場。折り目や切り込みを入れることで平らに収納して中身にフィットさせることができ、クロスボディとして手首に付けたり、ベルトのようにウエストに付けたりできる。
かつて「将来的な夢は「セッチュウ」で食やインテリアなどライフスタイル全体をデザインすること」と語っていた桑田悟史。プレゼンテーション会場のバールのフィンガーフード(私がいただいたのはおでん)は彼によるプロデュースだそうで、着々と将来的なビジョンを広げている様子。新ショールームもオープンし、ますますの活躍が期待される。
取材・文:田中美貴
田中 美貴 大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。 |