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2023.09.17
【2024春夏NY ハイライト1】ランウェイが大々的に復活もビフォアコロナとは様変わり
写真左から「3.1 フィリップ リム」「トリー バーチ」「マイケル・コース」「ヘルムート ラング」
ニューヨークでは、2023年9月7日から13日まで、ニューヨーク・ファッションウィーク(以下NYFW)が開催された。公式には71のデザイナーが参加した。
今季は4年ぶりにランウェイを打った「ラルフローレン(RALPH LAUREN)」、「3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)」など、コロナ禍でランウェイがなくなっていたブランドも戻ってきて、いよいよ本格的なコレクションサーキットの始まりとなった。ことに今季は新興のブランドが数多く参加して、どのショーに行っても会場が満杯であり、空いている席がなく、ビジネスが戻ってきている実感がある。
ただしNYFWがかつての隆盛を取りもどしたかというと、そうともいえない。まずNYFWの会場でショーを行っているのが、新人デザイナーばかりで、あとは全部市内各地のヴェニューで好き好きに行っているという状態だ。かつてNYFWのテント会場があり、そこでまる一日ショーが行われていた状態とは、まったく違って、NYFWの求心力がなくなっている。
さらに「トム フォード(TOM FORD)」がブランドを売却して2023春コレクション以来なくなったこと、「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」がNYFW期間中にはショーをしないこと、さらに「トム ブラウン(THOM BROWNE)」
もNYでランウェイを打たないといった流れで、NYだけの目玉となるショーが減っている。スターがいるNYFW、力のあるNYFWというよりも、多くの新興ブランドが出てきて、時代が変化しているのがわかるシーズンだった。
そして今季コレクションでは、全体的にいうと、デザイナーたちが見ているのが、明るい希望的な未来であるのを感じた。透けた素材やヌーディな着こなしは引き続きランウェイを席巻し、淡い光をおびたマテリアルやシャーベットトーンなどの柔らかで明るいトーンが目立ち、ソフトな楽観主義を感じとれる。
そんなNYFWから、ハイライト第一弾として、グローバルブランドを取りあげよう。
ケイト・スペード ニューヨーク(kate spade new york)
「ケイト・スペード ニューヨーク」2024春夏コレクション©︎BFA
「ケイト・スペード ニューヨーク」は、9月8日朝に、空中遊歩道であるハイランでのプレゼンテーションを行った。ハイラインには、大きなバラのオブジェが置かれ、設置された「ケイト・スペード ニューヨーク」カラーの椅子やテーブルもポップで、気分を持ちあげてくれる。
緑の人工芝に立ったモデルたちがまとうのは、グリーン、ライムイエロー、パウダーブルーなどの明るい色彩と、クリーンなラインのアメリカンカジュアル。同ブランドが得意とするボーダー柄やオプティカル柄といった明快でスポーティブな柄、またAラインのお嬢さまテイストのミニドレス、スパンコールのミニドレスといった、ハッピーなテイストのアイテムの他、スパンコールを施したスロウチーなトラックスーツのセットが目を引いた。
また今季は、1999年にケイトとアンディ・スペードが発表したアーカイブの名作であるアイコニックな「ノエル」プリントをよみがえらせた。
今季のテーマをニューヨークの春に求めて、“冬のワードローブを脱ぎ捨てた瞬間を祝福するもの”とトム・モーラ=シニア・バイス・プレジデント兼RTW&ライフスタイル部門デザイン責任者と、ジェニファー・リュウ=シニア・バイス・プレジデント兼レザーグッズ&アクセサリー部門デザイン責任者は語る。まさに明るさとハッピーさが溢れる同コレクションとなった。
ヘルムート ラング(HELMUT LANG)
ピーター・ドウが「ヘルムート ラング」のクリエイティブディレクターとして就任して、初のコレクション・ランウェイが9月8日に披露された。会場であるロウワーイーストサイドのスタジオは、驚くほどの熱気で、観客やパパラッチが集まった。今季もっとも注目を集めたショーだといえるだろう。
ヘルムート・ラングといえば、90年代のミニマリズムを牽引したレジェンドだ。2005年にデザイナーを退いてからは、アーティストとして活動しており、ファッションの世界からは遠のいている。そのヘルムート・ラングの名前を受けつぐのは、ピーターにとっても大いなるプレッシャーだろう。
会場のフロアには、ベトナム出身の詩人、オーシャン・ヴオンの詩が英語とベトナム語で、ペイントされていた。観客に配られたコレクションノートにも、オーシャンのエッセイが綴られ、ランウェイが始まる前にナレーションされた。ヴオンは、ベトナム戦争後の幼少時に両親とアメリカに移住し、詩人として活躍。ピーターとは若い時からの友人だ。
今季のコレクションで、ピーター・ドウは“車”をテーマにしたが、オーシャン・ヴオンは「車は、動くという奇跡をそなえた部屋だ、体を離れなくても、ある世界から違う世界へと逃げられるポータルだ」と綴り、「私たちは死ぬために生まれるのではない、行くために生まれるのだ」と締めくくられている。
この“車”のモチーフはコレクション全体に通底音として流れていた。ファーストルックはミニマルなパンツスーツに、ホットピンクのシートベルトを帯びており、ちょうど軍服のサッシュのように見える。このスタイルは何度も復誦されて、パンツにはサイドラインを入れて強調している。フラットなフロントでナチュラルウェイストのパンツ、アンドロジナスなスーツ、カラーブロックを施したシャツやパンツ、ジャケットやコートなど、ミニマルなスタイルを提示し、ロウデニムにも重点が置かれていた。
ヴオンの詩の一節をプリントしたTシャツやシャツ類も登場して、「最後にあなたがあなただったのはいつだ?」といった実に詩的な言葉が刺さる。ヘルムート・ラングの描いたミニマリズムが、そのまま蘇ったようなコレクションとなった。
マイケル・コース(MICHAEL KORS)
「マイケル・コース」は、2024春夏ランウェイショーは、ブルックリンにあるドミノ・パークで開催した。コレクションのテーマは“現実から逃避行するホリデーバケーション”。
白いレース素材のドレスやショーツ、マイクロミニやブラトップ、マキシのロングドレス、カフタンなど、リゾートの気分溢れるコレクションを展開した。色彩パレットは定番の白と黒に加えて、メロン、フリージア、ゼラニウムのシャーベットカラーを添え、花柄やグラフィック・ジラフプリントを配した。
アナ スイ(ANNA SUI)
「アナ スイ」はソーホーにあるクロスビーホテルの映画上映ホールで、2024春夏のコレクション発表を行った。
今回のテーマは“海”。アナはオーストラリアのゴールドコーストでコーラルを観た時に、その美しさに打たれ、それと同時に珊瑚礁が絶滅の危機にさらされていると聞いて、衝撃を受けたという。そしてアナにとって子どもの時から魅了されてきたファンタジックな海の世界を今季のコレクションに投影させた。
映画館のスクリーンには、1900年代初頭に、ジョルジュ・メリエス監督が作った「妖精たちの王国」や「海底二万里」などのレトロで幻想的な海のシーンが映し出され、ステージをモデルたちがウォークするという趣向だ。
コレクション全体に、海を思わせるような色彩やプリントが登場する。マザーオブパールを彷彿とさせるイリディセントな光を放つ生地、透け感あるオーガンザ、スパンコールを縫いつけた鱗のような輝き、ひらひらと動くヒレのような軽やかな生地といったふうに、「アナ スイ」によるマーメイドたちともいえる世界観が提示された。
色彩もシーフォームグリーンやブルーや、あるいは夕暮れのビーチのような淡いピンクと美しい。ヤシの柄のジャガード、カフタンドレス、クロシェ編み、ビーチカバーなど、海辺のリゾート感も盛りあげる。
そしてエリクソン・ビーモンによるアクセサリーや、「アナ スイ」アイウェアのキャットアイサングラスなど、アクセサリー類も煌めきを放って、ファンタジックの海の世界を演出した。
アディアム(ADEAM)
「アディアム」は9月10日、チェルシーのギャラリー街で、2024春夏コレクションを発表した。クリエイティブディレクターの前田華子は、日本人として初めてニューヨーク・シティ・バレエ団のコスチュームを担当した経験を持ち、バレエの優雅なスポーツ性に着目したという。今季のコレクションは、バレエのコスチュームそのままではなく、クラシックバレエのロマンチックさとモダンバレエの躍動感から抽象化したという。
オープニングから、白いレース素材のジャケット、チュチュのような透け感あるオーバーレイ、チュールのフリルをあしらったジャケットといった、ロマンチックなスタイルが登場。
異なるテクスチャーやファブリックをミックスして、ニットと織物、オーガンジーとエンジェルヘアー・コットン、チュールとストレッチ・スーツを組みあわせてみせる。色彩パレットも、メロングリーンやピーチピンクといったシャーベットトーンが快い。
ランウェイの後には、ニューヨーク・シティ・バレエ団のプリンシパルダンサー、タイラー・ペックが、みずから振付したバレエをフィリップ・グラスの曲に乗せて披露して、観客の喝采をさらった。
コーチ(COACH)
「コーチ」は、ニューヨーク市立図書館で、2024春夏コレクションを発表した。スチュアート・ヴィヴァースがクリエイティブディレクターになってから、はや10年。それを振り返りながら、ニューヨークの街そのものをインスピレーション源としたという。
今季はレザーウェア、フリンジ付きのスエードジャケットやブレザー、リジュネラティブコットンやデニムのアイテムが登場し、手作業でのディストレス加工を施すことにより、風合いや色にバリエーションをもたせてみせた。
また廃棄物の削減に重点を置きながら、サーキュラー・クラフトを探るプログラムである 「コーチ リラブド(COACH (Re)Loved ) 」を導入し、デッドストックやプリラブドピースを再利用したレザーウェアやデニム、これまでの製造工程で余ったレースやファブリックで仕立てたスリップドレスなども発表された。
3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)
コロナ禍で、店舗でのコレクション展示会のみになっていた「3.1 フィリップ リム」が、4年ぶりにランウェイに戻ってきた。
「ランウェイへの復帰を記念したこのコレクションの物語は 希望に満ちた心でこの地にたどり着いた無数の人々の物語を映し出しています」と、フィリップ・リムは語っており、彼の中国系移民であるヘリテージを反映して、会場はチャイナタウン。レディースの51ルックスを披露した。
今季はヌーディな透け素材のスタイルに、ビジューの煌めきを加えたエアリーなスタイルからスタート。続くルックもラベンダー色が柔らかく、春らしい。そうしたフェミニンなスタイルに、ブルゾンやコートなど、機能的で多用途的なアイテムをコーディネート。ブラトップにミッドリフを見せながらスカートやパンツを組会わせた着こなし、またスカーフヘムのドレス、デニムのセットアップなど、フィリップらしいアメリカンスポーツウェアに、ツイストを加えたリアルなスタイルが多く打ちだされた。
今季は、今までになかった華やかなロングドレス類も登場して、目を奪った。ニューヨークのワーキングシーンからナイトアウトまで、都会生活に必要なすべてが揃っているコレクションだった。
トリー バーチ(Tory Burch)
「トリー バーチ」は、アメリカ自然史博物館に新設されたギルダー・センターのアトリウムで、2024春夏コレクションを発表した。アトリウムは、オーガニックな建築デザインがすばらしく、観客の感嘆を誘った。
今季、トリーは「エフォートレス」(な装いを追求したといい、コレクションでは「モジュラーテイラーリング」(組みたて可能な仕立て方法)と、羽のように軽い素材、そしてかさばることなく構造とボリュームを構築するダイナミックな重ね着によって表現してみせた。
シグネチャーのスタイルを進化させて、マイクロミニのドレス、彫刻的なデザインのブレザー、そして胸もとを深く開けたチュニックなどが登場。ビスコースニットドレスの裾にワイヤーを入れてクリノリンのように立体的にアクセントをつけたデザインも目を引いた。
今季はプリントが使われず、素材で立体感を出したり、ラインストーンで光を放ったりといった手法を取り、色彩もニュートラルなパレットが主流だ。きわめてミニマルで、クリーンであり、クラッシーな世界を披露した。
コス(COS)
ロンドン発のブランド、「コス」はバイナウ・シーナウである2023秋冬コレクションを9月12日に発表した。ランウェイショーは、夕暮れのハドソン川を背景に、マンハッタン・クラシック・カー・クラブ内で行われ、会場に置かれたメタルの壁が光るなか、レディース、メンズ、計43 体のルックが披露された。
クラシックで定番のスタイルが前面に打ち出されていて、シルエットはリーンで、ロングなスタイルが多い。頭をすっぽりと覆うフーデッドのニットや、タッセルの飾りをつけたコート、フリンジのケープやドレスがアクセントになっている。
カラーパレットはアーストーンで、マットな質感とメタリックな輝きが特徴となっており、グレーのスーツに、グレーのシャツとネクタイといったモノクロームの装いを提案。
素材への配慮は随所に見られ、コレクションの92%以上が持続可能な素材から製作されており、その中にはリサイクル素材から製作された高品質のニットやGCS カシミアから製作されたものも含まれている。また、かぎ針編みのルックには、レスポンシブル・モヘア・スタンダードの素材が使用され、ウールのアウターに施された繊細なレザーのタッセルなどの細部には端切れの素材が使用されている。
「コス」らしく、デイリーウェアとしての機能を備えながら、静謐でクラシックなスタイルを見ることができた。
リモワ(RIMOWA)
「リモワ」は、NYFWに先だって、ブランドの125周年を祝う巡回展覧会「SEIT 1898」のオープニングをチェルシーの画廊街で開催した。サドル業者として出発した「リモワ」の歴史を19世紀からたどり、アーカイブから100個のトランクが展示されている。
「シュープリーム(Supreme)」などのブランドとのコラボのスーツケースや、ビリー・アイリッシュ、ベラ・ハディド、村上隆、スパイク・リーなどセレブのスーツケース、また「エミリー・イン・パリス」に出てきた架空のデザイナー、ピエール・カドゥスーツケースも展示されている。
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Photo by Eri Kurobe
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Photo by Eri Kurobe
東京ではすでに開催された展覧会で、ステッカーを貼ることができるコーナーには、TOKYOのステッカーがたくさん貼られていた。
オープニングパーティには、アンバサダーであるブラックピンクのロゼが登場して、華やかに場を盛りあげた。
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ブラックピンクのロゼ
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渡辺直美
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セントラル・シー
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ロウン
取材・文:黒部エリ
画像:各ブランド提供