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2023.09.13
ファッション×サブスクリプション「ファッションサブスクはサステイナブル社会の立役者となるか」
近年急速に広まりをみせたサブスクリプションサービス(サブスク)。動画や音楽、あるいは飲食など業界や形態を問わず様々なサブスクが提供されており、SDGs、サステイナビリティーの面でも注目を集める現在成長中のビジネスモデルだ。今号のファッション力では服のレンタル、シェアリングなどを行う「ファッションレンタルサブスク」に注目し、コロナ禍を経ても勢いの衰えない2社に、それぞれの取り組みや今後の展望について聞いた。
Interview : Masahiro Kubo
Text:Ewori Wada
Interview Photo : Sakura Tsuchiya
杉野学園ドレスメーカー学院・杉野服飾大学の学生 約200人に聞きました!
服を「借りる」ファッションレンタルサブスクについて、ファッションを学ぶ学生はどう感じるのだろうか?今号のファッション力ではドレスメーカー学院と杉野服飾大学の学生にインタビューを実施。ファッションレンタルサブスクに対する意識調査を行った。学生が見るファッションレンタルサブスクのイメージとは。
Q1.ファッション系のサブスク(服や靴などのレンタル、シェアリング)を利用したことがありますか。
利用したことがない 98.6%
利用したことがある 1.4%
Q2.利用しない理由はなんですか?
借りた後、送り返す手間がめんどくさい:杉野服飾大学2年
壊したり、汚したりしたら嫌だから:ドレスメーカー学院1年
服や靴は自分が気に入ったものを購入して長く使いたいから:ドレスメーカー学院1年
人が使ったものを使うのに抵抗がある:杉野服飾大学2年
Q3.どんなサブスクがあれば利用してみたいですか?
アクセサリーのサブスク:杉野服飾大学2年
インディーズなブランド中心のレンタルサービスがほしい:ドレスメーカー学院2年
ロリータ服のサブスク:ドレスメーカー学院2年
お手入れの難しい服をまとめて送ると洗ってくれるサービス:杉野服飾大学3年
<インタビュー>
airCloset
#1エアークローゼット
代表取締役社長 兼 CEO
天沼聰さん
忙しい女性の日々の生活の中に、ファッションとの出会いを通して「時間の価値」を提供したい
国内ファッションレンタルサブスクの先駆け的存在であるエアークローゼットは、2015年に定額制ファッションレンタルサービス『airCloset(エアークローゼット)』のサービス提供を開始以降、現在100万人の会員登録者数を突破している。
「創業するにあたってどんなサービスを提供するか考えた時の最初の思いが『長く人のライフスタイルが豊かになるようなことをしたい』でした。そこで目をつけたのがすべての人が平等に持っていても使い方、感じ方によって不平等になる『時間の価値』です。そこから時間の価値を最も感じやすいターゲットを考えた時に辿り着いたのがライフステージによる環境の変化が多い女性でした。仕事や育児でなかなか自分自身のために時間を使えない女性に対して『働く女性、ママさんなどの忙しい女性が、日々の生活リズムを変えなくても新しいファッションに出会えるサービスを作ろう』がサービス構想のスタートでした」と代表取締役社長の天沼聰さんは話す。「忙しくても新しいファッションと出会えるワクワクを楽しんでもらいたい」という思いから構想されたエアークローゼットのサービスは、プロのスタイリストによる個人に合わせたパーソナルスタイリングや「返却期限を無くす」「返却前のクリーニング不要」といったレンタル時の煩わしさを無くす仕組みにした。プランによって3着または5着借りることができ、届いた服が気に入ればそのまま購入も可能だ。サブスクの他に、無料会員でも利用できる「エコセール」がある。エコセールでは、レンタルで貸し出していた洋服を割引価格で購入することができる。
サステイナビリティーやSDGsの面においても、ファッションレンタルサブスクが担える役割がある。サービス利用者からの洋服に対するフィードバックや、貸し出し記録など多くのデータを参照することで洋服の生産量の最適化を図ることが可能な他、物流の面でも、AIが季節や流行をもとに貸し出しの多くなる服を予測し倉庫内の効率的な配置を算出することで、動線の無駄を改善することができる。
「我々の基盤を元に他社にもファッションレンタルサブスクが広まり、業界全体がより良くなればいいと思う。また我々のデータを活用してブランドとコラボレーションでモノづくりをするのは新しい消費の在り方として注目しているため、今後積極的に拡大していきたい」と天沼さん。ファッションレンタルサブスクから広がる未来は大きい。
【PickUp】MES VACANCES×airCloset
俳優の柴咲コウさんプロデュースのアパレルブランド「MES VACANCES」とエアークローゼットによるコラボ。エアークローゼット利用者のデータをもとにブランドへ新たな方向性を提案、働く女性に支持される限定コラボラインを企画・開発した。
AnotherADdress
#2株式会社大丸松坂屋百貨店
アナザーアドレス事業責任者
田端竜也さん
様々な理由で好きな服を着ることを諦めてしまう人たちに、好きな服に袖を通す楽しみを伝えたい
「AnotherADdress(アナザーアドレス)」は大丸松坂屋百貨店が運営する百貨店発のファッションレンタルサブスクだ。百貨店ならではのブランドラインナップで、ビジネスからスポーツまで様々なシーンに合わせた服のレンタルが行える。
「1991年のバブル崩壊から日本の景気が低迷する中、百貨店のファッション発信力は弱まってきています。デザイナーファッションを楽しむ層は限られ、等身大の生活を送る人にはなかなか届かない状況です。また、大量生産、大量廃棄が業界の現実という中、サステイナビリティーの面も踏まえて洋服の生産後の流通プロセスを工夫し、服が着られる機会を増やし、服の寿命を延ばしたいという思いがアナザーアドレスのサービスには宿っています」と熱く語るのは、事業責任者の田端竜也さん。
レンタルの際は目的や好みに合わせて自由に服を選ぶ。プランによって一着ないし三着、五着を一ヶ月間レンタルすることができ、サイズやデザインが合わない場合は一回の注文につき 一着まで返却できる。また気に入った洋服はレンタル回数に応じて、割引価格で購入可能だ。特徴的なのは、気軽に休会が可能なこと。「今月は外出予定が少ないから休会する」と自分の予定に合わせて利用するタイミングを決めることができる。
「お金が無いからファッションを楽しめない、だから合理的に判断して着まわしの利く無難な服を選び、自分の着たい服を諦める流れが既に顕在化している。今はその流れを合理的に逆転換しなければデザイナーファッションマーケットが保たない」と危惧する。
ファッションビジネスにおいて売れ筋が良いのはブランドロゴが入ったアイテムで、デザイン性の高い服は素敵でも売れにくい傾向にある。アナザーアドレスはそんなアイテムを取り揃えレンタルという形で提供することで、消費者が普段手に取らない服を気軽に楽しめる構造を作り出している。なおかつ衣類の廃棄を減らすサステイナブルな事業でもある。
「ファッションを積極的に楽しむ購入層とそうでない潜在層には大きな違いがある。百貨店で服を買う人とアナザーアドレスを利用する人は8%ほどしか被っていない。百貨店で服は買わないが、デパコスやデパ地下は利用する人たちとアナザーアドレスは相性が良いと思っていて、将来的にそこと連携することでグループのシナジーを発揮していきたい」と田端さん。今後はサービスの利便性向上の他、服飾学生と連携したブランド服のリメイクなどのアップサイクルな取り組み強化も構想している。
【PickUp】世界一選びにくいサイト?
金額やメンズ・レディスなどの表記を無くした商品選択画面は、モデルの着画ではなく服をメインにした商品画像も特徴的で、普通のECサイトとは一味違う。服に付随する様々な情報を気にせず、洋服を選ぶ楽しさを重視したUI作りがされている。
■「ファッション力 (Fashion Ryoku)」
杉野学園出版部が発行しているフリーマガジン。2008 年 6 月より、毎回パリ プレタポルテ、オートクチュール終了時を目安に年 4 回発行。
デザイナーインタビュー、コレクション報告、スナップ、座談会などを掲載している。