PICK UP

2023.09.05

【2024春夏東京 ハイライト1】ボディコンシャスやテーラードが継続 リラックスしたムードや機能性で新しさ

写真:左から「セヴシグ 」「フェティコ」「ハルノブムラタ」「セヴシグ / アンディサイデッド」

 

 「楽天ファッションウィーク東京2024春夏(Rakuten Fashion Week TOKYO 2024 S/S)」が2023年8月28日から9月2日までの6日間、渋谷ヒカリエと表参道ヒルズを主会場に開催された。50ブランドが参加。そのうち、35ブランドが有観客でショーやプレゼンテーションでコレクションを発表した今回。ここ数シーズン続く、女性の体の美しさを起点にしたドレスやボディコンシャス、それとは対照的なテーラードをベースにしたデザイン、更にマニッシュとフェミニンの組み合わせ、ウィメンズとメンズを分けず、男性モデルにウィメンズのドレスを着せるスタイリングを継続・発展させたコレクションが目を引いた。そこにリラックスしたムードや機能性をプラスしたり、軽さや涼しさを強調したりすることで新しさを出している。

ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)

「ハルノブムラタ」2024春夏コレクション Courtesy of HARUNOBUMURATA

 

 ブランド初の春夏のランウェイショーとなった今回。”AN INTIMATE PORTRAIT OF THE LIFE(親密な日常のポートレート)”をテーマに、生きる喜びに満ちた親密な日常を表現した。

 

 夏の夕方、セミの声と涼やかな風、水が揺れる。会場となったのは東京国立博物館法隆寺宝物館。1階エントランス前にある池の周りを進むモデルたち。ショーの冒頭に登場したのは風に揺れる水のようにドレープが流れるジャージー素材の白いショートドレス。「オーエーオー(OAO)」とのコラボレーションスニーカーが組み合わされ、軽やかなエレガンスを更に強調。

 

 続く、白のシャツドレス、ワンピース、クチュールのように腰部分を膨らませたアイテムも軽く、エレガントでありながらリアル。ゴールドのネックレスがアクセントになっている。鮮やかなブルーのシルクコットンやシアーなチェックのニットなども、クラシックなクチュールドレスのようにエレガントな造形美と軽さやリアリティが共存。スキンカラーのコートは肌のように柔らかく軽い。白からイエロー、オレンジなど、美しいグラデーションに染められたドレスや鮮やかなブルーのドレープドレスは光や水、自然を着ているよう。ドレープとテーラードが共存するようなデザインも印象的だ。

 

 写真家 SLIM AARONSが捉えた人々の姿が、今期の女性像を表現する上で大きなヒントとなったためだろうか。前回は1950年代のオートクチュールのエレガンスや構築性が印象的だったが、今回は真夏の夜の夢というよりも、リアルさや軽さを強調した現代のワードローブ。クラシックやエレガンスと現代の女性が求める機能性や日本的なミニマリズムのバランスが目を引いた。

フェティコ(FETICO)

「フェティコ」2024春夏コレクション Courtesy of FETICO

 

 ホテルの客室のドアノブに掛けるドアプレートに書いてある言葉”Do Not Disturb”をテーマにした「フェティコ」。「自由に生きようとする女性を邪魔しないで」という意味を込めたコレクションを発表した。デビューから3回目、香港のシンガーソングライターで俳優のフェイ・ウォンをミューズに据え、アイデアを広げていったという今シーズン。フランスの現代美術家ソフィ・カルの作品集 「THE HOTEL」も、インスピレーション源に1つになったという。

 

 ウエストや背中を見せる黒いドレスなど、女性の体の美しさと強さが共存する服を着たたくさんの女性が集まった寺田倉庫。黒のレースで作られた下着に同素材のレースをプラスし、グラフィカルに仕上げたランジェリー風ドレスや白い下着の上に透ける白のワンピース、レーシーなニットドレスやブラトップとグラフィカルなデニム。体の美しさを見せる、エレガントでありながら、肌見せが楽しめるということは変わらないが、インテリアから着想したモチーフ、壁紙をイメージした柄を使ったパジャマ風のシャツとパンツ、ベッドリネンや家具の絵柄を模した刺しゅうをアクセントにしたドレスなど、バリエーションが広がり、前回までのように力や女性の強さを強調するだけでなく、リラックスしたムードやナチュラルなムードもプラスされているように見えた。

 

 ボディコンシャスの流れは続けながら、夜だけでなく昼の服にも合うリアリティや柔らかさ、優しさなどが加わったコレクション。「3月、久しぶりにパリに行ったとき、旅先での開放感から、ふだんの生活でいかに自分が自分を抑え込んでいるのかを実感して、服やファッションだけでも開放感を感じられるものを選んでほしいという願いを込めた。また、自分自身もものづくりにおいて肩の力を抜いてやっていこうかなと思っていたところもあって、自分のインスピレーションをすなおに、そのまま形にしていこうと思い、構えずに作ったということもある」と舟山瑛美。

 

 なお、同ブランドは香港最大のファッションイベントである「CENTRESTAGE」 の招へいにより、9月6日に香港でもショーを開催。東京で披露した内容とは異なる演出とスタイリングで、特別なショーを予定しているという。

カナコ サカイ(KANAKO SAKAI)

「カナコ サカイ」2024春夏コレクション Coutesy of KANAKO SAKAI

 

 JFW NEXT BRAND AWARD 2024グランプリを受賞した「カナコ サカイ」。初のランウェイショーとなる今回は、“自由をまとう”をテーマに、ブランドの精神性、そして世界に対する姿勢を、ショー全体を通して表現することにチャレンジした。

 

 ショースタート前、会場には忌野清志郎が歌う、RCサクセションの「よォーこそ」が流れ続ける。曲が止まり、登場したのは美しいドレープやスリットをプラスした、オーバーサイズの白いテーラードジャケットとパンツ。テーラードジャケットと水着のようなインナーにゴールドのブーツやレースのトップスとスリットからレースと美しい脚がのぞくパンツ。マスキュリンとフェミニンの組み合わせ。

 

 全体の半数近いという男性モデルたちが着るドレスや透ける素材のトップス、美しい色や鮮やかな色のジャケットやコートなどもユニセックスやメンズではなく、「カナコ サカイ」の服をそのまま着ているという。光沢のある素材もダメージデニムやシャツなども自在に組み合わせることも自由を強調。ウィメンズやメンズといった枠組みに捕らわれず“自由をまとう”というテーマを加速しているよう。

 

 また、ラストに登場したチェックのコートは、日本の伝統技術である螺鈿織りで作られたもの。京都・丹後の織元「民谷螺鈿」による螺鈿織りは、貝殻を薄いシート状にして、それを蕎麦のように切り、横糸に使い、帯状に織ることで海のきらめきを表現している。「性差を超えた」服がアバンギャルドとして提案されたのが約30年前。ファッションは更に自由になっていることを再認識させたコレクション。

 

 サカイカナコは「ショーをやる意味を考えたとき、ルックブックでは伝えられない精神性やアティチュードを知ってもらいたいと思った。今回、男性モデルが半分になったが、女性像というより人間像、精神性のカッコイイ人に着てもらえる戦闘服であり、パジャマのような服を作りたい」などと話した。

クイーン アンド ジャック(Queen&Jack)

「クイーン アンド ジャック」2024春夏コレクション  ©JFWO

 

 今年3月のデビューショーに続く2回目のショーを開催した「クイーン アンド ジャック」。デザインチームによるコレクションとなった今回。“モードな雰囲気をまとうポジティブでエレガントなスクールガール”をテーマに、コレクションを発表した。

 

 先シーズンも登場したブレザーをベースに、大胆にカットアウトしたジャケットは複雑なパターンメイキングで胸上にギャザータックを入れた立体的なシルエットで再構築し、チェックやビンストライプの素材には、セーラーカラーやプリーツのディテール、断ち切りのフリルなど、ボーイッシュな中に少し甘さのあるデザインをプラスする。

 

 ニットはセーラーカラー・チェック柄といったスクールのキーワードをアップデートさせ総編み立てで表現したものや、リングや紐の隙間から制服を覗かせるイメージのアートニットとのレイヤードなどが登場。スクールスタイルのプリーツスカートのバリエーションは、国内のプリーツ工場で1着ずつ窯に入れて作ったものだという。

 

 制服やメンズの基本アイテムにフェミニンな袖やディテールで変化を付けたデザインなど、アジアの富裕層に人気のある日本の制服をアレンジし、スクールユニフォームのムードやディテールをアップデートする同ブランド。ゼロからスタートするのではなく、メンズコレクションやテーラードのように一度完成したスタイルを壊し、変化させているようにも見えるデザイン。変化とリアルのバランスが取れている。

セヴシグ / アンディサイデッド(SEVESKIG / (un)decided)

「セヴシグ / アンディサイデッド」2024春夏コレクションCourtesy of  SEVESKIG

 

 東京・台東区の東京キネマ倶楽部でコレクションを発表した「セヴシグ / アンディサイデッド」。“もし、人と人、国と国の間に壁が無ければ”をテーマに、「戦争がいろいろな国で起きている中、いろいろな国に友達がいるので、国と国同士のいろいろな争いがなくなればいい」という意味を込めたコレクションを発表した。

 

 ギャザーやシャーリング、花の刺しゅうやクロスステッチなど、スラヴの伝統的な民族衣装に見られるディテールとデザイナー自身のオリジンであるアメカジを結び付けたデザイン。スラヴの花をモチーフに、キラッと光る素材を使うデザインはその先に光があればという気持ちを表現している。争いによって傷ついた人々の心象風景は、レーザーカットでボロボロに穴の開けられたデニム、表面の顔料が薬品で剥がされたレザーやクラックレザーのライダースジャケットと、グランジ調のアイテムに昇華されている。

 

 そして、「ニポアロハ(nipoaloha)」とのコラボレーションによるトラ柄のアロハシャツ、 「トルク(TOLQ)」とのコラボレーションによるヒョウ柄を転写したコーチジャケットやスカジャン、赤・青・白からなる汎スラヴ色のボーダー柄がほつれてフリンジ状になったニット。メッセージとヴィンテージ風の古着のようなリアリティがバランスをとる。

 

 また、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」とのラボレーションによるプリントTシャツなども制作。コレクションには「A.T.フィールド (Absolute Terror Field)」をイメージして開発した、ナイロンの変形糸を編み上げたバリアのような素材を使った赤いセットアップ登場した。

ヒロココシノ(HIROKO KOSHINO)

「ヒロココシノ」2024春夏コレクション Coutesy of HIROKO KOSHINO

 

 今回もオンラインで2024春夏コレクションを発表した「ヒロココシノ」。“Timeless Collage”をテーマにした今シーズン。楽しげに踊るシュールな造形、アーティスティックな曲線、日本的な直線をしなやかにした線、光、色などを自由自在にコラージュしたアーティスティックなコレクションを見せた。プリーツやコシノヒロコのアート作品や絵画のようなグラフィック、動物のモチーフ。クチュールコレクションが女性を美しく見せるバランスやリアリティを追求しているのに対して、オンラインの不思議な空間に浮かぶように動くデザインはクリエーションや軽さをショー以上に強調しているようにも見えた。

ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)

「ドレスドアンドレスド」2024春夏コレクション Courtesy of DRESSEDUNDRESSED

 

 「ドレスドアンドレスド」も今シーズンもオンライン配信でコレクションを発表。“セルフポートレイト”をテーマに、鏡に映し出した自分自身をなぞるかのように左右反転したポージングで歩き、消えていくことを繰り返したビデオプレゼンテーション作品でコレクションを見せた。

 

 ハンマーサテンのルーズシルエットトラウザースにヌードと肖像のポージング、ステファヌ・マラルメの詩篇を刺しゅうしたシアードレス、胸元に乳首をかたどったブローチのあるテーラリング。シングルとダブルのジャケット。本人と鏡像との間、ズレ、多重反射のなかに浮かび上がってくる二重自画像の効果をもたらす。身体性とセクシャリティー、実在的な問題の緊密な相互関係。黒からスタートしたコレクションは同じポーズ、同じデザインを白で作るという見せ方でフィナーレを迎えた。

 

 前シーズン、男性モデルを使い発表したコレクションを女性モデルを使って見せたようにも見えるプレゼンンテーション作品。男と女を超えたデザイン。もともとコレクションでも見せていた北澤武志の実験的な取り組みがオンラインにすることで更に強調されているようにも思える。

 

 

取材・文:樋口真一

メールマガジン登録