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2023.09.07
【2024春夏東京 ハイライト3】東京メンズ 静かなムードで包む東京の独自性 リメイク・ユーティリティはさらに進化
写真左から「シンヤコヅカ」「セブン バイ セブン」「カミヤ」「シュープ」
「楽天ファッションウィーク東京(以下RFWT)」がメンズデザイナーのセールススケジュールに合わせて8月に前倒して2年目。今シーズンはメンズデザイナーの参加が多かったのが特徴だ。と言っても海外へのセールスを志向するデザイナーたちは7月や8月上旬に単独でショーを行なっており、今後に課題を残すところでもあった。コレクションに目を移すと、グローバルやラグジュアリーに広がったワントーン、無地、シンプリシティなど静かなムードとシンクロするものが見られた。そのムードに独自の捻りを加えるのが主流。それらはリアリティとも結びつきセールスにも好影響を及ぼしそうだ。また、東京らしいヴィンテージやリメイク、ユーティリティ訴求も健在。実力派の初参加やカムバックもファッションウィークを盛り上げた。
今のムードとシンクロするシンプリシティ、フリュイド、ドロップ
シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA)
「シンヤコヅカ」2024春夏コレクション Courtesy of SHINYA KOZUKA
デザイナー小塚信哉が手掛ける「シンヤコヅカ」は、国立競技場敷地内の屋外でランウェイショーを行った。“picturesque scenery(絵に描いたような情景)”をコンセプトとして掲げている同ブランドは、小塚が自ら描いた絵をインスピレーションにコレクションを紡いでいくという独自の手法を取っている。
今シーズンのテーマは“WONDERFUL WANDER”。歩くのが大好きだという小塚が散歩中に見た情景、そしてそこから感じた感情を絵に描き、アイテムへと投影していく。現実や夢、空想が入り混じった世界が表現された絵がプリントとして載せられたアイテムたち。ナイトキャップやナイトウェアのディテールが、より夢と現実との境界線を曖昧にしていく。
また、小塚が散歩中に思いついたランダムな文章がプリントされたパワーネットは、幻想的な絵の表現との対比で用いられ、今シーズンのアイコニックなアイテムとして強い印象を与えている。
オーバーサイズやゆったりとしたサイズ感が得意だった「シンヤコヅカ」が、今回はあえてレギンスなどの体にフィットするアイテムを取り入れバランスを変えていた。そのようにシルエットにメリハリをつけることで、よりブランドらしさの強調を狙ったのだという。
今回、「このコレクションは、『月が綺麗ですね』という言葉で集約したい」と語ったデザイナーの小塚。奇しくもスーパームーンの2日前で月が綺麗な夜のショートなった。フィナーレでは小塚が描いた絵がプロジェクションマッピングで壁に映し出され、幻想的な雰囲気でショーは幕を閉じた。小塚にとって「ストリート」は「ファンタジー」であり、ストリートウェアに幻想を詰め込むことは同氏にとって必然的なことだったのかもしれない。
シュープ(SHOOP)
デザイナーの大木葉平とミリアン・サンス・フェルナンデスが手掛ける「シュープ」。今年、ブランドの拠点をマドリードから東京に移して最初のコレクションとなる。そんな転機となった今シーズンは、色数が抑えられ、よりシックにエレガンスと技巧を打ち出した。
シックなモノトーンのテーラリングで始まったコレクション。インナーはシアー素材でジェンダーレスな装いに。パンツには歩くたびにひらりと舞うレイヤーが仕掛けられていて軽やかさを出している。そして、オールインワンやトラックスーツ、デニムのセットアップなど、ワークウェアやスポーツ、ユーティリティといったキーワードのアイテムたちも数多く登場したが、素材の艶やかさや肌見せのカッティング、リラックスすぎない端正なシルエットで、ブランドらしい優美さを表現していた。また、途中で編地が粗く変化していくチルデンニットが印象的。カジュアルなアイテムに独特の「違和感」を持たせることで目を引いていた。
ナノアット(NaNo Art)
ディレクター後藤凪とデザイナー田中睦人が手掛けるユニセックスブランド「ナノアット」。先シーズン、ブランドとして初のランウェイショーを開催し「これからもショーを続けていきたい」と語っていたその言葉通り、今シーズンもランウェイでコレクションを発表した。
今シーズンのテーマは“Rest in peace”。安らかに眠れ、ご冥福をお祈りします、といった意味の言葉だ。デザイナーの田中はまず、洋服を人体に見立てて命を吹き込むようなデザインの可能性を探ったのだという。そして心臓の心房や心室のモチーフを襟のデザインに投影したポリエステルのシャツや静脈に見立てたシャーリング、三つ編みの髪の毛のようにゴム紐を編んだドローコードなどのディテールが生み出された。
また、今シーズンの特徴的な素材として、大阪のテキスタイルコンバーターである株式会社V&A Japanが開発した生分解ポリエステル「ReTE」を使用している。5年以上も着られる堅牢性を備えつつ、特定の堆肥に埋めると約1年で水と二酸化炭素に分解されるというそのユニークな特性にデザイナーたちは自らの死生観との共通性を見出したという。
パジャマやガウンといった寝具風のウェアをブランド流の解釈で再構築したアイテムや、先シーズンからアップデートされた鹿革のシューズなど、「これまでは洋服の造形そのものから面白いものを作るという発想でしたが、既存の洋服の形を大切にすることを意識しました」という田中の言葉通り、余剰をそぎ落とし、より洗練されたブランドの姿を見せつけたシーズンとなった。
へオース(HEōS)
「へオース」2024春夏コレクション Courtesy of HEōS
中国にバックボーンを持つ暁川翔真が手がける「へオース」。ヒカリエホールのスペースオーに闇のような空間を設え、RFWT参加2回目となるショーを開催。1970年代後半に話題を呼んだ村上龍の小説「限りなく透明に近いブルー」に想起したコレクションを発表した。
横田基地という治外法権のエリアに集う若者を描いた同作品のように、退廃的で自由なスピリットに満ちている。ベージュ、ブラウンなど荒れた大地を思わせるカラー、ぼかした柄づかい、センシュアルなシアー素材などのコンセプチャルなテキスタイル。それらをチュニックやタンクトップ、ノースリーブトップス、オーバフィットシャツ、スカート、ワイドフレアパンツなどでイージーに見せた。
色合いもしくはトーン、素材を整えているものが多い中、ベロアやパイソン柄、肌見せ、ボロなどでパンチを効かせた。中にはテーマを反映したサープラス由来のジャケットなども取り入れ硬軟ミックスのルックやトレンチコートにブリーフのルックなども登場した。
多彩なアクセサリーづかいも魅力。ベレー帽やストローハット、羽根付きのヘッドアクセサリー、頭に巻いたスカーフ、花細工の首飾りやチャーム、紐の首輪や腕輪など、どれもボヘミアンな感覚に溢れていた。
リメイク・ユーティリティなど東京らしいアプローチ
カミヤ(KAMIYA)
「カミヤ」2024春夏コレクション Couretesy of KAMIYA
2023年7月、海外での展開拡大を見据えてブランド名を「マイン(MYne)」からデザイナー神谷康司の名前を冠した名称に変更した「カミヤ」。初のRFWT参加でブランドとして初のランウェイショーを開催したが、「メゾン ミハラ ヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)」のDNAを受け継いだブランドらしく、強烈なインパクトを残した。
東京都・新宿区の国立競技場の駐車場を会場に行われたランウェイショーは、スピーカーを積んだトラックが壁を破って登場する演出からスタート。コレクションのテーマは“Nothing from Nothing”で、ビリー・プレストンの同タイトルの曲からインスピレーションを受けたのと、「何もないところからは何も生まれない」というデザイナーの思いをテーマに込めた。
「カミヤ」のクリエイションのベースとなるのは、デザイナーがファッションに目覚めた頃、大阪・心斎橋のアメリカ村で楽しんでいたアメカジや古着と、音楽からのインスピレーション。「コレクションを作るときは、ひとつの音楽アルバムを制作するように一つ一つのピースや構成、全体感のバランスを大切にしている」とデザイナーの神谷が語ったように、ブラックのシリーズから始まり途中パステルカラーやヴィヴィッドなカラーを織り交ぜながら、最後はまたブラックのシリーズで締めるという配色のこだわりも見せた。
アイテムはダメージニットやクラッシュデニム、パーカー、バッファローチェックのシャツなどアメカジをベースにしながら、艶やかなサテンをレイヤードさせて色気を加えたり、オーバーサイズとコンパクトサイズでメリハリをつけるなど、ブランド独自の世界観を素材やシルエットで表現していた。クラック加工が印象的なライダースジャケットは「ブラックミーンズ(blackmeans)」と、そしてデニムジャケットは「フルカウント(FULLCOUNT)」、とコラボレーションした。
セブン バイ セブン(SEVEN BY SEVEN)
「セブン バイ セブン」2024春夏コレクション ©︎JFWO
ブランド10周年を迎えた川上淳也の「セブン バイ セブン」。その集大成とも言えるコレクションを発表した。会場は、今シーズン話題のショー数々行われた国立競技場の駐車場。うだるような熱帯夜の中、溢れんばかりのゲストが来場。異様な熱気に包まれてショーが開始した。
ファーストルックは黒メッシュのロングジャケットショーとパンツ。それに次いで現れたのは同じようなシルエットのデニム仕立てのルック、そしてチェックのステンカラールックも登場。まるで素材や柄を載せ替えたかのような演出で、川上デザイナーの引き出しの多さを感じさせる。
その後も、得意とするデニムや素材ドッキング、リメイク、パッチワークなどを中心の様々な柄や素材、ディテール、レイヤードのルックが登場。洋服の楽しさを満喫できる仕上がりとなった。
全体に共通するのは、自由さだ。リラックスしたシルエット、コンフォートな素材、イージーな感覚がどのルックにも見て取れる。来場者にプレゼントしたバンダナに同梱したリリースには「ブランドのルーツであるサンフランシスコ。そこで感じたのは洗練されたファッションではなく。個としてのスタイルでした」と川上デザイナーは記した。ユニークなカジュアルの群衆を見ることができたショーであった。
ミーンズワイル(meanswhile)
「ミーンズワイル」2023秋冬&2024春夏 Coutesy of meanswhile
皇居を見渡すビルのルーフトップで夕暮れ時にショーを行った「ミーンズワイル」。日が沈み、闇が降りてくる瞬間にショーがスタートした。
深いブルーのライトに包まれて登場したのは、淡いピンクとブルーでさりげなくブロッキングしたシャツ。フロントは墨で抽象柄を描いている。その後は風景写真からおこしたの総柄ルックやウォッシュドデニム、メタリックづかいのアイテムなどが、同ブランド得意とするアウトドアルックを挟み現れた。
ショーが進むにつれ、ヘビーなアウターも登場。これは2021春夏シーズンに発表したコレクションと同様、秋冬と春夏の混合コレクション。2021春夏シーズンは、コロナ禍により中止となった2020秋冬シーズンと一緒に見せたという事情があったが、今回はこれを原体験とし2023春夏と2023秋冬を見せることにしたという。
その狙いは、天候や場所、移動によってシームレス化が進むシーズンアイテムを提案することだという。オールウェザーで機能性あふれるアウターやパンツなどは現代社会のソリューションアイテムとも言えよう。
また、使い勝手の良いディテールや小物も魅力だ。アウターに組み込まれたバッグやファン、開閉可能なジップやスリット、モードな着映えに仕上げるビスチェ、アウターの上に着脱できるベストのようなアイテム、共地のバッグなどが印象的。また、米ブーツブランド「ダナー(Danner」とコラボレーションしたシューズも発表した。
コンダクター(el conductorH)
「コンダクター」2024春夏コレクション Cortesy of conductorH
「これまでは変わったことをやろうと思っていたけど、今回は原点に返ってベーシックなショーをやってみたかった」とデザイナー長嶺信太郎が語った「コンダクター」。RFWTのオフィシャル会場である東京都渋谷区の「ヒカリエ」でランウェイショーを行った。
今シーズンのテーマは“suppression(感情・活動・苦痛などを抑えること)”。長嶺がパリに訪れた際に目の当たりにしたデモ活動や、その後の暴動などをきっかけに、誰もが抑圧を感じている世界で、そこからの解放や自由について考え、もがいている人々の姿にフォーカスしたコレクションをつくろうと思ったのだという。
クラシックなグレンチェックウールの上から有刺鉄線を格子状に顔料プリントしたセットアップ、引き裂かれたようなディテールのスウェットやデニムパンツなどの抑圧を表現するアイテムと、トラッドな要素を持つアイテムを混在させることでアンチテーゼとエレガンスを共存させることを狙った。
先シーズンから継続の「ブラックミーンズ」と、のコラボレーションシリーズは、「ブラックミーンズ」のアイコンアイテムでもあるコインケースのエクスクルーシブバージョンと、複雑な編地を形成する、ネパールの職人によるハンドニットのベストを発表。また、「ハルタ(HARUTA)」とのコラボレーションであるオリジナルのメッキパーツをつけたタッセルが特徴的なローファーも登場した。
ヴィルドホワイレン(WILDFRÄULEIN)
「ヴィルドホワイレン」2024春夏コレクション ©︎JFWO
RFWTは初の参加となる「ヴィルドホワイレン」。デザイナーのループ志村は、建築家である父の元に生まれ、幼少期から建築、ダンス、絵画、アンティークなど多方面の芸術に触れる生活を送り、2014年に同ブランドを立ち上げた。今シーズンは「コロナ禍で活力を無くした世界に貢献したい」と、6年ぶりとなるランウェイショーを行った。ブランドコンセプトは“人体構造への理解を深めた上でのパターン製作。それらを魅せる素材使い、着る人全ての魅力を内面から引き出すプロダクト”。
今シーズンのテーマは“The Prayer”。アメリカも拠点にしてきたループ志村にとって、日曜日に家族や仲間と教会に行き祈りを捧げることが生活に溶け込んでおり、その大切さをコレクションで表現したかったという。また、「ミリタリーウェアが日本人にとってももっと身近なものになれば」と、カーゴパンツやフィールドジャケット、ユーティリティベストなどミリタリーを強く打ち出した。ただ、テーラリングを得意とするブランドらしく、立体裁断のパターンや体に沿う美しいシルエットなどで洗練された印象を創り上げていた。
イージェイ シェヤン(EJ SHEYANG)
「イージェイ シェヤン」2024春夏コレクション ©︎JFWO
中国系アメリカ人のデザイナー、イージェイ シェヤン ジンが手掛ける「イージェイ シェヤン」がブランド初のランウェイショーを開催した。2019年に米国パーソンズ大学を卒業し、「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」のアシスタントデザイナーや「コウザブロウ(KOZABURO)」のデザインアシスタントを経て2022年に自身のブランドを始動。日本ブランドで働いた経験から日本人のモノづくりの姿勢に共感し、現在は日本を拠点に活動している。
今シーズンのテーマは“A Night in the Concrete River”。東京の夜を歩いていた時にインスピレーションを受けた、街頭の光に照らされたコンクリートの美しさと柔らかい川の流れとの対比をコレクションで表現したという。
コンクリートの硬さと川の柔らかさという「相反するもの」を素材やアイテムの掛け合わせで表現。ソリッドなフレアデニムには体に沿うシルエットの端正なレースのドレスを、そしてレザーのスカートにはオーガンジーの構築的なシルエットのトップスや落ち感のあるドレッシーなシャツを合わせてテーマを体現した。
また、コレクションを通して立体的で構築的なシルエットと柔らかいドレープや落ち感を用いたシルエットを掛け合わせることでテーマを表現しつつ、その技術力の高さとクリエイティビティを見せつけていた。また、素材はデッドストックのデニムやオーガンジーを用いるなど、ファッション産業をよりサスティナブルな未来に向けて変革したいというブランドの意志を感じさせた。今回初のランウェイショーを終えてデザイナーのイージェイ シェヤン ジンは「夢のような時間だった。またぜひ日本でショーをやりたい」と次回への意気込みを語った。
文:山中健、アパレルウェブ編集部