PICK UP
2023.04.05
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.88】強いエレガンスと深いクチュール感 ミニマルに「足し算」 2023-24年秋冬・東京コレクション
「楽天ファッション・ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」(通称、東京コレクション/以下、東コレ)として開催された2023-24年秋冬・東京コレクションは、「強さ」を帯びたエレガンスや、ひねりを加えたミニマルが打ち出された。テーラリングを軸に据えた、ベーシック寄りのシルエットに、センシュアリティ(官能性)やドレッシーさをまとわせている。先シーズンから脚光を浴びる、ありのままの自分をさらけ出す「ボディポジティブ」はいっそう浸透。ボディコンシャスやきらめきディテールも、装いにフェミニン感とパワーをもたらした。
◆チカ キサダ(Chika Kisada)
バレエ由来の新トレンド「バレエコア」が広がる中、ずっと前からバレエ文化に根差したクリエーションで知られていたデザイナーは再評価の時を迎えつつある。チュール素材で仕立てたドレスはロマンティックで官能的。透ける生地を重層的に配して、肉体美を引き出した。ラッフルやドレープがドラマティックで幻想的な表情を添えている。古風なクリノリンやパニエのボーン(骨組み)を表に出して立体感を高めた。ボリューミーなバレリーナ風ドレスに加え、身体にフィットしたボディスーツ風ウエアも打ち出した。ほのかなパンク感がバレエ由来の表現に深みを加えていた。
◆タナカ(TANAKA)
日本製デニム生地をキーマテリアルに選んで、ジャケットやドレス、セットアップなど、多彩なウエアを仕立てた。デニムの色や質感が幅広く、ドレッシーな装いにもなじんでいる。フラワーモチーフで彩った上下も見せた。ダメージ加工やマルチカラー、むら染めがデニムルックにパワーと深みをもたらす。古着テイストやヴィンテージ感も寄り添わせている。デニム以外ではヴィンテージスカーフが服にリメークされて、コレクションに華やぎを加えた。デザイナーの地元、ニューヨークの雰囲気がベースボールジャケットに薫る。ストリート気分やカルチャーミックスにもNYらしさが宿っていた。
◆ケイスケ ヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)
ロング&リーンの縦長シルエットを軸に、コートやジャケットにスリリングなひねりを加えた。パンツ・セットアップで繰り返したのは、ジャケットの裾が開いたカッティング。大胆なスリットがフォルムの自由度を上げた。飾り立てないミニマルとセンシュアルが融け合っている。強みのテーラリングを生かし、凜々しく優美なフォルムをつやめき生地で際立たせている。メタリックな眼鏡や、ゆがんだスプーン&フォークのブローチが変化を添える。レザージャケットはプロテクション感が高い。高い襟は禁欲的でありつつ、フェティッシュ感を帯びる。素肌を覆い隠しているのに、身体性が引き出され、厳格さと狂気、官能が同居するかのようなコレクションが異彩を放っていた。
◆ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)
クチュール感の高い、クラシカルな装いをそろえた。社交界にも通じる、レディーライクなムード。1950~60年代の写真集から着想を得て、バッスルスカートやケープコートなど、古風な貴婦人ルックを現代的に仕立て直している。持ち味のミニマルシルエットに気品とエレガンスを注ぎ込んで、ノーブルな夜会服姿に仕上げた。クリスタルジュエリーをフリンジ風に使って、きらめきをまとわせた。貴婦人ムードを帯びた釣り鐘形の帽子がアクセントに。ビッグバッグは底持ちでボディをスレンダー見せ。スニーカーやローヒールが足元に抜け感を添えた。しぐさの美を引き立てているのは、クチュールなカッティング。体の輪郭に沿う立体裁断がしなやかな縦落ち感を印象づけていた。
◆サポート サーフェス(support surface)
持ち前の流麗なカッティングが一段と冴えた。フォルムは奇をてらっていないのに、ドレープやギャザーで布の陰影を際立たせている。ペーパーバッグ・ウエスト風にギャザーを寄せたパンツが目を引く。スカートは曲線の裾が朗らかさを添えた。ジャケットの打ち合わせをずらす技巧も味わい深い。凜々しい立ち襟がプラウドなたたずまいを演出。正面を極彩色の花柄で彩ったパンツは背中側から見ると、全く別ムードのきちんとテーラード仕立てで目を楽しませる。透けるニットカーディガンや、ラメ入りツイード、変形チェック柄なども官能性やグラマラス感を帯びた。
◆アキコアオキ(AKIKOAOKI)
得意とするユニフォームの解体・再構築をさらに深掘りした。ピンストライプ柄の生地で仕立てたスーチングを披露。ミリタリーや歴史的コスチュームも自在に読み換えた。聖母マリアの清らかなイメージをまとわせつつ、古着やシースルー、部分肌見せなどで多面的なムードを寄り添わせている。古着のグラフィック柄Tシャツはドレスに仕立て直した。修道女風のベールは清楚でありつつ、レースやシアー生地がセンシュアルな風情を醸し出した。解体したウエアをペプラム風に巻いてウエスト周りにメリハリを演出。「統一」を意味するユニフォームをあえてばらしてずらす手法がウィットに富んだ装いに導いていた。
◆フェティコ(FETICO)
ブランド名で示したフェティッシュへの傾斜を深めた。ニットで仕立てたミニ丈ワンピースをキーピースに据えて、ボディコンシャスな曲線シルエットを描き出している。ウエストの両サイドをくり抜いて、ヘルシーに素肌見せ。映画『キャバレー』(1972年)の主人公にも似た、黒のハイレッグ・ボディスーツはニーハイ・ソックスで合わせて官能的に仕上げた。奔放な1920年代フラッパーの装いをモダンにリバイバル。フラッパードレスはフリンジ状の裾スリットが躍る。ボディの輪郭になじむウエアがしなやかでたおやかなシルエットを際立たせている。振り切ったフェティッシュがかえって強さやボディポジティブ感を引き出していた。
◆ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)
遊び心いっぱいの風変わりなボリュームやディテールで装いを弾ませた。目と眉毛の立体ビッグモチーフをデコルテにオン。パンツの裾には、透けるチュール生地で仕立てた、矢羽根風の張り出しパーツをあしらっている。裾にファニーな量感が備わった。張り出した肩がアイキャッチーなジャケットはめりはりが際立つ。ファーのショートコートの上から太いベルトを巻いてボリュームコントラストを強調。様々なトランスフォームを試し、チルデンセーターはミニ丈ワンピースに。メタルバンドのTシャツはバッグに変形させた。Tシャツの形そのままのバッグがシュルレアリスム作品のようなアート感を寄り添わせていた。
◆ピリングス(PILLINGS)
穴開けや縮絨、毛玉などを生かして、ニットの表現力を広げた。セーターの身頃にポケットをこしらえ、両手を突っ込んで、自分を抱き締めるかのようなポーズに。どこか所在なさげな空気を漂わせた。その一方で、ニット特有の穏やかな風合いが安心感を誘うかのよう。ニット仕立てのキャミソールワンピースにはあちこちに穴が開いていて、素肌がのぞく。ゆったり幅のパンツは縮絨をかけたうえに、あえて毛玉だらけに加工。ブランド名の「ピリング(毛玉)」を印象づけつつ、気負わない雰囲気を引き出した。毛羽立ったパンツの丈はずるずるに長く、裾はくしゅっとたるませている。ボディ正面で両手を交差させるポーズはセルフプロテクション感や自己愛ムードも帯びていた。
◆アンスクリア(INSCRIRE)
解体・再構築とミックスコーディネートが装いをプレイフルに盛り上げた。袖なしテーラードジャケットはニットウエアにレイヤードして、フォーマルとカジュアルをねじり合わせている。ファニーなトランスフォームを多彩に仕掛けた。ジーンズの上から大胆なスリット入りのロングスカートをレイヤードしてマスキュリン&フェミニンを演出。ピンストライプの紳士服風パンツも普段着仕様にアレンジ。MA-1は着丈を伸ばしてシックに昇華。ミリタリーやトラッド、ヴィンテージなども交差させている。細ベルトの2本巻きや、レディーライクなロンググローブでフェティッシュ感も漂わせていた。
◆ヨーク(YOKE)
ブルゾン、チェスターコート、デニムジャケットなど、多彩なアウタールックを見せた。ウール、フリース系、キルティング、ライナー(裏地)風など、質感も幅広い。パフィなダウンジャケットは袖が取り外せるギミック仕立て。ボリュームアウターの一方で、ノースリーブのミニ丈ワンピースも披露。切りっぱなしの布バッグはアイキャッチー。上品な紳士靴やタフ顔のブーツが足元を固めた。抽象画に着想を得たビッグモチーフはアート感が高い。ロングコートの身頃に幾何学柄を大胆に躍らせている。ジップアップ・トップスをテーラードに交差させて、スポーティ気分を帯びたセットアップに仕上げている。アウター見本帳のようなバリエーションの多さが力量を証明していた。
◆シュタイン(stein)
ロングコートをキーピースに据えて、縦長シルエットを打ち出した。あごを覆うハイネックもロング&リーンな印象を強めている。ダークカラーを主体に知的でストイックな着映えにまとめた。トレンチコートの上からダウンジャケットを重ねるといった、アウター同士のレイヤードが意外感を生んだ。ベストもコートに重ねて立体感を高めている。メタリックなジップ(ファスナー)を使って、クールな雰囲気を添えている。スリーブレスのロングジャケットは細いベルトを高い位置で巻いてウエストマーク。ボトムスはワイドパンツが主役。アウターは前を開けて、ローブ風の落ち感を出しつつ、レイヤードでムードを深めている。静かさと強さが同居する進化形ミニマルのシルエットが際立っていた。
◆マトフ(matohu)
日本の美意識を掘り下げるアプローチは、各地の伝統工芸との結びつきを深めた。藍染めの風合いや銘仙のテクスチャーが趣を深くしている。今回は島根県松江市の景色や文化を写し込んだ。柔和なボタンの造作は、クリーム状の化粧土をかけて焼き上げる陶器「スリップウエア」でこしらえてある。再評価が進むスリップウエアの意匠をあちこちに取り入れた。シグネチャーアウターの長着を生かしたレイヤードはこなれて見える。斜めに打ち合わせたジャケットは正面の隙間がレイヤード演出に誘う。ハイネックのワンピースは木の葉風モチーフが紅葉をまとったかのよう。和柄を配したソックスは服とおそろい。長年、探究してきた染めや織りの美がコレクションに奥行きをもたらしていた。
◆ミューラル(MURRAL)
ドレッシーで貴婦人ライクな装いを用意した。ボディに沿うしなやかなドレスを軸に、夜会気分をまとわせている。リュクス感を強めていたのは、得意の刺繍ディテール。素材でもまばゆいラメをちりばめた。パールモチーフをビジュウ使いであしらったドレスは気高い着映え。ビスチェ風のボディスーツはセンシュアルな風情。ニーハイブーツが足元にフェティッシュ感を添えている。ベレー帽やロンググローブも装いのアクセントに。雪の結晶モチーフを白系ドレスに配して幻想的な雰囲気に仕上げていた。一方、黒のドレスはダークロマンティックなムード。はかなさと妖艶感が融け合うルックにアダルトなエレガンスが薫っていた。
◆メグミウラ ワードローブ(MEGMIURA WARDROBE)
◆メグミウラ ワードローブ(MEGMIURA WARDROBE)
アウターに特化したブランドらしく、コート類が多彩にそろった。オーバーサイズが朗らかでプレイフルな景色。ボディの線を拾わない、ボディポジティブでジェンダーレスなシルエットが用意されている。ポンチョやマント風のなだらかなフォルムも穏やかに体をくるんだ。アウターの上からベストを重ねるような「逆レイヤード」も披露。ショートパンツにロングコートをかぶせる「長短レイヤード」が動きを引き出した。グローブやレッグウエアを生かしてカラーブロックを組み上げている。着る人を選ばない多様性をモデルキャスティングでも表現。モデルがアウターを脱いで、来場者席の前でハンガーに吊るす演出でいっそうリアル感を高めた。
◆クイーン アンド ジャック(Queen&Jack)
日本の学生服に着想を得て、イタリアの上質素材とクチュール技で再構成した。セーラー服に象徴されるスクールユニフォーム特有の風情やディテールを生かしつつ、大人仕様にトランスフォーム。エイジレスに着やすく整えている。タイドアップがきちんと感を、サスペンダースカートが初々しさを帯びた。タータンチェック柄のスカート、チルデンセーター、ストライプ柄シャツなども程よくガーリー。ニーハイ・ソックスとローファーの足元が良家テイストを印象づけている。レースやクリスタルガラスをあしらって、気品も醸し出した。ケープやブレザーにも細部にアレンジを加えて、リュクス感を宿らせていた。
◆ユーシーエフ(UCF)
ワークウエアを自由な発想で解体して、伸びやかな休日ルックに整えた。キー素材は色落ちさせていないデニム。オーバーオール風に仕立てたり、エプロンの正面を切り取ったり。白とダークトーンの2色使いはこれまで通りだが、ずっとカジュアルなムードにシフト。シルエットはゆったりめで空気をはらむ。ショート丈ジャケットを軸に、着丈の異なる三重奏レイヤードを組み立てている。全体にジェンダーレス感やアウトドア色が高い。キャンバス靴も若々しいスタイリングに導いた。縫い目や縁取りがワークウエア感を残す。ベルトの端を垂らす小技はくつろいだ気分を呼び込んだ。ポケットがあちこちに配され、ユーティリティーな雰囲気を濃くしていた。
◆テンダーパーソン(TENDER PERSON)
フランケンシュタインや吸血鬼、ピエロなどのプリント柄を盛り込んで、悪夢のイメージを立ち込めさせた。遊び心を帯びた、ホラー風味のルックがかえって楽しい。ファンキーでダークなひねりを利かせ、B級映画タッチのいたずらっぽさを醸し出している。ブランドを象徴する、燃え上がる炎のモチーフはシャツ裾や靴など、あちこちで炎上。あでやかなベルベットも妖しさを添える。ボクシージャケットでテーラリングも見せた。ビッグリボンや大襟、膝プロテクターなどのディテールがキッチュめのカオス感を生んだ。レトロ風味とストリートテイストの交わり加減を絶妙にコントロールしていた。
◆リコール(RequaL≡)
お茶目でウィットフルなアイデアを詰め込んだ。NTTドコモと組んで、「歩きスマホ防止」のメッセージをコレクションにまぶした。主に用いた技法は極大化(デフォルメ)。服のボタンをお盆サイズに拡大し、服に何個もあしらっている。ネクタイには中綿を詰めて、ジャンボマフラーに化けさせた。ブランケットを巻き付けたようなルックもボリューミー。デニムパンツは穴だらけで、ワイドパンツはスーパーフレア。シルエットは全体にオーバーサイズでジェンダーレス。だらりと垂れ下がる着こなしがのどかでユーモラス。「立ち止まって歩きスマホをやめたくなる」ような、二度見を誘う、インパクトの強い街中ルックを送り出した。
全体にクチュールライクな仕上げが増えた。素材の吟味や手仕事技の活用で、リュクス感を高めている。解釈の自由度が上がり、ユーモアやドラマ性も加わった。ジェンダーレスやヴィンテージミックス、ボディポジティブなどの傾向はさらに成熟。新鋭ブランドの間では、かつての東コレを思わせる「攻めた」クリエーションも復活。「着る」という、本来の役割にとどまらない、広い意味でのカルチャー表現として盛り上げる動きが勢いづき、東コレの厚みを示していた。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
|