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2023.04.04
【2023秋冬パリ展示会レポート】中国からのバイヤーはごく少数、アジアは韓国優勢、欧米からは回復 パリ・セカンドセッションのトレードショー
2023-24年秋冬パリファッションウイーク中に開かれたセカンドセッション(3月開催)のトレードショーは、「トラノイ (TRANOI)」(2023年3月2~5日)、「プルミエールクラス (Premiere Classe)」(3月3~6日)「ウーマン (WOMAN)」(3月3~5日)の主要3展のみで、3年前に米国から新規参入した「リアセンブルドショー (REASSEMBLED SHOW)」は、姿を消していた。3年前の2月には、ミラノファッションウィーク最終日のショーがキャンセルとなり、パリに忍び寄るパンデミックの影が顕在化。日本からの出張者が帰国すると同時にフランスもロックダウンへと舵を切った。あれから2年半を経て、昨年6月の23年春夏メンズ・ウィメンズプレコレシーズン辺りから日本の出展者、出張者も戻り始めたが、3年を経た今シーズン、果たしてコロナ以前まで回復しているのか。各展の概況と日本から挑んだ出展者を紹介する。
グラフと表は主要3展の3~6年前までの出展者推移と今シーズンの結果で、リアセンブルドショーも加えた推移となっている。
トラノイは、パリ旧証券取引所(パレ・ブロンニャール/旧パレ・ド・ラ・ブルス)の1ヶ所での開催となり、3年前に開かれていたもう一つのカルーゼル・デュ・ルーブル会場での開催は無かった。出展者数は164ブランドで、6年前に比べると64.0%減、3年前同期比は41.6%減と大幅に減っており、コロナ以前の数には戻っていなかった。だが、2020年にレクレルールのオーナー一族が世界最大規模の生地見本市「プルミエールビジョン (PREMIERE VISION)」を運営するGLイベンツに会社を売却したことにより、パブリックな方向へと舵を切った。現在は、仏オートクチュール・モード連盟唯一の公認トレードショーと位置付けられ、メンズは50ブランド、レディスは150ブランドまでに絞り、さらに選考を同連盟と共に行うなど、新たな座組みで改革に取り組んでいる。
服飾雑貨中心ながらアパレルも加えてきたプルミエールクラス(PC)は、最盛期の2/3程度の規模で、チュイルリー公園のテント会場に370ブランドが出展。6年前と比べると40.4%減、3年前同期比では13.6%減とコロナ前まで数字を押し上げることができていない。テントもかつてはコンコルド広場まで続く3ホールだったが、今回はルーブル側からの2つのテントに集約された。
ウーマンは、コロナ前のヴァンドーム広場のホールから昨年9月、前回のウィメンズと同じくリパブリック広場近くの会場で開き19ブランドが出展、6年前と比べると78.9%減、3年前同期比でも78.4%減とかなりの縮小となった。
3展全体の出展者数は総計553ブランドで、6前年同期比52.6%減、3年前同期比33.9%減。ちなみにトラノイとPCには、それぞれ13ブランド、ウーマンには1ブランドの日本企業が出展していた。
前シーズンの評価は、「中国バイヤー待ちの出展様子見」と記したが、今シーズンも同様の状況で、中国からの来場者は数えるほどと言って良い。一方アジア勢でひとり気を吐いているのが韓国だ。バイヤー・来場者だけでなく、前シーズン同様にトラノイには「ソウルファッションウイーク」パビリオンが登場し、今年9月の出展も決定している。さらに次回は中国パビリオンの出展もほぼ決定するなど東アジア地域の政府機関による後押しが活発化している。日本の行政ぐるみの取り組みが求められていることを示唆しているのかもしれない。
まずはパンデミックからの回復をどこまで果たせるのかという視点から見ると、次回9月の24年春夏シーズンに期待がかかる。なかでも中国からのバイヤー復活の本格化が鍵になる。
さて、ここからは各トレードショーに出展した日本ブランドを一部紹介していくとともに、一般社団法人日本ファッション・ウイーク推進機構(JFWO)が主催している「ショールームトーキョー・イン・パリ(showroom.tokyo in paris)」について報告する。
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トラノイ
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トラノイ
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トラノイ
7年ぶりのパリ出展となった「ヒスイ・ヒロコイトウ (HISUI HIROKO ITO)」は、マルチカラーのスクエア切り替えカットジャカードジャケットなど目を引くアイテムで、出展者からオーダーを得るなど玄人受けした印象だが、デンマーク、イタリア、香港などからコンタクトがあったという。デザイナーの伊藤弘子は、「久しぶりにリアルに会えるとあって、出展者のみんなとも和気あいあいとした雰囲気の中で楽しみながら展示できている。中国人バイヤーが来ていないのが残念だが、続けていかないと意味が無いので、次回も出展したい」と意気込みを語った。
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ヒスイ・ヒロコイトウ
新潟・見附のニットメーカー、第一ニットマーケティングによる「トレンタ・セッタンタ (30/70 TRENTA/SETTENTA)」は、3年目となるファクトリーブランドでジェトロ新潟の支援を受けて初出展を果たした。「究極の普通」をコンセプトに『フォルツァスタイル』の干場義雅氏プロデュースのもと「ニットのロールスロイス」を目指すという。シルク30%・カシミヤ70%を主力にウール100%も展示した。
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トレンタ/セッタンタ
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トレンタ/セッタンタ
ビンテージ調のハイストレッチ加工デニム「レッドカード・トーキョー (RED CARD TOKYO)」とデニムを基本としながらもトップスも含めて提案するトータルブランドの「upper hights(アッパーハイツ)」の2ブランドで出展した「ゲストリスト・ショールーム (GUEST LIST SHOWROOM)」は、今までニューヨークの「コ―テリー(COTERIE)」や「カプセル(capsule)」にも出展実績があるが、23年春夏シーズンからトラノイへの出展を始めたという。前回は、3ブランドで出ていたが、分かりづらかった点を踏まえ、今回は2ブランドに絞り込んだそう。今回は5件以上オーダーが付きそうと期待を寄せていた。
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ゲストリスト・ショールーム
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レッドカード・トーキョーとアッパーハイツ
2回目の出展となった「ミュベール (MUVEIL)」は、マレ地区で開いている自社ショールームへの誘導として参加している。新規も5件ほど取れ、ショールームかオンライン発注へと繋げている。「新しい接点ができ、バイヤーの声が聞けたのが成果。数字には見えないブランドの蓄積になる」と評価する。「ただプレコレの方が納期の問題も考えると良いかもしれない」とパリでの営業時期を検討する必要性を感じてもいるそうだ。今回は、1ヶ月納期を早めた7月末納品を目指す海外とEC向けのコートを仕込んだという。
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ミュベール
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ミュベール
PCから移ってきた「フラッパーズ」の「ティッカ (TICCA)」と「 エンリカ(ENRICA)」は、20年3月以来、3年ぶりのパリ出展となった。前回の出展時は、オーダー後にコロナ禍が直撃したが、1~2件のキャンセル程度で収まった。今回は15~20件ほどがピックアップしてくれ、既存店も戻ってきている。ティッカはシャツやコートなど硬めのものが受け、ドイツ、イタリアなどから引き合いがあり、逆にエンリカは、そのリラックス感やフェミニンさからフランス、スペイン、米国西海岸からオーダーが入り、段染めカシミヤニットが人気だったという。
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フラッパーズ
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エンリカとティッカ
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プルミエールクラス
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プルミエールクラス
かつてはトラノイに継続的に出展していた上田安子服飾専門学校トップクリエイター学科の学生によるプロジェクト「ユーシーエフ(UCF)」は、21年10月、22年9月の春夏で断続的な出展を続け、秋冬シーズンとしては20年3月以来、3年ぶりの出展となった。オンラインも含め、毎年着実に受注があり納品もしているが、学生カリキュラムの一環でもある。この観点からコロナ下においては、「楽天ファッションウィーク東京(楽天)」に参加してランウェイを行うことで、パリ出展の代替としてきた。だが、本格的にパリ出展が再開できることになり、2年4シーズン続けてきた楽天への参加を終了することになったという。今回のPCでは、アポイントが5件入り、イタリア、米国、英国、ギリシャ、クウェートなど10件ほどの取引先を持っているという。桐生のカットジャカードは得意としている素材で、さらにいつもはモノトーンのみの展開だった中に、今シーズン初めてカラフルな学生が描いたプリントも1ライン追加した。
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ユーシーエフ
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ユーシーエフ
昨年の9月に続き2回目の出展を果たした福岡のアクセサリー「テン. (TEN.)」は、カナダ、フランス、スペイン、ドイツ、ベルギー、韓国などから引き合いがあったという。押し出したシリーズは、「メニーウェイズアイテム」と呼ばれるブレスレットにもネックレスにもなり、縦と横に使えたり、穴にチェーンを通すことで表情が変わるなど、幾通りもの着け方が可能なアイテムだ。素材は、シルバーと18金。日本と海外の好みの違いを感じており、今後の打ち出し方として「日本はシンプル、こちらはデザインの凝りの入れ方を工夫していく」と語った。
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テン.
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メニーウェイズアイテム
22年3月から連続してパリに出展しているシューズの「トゥ・アンド・コー(TO & CO.)」は毎シーズン、着実に来場が増えていると感じている。以前はマニッシュなものやユニセックスタイプが主だったが、今シーズンは綺麗めなレディスの新木型2種をポインテッドトゥとスクエアトゥで投入した。イタリア、スペインで生産するが5~10%程度、価格が上昇しており、ドロップシップによるメリットは大きいという。
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トゥ・アンド・コー
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トゥ・アンド・コー
帽子の「マチュア・ハ(mature ha)」は、23年春夏シーズンで40~50件との取引があり、うち新規が20件を占めた。さらにイタリアの代理店が100件ほど取引している。この間リアルで会えることが増えて、半分のシェアを占めていたオンライン受注は減少傾向にあるという。また生産キャパがタイトになっている状況から、パリでの発注分は見込み生産で作り込んでいる。今回は3シーズン目となった再生ポリエステルで作るクラフトっぽいニットバッグ、マフラー、アームウォーマー、レッグウォーマーのブランド「ニー・バイ・マチュア・ハ」を帽子のブースと向かい合わせで配置して効率的なブース運営を図ったという。
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マチュア・ハ
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ニー・バイ・マチュア・ハ
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ウーマン
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ウーマン
20年3月以来の出展となった「トゥジュー(TOUJOURS)」は、20-21年秋冬物から欧州、アジアのバイヤーとジョアやインスタでオンラインによる取引を続けており、動画も作るなどして取引先は微増となっている。「やはり顔を合わせて話ができることの重要さを感じている」と話してくれた。今シーズンは、獣毛の値上がりを価格に反映して15%程度の単価アップとなっているが、生地への信頼と安心感が定評となっている点が支えとなっているという。
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トゥジュー
メンズに続き、ウィメンズのプレゼンスも高まるショールームトーキョー
東京都とJFWOは、東京ファッションアワード第8回ウィメンズブランドの受賞者によるショールームトーキョー・イン・パリを、2023年3月2~7日にパリ・マレ地区、メトロ8番線、フィユ・デュ・カルベール駅近くで開催した。
出展者は、アワードの第8回を受賞したウィメンズ4ブランドの「アンスクリア(INSCRIRE)」「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」「フェティコ(FETICO)」「ヴィヴィアーノ(VIVIANO)」。さらに第7回受賞者の「マリオンヴィンテージ(MALION vintage)」も参加した。
同ショールームを運営するJFWOの今城薫コレクション事業ディレクターは、「アポイントは、80件ほど入り、その7~8割が海外です。先行して開かれていた1月のメンズは実績もあるので、アポイントが150でした。なかでも韓国バイヤーが多い印象で、逆に米国は少ないようです。ただ、ベルリンやモスクワ、香港、米国西海岸の有力店のアポイントも入っており、15年から開いているメンズの定着と2回のリアル展の開催を経て、着実に評価が高まっていると感じています」と成果を語った。またパリや欧州のショールームが勧誘に訪れるケースも増えており、「ここへ来ると新しいブランドを発掘できる」と期待されているようだ。ブランドによって買い付け地域のバラツキも見られるという。「アキコアオキならアジア、アンスクリアは欧米といったように受ける傾向が見えてくる」と話す。
アンスクリアは、韓国3件、ロシア、ベルリン、香港、イタリアと7件の商談をこなし、着実な成果が上がった模様だ。特にダブルベルトでループが二重になり、スリーウェイの着こなし方が楽しめるパンツとのセットアップが評判良かったという。
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アンスクリア
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アンスクリア
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アキコアオキ
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フェティコ
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ヴィヴィアーノ
第7回受賞ブランドでは唯一の出展となったマリオンヴィンテージは、世界的にリサイクル・リメーク系が人気という中で、得意のネクタイパッチワークやニットの切り替えアイテムが評価された。韓国と香港からピックされ、イタリア、ドイツ、UAEなどからもコンタクトがあったという。
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マリオンヴィンテージ
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マリオンヴィンテージ
ホテルやエアチケットなど渡航費の高騰と円安のダブルパンチで出展諸経費がかさむ環境下だが、欧米を中心に市場が回り始めた今、海外販路開拓は「待ったなし」の状況にある。年央以降の中国・東南アジアのバイイング活力が回復することを期待しつつ、来春夏へ向けての準備が必須となってきた。
取材・写真・文/久保雅裕(ファッションジャーナリスト)
アナログフィルター「ジュルナル・クボッチ」編集長/杉野服飾大学特任教授/東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)代表理事・議長
ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。「senken h」を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。
大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア「Journal Cubocci」を運営。2017年からSMART USENにて「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」ラジオパーソナリティー、2018年から「毎日ファッション大賞」推薦委員、2019年からUSEN「encoremode」コントリビューティングエディターに就任。2022年7月、CFD TOKYO代表理事・議長に就任。この他、共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。
コンサルティングや講演活動の他、別会社でパリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアの開催、合同展「SOLEIL TOKYO」も主催するなどしてきた。日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。