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2023.03.21
【2023秋冬東京 ハイライト2】東京メンズでも広がる服への本質探究
写真左から「タカヒロミヤシタザソロイスト.」「ヨーク」「シュタイン」「タナカ」
世界で広がる服の本質を見つめ直すというアプローチが、東京のメンズコレクションシーンでも見られた。その中でも大きく2つの流れがある。一つはテーラリングの本質を見つめ直し、ブランドの強みやオリジナリティを反映するというもの。もう一つはワークやユニフォームなど普遍的なアイテムをオーバーサイズにしたり、こだわりの素材や加工を施したりして、捻りを加えたものだ。日本の男性のカジュアルウェアのベースがアメカジにあることから、アメリカモチーフを取り入れるコレクションも散見された。
タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)
「タカヒロミヤシタザソロイスト.」は、楽天による日本発のファッションブランドを支援するプロジェクト「バイアール(by R)」によってランウェイショーを開催。東京都台東区の「東京国立博物館 表慶館」を舞台にコレクションを発表した。
今シーズンは、ブランドらしいパンキッシュな要素を残しながら、よりクラシカルなテーラリングへと回帰した。ファーストルックで登場したのは真っ白なタイトロングカートとジャケット、ハットというエレガントな出で立ち。その後のコレクションを示唆するその圧倒的な存在感に観客は息を呑んだ。
その後も続くモノトーンのルック。大胆なミニスカートやタイトスカートとファージレとのボリュームのコントラスト、パープルのビロードのような、シルクのような艶やかなトップスとクラシカルなダッフルコートやピーコートの対比のバランス感覚が、「タカヒロミヤシタザソロイスト.」流のアンドロジナスな男性像を描きだした。ショー後半ではアシンメトリーなシャツやタンクトップでセンシュアルを表現。シューズやスカートなど、多様なアイテムにのせられた「Ray Gun」というグラフィカルなプリントは、ブランドらしい反骨精神を体現するものであった。
リコール(RequaL≡)
「リコール」は、「NTT docomo」とのコラボレーションである「東京歩きスマホコレクション(TOKYO ARUKI SMARTPHONE COLLECTION)」を発表した。
社会問題となっている歩きスマホを防止するための注意喚起を目的に始動した本コレクション。「株式会社NTT docomo」がファッションショーを企画・実施するのは今回が初の取り組みとなる。そこで、これまで同社が歩きスマホへの注意喚起を発信してきた中でなかなかメッセージが届きにくかった若年層にも興味を持ってもらおうと、社会課題をテーマにファッションを紡ぎあげる「リコール」に協力を求めたという。「ファッショナブルな人を見ると、人は歩きスマホをしていても立ち止まって歩きスマホを辞める」という可能性から、ファッションに課題解決の糸口を見出した。
ランウェイショーでは、歩きスマホをしている人たちの合間を縫って位置情報を示すアイコンや絵文字、スマホを握る手などをモチーフにしたポップでインパクトのある衣装が登場した。“それは、歩きスマホを見つめ直すきっかけとなる。”をコンセプトに、「リコール」らしいダイナミックなアプローチで問題提起を行っていた。
また、同時に発表された「リコール」の2023秋冬コレクションでは、“見立て直しの再定義”をテーマに、リアルクローズとオートクチュールの境界を再定義した。マキシ丈のブレザージャケット、ケーブルにダメージを施したアランセーター、着られる毛布として機能を転換した毛布のガウン、ドレスとして仕立てられたダウンジャケットなど、アイテムの概念を超えて、新しい物作りへのチャレンジを行った。
また、中綿を詰めてマフラーとして再構築した京都西陣で織られたオリジナルネクタイや、ボタンモチーフのバッグ、蝶ネクタイを模したバックパックなど、「リコール」流遊び心を詰め込んだアイテムも多数登場した。
テーラリングを独自のアプローチで表現
レインメーカー(RAINMAKER)
渡部宏一が手掛ける「レインメーカー」はオンライン配信でコレクションを発表。クラシカルなメンズテーラリングの和の要素を掛け合わせるブランドらしいコレクション。道着を想起させるような羽織はレイヤードで提案。帯のようなベルトで縛るディテールでAラインシルエットを作り、モダンな印象に仕上げていた。また、コートやジャケットなどにも同様のベルトが付けられている。
烏帽子を思わせるヘッドウェアと表情を押し隠すように覆う演出が印象的。枯山水をイメージしたようなモチーフは、大胆に、グラフィカルに表現され、コレクションをモダンに昇華させていた。
ディー・ナート・アンプタ(D.Nart.Ampta)
20代半ばの若きデザイナー、大縫理央が手がける「ディー・ナート・アンプタ」。東京・町田の商業施設でショーを行った先シーズンを経て、今シーズンは「楽天ファッションウィーク東京」に初参加となった。
マーブル柄の布を纏ったようなルックが印象的だった先シーズンとは対照的にテーラードジャケットやチェスターコートなどをキーアイテムに据えた。ファーストルックは、プリンス・オブ・ウェールズ・チェックのジャケットの上に同柄のダブルブレストのオーバーフィットコートを重ね、そのコートにはレースを付着しマニッシュとフェミニンの要素を掛け合わせた。
その後も同アイテムの色違いのアイテム、メタルボタンやメダル装飾のダブルブレストジャケットなどが登場し、エレガンスを漂わせた。
ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)
皇居を臨む建物のホールでランウェイショーを行った「ソウシオオツキ」。戦時下の警報のようなサイレン音とともにショーをスタート。暗く細いランウェイを疾走するようにウォーキングするモデルたちが身に纏うのは、フォーマルアイテムに捻りをつけたルック。燕尾服のような大振りのジャケット、シャイニーなフロックコート、無数のタッセルを装着したブラックスーツ、ブルゾンやシャツルックにつけた幅広のカマーバンドなど、ドレスダウンしたルックが多く占める。
パンツにもインパクト与えた。カウボーイが着用するようなオーバーパンツ、チャップスのようなアイテムをパンツとレイヤードしたり、ハイウエストのベルトレスパンツにシャツをインしたり、ウエスト部分を二枚仕立てにしたり、新鮮さを感じる。
着こなしは、オーバーサイズであったり、ミリタリーアイテムやボロボロになったアイテムを合わせたり、装着物を代用品で済ませたり・・・フォーマルな要素を多く入れながら無造作なものが多い。戦後ドラマに登場する日本の男性の出立ちを思わせる。中には日本の旧札や1ドル紙幣をモチーフにしたアイテムも見られる。
そして気になるのは多くのモデルが着用、もしくは手に持っていた数珠。戦友への鎮魂を表しているようにも見えた。
アタッチメント(ATTACHMENT)/ヴェイン(VEIN)
榎本光希が手がけて3シーズン目となる「アタッチメント」。今回も先シーズンと同様兄弟ブランド「ヴェイン」との合同ショーを開催した。「楽天ファッションウィーク東京」へは初参加となる。
新国立競技場の屋内トラックをランウェイに見立ててショーをスタート。先に発表したのは「ヴェイン」だ。黒の画家として知られるピエール・スラージュと現代彫刻家アニッシュ・カプーア、2人の偉大なるアーティストの作品から着想を得て、“Illusion of your eyes(幻視)”というテーマでコレクションを製作したという。
鏡のようなクラッキング箔プリントのシルバースウェットやパンツ、歩くたびに煌めきを放つジップづかいのベスト、グラデーションジャカードデニム、複数の色を混ぜ合わせてハケを用いた手染めのウールギャバのアイテムなど、テーマの通り視覚効果をもたらすアイテムが多く見られた。
スポーツアイテムも多用。同ブランドのシグネチャーであるドローコードのディテールも随所に見られ、若さを強調した。
「アタッチメント」は、人を主体においた服作りというアプローチでコレクションを製作。合繊と天然繊維を織り交ぜた素材などで着用の快適性を追求したという。
ファーストルックのノーカラーコート、ミニマルなトップス、比翼シャツ、など無駄なものを削ぎ落としたデザインでコレクションを構成。そこにドレープやシワ、光沢、アシンメトリーなどで表情の多様性を表現。カラーはニュアンスカラーやグラデーション、ワントーンで落ち着きを感じさせる。
シンプルでミニマルなコレクションの中に華やぎを与える仕掛けも。ピアス付きのウールシャツとニット、ジャケットにドッキングした光沢素材、木製品の木目を利用したヘリンボーン柄などが優雅なムードを醸し出した。
08サーカス(08sircus)
すでに国内外で確固たる地位を築いている「08サーカス」が東京のファッションウィークに初参加し、オンライン配信でコレクションを発表した。
メンズから始まったブランドだけあってテーラリングの軸とそのクオリティは揺るがない。そこに加えられるミリタリーや時代を象徴するスパイスで、「08サーカス」流モダンは紡がれる。ダブルフェイスのコートはフーディがつけられたり、定番のMA-1は極端なロング丈で表現されたりと、ブランドらしい捻りを加えたアイテムが登場する。
また一方で、時代の流れを汲んだクロップド丈のトップスがあったりと、絶妙なバランス感を見せつける。強い印象を与えるのは、シンプルなモノトーンのカラーパレットの中に登場した、ウールにのせられたタイダイのようなグラデーションパターン。淡い陰影がコレクションに奥行きをもたらしていた。
シュタイン(stein)
デザイナー浅川喜一朗が手掛ける「シュタイン」。“stillness and motion , mininal and maximal , mode and tradition.(無から有へ。そのはざまの部分を表現する。)”をブランドコンセプトに、静かで凛として美しいものづくりをしている。
今シーズンはブランド初のランウェイショーを開催。「人を招いて生の空気感で自分の服をどう感じてもらえるか、新しい表現手法を試してみたかった」と浅川氏。上質で端正なメンズテーラリングを軸に、今シーズンは“Further(「より遠く」の意)”というテーマのもと、より深く強い、一歩踏み込んだ表現に取り組んだという。
ピークトラペルのマキシ丈コートから地面につながっていくようなワイドトラウザーは、あえて8cmほど長く仕立てて縦長のシルエットを強調。ブルゾン、ジャケット、ニットという同じカラーのレイヤードは素材の違いで陰影を出し、深みを演出した。印象的なのは重ね着したようなデニムパンツ。太ももあたりまでのレイヤードになっており、外側は60年代の糸や縫製方法を再現したデニムで、内側は90年代という、時代を超えたレイヤードを1枚のデニムパンツで表現した。
これまでリアルクローズを作ってきた「シュタイン」が、今シーズンはショーを行うこともあり、より「デザイン」を意識したコレクションになったという。ショー終了後は、「毎シーズンではないかもしれないが今後もショーは続けていきたい」と浅川氏は語った。
ウェスタン、デニム、アメカジ・・・カジュアルの普遍テーマをツイスト
イレニサ(IRENISA)
自分たちを「服飾造形作家」だと語るデザイナーの小林祐と安倍悠治。テーラリングやワークウェアに捻りを加えて日本のデザイナーらしいオリジンティ溢れるコレクションを発表した。
ダスティカラーやダークカラーのカラーウールギャバやメルトンのジャケットやコートとゆったりしたトラウザースが基本のルック。ジャケットはテーラリングジャケットやダブルブレスト、シャツジャケット、トラッカージャケット、ミリタリージャケットやピーコートやバルカラーコート、トレンチコートなど普遍的な定番アイテムをベースとした。
ディテールやアクセサリーで遊びを加えた。ピーコートにベストを被せたようなアイテムや大きなポケットを上の方にずらしたアンコンジャケット、白ベルトを巻いたダークなバルカラーコートなどが登場した、
オリジナリティ溢れる柄づかいも目をひく。朧月の様に形が有る様な図案は京友禅の刷毛染めによるもので、ストールやコーディロイのセットアップに施した。
セヴシグ(SEVESKIG)/アンディサイデッド((un)decided )
「セヴシグ」は、ウィメンズブランド「アンディサイデッド」の発表を兼ねたフィジカルショーを渋谷パルコで行った。
トライバルな要素とバーチャナルな要素が混じり合ったコレクション。脱構築的なジャケットやアウター、ぼかしチェックや染め、ファーが土着的ムードを放つ。その中でもインパクトを与える民族調のテキスタイルは扁平糸を織り上げたオリジナル生地は、アメリカ・インディアンの部族であるホビ族が使用するトウモロコシ保存袋をイメージしたという。
バーチャルなイメージを与えるのは化繊素材やデジタルなイラストの数々。ファーストルックを覆ったチュール素材、艶感のあるパファー素材、長編アニメ「パプリカ」とコラボによって生まれたモチーフなどだ。
今回のコレクション製作について長野剛識デザイナーは「哲学思想やフィクション上のテーマであったはずのキーワードが、昨年来リアルタイムに飛び込んで戦争の報道をきっかけに、いつの間に現実世界での問題意識へと変化し、日々平和について思いを巡らせる中で、自ずとテーマは決まっていた」とコレクションノートに残した。
その思いを反映し、バーチャルでの仕掛けも用意した。「パプリカ」の場面や設定画をプリントしたTシャツには全てA R(拡張現実)や「DVFX」でデータを内蔵。スマートフォンで再生することができるものだ。また今回のフィジカルショーでもARで楽しめるツールを用意した。
メアグラーティア(meagratia)
“歴史と現在の感覚の融合”をブランドコンセプトに掲げる「メアグラーティア」。時代とともに移り変わってゆく文化や環境、人々に花の姿を重ねた世界観を表現している。
今シーズンは“Reflection”をテーマにコレクションを紡ぎあげ、オンライン配信で発表した。
空、湖、湖に映る空のグラデーションが表現されたニットや、湖の水面とフラワーモチーフを表現したジャカード生地のジャケットなど、自然の美しさや儚さを描き出した。水面のように波打つ表情が印象的なブルゾンは、トラックジャケットのようなスポーティーさとエレガントさを併せ持つアイテムに仕立てられていた。ダブルのチェスターコートは裾と袖口にかけてモヘアに変化しており、ブランドの高い技術力を見せつけるアイテムになっている。
テンダーパーソン(TENDER PERSON)
「テンダーパーソン」は、無数の白いカーネーションをランウェイ脇に整然と生けて「楽天ファッションウィーク東京」のデビューショーを行った。
したコレクションは、同ブランドの持ち味であるヒッピー要素にホラーチックな要素を散りばめたものだ。ファーストルックは、黒ベースにマルチストライプをあしらったテーラードジャケットのセットアップ。その後もニュートラルなカラーを挟んで鮮やかな色のアイテムやパンチのある柄のアイテムを次々と発表した。
ドラキュラ、フランケンシュタインなどモチーフの多くはホラー映画をイメージソースにしたものだ。今回は“悪夢”をテーマにコレクションを製作したというデザイナーのヤシゲユウトとビアンカ。そのテーマを具現化した毒気のあるモチーフをヴィヴィッドで強めのカラーを包みこんだ。フリンジや炎を象ったヘム、ハンドニットとのドッキングで自由なミックス感も与える。
テーラリングアイテムも自由に取り入れた。蜘蛛の巣やギークなモチーフをフロントに入れたセットアップ、ファーコートとレイヤードしたロングジャケットのセットアップ、美しいシルエットを描く3つボタンのサックジャケットのセットアップには黒のパイピングや膝当てを入れた。またビッグなリボンブラウスも印象的であった。
へオース(HEōS)
暁川翔真が2021秋冬シーズンにローンチした「ヘオース」。今シーズン、「楽天ファッションウィーク東京」にデビューした。大手アパレル会社、パリコレブランドなどでパタンナーとしてのキャリアを持つ暁川デザイナーはエスニックなデザインとアルチザンの雰囲気を特徴としている。
ファーストルックはモザイク状の総柄のセットアップに起毛素材のベストを合わせたもの。衛兵のユニフォームのようにも見えるものだ。それに続くのはクラシカルなアイテムを凝りに凝った素材と大胆な解釈で変換したもの。
煌めきを放つローゲージニット、シアーと総柄を切替えたチュニック、ジャカードを圧縮したかのようなセットアップなど、パンチが効いているものばかりだ。
また、クロシェ状の首飾り、プリミティブなデザインのイヤリング、ショルダー部分の花の飾りをあしらったバッグなど、小物づかいがエスニックなムードを高めていた。
ヨーク(YOKE)
東京・有楽町の国際フォーラムでショーを行ったのが「ヨーク」だ。広い空間で発表したのは、タイムレスでジェンダーレスなコレクション。これまでも同ブランドの強みとしてきた特性であるが、より強まった印象だ。
今回の着想源は英国の抽象画家ベン・ニコルソンの作品。それを反映するように抽象柄を多く採り入れた。点描画のように表情のある素材に抽象柄をあしらったコート、ブルゾン、パンツなどが前半に登場。ジェントルなムードを広げる。
その後は英国由来の素材やアイテムを多く提案。ツィーディーなワークジャケットやニット、オーバーフィットなトレンチコート、ブリティッシュグリーンのコートやジャケット、ダッフルコート、様々な素材のカバーオール、キルティングを使用したジャケットやスカートなどの他、ボンバージャケット、トラッカージャケットなどワークやミリタリーの普遍アイテムを、優しい色彩や暖かみのある素材感でアレンジした。
ショーの終盤には、ダウンを切り裂いて繋いだかのようなジャケットのルックが登場。コントラストの効いたカラーブロッキングでインパクトを与えた。
会場で、パスポート型のプレスリリースとボーディングパスを模した入場券を配布。今回のショーをターニングポイントに新たなステージへと旅立つことを伝えたかったのだろう。
ネイプ_(NAPE_)
初めてのショーを開催するにあたって「普通のランウェイショーはしたくない」と、インスタレーション形式でコレクションを発表した「ネイプ_」。アパレルだけにとどまらず、レコードレーベルやフレグランスなど衣服を軸にした「文化」を幅広く発信している。
発表の場は渋谷の小さなライブハウス。奈良の薬師寺から取り寄せたというお香のかおりがたちこめる中、僧侶のお経でショーは始まった。僧侶が纏っている袈裟もコレクションの一部で、ピクセルで表現されたフラワーパターンはシーズンを代表するアイコニックなモチーフとなっている。
その後もミュージックライブ、ダンス、ラップなどパフォーマンスが続いていく。アニメ「攻殻機動隊」にインスパイアされたというコレクションは、どこか未来的でサイエンスフィクションの世界を感じさせる。立体的に構築されたいくつものポケット、アーマーのようなオーバーサイズのフーディ、迷彩柄のセットアップなど戦闘を想起させるアイテムが揃った。靴は「フラワーマウンテン(FlowerMOUNTAIN)」とのコラボレーションで、架空のアニメをイメージしてデザインされたという。
タナカ(TANAKA)
デザイナー、タナカサヨリが2017年に立ち上げた「タナカ」。ニューヨーク・ブルックリンを拠点に、”これまでの100年とこれからの100年を紡ぐ衣服“というブランドコンセプトのもとサステナビリティを意識したユニセックスアイテムを展開し、国内外から注目を集めている。2020年にはディレクターとしてクボシタアキラが加わった。今回はブランドとして初のランウェイショーとなる。
碁盤の目状に座席が配置された会場は、ニューヨークのストリートとアベニューが入り組んだ街並みを表現したという。そこにファーストルックで登場したのはブランドのシグネチャーでもあるデニム。男女のモデルがジャケット、パンツの各1アイテムずつを纏いブランドの核を見せつけた。
ニューヨークのストリートミュージシャンを表現したというライブのピアノの演奏が響き渡る中、縦横無尽にランウェイを闊歩するモデルたち。コレクションには「タナカ」流アート&クラフトの要素が詰め込まれている。
徳島の藍染クリエイター集団「buaisou」とコラボレーションした藍染のアイテムやニューヨークのアーティストが描いたペインティングをのせたデニムアイテム、多様性を体現するかのようなパッチワークなど、「洋服はキャンバスと捉えている」というデザイナータナカの言葉通り自由な発想で「纏うアート&クラフト」を表現していた。
ブランドが大切にしているサステナビリティももちろん考慮されている。古着の再構築というアイデアも取り込み、フランスで買い付けたスカーフをいくつも用いたブラウスやパンツなど誰かから引き継がれたアイテムに新たな息吹をもたらした。
これまでデニムのイメージが先行していた「タナカ」だが、「見る人の予想を覆したい」と、華やかなショーピースで新しい境地を見せつけた。日本の伝統工芸とニューヨークの刺激的な文化を掛け合わせるこのブランドは、ますます飛躍するに違いない。
取材・文:山中健、アパレルウェブ編集部
画像:各ブランドおよびJFWO提供