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2023.03.20

【2023秋冬東京 ハイライト1】オートクチュールのような美しいデザインが増加

 「楽天ファッションウィーク東京2023秋冬(Rakuten Fashion Week TOKYO 2023 A/W)」では、オートクチュールのように美しい服が広がっている。前回の春夏コレクションでも見られたアフターコロナ、ニューノーマルに向けたニュールックを継続、発展させたもの。春夏では女性の体の美しさが強調されたのに対して、今シーズンは秋冬ということもあり、ボリュームのあるシルエットのコートやジャケット、ロングスカートや細く長いラインなど、服そのものの造形や分量、迫力のあるデザインが増加。マニッシュなムードやミリタリー、制服、古着など異なる要素をプラスしたり、日本らしいこだわりの素材を使ったりすることで独自性を出している。

 

 

 

ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)

「ハルノブノムラ」2023秋冬コレクション

 

 “WOMEN THEN”と名付けられたJERRY SCHATZBERGの写真集に大きなインスピレーションを受けた今回。1954年から69年にかけて撮影された作品の中に登場する女性たちのふるまいとエレガンスがヒントとなったという。

 

 登場したのは黒のコート、アシメトリーな襟やシェイプ、光がアクセントになった黒のドレス、コクーンシルエットのコート。そして、大きな襟が印象的なコート。クリスチャン・ディオール自身がデザインしたころのクラシックなオートクチュールや80年代のクロードモンタナを思い出させるようなデザイン。日本人デザイナーの得意とするアシメトリー、何度もけば立たせることでカシミアのような質感を与えたシルク、膨れ織りジャカードのシルクオーガンジーをダウンジャケットの素材にするなど、現代的な解釈やひねりは加えているが、それ以上に美しさが際立つ。

 

 会場となったホテルやヘッドピースもクラシックなムードを強調する。「シャネル(CHANEL)」などオートクチュールの展覧会やクチュールメゾンのコレクションを彷彿させる美しいビジュードレスも登場。クラシックの名曲をピアニストが演奏しても自然に生まれるような個性。日本人デザイナーがクチュールメゾンのデザイナーになったらどうなるのかなどということも考えさせられた。

 

 

フェティコ(FETICO)

「フェティコ」2023秋冬コレクション

 

 前回、JFW NEXT BRAND AWARD 2023 フィジカル部門グランプリとTOKYO FASHION AWARD 2023の二つに選ばれた舟山瑛美による「フェティコ」。“ユニークビューティ”をテーマに、女性の体と肌をどう見せるのかということを追求しながら、ユニークな個性があり、魅力的で美しく見える人をイメージした服を提案した。

 

 会場となった渋谷ヒカリエヒカリエホールAの天井にはミラーボールが飾られる。コレクションは下着を思わせるデザインやボディスーツなど黒のボディコンシャススタイルでスタート。光る素材や透ける素材、スパンコールなど装飾的な素材やデザイン、アシメトリーなニット、手描きだというマルチカラーのプリントドレス、裾をフレアさせたものなど、ユニークさを表現したデザインや柄などはあるが、主役はあくまでも女性の体の美しさ。ニットは胸を大きくあけ、黒のジャケットもスリットから肌がのぞく。

 

 そして、60年代の宇宙ルックのようにウエスト部分に穴をあけたデザインも肌を見せる。会場はミラーボールからの光と赤いライトで染められた。スーパーモデルや派手な演出はないものの、体の美しさとユニークさは、80年代にアズディーン・アライアらとともにボディコンシャスをリードしたティエリー・ミュグレーを思い出させた。クラシックな美しさやクチュール的な造形が増える中でコレクションはまさにユニーク。女性の体の美しさを更に追求した今回のコレクションについて、「官能性をデザインするのはファッションとして難しいポジションだとも感じているが、それが一番好きなもの」と舟山。

 

 

 

ケイスケ ヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)

「ケイスケ ヨシダ」2023秋冬コレクション

 

 胸の高さはありそうな80年代を思い出させる高いステージ。登場したのは胸元をブローチで止めたメンズライクなスーツや白いシャツとロングスカート、オーバーサイズのコートなどでスタート。美しいデザインが続く。銀色のメガネ、ロングスカートなどに隠された足元のハイヒール。捻じ曲げられたスプーンのようなジュエリーなどひねりを加えていても、全体に漂うのは美しさと禁欲的なまでの静けさ。

 

 これ見よがしなクリエーションや実験的な形を追求することはない。その姿勢は80年代に、それまでぼろルックと呼ばれたことに対して美しい形を創り出すことができることを見せたときの「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」なども彷彿とさせる。

 

 「17歳の男の子と出会ったことから始まった。精神が病んで死にたいと思っていた時、僕のコレクションを見たおかげで生きていますと言ってもらい僕自身救われ、その男の子をミューズにした。デザインに取りつかれ、クリエーションが過剰になっていく中で、淡々と続いていく様、ストリクトな人間像を作りたかった。次のステップとして、抑制、大人になりたいとも考えた」とデザイナーは語った。

 

 

アキコアオキ(AKIKOAOKI)

「アキコアオキ」2023秋冬コレクション

 

 マリアというの人物像やキーワードを軸にしたコレクションを発表した。ユニフォームやジャケット、シャツ、ミリタリー、古着のリメイク、歴史的なコスチュームなどをプラスしたり、差し引いたり、誇張したりしながら、1つのルックの中でマリアというの人物像やキーワードを表現した。

 

 大きなフードが宗教的なムードを醸し出す服。ピンストライプを使ったマニッシュなデザインやウエストをシェイプしたコート、レースのドレスなどにも宗教画を彷彿させるフードが付いている。そして、腕を拘束したようなデザインとIライン。布と服で作る彫刻的なアイテムやジャンプスーツもアバンギャルドでありながら、禁欲的なムード。花魁の下駄を思わせるシューズも印象的。マリアや女性の中の多様性なのか。様々な要素が共存するコレクション。

 

 

 

ヴィヴィアーノ(VIVIANO)

「ヴィヴィアーノ」2023秋冬コレクション

 

 愛から始まったという今回。コレクションはピンクと赤を重ねたドレスやピンクのジャケットとドレスをつないだアシメトリーなデザインなどからスタート。まつ毛の色もピンク。スイートさとハードさの共存。そして、室内装飾のようなクラシカルなムードの素材の花柄コートやつなぎ風デザイン。

 

 アシメトリーなどを使った美しいドレスとハードなデザインの組み合わせ、ハート型のダウンなどユニークなダウンジャケット。足元にはブーツを合わせ、メンズやユニセックス、スイートとハードのミックスを強調する。植物のようなグリーンのドレス、バラの花のようなドレス。造形的なボリュームドレス。デザイナーは「愛はそれぞれ違うので、見ているお客様にそれぞれの愛を感じてもらえればうれしい」と語った。

 

 

 

マトフ(matohu)

「マトフ」2023秋冬コレクション

 

 “共振する世界”をテーマに、モデルと映像作品を使ったプレゼンテーションを行った。長着には自然を感じさせる藍染め、粘土を水で溶いた化粘土を流し掛け、ひっかいて模様を描くスリップウエアの模様を使った陶製のボタンなどで変化を加える。

 

 菊の葉、雪柄、宍道湖の夕日のような赤や夕日を映し出す川の流れと光など自然を感じさせる色やモチーフを使いながら、こだわりの手仕事と最小限の布の流れから俳句のように見る人に広がりや物語を感じさせる服たち。

 

 日本の職人との取り組みを一回のコレクションやファッションで終わらせず、継続し、発展させ、更に自身の仕事をまとめ、映像化し、残していく。一枚の布やプリーツと長着など、デザインは全く違うが、その姿勢や取り組み、考えは過去の仕事を発展させたペルマネンテコレクションを作り、プリーツなどの仕事を本や動画に残し、日本のデザインミュージアムを提唱した三宅一生氏とも共通する。また、映画「うつろいの時をまとう」の特別試写会も行われたほか、新ブランド「光をまとう」のスタートも発表した。

 

 

 

ミューラル(MURRAL)

「ミューラル」2023秋冬コレクション

 

 テーマは“フラジル”。「儚さと向き合い続けた半年間でした」と書いた今シーズン。暗闇のような会場。コレクションは植物や自然の美しさを感じさせる刺しゅうを施した黒のシリーズを着たモデルたちが進む。

 

 続く、光沢のある素材やラメなどを使ったドレスやスカート、プリントドレスなどは夜景や雪の降る夜空、星、宇宙などを感じさせる。スキントーンのシリーズにも雪が降るように、たくさんのパールが飾られ、光沢のあるプリーツやメタリックなファスナーなどもアクセントになっている。“フラジル”という言葉は30年前のトレンドやキーワードとして使われたものだが、当時のような未完成や荒々しさとは全く違い、儚げでありながら、エレガントで、美しく、完成度の高いデザインを生み出していた。

 

 

 

サポート サーフェス(support surface)

「サポート サーフェス」2023秋冬コレクション

 

 “Texturefull”をキーワードに、同ブランドならではの無地を駆使したコレクションとともに、凝った素材を使ったコレクションに挑戦した。袖が膨らんだ白いシャツやピンクのニット、前身頃にクチュールドレスのようなしわをプラスしたミリタリーパンツ、コクーンシルエットのドレス。ミニマムなスタイルに最小限のふくらみや空気感、布の流れを加えることで墨絵や俳句のように物語を生み出す日本ならではの感覚。シャンデリアのような装飾と静謐さが共存するロメオジリで働いた経験と美しい立体感を背景にした独特のムード。それらの要素が軽く、リアルで美しいリアルクローズを生み出す。

 

 そして、今回加わったツイードやモヘアループなど、作り込まれた素材が、立体感や変化を生み出す。ミニマムなまでの服に合わせるファーや牛柄、ゴールドをプラスしたユーモラスなシューズやフィナーレに登場した桜の花びらのようなピンクのワンピースなどもアクセントになっている。デザイナーは「無地ライクな素材が好きだが、ツイードなどの冬の素材のテクスチャーが新鮮に感じた。生地が高騰してなかなか使えない中で、あえて、手の込んだヴィンテージっぽい作りのコート、手の込んだものが新しいと思った」としている。

 

 

クイーン アンド ジャック(Queen&Jack)

「クイーン アンド ジャック」2023秋冬コレクション

 

 アジアの富裕層に人気のある日本の制服をアレンジし、スクールユニフォームのムードやディテールをアップデート。デビューショーとなった今回は、ラグジュアリーユニフォームをキーワードに、小池優子を起用したコレクションを発表した。

 

 サスペンダースカートやパーカーをベースに、グレーの制服を昇華させたというスタイリングやタックを使い、襟でボリュームを出した白襟を発展させたワンピース、合皮とフェイクファーによりスタジアムジャンパー。そして、アクリルとスチロール樹脂のリングをニットに編み込んだセーターやセーラーカラーをベースに衿に手編みレースとビーズをドッキングさせたケープコート。海外から見た日本をモードにしたデザイン。新しさ以上に完成度が目を引いた。

 

 

 

トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)

 

「トモ コイズミ」2023秋冬コレクション

 

 「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」の支援の下、制作、ミラノで発表したショーとFASHION PRIZE OF TOKYOの支援を受けてパリコレクションで行ったプレゼンテーションに続き、FASHION PRIZE OF TOKYO 2023 WINNER’S EVENTとして発表した今回。ミラノで行われたショーの映像とデザイナー自身による解説、作品展示でコレクションを紹介した。

 

 会場には「ドルチェ&ガッバーナ」のアーカイブから布やコサージュなどをリサーチ、「トモ コイズミ」が追求してきたオーガンジーなどを駆使したデザインに、花やハンドスモッキング、コルセットなどを加え新しいスタイルを生み出したドレスや、5体のドレスがつながった作品などが並ぶ。

 

 小泉智貴は「世界に進出する大きな一歩を踏み出すことが出来た」とあいさつ。モデルを使ったショーではなくプレゼンテーションを選んだことについては「ランウェイショーだと入れる人がすごく限られてしまう。何時間か使い、いろいろな人に見てもらうためプレゼンテーションにした」と話した。

 

 

取材・文:樋口真一

画像:各ブランドおよびJFWO提供

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