PICK UP

2023.03.16

【マーケットアイVol.2】トライ&ラーンの街NYのリテールはコロナ禍を経てどう変わったか

 マスク着用が任意となり、日本もいよいよポストコロナのムードが漂ってきました。これまで先発して様々な規制を撤廃した欧米ですが痛みや様々な問題を抱えながら、日常を取り戻しています。その中でも、世界のビジネスのラボ(実験場)とも言うべきニューヨークはどのように変わったのでしょうか。私が訪れた2023年2月中旬に目にしたのは、コロナ禍直前に新たなビジネスモデルとして注目されたプレイヤーがなくなったり、パワーダウンしたり、そして新たなプレイヤーが主役になっている現実です。「トライ&エラー」ならぬ「トライ&ラーン」の街ニューヨークならでは変貌ぶりです。今回は3つのテーマにそってお伝えしていきましょう。

 

 

躍進するD2Cブランド

  • ソーホーの「ヴオリ」

  • ソーホーの「パラシュート 」

  • ソーホーの「パラシュート 」

 勢いを感じるのがD2Cとしてスタートしたブランドです。目抜き通りや高感度エリア、モールの一等地に店を構えています。「ワービーパーカー」や「ボノボス」などはもはや老舗のような風格。それに続くプレイヤーがどんどん店を出しています。D2Cの初期は、「エバーレーン」のように様々な流通マージンを抜いて原価率の高さで高品質を訴求したり、「ボノボス」のようにスマートなカスタマゼーションを売りにしたりするように、デジタルだからできるビジネスの革新を謳うものが多かったのですが、新たな世代はそれぞれのオーナーデザイナーが提案するライフスタイルを反映させた価値訴求が中心にように思います。それらの中で多いのがウェルネステーマのD2Cやデジタフレンドリーなブランドです。「アロー(Alo)」や「ヴオリ(Vuori)」などのアスレチックやヨガウェアのブランド、「パラシュート(Parachute)」のようなホームコレクションのブランドはその筆頭です。

 

 かつての新興ブランドの出発点は、エッジの効いたメッセージを送るデザイナービジネス型か卸先の問題解決を提案するチャネルイン型が主流でした。しかし、現在は送り手のメッセージやソリューションを、オンラインを通じてエンドユーザーに伝えコミュニティ化する手法をとるプレイヤーが注目されており、その提案が本物かどうかを(商品を含む)コンタクトポイントを通じてジャッジされます。それをくぐり抜けて磨かれたプレイヤーが主役となりつつあるようです。

 

 

二次流通をはじめとするニュービジネスも存在感を示す

 

 エシカルやサステナブルへの取り組みが日本より先行しているニューヨーク。ファッション業界では二次流通ビジネスがそのメインビジネスとして注目されています。ただし、米国でそれらの多くはオンラインのプラットフォームが中心で、街を歩いて目にするのはセカンドハンドやスリフトストアなど以前からあるモデルが多いのが実情です。その中で目をひいた事例をいくつお伝えします。

 

 

■ザ・リアルリアル

  • ソーホーの「ザ・リアルリアル」

  • ソーホーの「ザ・リアルリアル」

  • ソーホーの「ザ・リアルリアル」

  • ソーホーの「ザ・リアルリアル」

 ハイエンドブランドを中心に取り扱うリセールECのリアルショップで、ソーホーにあり若い女性を中心に賑わっています。店買取りスペースの他、カフェを併設し、コミュニティ訴求型店舗になっています。二次流通の店で買取や買い物以外の機能も備えている点が新しいと感じた次第です。

 

 

■Jクルー

  • レストランのあった物件を活用したバワリーのメンズストア

  • トルソーが着用しているアウターがヴィンテージ

  • バワリーのメンズストアはコーヒースタンドも併設

 「Jクルー」は、スレッドアップとタッグを組み「Jクルーオールウェイズ」と言う自社商品のユースドを扱う二次流通プラットフォームを展開していますが、このバワリーにあるメンズストアではそれとは別に自社商品のユースドを販売しています。ただ、すぐに売り切れてしまうそうで、スタッフから「来る前に電話などで問い合わせて」と言われるぐらい人気のようです。「Jクルー」と言えば、以前トライベッカで「リカーストア」と言うコンセプトストアを開発していました。その名の通り酒屋をリノベーションして、ギャルソンをはじめとした仕入れ商品をミックスしたセレクトショップです。それに対してバワリーのこの店はレストランをリノベーションし、古着をミックスしたレトロ調の内装が特徴です。

 

 かつて同ブランドのようなSPAはセレクトショップ業態のコンセプトストアを開発してましたが、今はユースドミックスショップが最新事例となりました。時代を感じる事例です。

 

 

■セカンドストリート

  • ソーホーのセカンドストーリート

 日本人として一番びっくりしたのが、このセカンドストリートです。2018年1月に米国進出し各地でドミナント出店しており、NYには2020年にオープンし6店舗展開しています。私が訪れたのはソーホーの店ですが、現地の若者が続々と来店し買い物をしています。ヴィンテージやセカンドハンド、スリフトショップでは米国の方が先輩ですが、日本の業態が人気を博しているのです。現地の方に聞くと日本デザイナーコーナーなどを有する店舗もあるそうで、その特徴ある品揃えと、きめ細かい値付けが人気のようです。

 

 

インバウンド&メディア機能強化の百貨店

 ベビーブーマーが支持してきた百貨店業態。X世代以降から客離れが進み、オフプライスやオンライン、そしてインバウンドに軸足を移してきたのがコロナ前までの動きで、オフラインのフルプライスストアは置き去りになった感もあった時にコロナ禍が訪れました。そのコロナ禍を経てフルプライス店舗の政策は大きく2つに分かれているようです。コロナ前からの延長戦でありますが「ラグジュアリー&インバウンド」路線、デジタルを軸にした「メディア機能強化」路線です

  • サックスフィフスアヴェニュー

  • サックスフィフスアヴェニュー

  • サックスフィフスアヴェニュー

  • サックスフィフスアヴェニュー

 「ラグジュアリー&インバウンド」路線をとっているのが、アメリカの最高級百貨店「バーグドルフグッドマン」で「サックスフィフスアベニュー」などがフォローしている状況です。特に「サックスフィフスアベニュー」は、コロナ禍直前にグラウンドフロアを改装。同店の名物でもあったコスメフロアを2階にあげて、グラウンドフロアにはラグジュアリーブランドのバッグ&アクセサリー業態を集結しています。この政策には現地の顧客やジャーナリストから「サックスらしさがなくなった」と批判もあるそうです。足元顧客でなくインバウンドに軸足を移し、世界的メジャーになる施策ですから、ポストコロナでどのように成果に結びつのか注目です。ただし、この「ラグジュアリー&インバウンド」路線ではパリや英国の百貨店の方にアドバンテージがあり、今後NYがどのようにキャッチアップしていくのか見ていきたいところです。

  • 2019年にオープンした「ノードストローム」

  • 従来の「ノードストローム」のイメージから脱却した内装と展示

  • 「ノードストローム」のダイバシティー訴求イベント

  • 「ノードストローム」にある衣料品寄付ボックス

  • 「ノードストローム」の道路の向かい側にあるメンズストア

  • 「ノードストローム」のピックアップコーナー

  • グリニッジヴィレッジの「ノードストローム ローカル」

 デジタルを軸にした「メディア機能強化」路線をとっているのが「ノードストローム」、「ブルーミングデールズ」「メイシーズ」でしょう。「ノードストローム」はマンハッタンで最も新しい百貨店ですから、リアルならではの体験ができる店づくりが随所に見られ、イベントや展示、フロアゾーニング、ブランドミックス、ソーシャルグッドな取り組みなど現在のマーケティングキーワードを凝縮したかのような店となっています。そして「ノードストローム」はピックアップ専門サロン「ノードストロームローカル」も展開。ローカルの目的客にはクリック&コレクト、フルプライスは国内外の来街客狙いと、オンラインでの買い物を前提としたマンハッタンでの展開を考えていることが伺えます。

  • ブルーミングデールズ

  • ブルーミングデールズ NYFWと連動

  • ブルーミングデールズの多言語サイネージ

  • ブルーミングデールズ

  • ブルーミングデールズ

  • ブルーミングデールズ

  • ブルーミングデールズ

  • ブルーミングデールズ

  • ブルーミングデールズ

 予想外に良かったのが「ブルーミングデールズ」です。日本の百貨店が長らくモデルにしてきた同店は、「ハイイメージな大衆商売」が得意で、ハイファッションと実売のバランスづけ、イメージを高める陳列やサイン、そしてNY創業の百貨店としてのアイデンティティ表現が魅力でした。今回はそれらがさらに拡張。ファッション売場だけでなく非ファッション売場でのハイイメージ化が見所です。かつての間延びした家庭用品売場はシーン提案型のライフスタイル編集に変わっており、効率よりも「見せること」に注力することが伺えました。

  • 34丁目の「メイシーズ」

  • 「メイシーズ」ではアプリ入会促進POPが店のいたるところに

  • アプリをインストールしなくてもアプリの一部機能(プライスチェック)をQRコードで利用できる

  • プライスチェックの機能説明画面に遷移

  • 販売スタッフが最小限にしてパーソナルスタイリング訴求を強化

  • パーソナルスタイリストを画面から選ぶことができる

  • 34丁目の上層階にある「メイシーズ」のオフプライス業態

デジタルと言えばやはり「メイシーズ」が抜きん出ています。館内に入るとアプリインストールのプロモーションがあちらこちらに見られます。マイレージはもちろん商品の展開場所やプロモーション価格の確認など、アプリを入れることで買い物がお得かつ便利になるような施策を打ち出しています。そして特筆すべきは、スマホをQRコードにかざすだけでアプリの一部機能を使用できると言う取り組みです。アプリを入れるのが面倒な顧客や、繰り返し使う機会のない旅行客などにとっては、とても便利なものでした。

 

 

 2023年2月にリサーチした店の変化を3つの大テーマにとって紹介してきました。これからも国内外のポストコロナでの取り組みについてウォッチしていきたいと思います。

 

 

文:山中健

画像は編集部撮影

 

 

山中健 Takeru YAMANAKA

欧米、アジア、国内のコレクション取材やファッションマーケット調査を数多く行っており、国内外のファッションビジネスの動向を語ることができる貴重な存在として注目されている。

2009年にアパレルウェブコンサルティングファーム主席研究員、2011年にアパレルウェブ編集長就任。2018年より毎日ファッション大賞推薦委員を務めている。

■アパログ

 

メールマガジン登録