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2023.02.05

【2023秋冬パリメンズ展示会レポート1】コロナ後の復活うかがうパリメンズ・トレードショー

 2023秋冬シーズンのパリメンズ・トレードショーが、2023年1月19日から22日まで開かれた。コロナ直前の20年1月以来のメンズシーズン取材となった今回だが、コロナ以前の勢いを取り戻したかが、一つの焦点となった。

 

 また、この時期には必ずと言ってよいほど、ストライキが行われる。3年前も、今回もテーマは同じく、年金改革に反対するメトロ・バス・国鉄など公共交通機関のストライキが実施され、自動運転の1・14号線以外のメトロ・バスは、大幅な間引き運転や全面ストップで展示会場への足が奪われた格好だ。各トレードショーごとに見ると微増となったウェルカムエディション以外は、出展者が大幅マイナスとなっている。総出展者数は、3年前の310ブランドから222ブランドへと大きく減らし、28.4%減とコロナ前までの回復には至っていない。各トレードショーの概況を紹介する。

TRANOI MEN

写真:マレ地区のガラージュ・アムロに移転して開かれたトラノイ

 

 3年前、2020年1月にはメトロ・ブルス駅前のパレ・ブロンニャールで開かれていた「トラノイ・メン(TRANOI MEN)」は、マレ地区のガラージュ・アムロの1階に会場を移して開催。2020年8月に、国際的なテキスタイル見本市「プルミエールビジョン(PV)」を擁するGLイベンツの傘下となり、パリコレクションを主宰するフランスオートクチュール・モード連盟が認める唯一の公認トレードショーとして開かれた。

 出展者数は、3年前に比べると21.2%減の52ブランドだったが、連盟が厳選した出展者のみに絞ったという。この数字とは別に、英国ファッション協会(BFC)による「ロンドンショールーム」の17ブランドやコレクティブショールームなどを合わせて75ブランドが同会場内に出展した。日本からは「ファンダメンタル(FDMTL)」「カム & プレイ(COME & PLAY)」など5ブランドが出展した。

写真:津島忠章TRANOI日本リージョナルマネージャー

 

 トラノイの津島忠章・日本リージョナルマネージャーは、「マレ地区のショールームが多く開かれる中心地に移ったことでトラフィックが良くなり、公式のショーも同会場の階上フロアで1日に1本開かれるなど、来場増に繋がっている」と評価した。コロナ以前との変化については「コロナ下で100日位、店を開けられなかった百貨店では、バイヤーがリストラされ、以前強かったセレクトショップが無くなっているなど大きく変化している。だが、それらに替わってまた新しく元気な店も増えてきている」と手応えを感じているそうだ。

 一方でアジアからの出展者については、ウィメンズでパビリオン出展している「ソウルファッションウイーク」の継続、近い将来の中国からのパビリオン出展も予想され、「日本勢の力がアジアの中で相対的に弱まっている」と危機感を募らせていた。

写真:2019年6月のジャンブル・パリ以来のパリ出展となった「カム・アンド・プレイ」の宮里旭さん。

写真:デニムの残布を使ったエプロンやリサイクルポリエステルのボアを使ったデニムライン(左)と日本の生地・縫製にこだわったパフォーマンスライン(右)をトラノイに出展し、米国を中心に反応が良かったという。

写真:以前は、マンやジャンブル・パリに出展していた「ファンダメンタル」

 

 

MAN/WOMAN PARIS

写真:ヴァンドーム広場の南西角にあるイベントスペースの1階と地下の2フロアで構成された「マン/ウーマン・パリ」

 

 3年前は3会場を擁していた「マン/ウーマン・パリ(MAN/WOMAN PARIS)」は、ヴァンドーム広場の1会場のみになり、1日遅れて20日から始まった。事実上ウィメンズのプレコレクションが無くなったことにより、77ブランド、51.3%減と大幅に出展者を減らした。

 もっともコロナ下では、ウィメンズの時期に「プルミエールクラス」内に合流して8ブランド程の出展者という苦境もあり、それを潜り抜けて復活してきたとも言える。日本からは「ナナミカ(nanamica)」「ハバーサック(HAVERSACK)」「バトナー(Batoner)」「ポストオーバーオールズ(POST O’ALLS)」「カネマサフィル(KANEMASA PHIL.)」など22ブランドが出展した。

写真:バトナーは、ファクトリーブランドの強みを生かして拡販する奥山メリヤスのオリジナルブランド

写真:NYで大淵毅さんがスタートしたポストオーバーオールズがパリに初出展した

写真:和歌山県の老舗ニットメーカー、カネマサ莫大小によるオリジナルブランド、カネマサフィル

 

 

WELCOME EDITION

 3年前のメトロ・ベルビル駅近くから、バスチーユ広場近くに移転し、アクセスが良くなった「ウェルカムエディション(WELCOME EDITION)」は、出展者数を若干増やして8.1%増の93ブランド。日本からは「ライディングハイ(RIDING HIGH)」「タビト(TABITO)」など5ブランド程が出展した模様だ。

 

 徐々に復活しつつあるパリのトレードビジネスだが、ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う大幅なインフレが消費マインドにどのような影響を与えるのか予断を許さない状況は続く。さらにはこの間拍車がかかっているECシフトによる実店舗の再編や卸ビジネスの縮小、気候変動問題やSDGsに関わる様々な課題、SNSに象徴される消費性向の変化や格差の拡大と新たな富裕層へのアプローチ、輸出入に直接大きな影響を与える運賃の上昇も懸念材料だ。こうした時代の変化に適応していくことが求められる。

 

 また特にパリ特有の課題も浮上している。それは2024年夏に控えるパリ五輪に向けて、ホテル価格や航空運賃の高騰による出展コストの上昇傾向も忘れてはならない。これらのハードルを乗り越えながら、ビジネスを前に進めていかねばならない訳で、「素敵なファッションを、はい、売った買った」だけでは済まされない複合的な課題を、パズルを解くがごとくクリアしていかなければならない。

 

 「人を幸せにする」ファッションの本質的役割は不変だが、それを全うするための知恵が求められている。

 

 

取材・写真・文/久保雅裕

アナログフィルター「ジュルナル・クボッチ」編集長/杉野服飾大学特任教授/東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)代表理事・議長

 ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。「senken h」を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

 大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア「Journal Cubocci」を運営。2017年からSMART USENにて「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」ラジオパーソナリティー、2018年から「毎日ファッション大賞」推薦委員、2019年からUSEN「encoremode」コントリビューティングエディターに就任。2022年7月、CFD TOKYO代表理事・議長に就任。この他、共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。

 コンサルティングや講演活動の他、別会社でパリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアの開催、合同展「SOLEIL TOKYO」も主催するなどしてきた。日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。

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