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2023.01.26

【2023秋冬パリメンズ ハイライト3】本質探究の先に生まれる「マスキュリンとフェミニンの融合」「マスキュリンエレガンス」そして「アメリカンヴィンテージ」  

写真左から「ディオール」「サンローラン」「アミリ」「ルイ・ヴィトン」

 

 2023年1月22日に2023秋冬パリメンズファッションウィークが閉幕した。ポストコロナの完全復活と言いたいところだが、消費に一定の影響を及ぼしていたロシアや中国からのセレブリティ、バイヤーの来仏が無く、その部分でのマイナスは否めない。とはいえ、すべての公式スケジュールがフィジカルに行われ、さらにオフスケジールのショーやプレゼンテーション、レセプションパーティーなども毎晩あちらこちらで開催されるなど、コロナ前の華やかさが戻ったと言える。日本からのメディアやバイヤーも多く見受けられ、「ほぼ復活」というのが正確なところかもしれない。また同じアジア勢としては、韓国からの勢いが増しているように感じられた。

 

 日本人セレブの来場も多かったようだ。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は岩田剛典、佐野玲於ら、「ジバンシィ(GIVENCHY)」はSnow Manのラウール、「ディオール(Dior)」は大平修蔵やYAMATOらをオフィシャルに招いたが、お忍びで来ていたセレブリティが何人もおり、高コストという問題は関係ないセレブリティにとってはコロナによる分断は解けたのだろう。

  • 岩田剛典 Courtesy of LOUIS VUITTON

  • 佐野玲於 Courtesy of LOUIS VUITTON

  • ラウール Courtesy of GIVENCHY

  • 大平修蔵 Photo by Pascal Le Segretain/Getty Images for Christian Dior

  • YAMATO Photo by Pascal Le Segretain/Getty Images for Christian Dior

 今シーズンはミラノメンズでもあがった“本質の探究”というテーマに取り組んだメゾンやデザイナーが多い。自身の独自性を見つめ直すとともに、メンズウェアの定義を見つめ直した。新たな男性像としてマスキュリンとフェミニンの融合、古き良き男性らしさをアップデートしたマスキュリンエレガンスなどが主流となったのもその結果かもしれない。また、マーケット志向のブランドは、ユースに向けた提案がやはり多く、先シーズンのようなY2Kファッションとは別に古き良き頃のアメリカンカジュアルをアレンジしたコレクションが多かった。

 

 

 

アンダーカバー(UNDERCOVER)

「アンダーカバー」2023秋冬コレクション

 

 「アンダーカバー」は、2023秋冬コレクションをマレ地区のショールームで披露した。随所にワッペンや凝ったビーズ刺繍を施したテクニックが多用されている。特に今シーズン圧巻のアイテムは、100個以上の同色のワッペンを貼り付けた黒とブラウンの2色展開のブルゾンで、小売価格は50万円を超える。

 

 またスウェーデン人の学生詩人が綴った「A WOLF WILL NEVER BE A PET」のアルファベット一文字ずつを別々の色のワッペンで貼り付けたマスタードイエローに黒い袖のスタジャンも注目だ。このアイテムには、白のみのトーンオントーンのものもある。手のモチーフのビーズ刺繍は、ポケット内まで重ねて施されており、デニムシャツに変化を与えた。

 

 このほか縮絨をかけたアーガイル柄のウールシャツジャケットや、前から見るとヒョウ柄のコーデュロイだが背中にフォーマルベストを貼り付けてあるギミックの利いたテーラードジャケットなども発表した。

 

 

 

ロエベ(LOEWE)

「ロエベ」2023秋冬コレクション

 

 ジョナサン・ウィリアム・アンダーソンによる2023秋冬メンズコレクションは、パリ南西部に位置するスポーツ施設「スタッド・ピエール・ド・クーベルタン」に真っ白なスペースを設えて発表した。

 

 今回のコレクションは、古の技法をテーマにしており、ジョナサンの関心は1990年生まれの若き画家ジュリアン・グエンの対話から生まれた。ジュリアンの伝統的な画材を組み合わせる手法や初期ルネサンス絵画やSFなどが、コレクションにおける素材選定や図象的要素に影響を与えたという。そのジュリアンが今回のコレクションのために3つの作品を制作。彼が崇めるモデル、ニコスを描いたものだ。この作品の横をモデルがウォーキングしてショーがスタートした。

 

 半裸にコートを纏ったファーストルックをはじめ、少年のようなモデルたちが肌を見せて次々と登場。このシンプルな見せ方がシルエットをよりクリアに見せる。シアリングコート、カーディガン、クルーネックのプルオーバーなど、着用したアイテムの多くが肌に優しくウォーミングな素材のもの。深いVネックのワンピースは、片腕をネックホールから表に出して闊歩した。

 

 他にも銅板や固定されたフェルト、糊で固めた麻のようなシワの入った形状記憶フォルムのアイテムなどコンセプチャルなアプローチが多い。さらに、大きな羽根を背中に取り付けたTシャツのみの男性モデルも登場し注目を集めた。

 

 

 

ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)

「ホワイトマウンテニアリング」2023秋冬コレクション

 

 リュクサンブール公園の南に位置するパリ・シテ大学薬学部の校舎内でショーを開いた「ホワイトマウンテニアリング」。深みのある色合いや、草木柄をアレンジしたオリジナルテキスタイルを豊富に見せた。

 

 テーマは“After all”。東京と軽井沢の2拠点生活を行うデザイナーの相澤陽介はコロナ禍を経て東京のアトリエで過ごす時間が必然的に少なくなり、軽井沢のアトリエでエリオット・ポーター、石川直樹など、数多くの山に関連する写真集や文献を読み進めるなかで、山々の表情の変遷に惹かれたという。

 

 コレクションの多くを占めるのがブラックのルック。冬においてのほとんど闇に包まれている山の表情を表現したのだろうか。その闇に映える色合いや色調を入れ込み、深みを与えた。カーキ×モスグリーン、マスタード×ダークブラウンの切り替えダウンアイテム、冬の山肌のようにもリーフ柄のように見えるニット、民族調のストライプのワンピースなどが目をひいた。また、同ブランド特有の機能美も健在。ダッフルコートの前身頃からトグルボタンへとつながる麻紐が長く留め付けられているディテールなども見られた。

 

 会場には、相澤デザイナーと親交のある石川直樹も来場。ゲストには、今回のコレクションのインピレーション元にもなった彼の写真集「Manaslu」を配布し、その世界観を共有した。

 

 

ダブレット(doublet)

「ダブレット」2023秋冬コレクション

 

 「ダブレット」はパリ・シテ大学薬学部の校庭でショーを開催。極寒の中ブランケットで暖をとるゲストの前に現れたのは様々な動物の着ぐるみ。遊園地でかかるような楽し気なアコーディオンの楽曲とともにダンスでもてなした。その中のうさぎの着ぐるみの頭をとった人気モデルUTAが歩き出し、ショーがスタートした。

 

 ハードロックに合わせて、モデルたちは怒ったようないかつい顔をして、足早にランウェイを闊歩。多様な年代、人種、体型のモデルたちが着用するのは同ブランドらしいパンチの効いたアイテムの数々。日常になじむアイテムをサイズ感やアイテムミックスで斬新に見せる手法は今シーズンも健在。DOUBLと背中に描かれたフランスの工事用ビブス、絞りのTシャツ、ワンショルダーのTシャツなどの他、クロップドトップスやシアーなトップス、マイクロショーツによる足出しルックなどユースパワーが寒さを吹き飛ばした。

 

 フィナーレは、一転、モデル全員の表情が笑顔に変化して手を振りながら一周し、閉園時間を迎えた遊園地のスタッフのようにゲストにグリーディングした。

 

 

サカイ(sacai)

「サカイ」2023秋冬コレクション

 

 「サカイ」はマレ地区の会場カロー・デュ・タンプルでショーを開催。黒い砂とシルバーの四角い椅子が独特のムードを醸し出す中、2023秋冬メンズコレクションと2023プレフォールウィメンズコレクションを発表した。

 

 変化、変形、変質を意味する“トランスフォーメーション(Transformation)”をテーマに、過去、現在、未来の関係性を探りながら、新しいものへのトラスフォームを試みた。見慣れた形やシルエットが、着こなしによって変形し、変化することで、着る人の個性を引き立たせたという。ジッパーを開閉することで変形するドレス、アウターレイヤーがバックパックスタイルに変換するジャケットなどを提案した。

 

 全体的に黒のルックが多いが、オレンジ、冷たい表情のブルーがかったグレーのルックやグラデーションがかった縦割りのカラーパネルを配したシャギーニット、書棚の総柄プリントのアウターなども登場した。

 

 そして、今回の話題は「モンクレール(MONCLER)」とのコラボレーションアイテムを10年ぶりにリリースしたこと。ショーの後半に発表し、「モンクレール」の機能美と「サカイ」特有のエレガンスが融合したアイテムをお披露目した。他にも「カーハート(CARHARTT)」や「ナイキ(Nike)」とのコラボレーションアイテムも紹介。2023秋冬シーズンも話題の多いシーズンになりそうだ。

 

 

キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)

「キコ コスタディノフ」2023秋冬コレクション

 

 今シーズンはメンズウェアという枠の中で新しいアイデアを表現することに挑戦した。

 

 アンネマリー・ベレッタ、クリツィア、イレーネ・レンツ、そしてソレル・フォンタナら、レディスファッションの歴史において重要な役割を果たした往年のデザイナーたちに提案するというアプローチでコレクションを製作。1920年代のゴールデンエイジ、ミッドセンチュリー、1980年代と様々な時代のファッション要素を散りばめた。

 

 柄やアイコンなどでなく色彩で魅せた。ヴァーミリオンレッド、マゼンタ、グラスグリーン、シャルトリューズグリーン、バイオレット、コバルト、ティールなど鮮やかなカラーをコントラスト配色した。

 

 

 

ターク(TAAKK)

「ターク」2023秋冬コレクション

 

 「今シーズンはこれまで以上に自分自身を見つめ直したシーズンでした」というコメントを発表した「ターク」の森川拓野。北マレのパーキングビルで発表した2023秋冬コレクションは黒のルックでスタート。鮮やかな柄で知られる同ブランドだけに意外なショーの幕開けだ。

 

 コレクション全体としては森川のアイデンティティを強く印象付けた内容であった。抽象画から大きなインスピレーションを得たといい、キャンバスに描かれた絵の具の細かな盛り上がりと崩れなどを感じさせるブレたような絵画柄、デニムのダメージジャカード調コート、ブルー、グリーン、ピンク、ブラウンのシャギーなボーダーニットなどで思いを表した。

 

 織り成す情感を素材で表現。何層にも塗り重ねられた自画像のようなグラフィック表現、コントラストのあるテクスチャー、ジャカードの角度を変えたファブリックなど、素材にこだわりを持つブランドらしい出来上がりだ。

 

 打ち掛けのように風になびく総柄のロングコート、空気を含むワイドパンツなどが作り上げる軽やかなシルエットが魅力的。上から下へグラデーション状に表情を変えるブルゾンや、変化のあるテクスチャーで切り替えるジャケット、ベスト、コートなども印象に残った。

 

 

メゾン マルジェラ(Maison Margiela)

「メゾン マルジェラ」2023秋冬コレクション

 

 パリメンズのラストは「メゾン マルジェラ」。「Co-Ed」コレクションを最近移転したばかりの本社5階フロアでのフィジカルショーとデジタルの両軸で披露した。

 今シーズンは、22年春夏オートクチュールの「アーティザナル」コレクションで提案した「シネマ・インフェルノ(Cinema Inferno)」をベースにプレタへと転化したコレクションとなっている。ジョン・ガリアーノのかつてのコレクションと親和性が高いルックも多く 登場した。

 
 チェック柄は、「ペンドルトン」を採用し、ウェスタンディテールのヨークにはミッキーマウスのシルエットが隠れている。実際には表地を切り取り、芯地が剥き出しになったようなディテールだ。芯地があらわになり、まるで仮縫い糸のような、しつけ糸が残ったように随所に白い糸が渡されている。フリンジやフォークロア調のパターンなどの野趣な要素もウェスタン由来だ。

 シャツは全て前後逆さまにスタイリングされ登場。通常の背中側を正面にし、スタンドカラーのように襟を立てて着用するのが今回の正しい着方で、もちろん前ボタンで普通に着ることもできるツーウェイ仕様だ。

 

 「みすぼらしい人の寄せ集め」を意味する「ポベリーノ・アッサンブラージュ」のシリーズでは、オーガンジーやチュールなどを破ったり、切り放しでドッキングしたドレスが並ぶ。さらには大きな共布リボンを付けたビッグシルエットのAラインコート、フクレジャカードやサンドストーミングを施したコートも大振りだ。人気の足袋シューズからは、初めてポインテッドトゥのパンプスがラインナップ。ランジェリーやペチコートなどのセンシュアル要素を毒気たっぷりにミックスし、独特のエレガンスを構築した。

 

取材・文:久保雅裕、アパレルウェブ編集部

画像:各ブランド提供(開催順に掲載)

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