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2023.01.23

【2023秋冬パリメンズ ハイライト2】パリでも広がる「本質の探究」 メゾンや服の原点を見つめ直すデザイナーたち

左から「ルイ・ヴィトン」「ディオール」「ケンゾー」「ドリス ヴァン ノッテン」

 

 2023秋冬パリメンズファッションウィークの2・3日目である2023年1月19日と20日には注目のビッグメゾンのショーが行われ、同ファッションウィークの見所満載の2日間となるはずであった。しかし19日には、マクロン政権発足以来、最大規模のストライキが行われ、地下鉄2路線以外は、ほぼ全滅という中、徒歩やシェアサイクル・電動キックボードでの移動を余儀なくされた。年金制度改悪に反対するストと同時にデモや集会も開かれ、通行止めによる渋滞でタクシーも役に立たず、雨にもたたられ、最悪の取材環境となった。

 

 このような環境の下、行われたショーやプレゼンテーションでは、ミラノメンズやパリメンズの序盤で見られた“本質の探究”というテーマがやはり多く見られた。脱トレンド追随と言われて久しいが、ポストコロナへ本格的始動ということもあり、原点回帰がメゾンやデザイナーの間でシンクロしているのであろうか。

 

 

 

オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE)

「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」2023秋冬コレクション

 

 毎回パフォーマンスと融合したショーを行う「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」。今回は、無数の粒子で構成された 架空の大河の映像をランウェイ全体に投射した。その映像の中をパフォーマーが舞いショーがスタート。途中にもパフォーマンスを挟み2部構成でコレクションを発表した。

 

 コレクションのテーマは“アポン・ア・シンプレクス(Upon A Simplex)”。三角形をはじめとするシンプルな図形を基に、複合的なフォルムを構築した。

 

 ショーの前半は、カラフルなプリーツ加工アイテムをコントラストで見せた。太めのひだが入った袖のトップスはホワイトや鮮やかなグリーンなどで、三角形を組み合わせたようなカッティングに袖口から背中にひだをつけた立体的なミドル丈のコートは、オレンジやスカイブルーなどスポーティーなイメージで魅せた。

 

 ショーの後半は、よりコンセプチャルなアイテムが特徴。格子柄のアイテムは体の動きでより屈折したように見え、パフォーマンスで投射した映像とシンクロしているようだ。大小の三角形を赤と黒、黒と白に組み合わせた柄のアイテムは、アメリカ人建築家で思想家でもあるバックミンスター・フラー氏からインスパイアされたもの。立体構造を平面化したという同柄が、服の立体的なフォルムを印象づけた。

 

 

 

ファセッタズム(FACETASM)

「ファセッタズム」2023秋冬コレクション

 

 フォーラム・デ・アルのパティオを見下ろす大きな窓面のある通路を会場に、3回のショーを行った。

 パープル、ピンク、ブルーをキーカラーにグラデーションを利かせたボーダーのウールコートからショーがスタート。モノトーンのバンダナプリントと無地の黒、フラワープリントと無地のワインカラーを上下で切り替えたMA-1やカーキの濃淡2色を構築的に切り替え、ジレと組み合わせたようなシャツジャケット、後身頃から袖へかけてと裾がジップで取り外しできるジャケットなどギミックも満載だ。

 特に今回はアルカンターラとのコラボレーションにも取り組んだ。レーザーカットで透かした切り絵細工のアルカンターラを様々なアイテムに取り入れたシリーズを披露した。

 

 

 

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

「ルイ・ヴィトン」2023秋冬コレクション

 

「 ルイ・ヴィトン」は、男の成長ストーリーをコレクションで描いた。少年時代から、思春期、成人期への道のりを、複数の部屋で表現。モデルが部屋を移動するような形式でショーを進行した。
 
 子供部屋の壁紙のようなハッピーな総柄、映画やテレビが融合したような絵画柄、PCモニターやスマホから覗いたサブカルやアングラ由来のモチーフなど、WEB1の時代に生まれた世代を取り囲むアートやムーブメントとシンクロするモチーフをコレクションに散りばめた。中にはスクリーンショットでぼやけたようなアップルマークの総柄ルックも見られた。
 
 アイテムはライフステージごとにマストハブとなるものが中心。子供服のような総柄ルック、ティーンエイジにハマったロックやニューウェーブファッションの他、ストリートスピリットをまとったワークウェアや手紙を装着したルックも。
 
 大人の男の象徴であるテーラリングは、ドレープやフリュイド、オーバーフィットなどをふんだんに取り入れ、自由な解釈で表現。ポストコロナの新たな時代のフォーマルを提案しているようにも思える。
る。

 

 

 

アミリ(AMIRI)

「アミリ」2023秋冬コレクション

 

 米ロサンゼルスで生まれ育ったマイク・アミリによる「アミリ」。今シーズンは、1990年の東海岸ニューヨークに思いを馳せたコレクションを発表した。

 

 多くのメゾンがショーを行ってきたマレ地区のカロー・デュ・タンプル内に今回のために設えた円形の劇場がコレクション会場だ。ブラス・ロックバンドの演奏と共にショーがスタート。レコード盤を模した円盤型ステージの中心にはロゴマークの明かりが点りその周りをモデルがウォーキングするという趣向だ。

 

 モデル全員がニュースペーパーキャップを被り、多くがクラッチバッグやファイルボックスを手にウォーキングした。発表したアイテムの多くは、バーシティージャケット(スタジャン)、トラッカージャケット、スィングトップなどアメリカのオールディーズを象徴するもの。

 

 ただし、「アミリ」の手にかかるとラグジュアリーなムードを帯びる。それはサテンやフェイクファー、レザーなどのリュクスな素材感、スワロスキーのスパンコールなどの装飾、パッチワークやハンドペイントなどのクラフトワークによるもの。数多くのアーティストに愛されてきた「アミリ」らしく、どれもステージで映えるようなものばかりだ。

 

 スーツに対する解釈も面白い。レザーのダブルブレステッドのジャケットスーツをミニマムな柄ニットとアウトタックしたシャツでレイヤードしたり、ライトグレーのブラッシュドウールのジャケットをロングパンツと共地で揃えたりするなど、ストリートのスピリットに満ちコージーに過ごせるアイテムへと転換した。

 

 ショーのフィナーレでは、ランウェイを渦巻状にウォーキング。古き良き時代の群像を見るかのような演出で締めくくった。

 

 

ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)

「ヨウジヤマモト」2023秋冬コレクション

 

 「ヨウジヤマモト」の2023秋冬コレクションショーは、マレ地区のサンマルタン通りにあるワイズ・フランスで開かれた。

 

 ショーの初めに登場したのは英国調チェックのジャケット、エスニックにも和柄のようにも見える民族調のパンツやコート、柄オン柄のルック。その後も抽象画のようなもの、絣風な柄やボタニカル柄のジャカードなど様々な総柄アイテムをレイヤーしたルックが登場した。柄が多様でも、落ち着いたムードを保っているのはやはり同ブランドならでは。モノトーンの中で映えるよう、彩度と濃度を調整した結果であろう。

 

 そして後半にはムードを変えシャープな印象のルックが登場。それは艶感のあるネイビーを使用したルックやウエストあたりで捻ったようなジャケットをキーとしたルックなどだ。最後はブラックのアイテムに白の部位やテキスタイルをドッキングしたルックで締め括り、静と動、硬と軟の二面性を印象づけた。

 

 ジャニーズの人気グループ「Snow Man」のラウールがモデルとして登場したことも話題となった今回のショーだが、もう一つニュースがあった。それは、ヨウジヤマモト社の新しいメンズラインとして「ワイズ フォー メン (Y’s for men)」をお披露目したこと。ツイード調のジャケットをキーとした4ルックをショーの中盤に紹介した。

写真:Snow Manのラウール(写真左)、ワイズ フォー メン 

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)

「ドリス ヴァン ノッテン」2023秋冬コレクション

 

 「ドリス ヴァン ノッテン」はベルギーの実験音楽家ランダー&エイドリアンによるパフォーマンスと共に2023秋冬メンズコレクションを発表した。会場は、パルマンティエ駅近くのパーキングの上階で、スロープを上がる毎に、各階ではアンビエント系の演奏で迎えてくれた。オールスタンディングで、ドラムとキーボードのライブパフォーマンスを楽しみながら、ショーがスタートした。

 

 コレクションのテーマを“自然界についての研究”とし、自然界のモチーフを用いた総柄ルック、テーラリング、レイブカルチャーのスピリットを纏ったルックなどが登場した。

 

 ショーの序盤は、テーラリングのルックが登場。オーバーサイズの落ち感のあるテーラリングルックのほかに、8ボタンのダブルブレストジャケットや体にフィットしたピーコートなど胸元が詰まったルックも魅力的だ。肩はコンパクトで構築的に強調され、ウエストを絞ったシルエットが目立ち、ローマテリアルにアースカラーやスキンカラーを載せている。

 

 ショーが進むにつれ、多様なルックが登場。中でも目を引くのがボタニカルな総柄のルックだ。オニユリやとぐろを巻くヘビ、羽を広げたワシなどの毒気のある自然界由来のモチーフ、サイケデリックパターンなどが次々と現れ、テーラードジャケットやパンツへのスクリーンプリントやレースシャツへのプリントなども有機的な曲線で表現され、自然のエネルギーや美を力強く打ち出した。

 

 アイテムもストラップ付きのマルチポケットアウター、オーバーサイズのパファジャケット、メタリックで装飾したピーコートやウェスタンシャツ、リボンがついたカーゴパンツなどが登場。人間と自然界の切っても切れない関係性を感じさせる。

 

 

 

アミ パリス(AMI PARIS)

「アミ パリス」2023秋冬コレクション

 

 アレクサンドル・マテュッシによる「アミ パリス」は前奏曲を意味する“プレリュード”というタイトルをつけて2023秋冬コレクションを発表した。会場は、パリ国立オペラ座の近代的施設であるオペラ・バスティーユの舞台。数々のオペラやバレエなどが演じられてきたこの舞台でファッションショーが行われたのは初めてのことだ。

 

 アレクサンドルは今回のショーを、同ブランドの新章の始まりとし、ブランドの本質に立ち戻り、パリジャンを表現したという。キーアイテムはオーバーフィットなマキシロングコートやダブルブレストのジャケット。これらのキーアイテムをニュートラルカラーやパステルカラーなどで彩り豊かに用意し、それぞれの個性に合わせて自由に楽しむムードに満ちていた。

 

 あるルックでは、ハーフパンツと白Tシャツの上にガウンのように羽織ったり、またあるルックではワントーンで繊細に揃えたりした。1アイテムでジェンダーレス、エイジレス、シーンレスに着こなすというタイムレスな提案にも映った。

 

 本質に立ち戻るということで、ロゴや派手なモチーフは皆無。素材による表情や色の合わせによる妙によって魅せるコレクションであった。

 

 

 

ポール・スミス(Paul Smith)

「ポール・スミス」2023秋冬コレクション

 

 「ポール・スミス」はテーラリングの伝統とプリントの専門性を追求したコレクションを発表した。

 

 ファーストルックは、ブラックの3ボタンのスーツ。「ポール・スミス」がビジネスを拡大した1990年代に多くの男性が着用したモデルだ。その後もテーラリングや英国調のバルカラーやトレンチ、チェスタコートをキーにしたルックが登場した。

 

 テーラリングや英国調のコートと言っても遊び心にあふれ、最旬のムードに持っていくのが「ポール・スミス」。ニットをオッドベスト風に合わせたり、カジュアルアイテムとのセットアップにしたり、スリーピースやツーピースを新解釈したかのようなルックが多く見られた。さらにツイードや千鳥格子、ブークレーなどの伝統的なファブリックも斬新な解釈で使用した。

 

 また「ポール・スミス」のお家芸ともいえるプレイフルなプリントは今シーズンも豊富。ウィンドウペーンやプリンス・ウェールズなどの伝統柄も新素材や新鮮なアイテムに使用し新たな表情を見せ、インテリア柄もアビエータージャケットやビッグコートなどにあしらった。

 

 そして今シーズンのトピックとして、「ポール・スミス」と同時代に創設された英国ブランド「マルベリー(Mulberry)」とのコラボレーションアイテムを発表。「マルベリー」のクラシックなメッセンジャーバッグ「アントニー(Antony)」を、「ポール・スミス」のシグネチャーストライプのウェビングストラップに替えたモデルを発表した。

 

 

メゾン ミハラ ヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)

「メゾン ミハラ ヤスヒロ」2023秋冬コレクション

 

 「メゾン ミハラ ヤスヒロ」のショー会場は、凱旋門にほど近いビルの中のスペース。小さな丸テーブルがたくさん置かれ、それを囲む形で客席が配された。まるで即席のカフェのようだ。ランウェイに置かれたディスプレイにテレビ画面のカラーバーとドラムのライブ演奏映像が交互に映し出され、ショーがスタートした。

 

 胸元から下や背を丸くえぐり落したようなデザインのトップスは、ローゲージニット、ダウンからMA-1まで、様々なアイテムに落とし込まれている。メンズモデルが着るツイードのテーラードジャケットとタイトなマキシスカートのセットアップは、ジェンダーレスを象徴するルックだ。

 

 そし今シーズンは、ジュエリーデザイナーとして東京とニューヨークで活動する「コウタ オクダ(KOTA OKUDA)」の奥田浩太とコラボレーション。彼のシグネチャーであるドル紙幣のプリントを施したトップスやストールのようなアイテムは圧倒的な存在感を放った。

 

 フィナーレは、スタッフがモデルに向かって銀紙の吹雪を手で投げかけるというアナログな仕掛け。その後、デザイナーの三原康裕は、オーディエンスに紙吹雪を投げかけながら、ランウェイを一周して立ち去った。

 

 

ディオール (DIOR)

「ディオール」2023秋冬コレクション

 

 キム・ジョーンズによる2023ウィンターメンズコレクションは、21歳でムッシュ ディオールの後継者となりメゾンを若返らせたイブ・サンローラン、T・S・エリオットの長編詩「荒地」、セーヌとテムズという2つの大河からインスピレーションを受けたという。

 

 イブ・サンローランのヘリテージは、マスキュリンとフェミニン、英国テーラリングとオートクチュールの融合という手法で、今シーズンに現れた。シアー素材や立体刺繍などをメンズのスポーツアイテムやミリタリーアイテムにあしらった。そしてスカートライクなボトムスなどウィメンズアイテムを採り入れたクロスジェンダーな仕掛けも多く見られ、マントのようなトップスやイブ・サンローランの「パリ」アンサンブルのセーラートップをアップデートしたアイテムも登場した。

 

 第一次世界大戦後の西洋の混乱を前衛的に表現したという「荒地」に関連するのか、サバイバルを思わせるアウトドアルックも多い。バケットハットやアウトドアジャケット、フライトジャケット、アランニットなどを極上の素材やテクニック、ニュートラルやパステルなどのカラーリングで上質なエフォートレスかつモダンに仕上げているのは「ディオール」ならでは。

 

 

 

ケンゾー(KENZO)

「ケンゾー」2023秋冬コレクション

 

 NIGO®による「ケンゾー」は、フォーブル・サントノーレ通りのコンサートホール「サル・プレイエル」でショーを開催。日本人女性4人組のピアノと弦楽器ユニット「1966カルテット」によるビートルズ楽曲演奏に合わせて、ショーがスタートした。

 

 UTAが着用したファーストルックは、ノーカラージャケットとプリーツパンツのセットアップ。クリーンでありながら同メゾンの持ち味であるエスニックとNIGO®が得意とするストリートが融合したルックだ。実は今回のコレクションでNIGO®は、メゾンの創設者、高田賢三と自身の共通点を見つけたと言い、高田が残した数々の作品からインスピレーションを得たアイテムを多く発表した。

 

 最も顕著に現れるのがモチーフや柄だ。1980年代のブロークンストライプがモチーフのダズルストライプは抑えめの色調に、KENZOローズプリントもパンツの切り替え部分などに見られ、象徴的なタイガーモチーフは大柄エンブレムとして使用した。

 

 モチーフだけでなくアイテム製作のアプローチでも、NIGO®はヘリテージと向き合った。そして日欧米に精通しているNIGO®の中で昇華したアイデアがコレクションの随所に見られるようだ。シルエットやアイテムのソースはアメリカのオールディーズ、素材使いやモチーフには日本由来のもの、そしてカラーはフランスのメゾンならではの華やかさが表れているようであった。

 

 今シーズンの特徴としてデニムアイテムの充実が挙げられるであろう。これもNIGO®が西洋と日本の文化やファッションを融合したもの。中でも日本の武道着からインスピレーションを受けたという、日本デニム製のY字型のノーカラージャケットとボリューミーなボックスプリーツの袴が目をひく。またデニム以外にも金魚モチーフや刺子なども見られ、日本人デザイナーならではの強みを見せたシーズンとも言えよう。

 

 

取材・文:久保雅裕、アパレルウェブ編集部

画像:各ブランド提供(開催順に掲載)

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