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2023.01.22
【2023秋冬パリメンズハイライト1】パリメンズ開幕 80のブランドが参加 新進気鋭のショーでスタート
写真左から「サンローラン」「ジバンシィ」「オーラリー」「キディル」
2023年1月17日、2023秋冬パリメンズファッションウィーク(以下パリメンズ)が開幕した。今季は80のブランドが公式スケジュールで参加。プレゼンテーション形式でコレクションを発表するブランドもあるが、デジタルだけでの発表は皆無となった。
連日1~5℃前後をうろうろとする気温と雨交じりの天候不順が続く冬のパリ。見た目には、ポストコロナを感じさせ、完全復活を遂げているように見える。街中やメトロでは、マスクを着用する人をちらほら見かける程度で、実店舗も通常営業のSOLDES(セール)が行われている。フランス公衆衛生局の発表によれば、1月20日の新規感染者数は4475人。「もはや正確なカウントがされていない」と言われる数字だが、日本と比べると雲泥の差で低く抑えられているのも人々の行動意識に影響しているようだ。ただ、飲食店の夜の引けが早く感じられ、コロナ前に足繁く通ったレストランがいくつも閉店してしまっていた。
ショー会場では、入場に当たっての手指消毒や体温チェックなども完全に撤廃され、こちらもポストコロナを実感させられる。客席も以前と同じく、ぎゅうぎゅう詰めで、外気の冷たさと会場内の熱気の落差が激しい。
パリメンズ1日目、2日目は新進デザイナーが中心。「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」「エチュード(Études)」などの気鋭に、日本からも「キディル(KIDILL)」や「オーラリー(AURALEE)」などが参加した。また初日のラストには「サンローラン(SAINT LAURENT)」、2日目には「ジバンシィ(GIVENCHY)」などのビッグネームがショーを行い、存在感を見せた。両ブランドともミラノメンズで多くみられたマスキュリンなエレガンスを採り入れた。ここ数年、メゾンの原点回帰やファッションの本質追求という傾向が見られたが、パリでも同様の傾向が見られるのか注目だ。
キディル(KIDILL)
「キディル」は、フランブルジョワ通りのビル内を会場に、スケートボーダー達が疾走し、それを眺める仲間達といったシーン構成で、“アンファンテリブル”をテーマに表現した。
ブルー、ブラック、グリーンのシャギーなボーダーニットや黒とサーモンピンクの大きなリボンを胸元に設えたサテンのトラックジャケット、カラフルなフラワープリントのメンズシャツなど、甘さとストリート感をミックスしたミスマッチ感やある種のギャップを楽しめるアイテムを数多く披露した。
また「DCシューズ」とのコラボTシャツなども登場。技を決めたり、時々コケるボーダーに会場から笑いと拍手、歓声が飛んでいた。
サンローラン(SAINT LAURENT)
「サンローラン」は、パリメンズ初日のラストとして、現代美術館「ブルス・ドゥ・コメルス(Bourse de Commerce Collection Pinault)」で2023冬メンズコレクションを発表した。同館は証券取引所として役目を終えた後も多くのブランドがショーを行うスペースであったが、日本人建築家、安藤忠雄氏による設計でケリンググループのフランソワ・アンリ・ピノー会長兼最高経営責任者がアートコレクションを保持・展示している美術館としてリニューアル。ケリンググループのメゾン「サンローラン」がショーを行ない、華を添えることとなった。
発表したコレクションは、同メゾンを象徴するマスキュリンとフェミニンの融合を推し進めたものだ。ウィメンズのモードにあるマスキュリンルックをメンズモードに変換したとも言えるルックやアイテムが多い。例えばファーストルックで着用したボウタイシャツ。本来はメンズのクラシカルなアイテムであるが、大きなボウタイをまるで花弁のようにエレガントに結んだ。アシンメトリーでドレープがきいたトップスは、ウィメンズのドレスの胸元のようにも見える。
シルエットは、優雅に長く描いた。床にまで届きそうなロングオーバーコートや、ワイドフレアパンツなどが多く、光沢感のあるリュクスなテキスタイルやヒールブーツなどが極上のムードを醸し出す。ビッグショルダーやラップ状のドレープなど流麗な仕掛けがそこかしこに見られた。
ベルルッティ(Berluti)
「ベルルッティ」は、8区・ミロムニルの本社内で“The Great Escape(大脱走)”をテーマに秋冬のコレクションを披露した。クリスヴァンアッシュが離れて以降、デザインチームによるリリースが整ってきたシーズンでもあり、タイムレスでラクジュアリーな男性像を目指すスタイルへと進化を遂げている。シボ革のリュックやスクリットを刺繍で施したレザーブリーフケースなど得意とする革製品に留まらず、ストレッチの利いたカシミヤのジャケットとパンツなどアパレルでも打ち出しが揃う。メードトゥメジャーなどの体験価値を高めるイベントも強化していくという。
ジバンシィ(GIVENCHY)
「ジバンシィ」の会場は、エコールミリテール前に設えた黒いファサードにロゴの入ったテント。その後ろにはエッフェル塔がそびえ、シャッターを切る来場者も多く見られた。
マシュー・M・ウィリアムズが手掛けた2023秋冬メンズコレクションは、オールブラックのテーラリングからスタート。同メゾンの象徴である肩の尖ったジャケットなど、パリを代表するメゾンの一つである「ジバンシィ」らしく極上のサルトリア技術で魅了した。
ショーが進むにつれ、マシューらしいストリートミックスのルックに移行。チェスタコートを取り入れたルックが多いのが今シーズンの特徴だ。フーディーやクロップドニット、ハーフパンツ、タイツなどスポーツウェアとのレイヤードルックが多い。メゾンによるとこれは「現代のマスキュリニティ」という見方をした「新しいフォーマル」「改良されたドレスコード」「クラッシックの進化」だという。オートクチュールのアトリエはもちろん、アクセサリーの職人などの技術を集結したからこその美しいシルエットと有機的なマテリアルが魅力だ。
オプティカルホワイトの空間にカラーやモチーフが映えた。ネオン、パステル、グレー、デニムなどのカラーや、チェック、カモフラージュ、ブリーチなどのアメリカ特有のパターンが若々しさと共に味わいをもたらしている。日本に伝わるつぎはぎの技術、BOROや4Gラインに沿って手作業で仕上げたフーディー、ガーメントダイを施したトニックカラーのフライトジャケットなど、ビジュアルとモノづくりの両面で納得性を高めるアイテムばかりだ。
「現代のマスキュリニティ」という視点から、ウィメンズのアーカイブに影響を受けているバッグ類にも注目。コレクションにリンクする素材で製作した「パンドラ(Pandora)」、ストラップのディテールを強調した「ヴォワイユー(Voyou)」などがルックにアクセントを与えた。
オーラリー(AURALEE)
岩井良太による「オーラリー」は、ホテルエヴルー内のホールでコレクションを発表。正方形に近いスペースをモデルがバイアスに歩き、様々な角度からのスタイルが見られるショー形式のプレゼンテーションを3回行った。
淡いカラーリングと繊細な素材づかいで人気の同ブランド。今シーズンは「身体を暖かく包みこむエレガントな服」を提案した。
キーとなるのはニットやカシミヤなどのウォーミーな素材のアウター類。ニットの編み目や獣毛の間にまで漂う暖かな空気感が伝わるアイテムを使い、冬の朝に慌てて出てきたような無造作な着こなしが微笑ましい。タイトで温かみのあるトラウザースの片方だけボリューミーなソックスにインしたり、下を着けないで出てきたかのようなウィメンズアウターのルックなどもあった。
トーンオントーンや、グラデーションなどのポエティックなカラーストーリーは同ブランドの醍醐味だ。ベージュやライトブルー、ソフトピンクなどのニュアンスカラーに、ビビッドなジェードグリーンやターコイズブルー、レッドなどをアクセントカラーとして採り入れた。
取材・文:久保雅裕、アパレルウェブ編集部
画像:各ブランド提供(開催順に掲載)