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2023.01.20
【2023秋冬ミラノメンズ ハイライト2】ミニマル、メゾンやファッションの本質探究、エレガンス回帰が今季の3大テーマ
(写真左から)「ジョルジオ アルマーニ」「エトロ」「プラダ」「ゼニア」
今シーズンはコロナの影響もすっかりなくなり、戦争の影響もファッションウィークにおいてはあまり見られなかった様子(実際のところは庶民の生活は苦しくなる一方ではあるが)。外国からの訪問客もほぼ戻ってきたため、以前のような華やかさ&混乱ぶりだった。
傾向としては、余分なものをそぎ取ったミニマルなデザイン、ブランドやファッションの本質の探究、エレガンスへの回帰・・・と言ったキーワードが並び、洋服自体は装飾を排除したシンプルなデザインながらロングまたはクロップト、オーバーまたはスリムという風にプロポーションでひねりを加えている。トーンオントーン、ワントーンのコーディネーションも多いなか、素材で差をつけるルックも多かった。
「本質」探究のために、ブランドが本来掲げてきた姿やそのルーツに立ち戻るブランドも多く、アーカイブからの引用も見られる。またはメンズ服の原点に立つという姿勢からか、エレガントなスーツやジャケットへの回帰が見られる。が、前出のようなプロポーションのひねりや、フォーマルなアイテムにインフォーマルな要素をいれたり、フェミニンなディテールをプラスするなどの遊びが加えられているので、いわゆるかつてのクラシコイタリア的なスーツスタイルとは全く別のものとなっている。
そのせいか登場するモデルはスーツのコーディネートでも、線の細いジェンダーレスなタイプが多い。かつてのストリートテイスト全盛期のような不思議系や、ダイバーシティ系または素人風モデルは少なくなった。今回はジャケットを直接肌に纏ったり、クロップト丈でお腹が見えたりするコーディネートも多かったが、肌見せに耐え得る美しい体と端正な顔を併せ持った、モデル然としたタイプが主流だった(長々とモデルの話をしたが、今シーズンを象徴しているように思う)。
エトロ(ETRO)
新クリエイティブ・ディレクター、マルコ・デ・ヴィンチェンツォによる初のメンズコレクションに注目が集まる「エトロ」。会場内には同社のアーカイブから集められた様々な生地見本たちが一面に飾られ、「エトロ」のファブリックメーカーとしてのルーツを今一度強調するようなセットだ。“エトロマターズ(ETROMATTERS)”というテーマで、ブランドのルーツへのオマージュ、そしてマルコ自身の個人的な思い出を反映したコレクション。
そんな様々なファブリックとパターンがコレクションでもバリエーション豊かに使われる。マルコが子供の頃に愛用していたパターンが、ウールのブロードコートやジャケットで再現される一方で、「エトロ」のシンボルであるペイズリー風のオプティカル柄がコートやショーツとジャケットのセットアップなどで登場。ロングシャツやオールインワンに使われるストライプや様々な種類のチェック、ボタニカルパターンが次々と繰り広げられる。ウイメンズでも登場したフルーツやフラワーのモチーフは3D効果のある刺繍で実現され、アクセントを加える。ジャガードやパイルなどの触り心地の良い生地や、テーブルクロスのような生地や家具に使われるような織物が使われ、家庭的な雰囲気が流れているのも特徴。シルエットも全体的にゆったりでノンシャランなスタイルだ。
正直なところ、ウイメンズの際には個人的にも好きだった「エトロ」らしいノマドやエスニックなイメージがなく、あまりにモダンだったところに少々戸惑いがあったのだが、「エトロ」らしい暖かさを別の形で表現していたメンズコレクションは、ブランドへのリスペクトも感じられ、とても好感が持てた。
プラダ(PRADA)
ミラノのプラダ財団にてランウェイショーを行った「プラダ」。今回の会場の内装は、椅子が置かれているというだけの意外にシンプルなものかと思いきや、実はショーが進むにつれ天井が下降するという仕掛け。同じモデルで長さや短かさのバリエーションを付けたアイテム(後述)と呼応するのと同時に、空間の容量によって服の見え方がどう変わるかという実験的な要素もあったようだ。
今シーズンは“LET’S TALK ABOUT CLOTHES”とし、ウェアの優位性を主張。ブランドの本質に戻って余分なディテールをそぎ落としつつ、快適性、誇張、親密性を演出するという矛盾と結びつけながら、ファッションの意味や価値、重要性についてを探求する。
ショーの最初と最後に登場するのがボックスシルエットのジャケットに超細身(トルソーでもジッパーが閉まらないほど)のパンツ。ジャケットには様々なフェイクレイヤードの襟(取り外し不可)が付いている。続くのは丸い大きなボリュームのパファーやパッデッドランニング、そしてそれがMA-1にも。ちなみにショーの招待状と一緒に届けられたクッションはまさにこんな感じだった。ミリタリージャケットやダッフルコートは細くシェイプされ長いシルエット、かと思えば同モデルのスーパークロップト版も登場し、長×短、オーバー×タイトという強調された対極のプロポーションを演出する。
「プラダ」が常に念頭に置くユニフォームという考えは、ポケットのフラップだけが付いた(実際のポケットはなし)トップスや、インダストリアルな雰囲気を出すミニドレスのようなチュニックとパンツのレイヤード、またはパネルの入ったジャージー素材のジャケットなどで表現される。
前シーズンでも排除する新鮮さや軽さを表現していたが、今シーズンはそれをさらに一歩進めて、ブランドそしてファッションの本質に迫った。「プラダ」もまた、伝統的でシンプルなアイテムにディテールやシルエットでひねりを加えるのが主流となっている今シーズンの方向性を、前シーズンから読んでいたかのようだ。
ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)
「ジェイ ダブリュー アンダーソン」2023秋冬コレクション
ミラノでのフィジカルショーとしては2回目の「ジェイ ダブリュー アンダーソン」。デザイナー本人が「白紙の状態」と形容するこのコレクションでは、余分なものをそぎ落とし、出発点までさかのぼる。生地の反物を持ったり、枕を抱えた下着姿のモデルに始まり、多くのモデルはトップまたはボトムだけの単品アイテムのみを纏っていたり、Tシャツ+パンツなどのごくシンプルなコーディネートで登場。
それぞれのアイテムもごくシンプルで、気になるディテールはマッチョな男性やウサギのプリント、パンツについた大きな輪やランニングに貼られたチップ、ダッフルに付けられた南京錠の装飾ぐらいで、いつものシュールな「ジェイ ダブリュー アンダーソン」とは少々違った感じだ。ラペルが長く下方に落ちたテーラードコートや丈長めのダッフルコート、オーバーボリュームで(メンズモデルが)ミニドレスのように着こなしているパーカーやニットなど、オーセンティックなアイテムにプロポーションでひねりを入れている。また、アーカイブからフリルを復活させてショーツに施し、「ジェイ ダブリュー アンダーソン」が築き上げてきたジェンダーレスのテイストをコンファームする。
そして「子供心を忘れない」というアンダーソンの信念が、今回はカエルに。これはダイアナ妃も王子たちに履かせていた、イギリスの子供たちにお馴染みのウェリペッツの長靴からのインスパイアだそう。昨年の秋冬コレクションのハトのバッグにも通じるミスマッチぶりが、非常に気になる。
彼が長年提唱してきたジェンダーレスなスタイルが常識になりつつある今、そこをリセットする意味もあったのかもしれないが、そぎ落とすことでその核の部分がより見えたような気もする。
ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)
「ジョルジオ アルマーニ」はブランドが最初にアトリエを構えたオルシーニ宮で、「エンポリオ アルマーニ」はアルマーニテアトロで、という形での会場分けが最近定着しているアルマーニグループ。今シーズンの「ジョルジオ アルマーニ」は、ミラノに代々続く、とある貴族の館のアトリウムがインスピレーション源となっており、オルシーニ宮の雰囲気とぴったり一致している。
無地からヘリンボーン、グレンチェック、ピンストライプなど様々なグレーをメインとし、ブラックや深いネイビーを加えたカラーパレットに、カシミア、アルパカ、ベルベットなどの上質な素材でテーラリングの世界観を繰り広げる。テーラードジャケットにカーゴパンツやリブパンツとコーディネート、またはゆったりとしたテーパードのスラックスにカーディガンやブルゾンを合わせたり。ワントーンのスーツスタイルはモダンで、8つボタンのダブルジャケットや5つボタンのシングルジャケットには新しい提案がある。
またランウェイの後半には、ウインターリゾート用カプセルコレクション「ジョルジオ アルマーニ ネーヴェ」 の最新コレクションが、そしてフィナーレはアルマーニらしいベルベット素材のイヴニングルックで締めくくった。
今シーズンは「日々の意識からは忘れ去られつつあるミラノの街に息付くたゆまぬエレガンスへのオマージュを捧げるコレクション」なのだとか。ピアノと弦楽器のBGMが流れる中、褐色と白色の大理石を用いたシンプルなセットを、ゆっくりと優雅に歩くモデル達には安心感さえ覚える。世の中がストリート全盛だったころにも、常にエレガンスを忘れないようにとの警鐘を鳴らしていたアルマーニ。ファッションには社会への問題提起や刺激的なクリエーションも大事だが、上質で美しいものはやはり不変だと感じさせられた。
ゼニア(ZEGNA)
前シーズンのオアジゼニア(「ゼニア」所有の自然保護地区、および本社工場)でのショーに続き、今シーズンもミラノメンズのフィナーレを飾った「ゼニア」。今回も午前中のショーからあえて時間をおいて、ミラの中心部から離れた会場にてショーを行った。それはショーの後にゆっくり素材や仕立てを見てもらいたいというブランド側からの配慮だった様子。
コレクションではオアジゼニアで開発された素材、カシミアにフォーカスを当てる。ショー会場の入り口では、カシミア生地製造におけるプロセスの中から、最高のクオリティを生み出すために原料を空気室の中で漂わせる工程をインスタレーションとして披露。前シーズンのショーの際の工場見学に続き、「ゼニア」の素材開発へのこだわりを感じさせる演出だ。
“柔らかな緻密さ”というコンセプトで、クリーンなデザインにボリュームを加えたクロップドボマージャケット、ロングコート、アノラック、ブルゾン、ポロシャツ、カーディガン、ノーカラーブレザーなどが登場。トップスでは、手が隠れるほどのロングスリーブ、またはクロップドスリーブで見せる袖のディテールや、ボックスシェイプ、またはコクーンフォルムのシルエットが印象的だ。無地を多用し、トーンオントーンやワントーンのコーディネートが多い中、起毛モヘアのコートや幾何学模様のノーカラーコートやダウンなど、目を引くデザインのアウターも。一方ボトムスはリラックス感のあるトラウザーでリラックス感を漂わせる。カラーパレットはブラウンやページュからレッドやセナぺ、ワインなど、オアジゼニアの自然を感じさせる暖色系の秋らしい色が揃った。
シルエットを素材から形作ることができるという「ゼニア」ならではの強み。これによって「イノベーションと卓越性に向けた取組みをクリエイションのあらゆる段階に根付かせることができ、そこから全てを網羅した、まさに革新的な真の表現が生み出される」とサルトリは言う。そぎ落としたデザインが主流の今シーズンは、なおさら素材が勝負となり、「ゼニア」の強みがより強調されている。
ミラノメンズ展示会レポート
ラルディーニ(Lardini)
今シーズン、ピッティから発表の場をミラノに移した「ラルディーニ」。ミラノ証券取引所にて午前中に展示会、夜にはライブイベントを行った。
職人技の効いた上質なモノづくりで知られ、クラシックなテイストを持ちつつもモダンなデザインや革命的なアプローチで若年層の支持を着実に伸ばしてきたブランドだが、ミラノに発表の場を移すことで、さらなる変革を遂げようとしている様子。
“進化するエレガンス”と称したコレクションは、これまでのリラックスムードからテーラリングへの移行を積極的に提案しつつ、その中にロックな雰囲気やシックなムードを加えている。それは80年代を意識した細身で縦長のシルエットのシャープなデザインにスパイスを効かせたもの。ワントーンやトーンオントーンで仕上げつつ、ビスコースとウールのサブレ、シルクモアレ、フランネルジャカード、モヘア、ファー風のウール、レザー、3Dジャガードなど様々な素材を使って変化をつけている。その中には主にウイメンズに使われる生地を使ったものもあり、こんなところにも変革への挑戦が見られる。
前シーズン、ピッティにてカプセルコレクションとして登場した、アーティスト、ピエトロ・テルツィーニとのコラボ「NO RAIN、NO FLOWER」の秋冬バージョンが登場してカジュアル&スポーティのカテゴリーも充実。
トッズ(TOD’S)
お馴染みのネッキ宮にて展示会を行った「トッズ」。今シーズンは、余分なものは削ぎ取ったエレガンス路線への回帰を提案する。それは「イタリアンスタイルの本質を再発見する旅を続け、ノスタルジーに浸ることない現代的なエレガンス」なのだとか。都市的なベーシックアイテムのシルエットとボリュームを再考し、ブラウン、キャメル、ベージュなどの暖色系のカラーパレットを中心にコレクションを繰り広げる。最高級のレザーで仕立てるパッシュジャケット、ナッパのシャツジャケット、スエードを手で編み込んだシティジャケット、スエードとコットンのダブルフェイス仕立てのアドベンチャージャケット、レザーを起毛させたショートジャケットやボンバージャケットなどレザーアイテムを多く揃えたのも「本質の再発見」につながる。
シューズもエレガントなデザインが多く、レースアップシューズやアンクルブーツが主流。ローファーのラインナップも充実した。バフ掛けやブラッシング加工などの職人技でレザーに陰影を付けた「トッズ W.G.」はトゥがラウンドになってクラシックなフォルムに。このところ増えていたスニーカーの新作は、今回、ブラウン系の本格派レザーのみとなっている。また様々なカラーやストライプの伸縮素材で、メタルバックル代わりにレザークロージャーを採用したトッズグレカベルトも登場した。
取材・文:田中美貴
画像:各ブランド提供(発表順に掲載)
田中 美貴
大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。