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2022.11.10

海の旗艦店「45R葉山店」が始動。地域に根差し、グローバルに発信する起点に

 フォーティファイブアールピーエムスタジオが運営する「45R(フォーティファイブ・アール)」。ブランドを象徴するデニムを軸に「気持ちの良い服」を作り、伝え続けて創業45年を迎えた。その服作りの底流に常にあったのは海、山の自然。「海と都会と山の45年ものがたり」をテーマとする今年、念願だった「海の店」、45R葉山店をオープンさせた。青山、銀座、京都に次ぐ路面店で、地域に根差し、グローバルに発信する旗艦店と位置づけている。限定品はもとより、海辺の景観や喫茶など葉山店ならではの体験価値を提供していく。

村上正明(むらかみ・まさあき) 45R葉山店店長
宮城県仙台市出身。高校時代に父親の赴任先だった新潟で「45RPM」(当時)を知り、ファンになった。ファッション専門学校を経てフォーティファイブアールピーエムに入社。仙台店で10年間、販売を経験後、札幌大丸店で店長を7年間勤めた。2022年9月から現職。

衣・食・住がゆるやかに融合した「海の店」

 

 

 森戸海岸に臨む店舗は十二角形の木造建築で、屋根中央から空を指す6面の三角の明かり窓を備え、さながら灯台のよう。入り口でにっこり顔の「スマアール(45を目に、Rを鼻に見立てたスマイルマーク)」に迎えられ、大きな木の扉を開けると、円形劇場のような空間が現れる。あえて大黒柱を立てず、樹齢200年を超える山武杉の何十本もの梁で天井を支える構造が開放感を生み、ぐるりと配された窓は海のパノラマを映し出す。

現代美術家の杉本博司氏と建築家の榊田倫之氏による「新素材研究所」がデザイン・設計し、数寄屋大工が立てた店舗。コンセプトは「葉山灯堂」

36本の山武杉による梁が美しい。床石はアルザスの歴史的な修道院に使われていた大理石を敷き詰めた

 

 

 45Rでは海や山をテーマにした服作りをしてきたが、ショップに関しても「いつか『海の店』や『山の店』を作りたいという話は社内ではずっとあった」(村上正明店長)という。「ご縁があって5年前、葉山の清浄寺前のバス通り沿いにある空地と出会い、葉山店の計画が始まりました。その後、1軒隔てた海の目の前にある土地を紹介され、海の店を作るならこっちだと。ご縁つながりでできたのが葉山店です。最初に見つけた空地はキッチンカーによる喫茶店『スタジオLOUNGE WAIWAI(ラウンジワイワイ)』とテーブルを備えたデッキ、駐車場として活用しています。45Rの『衣』、ラウンジワイワイの『食』、店舗の建物や海の景観が連想させるライフスタイルという『住』がゆるやかに融合したショップになっています」

  • 45Rの喫茶店「スタジオラウンジワイワイ」。銀のエアストリームで食事を提供

  • 45Rの喫茶店「スタジオラウンジワイワイ」。銀のエアストリームで食事を提供

 この葉山店は準備段階から45Rの顧客に注目されていた。「おおげさでなく、全国の店長から『お客様がものすごく楽しみにしている』という連絡があった」と村上店長。いよいよオープンとなった今年9月8日には、朝から長蛇の列ができた。コロナ禍もあって入場規制が必要になり、「4時間待ちになってしまったお客様もいらっしゃいました」。各地の45Rの顧客が店長と一緒に来店し、葉山店で買い物を楽しみ、葉山のまちを散策する。ちょっと足を伸ばして鎌倉めぐりに出掛ける顧客も多かったという。

 

 「葉山に興味はあったけど来るのは初めてというお客様がほとんど。来街者を増やすという形で少しでも地域に貢献できればと思います。一方、出店したばかりでまだ顧客基盤がないので、地元の人たちとの接点をいろいろな角度から作り、じっくりと地域に根差していきたい。並行して、45Rの海の旗艦店として、葉山店を起点に様々なモノ・コトを広く発信していきます」

 

 

ローカルを突き詰め、グローバルを目指す

 

 

 フォーティファイブアールピーエムでは「路面店は地域に根差す」ことが社訓になっているという。客だけでなく、近隣住民とのコミュニケーションも含めて、地域と共に店も育っていく。この考え方を基本として、葉山店では「ローカルを突き詰めてグローバルを目指す、グローカルの視点」を重視している。45Rの店舗の中で独自の公式サイトを設けているのは現在、葉山店のみだ。サイトではECも展開し、インスタグラムなどSNSと組み合わせ、葉山店から世界へ発信している。

 

 葉山に暮らす個性豊かなキャラクターを設定し、彼らが織りなす物語を商品化した「葉山ものがたり」は、葉山店のオリジナルライン。7人のキャラクターは全て手描き、この版をプリントや刺繍などで表現し、Tシャツやパーカ、パンツ、トートなど多様なアイテムを展開している。ラウンジワイワイのTシャツやキャップなど限定品も揃える。大好評なのはショッパー。葉山ブルーにスマアールマークをあしらい、肩掛け・手持ちのツーウェイタイプでサイズは2種類ある。ビニール製なので海辺歩きにも安心、ちょっとした買い物にも程よいサイズでタウンにも使える。商品購入客限定で有料で提供している。

  • 中央の売り場に「葉山ものがたり」を集積

  • 手描きならではの味があるキャラクターたち

  • 手描きならではの味があるキャラクターたち

  • 「スタジオラウンジワイワイ」のメニューを服に

  • 大人気のショッパー

 店舗では葉山店オリジナル商品を中央に集積し、これを取り囲むように45Rが全国展開する商品をラインナップしている。「オリジナル以外は、現段階では新規のお客様に45Rの本質が伝わる品揃えを意識しています」と村上さん。オープンに際しては、デニムやTシャツ、バンダナを中心に、ニットやジャケットなどの季節感を伝えられるアイテムもしっかり組み込んだ。「45Rで『大切なもの』と呼んでいるスタンダードな商品」で構成している。

ツイードニットのジャケットやドレス、1年以上にわたり育てた「リアルヴィンテージデニム」などスタンダード商品はやはり魅力

 

 

 一つひとつのアイテムに原料からこだわり、織りや染め、パターン、縫製、工場での生産に至るまで人の目と手が通った服作りを続ける同社だけに、「語れる」ものはたくさんある。海のロケーションや特徴的な建物も気持ちをリラックスさせるのだろう、店舗での客の滞留時間は平均1~2時間と45Rの店舗の中でも長い。食事も含めれば3時間ほどの滞留も少なくない。店を構成する様々な要素がコミュニケーションを生み、「洋服のことだけでなく、いろいろな話題で盛り上がり、お客様は店にいる時間をゆったりと過ごしていると日々実感する」と言う。客層は45Rの他店より若く、30~40代が中心。45Rを知らなかった地元の人が海に遊びに来て店を見かけ、興味を持って来店するケースが多く、「Tシャツなど初めの一歩的な商品から購入される」。「犬を連れて来店する人がとにかく多い」のも葉山店の特徴だ。「あまりにも多いので、ワンちゃんを連れての入店もOKにしました。ラウンジワイワイのデッキにも随所にフックを設け、リードをつなげるようにしています」。

 

  • 食事をしながらくつろげるウッドデッキ

  • 晴れた日にはスタジオワイワイの商品の露店も

オフシーズンにも店を起点に新たなにぎわいを

 

 

 海辺の店だけに特有の課題もある。夏場は車が大渋滞になるほど多くのレジャー客が押し寄せるが、冬場はともすると人も通らないと言われる状況になる。ECを強化し、商品の販売とともに45R葉山店の魅力を広域に広めることに力を入れる。一方、実店舗では「オフシーズンに人の流れを創っていく仕掛けが必要」とする。

 

 葉山店を目掛けて来てもらえるようなイベントとして、「漣(さざなみ)マーケット」を企画している。春夏秋冬の年4回で計画し、その第1回を12月9~11日に開催する。葉山エリアのクラフトや食などの特産品を集積した「葉山の宝」、他エリアで45Rとゆかりのある作家や飲食店による「45Rの宝」の計6ブースで構成予定。店舗では「葉山ものがたり」の新作商品を立ち上げ、ラウンジワイワイでは那須のコーヒー専門店とコラボしたオリジナルブレンドの提供をスタートさせる。また葉山は日本のヨット文化発祥の地。葉山マリーナに停泊する45Rのヨットによる相模湾クルーズも1日2回ずつ実施する(イベント期間のみ1日2回出航予定、その他の日程は要確認)。10月から顧客を中心に参加者を募り、好評の企画だ。

 

 「服はもとより、葉山ならではの楽しみ、葉山の方々には初めての出会いとなるような他地域の良いものや美味しいものが交わる場を作り、にぎわいを生んでいきたい」としている。様々な特徴を持った45Rの新たな象徴となる旗艦店ができたことで、各地の店舗との連携が以前よりも活発になり、各店の個性化も促されているという。次なる「山の店」にも興味は及ぶ。

予約制でヨットによるクルーズも楽しめる

相模湾に沈む夕日を楽しめるのはまさに海辺の店の醍醐味

このフラッグが営業中の目印

 

 

写真/野﨑慧嗣、45R提供
取材・文/久保雅裕

 

■関連リンク
45R葉山店 https://45r.jp/ja/hayama/

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

 

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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この記事は「encore(アンコール)」より提供を受けて配信しております。

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