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2022.10.20

ファッションの楽しさを伝える「リユース」の可能性~RAGTAGというビジネスモデル

 ワールド傘下のティンパンアレイが運営するユーズドセレクトショップ「RAGTAG(ラグタグ)」。1985年に原宿で創業し、何度かの古着ブームで競合が増す中、デザイナーズブランドを中心としたMD展開で差別化し、ファッションリユース分野で存在感を高めた。その核となっているのは、約5000ブランドの品揃えを実現する仕入れ力、専門知識を背景とした値付け力と接客対応力。独自の進化を遂げてきたラグタグのビジネスモデルについて、平野大輔社長に聞いた。

平野大輔(ひらの・だいすけ) ティンパンアレイ代表取締役
1999年にティンパンアレイに入社。千葉店、原宿店などの店長を歴任したのち、関西1号店の心斎橋店の出店プロジェクトに携わる。2013年に全店舗の店舗統括、14年に執行役員を経て、同年6月から現職。

古着を買う場、売る場の「使い分け」が進む中で

 

 

 平日の開店前、ラグタグ渋谷店の前にはカップルの姿があった。手荷物の大きさから「服を売りに来た」ことが分かる。その後、3階の買い取りフロアに併設されたカフェで平野大輔社長にインタビューしている間にも、気づけば服を持ち込む何組もの客がくつろぎながら査定の順番を待っていた。ラグタグの日常的な光景だ。

ラグタグ渋谷店3階、買い取り受付と併設したカフェ

 

 

 ファッションリユースの市場規模は矢野経済研究所の調査によると、16年の4600億円から19年には7200億円に、コロナ禍に入ってからも伸び続け、22年は9900億円と予測されている。世界的にも拡大は顕著で、アメリカの古着専門ECサイト「スレッドアップ」の調査によると21年は360億ドル(約3兆9500億円)、26年には770億ドル(約8兆4400億円)へと倍増し、ファストファッションの市場規模の倍になるとの推計だ。SDGsや倹約消費の流れも背景に、増大するリユース需要の獲得に向け、アパレル企業の参入も増加、フリマアプリによるCtoCの急速な普及も市場拡大を加速させている。

 

 「メルカリが登場し、SDGsの流れもかみ合って、ファッションリユース市場は加速度的にマス化していった」と平野大輔社長。「10年ほど前までは『古着=あまり良くないもの』というイメージが根強く、ファッションが好きな人や詳しい人たちは利用していたけれど、まだ一般化していなかった」と言う。古着がマイナーからメジャーへと存在感を増す過程で参入企業も増えながら、低単価型と高単価型へ2極化し、それぞれに業態の多様化が進んだのがこの10年余りだった。

 BtoCのリユースビジネスでは、セカンドストリートやトレジャーファクトリーなど低単価型の業態が店舗数を飛躍的に増やしているのは周知の通り。高単価型ではラグジュアリーブランドのバッグやジュエリーなどを扱う業態が増加した。ブランドの認知度が高いことから価格変動しづらいため、競合が激しい分野になっている。この高単価型で独自のポジションにあるのが、デザイナーズブランドを中心に展開するラグタグだ。ファッションはトレンドの移り変わりが速く、価格が大きく変動し、模倣品も多く出回るなどする。その中でも高価格帯に特化した業態はビジネスとしての難易度が高いため、競合があまりないという。加えて、最近ではアメリカンビンテージへの興味関心が高まり、取り扱う業態も増え、ファッションリユース市場はさらに盛り上がりを見せている。

 

 「特にこの1~2年間で消費者が古着を買う場所、売る場所を『使い分け』しているのをすごく感じる」と平野氏。それだけに「商品の仕入れ力と値付け力が以前に増して重要」とする。その証しとなっているのが、常時約5000ブランドという圧倒的な品揃えだ。

  • ラグタグ渋谷店

  • 渋谷店B1階のメンズフロア

  • 1階ではメンズとウィメンズ、雑貨などを提案

  • 1階の店頭ではお薦めのブランドを編集したポップアップを展開

  • ウィメンズブランドを集積した2階売り場

  • コムデギャルソンなど人気ブランドをコーディネート提案

約5000ブランド・年間約80万点の目利き

 

 

 ラグタグでは客から服を買い取る専門職をバイヤーと呼んでいる。主要都市に展開する21店舗と買い取った商品を集約する倉庫に現在、約100人のバイヤーが在籍している。年間の買い取り点数は実に約80万点に上り、この査定を各店舗のバイヤーが担い、値付けする。とはいえ、それだけの点数、しかも約5000ブランドを査定するスキルは一朝一夕で培われるものではない。

 

 「どんな服を持ち込まれるかが分からない中で、どれにも対応しなければなりません。5000ブランドを10以上に分類し、それぞれのジャンルの知識を身につけます。ジャンルごとの知識、さらに査定の根拠を伝える接客対応の社内試験を受け、合格した者だけがバイヤーとして値付けをすることができます。5000ブランドの詳細は全てデータベース化されているので、このデータと知識を掛け合わせ、接客対応力を生かしながら仕入れをしていきます」。

 

 ジャンルはテイストごとに、カジュアル、モード、ストリートなどに分類され、メンズとウィメンズに分かれているものもある。ファッションに詳しいコアな客も数多く来店するため、バイヤーになってからも「日々、コミュニケーションを通して学ぶ」。さらに市場リサーチも継続することでスキルをブラッシュアップしていく。生命線となる目利きは、組織としての仕組みと本人の熱量によって育っている。

バイヤーが1点1点を査定し値付けする

 

 

 ただ、ファッションブランドの商品は模倣品も多く、見抜いたそばからまた新たな模倣品が出回る。蓄積したデータを駆使しても査定段階で特定できないこともあるため、買い取ったり引き取ったりした服は倉庫に集約し、精鋭バイヤーが1点1点をチェックする。最後の砦だけに「少しでも疑いの残るものは通さない」。偽ブランドの撲滅に向け、客にも周知を促すため、模倣品と本物を確認できる「憎むべきニセモノ展」を不定期に開催しているのもユニークだ。

 

 また、買い取った商品ごとにコンディションが異なるのは古着の宿命だろう。これも1点1点、手作業によるメンテナンスやクリーニングによってきれいな状態で店頭に出す。どうしても落ちない汚れや傷などはその位置をタグに絵型で表示し、一目で分かるようにしている。「やっぱりリユースは嫌と思われることが一番いけないことなので、安心して購入していただけるよう配慮しています」。その結果、返品率は低く抑えられている。

偽ブランドへの周知を促す「憎むべきニセモノ展」

 

 

 

ECで「お取り置き」、店舗で楽しみながら購買

 

 

 その商品が並ぶ店舗が一つひとつ異なるのもラグタグの大きな特徴だ。「立地や客層など様々な調査を行い、1店1店、ゼロから作り上げている。地域の特性に応じてブランドのテイストや数量を変え、内装も一から考えています」。単にブランド揃えを充実させても、ブランドを知らない人にとっては入りづらい店になりかねない。そのためブランドを編集し、店頭では「今、お薦めのブランドやアイテム、あるいはスタイリストのセレクトによるスタイリング提案などのポップアップを展開する」などして、ファッションの楽しさを伝えることに取り組んでいる。

スタイリストが選ぶ古着100着をテーマにしたイベント。写真は三田真一氏によるセレクト

同じくストリートファッションフォトグラファーのシトウレイさんによるセレクト

 

 

 そうしたセレクトショップ的な店作りを、これまでは300坪級の大型店舗を中心に行ってきた。この多層からなる渋谷店や原宿店、心斎橋店は象徴的だ。ハイブランドに特化した「rt(アールティー)」の銀座店に至っては6層で構成している。古着ショップには見えない設えで古着の固定概念を払拭してきた。この2年余りはコロナ禍の影響やECの伸びを考慮し、出店は30~40坪の小型店舗に注力している。「ポップアップで立地の可能性を確認してから出店するなどしています。また、リユース需要の増加に伴い『手持ちの服を売る』ことも一般化してきたことから、商業施設内に買い取り専門カウンターを設けるなど、売りたい人との接点も増やしていきたい」とする。

創業の地、原宿はキャットストリートにあるラグタグ原宿店

京都のメインストリート、四条通りに面したラグタグ京都店

 もう一つの接点であるECは「店舗で伝えているファッションの楽しさを表現する」ことに力を入れている。スタッフがお薦めするブランドやスタイリングを動画や画像で表現するオウンドメディア「ラグタグマガジン」を配信。ECから実店舗への誘客を生んでいる。これを促しているのが「お取り寄せ」サービスだ。来店客の半数はECで気になる商品を取り寄せてから来店し、店舗で試着をして他のアイテムとのセットアップ購入に至るケースが多い。「例えば3着を店舗に取り寄せ、買うのは1着でもいいんです。ECでブランドに興味を持って、店舗で実際に見て、試着して、服を選ぶ楽しさを体験していただく。その繰り返しの中で顧客になっていく」と言う。取り寄せたブランドはデータ化され、人気のブランドはMDに反映され、小型店舗でも地域のニーズに適う品揃えになっていく。

 

 いわば逆ショールーミングの流れができているのは、ECにラグタグが扱う全商品が掲載されていることによる。その数、約20万点というから驚きだ。各店舗やECで買い取った約2000点もの商品が毎日、倉庫に集められ、「ささげ(撮影・採寸・原稿)」が行われる。古着は基本的に1点物で、ECサイトへの画像掲載も1点ごとだが、「自動で1点1点採寸や画像の白抜き加工などもできる設備を導入し、格段に作業効率が高まった」。

ラグタグの全商品が集まる商品管理センター

 

 

 

値付けできない服も処分せず、生かし切る

 

 買い取り時には、傷みや汚れがひどく値付けできないものも含まれている。それでも引き取りを希望された場合には無償回収しているという。しかし「決して処分しない」。有効活用の方法として、ボランティア団体を通じた寄付がある。他にも、ファッション系の大学や専門学校で学ぶ学生たちのクリエイティブ活動の資材として提供している。倉庫に眠る服を生かしてウインドーディスプレーを製作してもらい、店舗に設えたこともあった。産学連携によって「ファッションの現場を実感する機会を提供できれば」と言う。

学生たちが指定されたテーマ・予算で製作したウインドーディスプレー

 

 

 

 15年前から継続しているのが「Rプロジェクト」だ。デザイナーやクリエイターとコラボし、無償回収した古着を素材としたリメイクに取り組んでいる。「Alexander Lee Chang(アレキサンダーリーチャン)」とのバッグに始まり、2020年にはリメイクブランド「SREU(スリュー)」、サステイナビリティーをテーマとするワールドの「be released(ビーリリースト)」などのファッションをはじめ、家具など幅広く製作し、店頭でのポップアップやECで販売している。「モノを大切にしていることを伝え、ファッションの可能性を実感してもらうきっかけとして継続していく」としている。

アレキサンダーリーチャンとコラボしたバッグ

ワールドが展開するサステイナブルブランド「ビーリリースト」とのコラボアイテム

 

 

 ファッション産業の大量生産・大量消費・大量廃棄による環境や労働・人権問題がクローズアップされ、改善への動きも活発化している中で、リユースの役割は重要性を増している。

 

 「作り過ぎに発している問題であり、やはり質の良い服を適正な価格で販売し、それを大事に着るという意識を育て、その先の生かし方も含めた循環を作ることが大切。逆に、二次流通でデザイナーズブランドを買い、着て楽しむことで新品を買うという流れもあります。一方、おしゃれを楽しむ機会がないと、知らないだけにその人にとってのファッションの価値は下がってしまい、『おしゃれなんてしなくてもいいや』となりがちです。だからこそ、ファッションを楽しむ人を増やすことには一層、力を入れていきたい」

 

 今後は年に2~3店舗の出店を計画するほか、ビンテージなど「熱量の高いファンがいるジャンルに絞り込んだ店作り」も視野に入れている。

 

写真/遠藤純、ラグタグ提供
取材・文/久保雅裕

 

■関連リンク
企業サイト:https://www.ragtag.jp

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

 

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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この記事は「encore(アンコール)」より提供を受けて配信しております。

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