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2022.10.14

【2023春夏パリ展示会レポート2】新規開拓意欲を見せるバイヤーにアピールする若手デザイナー  課題はブランド独自の海外営業強化~ショールームトーキョー・イン・パリ

 東京都と一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)は、「東京ファッションアワード(TOKYO FASHION AWARD)」受賞者による合同展示会「ショールームトーキョー・イン・パリ(showroom.tokyo in Paris)」を、2022年9月29日~10月4日にパリ・マレ地区、メトロ8番線、フィユ・デュ・カルベール駅近くで開催した。

 

 この企画は、「東京を拠点とするファッションデザイナーが、世界をフィールドに飛躍・ビジネス拡大をするためのサポートを目的」としたもので、コロナウィルス拡大以降、初のフィジカル開催となった今年6月のパリ・メンズファッションウィーク期間のショールームトーキョーに続く、ウィメンズ版として開催された。メンズ時期でのみ開催してきた同展だが、今回からウィメンズ時期の初フィジカル開催に至ったものである。

 

 出展者は、アワードの第7回を受賞したウィメンズ4ブランドの「マリオンヴィンテージ(MALION vintage)」「ピリングス(pillings)」「ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)」「マラミュート(malamute)」。さらに同展の地下会場には、2019年第5回受賞の「ポステレガント(POSTELEGANT)」と来年度から参加する第8回受賞者となった「アンスクリア(INSCRIRE)」も参加した。

 

 同ショールームを運営するJFWOの今城薫コレクション事業ディレクターは、「ウィメンズ時期では、初回なので以前と比べようがないのですが、2015年よりTOKYO FASHION AWARD showroom.tokyoという名前で開催していて、メンズはかなりこの名前と、『このショールームに来れば新しい東京のブランドが見られる』ということが海外バイヤーに浸透してきているのを実感できています。今回も、同じチームで呼び込み営業をかけているので『6月と場所が変わっていたので、隣の建物(6月メンズ時期の会場)に行ってしまったよ』というバイヤーもいました」と名前が一定程度浸透してきており、それがウィメンズ初開催にも好影響を与えているとの印象を持ったようだ。

 

 さらにアポイントや成果については、「数は集計中ですが、ドバイ、ロシア、イタリア、UK、USA、フランス、ジョージア、ベルギー、スウェーデン、スイス、カナダ、スペイン、シンガポール、香港、韓国、ECなど、今回も世界中のバイヤーが来場しました」と多くのアポイントと来場が叶ったとの見方を示した。

 

 コロナを経て、世界のバイイング傾向や消費性向が、どのように変わったのかについては、「バイヤーや消費者の行動は、メンズ・ウィメンズシーズン併せてのことになるが、まずコロナ中はどのバイヤーも新規開拓がしにくい状況だったので、今シーズンは新規開拓を積極的に行っているようでした。その上、円安により今までよりも日本ブランドが、クオリティーの割に値段が良いと感じたバイヤーが多かったようでした」と価格競争力と新規開拓機運の追い風を感じている模様だ。

 

 出展ブランドごとに話を聞いた。

 

 

マラミュート(malamute)

 「初めての海外セールスで、いろいろな国のバイヤーに見ていただく機会がありました」とデザイナーの小髙真理。セーシェル、バルセロナ、シンガポール、モスクワなどのバイヤーと商談もでき、「今までにはない気付きがありました。それを踏まえてマラミュートらしさをもっとアピールできるように方法や手段を考えていきたいです。このアワードの機会をチャンスに、国内はもちろんのこと、続けて海外も視野に挑戦していきたいです」と今後の海外販路開拓に意欲を見せていた。

川内倫子の『花火』にインスパイアされた和紙混のカットジャカードプルオーバーとワンピース

 

 

ピリングス(pillings)

 バルセロナ、サンタフェ(米国)、パリ、ロンドンのバイヤーが来訪し、さらに「日本で展示会をやっても会えないような日本のバイヤーとも話ができたことが大きかった」というデザイナーの村上亮太。ただ価格抵抗感は強かったと感じており、工賃の高い手編みのニットを指して「マルニのニットと比べたら、みたいな話もされた」と苦笑する。「今後、海外を続けていくに当たって、クリエーションの方向性が合いそうなコレクティブショールームを回ってみたのですが、もっと尖った方が良い、アウトサイダーでやった方が良いとアドバイスされました。海外セールスは、続けるのが重要だと思うので、もし、合いそうなショールームが見つかったら継続していきたい」と行くべき道が見えたようだ。

一番人気は、左右の袖が別々で2枚組になったグランジ風レイヤードニット

 

 

マリオンヴィンテージ(MALION vintage)

 ビンテージのネクタイやレースをパッチワークしたアソート商品が多い「マリオン ヴィンテージ」の石田栄莉子(写真左)と清水亜樹(右)。今回は、2022秋冬の現物も持参して、来春夏と併せて見せた。早速、サンタフェとドバイ(UAE)のバイヤーが現物を購入してくれ、春夏オーダーにも繋がりそうだという。一方、ミラノの有力店からは、サイズが小さいと指摘されたことから、「次回は、メンズも意識したジェンダーレスをやろうと思う」と適応力の速さを感じさせる。「柄が、パンチが効いているので、形はシンプルでベーシックなアイテムで良いと思っている。ネクタイシリーズの反応も良く、日本と同じ受け方だった。あとは自分たちでも、しっかりと呼び込みを頑張らないといけないので、きちんとビジネスに繋げるためにも専属のセールス(営業)が必要」と感じたそうだ。

ビンテージネクタイのパッチワークブラウスも人気アイテムのひとつ

 

 

ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)

 2020年3月にミラノコレクションでプレゼンテーションを披露し、ミラノ・パリのコレクティブショールームに参加したが、直後のコロナの拡大で、機を逸してしまい、今回が本格的な海外セールスの再開となったデザイナー、村田晴信。サンタフェ、パリとイビサ(スペイン)に店舗を持つ小売店からは受注を獲得できそうだ。さらにミラノの有力店の反応も良く、「秋冬も見たい」と言われたという。パリとミラノで学生、インターン、就業を経てきただけに、言葉や文化面での理解度も高く、4サイズ展開するなどのアドバンテージを生かしてビジネスを拡大していきそうだ。「ショールームトーキョーについては、最初のきっかけとしては有り難いし、良いが、自分自身がもっときちんとこちらの感覚を掴みながら、独自の海外セールスも立ててやっていかないといけない」と感じているそうだ。

ウエストが絞られ、袖が丸みを帯びたシルエットに特徴のあるブラウスが人気

 

 1階のショールームトーキョーとともに、地下の会場で展示会を開いた「ポステレガント」と「アンスクリア」は、協業することで互いのバイヤーが行き来する相乗効果を狙った。

 

 

 

ポステレガント(POSTELEGANT)

 国内のセールスが大手セレクトショップも含めて順調に伸びてきたポステレガントのデザイナー、中田優也は、海外セールスについて「2020年1月のショールームでイタリアとベトナムから受注を得たものの、すぐに訪れたコロナショックで納品できなかった」という。今回は、ボンマルシェの近くにオープン予定のパリの小売店とトゥールーズ(フランス)とパリに実店舗を持つショップからオーダーが期待できそうだ。ただ「コロナ前と比べて、慎重な姿勢を感じており、より早くにプレゼンすることが必要」と来年1月のメンズ・プレコレ時期にユニセックスで展示することを検討しているそうだ。

ゆったりとしたシルエットでドレープを利かせた人気のワンピースを持つ中田優也

 

 

アンスクリア(INSCRIRE)

 

 来年3月からショールームトーキョーに参加する資格(第8回受賞)を得られた「アンスクリア」は、偶然にも受賞以前に決まっていた同会場地下のレンタルによる参加で、事実上の予行演習のような格好になったという。既存取引先は、カナダと韓国にあるが、今回はサンタフェ、モスクワ、シンガポールが来場し、可能性を広げた。ただし、「香港など今まで来ていた約30%のバイヤーが、まだ来仏していない」と見ており、次回のショールームトーキョーでの本格出展に期待を賭けている。

人気だったアイテムは、前後どちらでも着られるバックシャンなピンストライプのジレ

取材・文:久保雅裕

 

アナログフィルター「ジュルナル・クボッチ」編集長/杉野服飾大学特任教授/東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)代表理事・議長

 ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。「senken h」を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。

 大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア「Journal Cubocci」を運営。2017年からSMART USENにて「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」ラジオパーソナリティー、2018年から「毎日ファッション大賞」推薦委員、2019年からUSEN「encoremode」コントリビューティングエディターに就任。2022年7月、CFD TOKYO代表理事・議長に就任。この他、共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。

 コンサルティングや講演活動の他、別会社でパリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアの開催、合同展「SOLEIL TOKYO」も主催するなどしてきた。日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。

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