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2022.10.06
【2023春夏パリ ハイライト3】自由なパリを彩るフローラル、ピンク、華やかな黒
2022年9月26日より10月4日まで開催された2023春夏パリウィメンズファッションウィークが閉幕した。ファッションウィーク後半ではビッグネームのショーが相次ぎ、最終日は、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」、「シャネル(CHANEL)」、「ミュウミュウ(MiuMiu)」がショーを開催し、日本の「ウジョー(Ujoh)」もフィジカルショーを行った。
ジバンシィ(GIVENCHY)
マシュー・M・ウィリアムズによる「ジバンシィ」は、パリ市の植物園内の特設会場を舞台にショーを開催した。ブランド創始者のユベール・ド・ジバンシィのクリエーションにリスペストし、フランスとアメリカのコスモポリタンなドレスコードの“異文化交流”をテーマにしている。
6月に発表されたメンズコレクションはストリートテイストでまとめられていたが、今季はパリシックを体現するかのようにドレッシー。しかし、ウィリアムズらしい捻りやストリートテイストも随所に加え、モダンに仕上げられていた。
毛足の長いラメを織ったジャカードのパネルドレスは、ユベール・ド・ジバンシィのアーカイブからの影響が見て取れ、ツイードのスカートスーツやブラックのスーツはクラシカル。しかし良く見ると、ブラックのジャケットにはコルセットのボーンが内蔵されている。一方、エイジング加工されたレザーのロングバイカージャケット、バギーパンツを合わせたコクーンシルエットのボンバースなどは、ストリートスタイルそのもの。しかし、日焼けしたような加工を施したGジャンにはクリスタルが輝くコードでマクラメのように編んだトップスを合わせ、ツイードのジャケットにはオーバーダメージ加工のワークデニムパンツを合わせるなど、クチュールテイストのアイテムをミックスしたルックも見られた。
また今季目を引いたのが、ブラとハーネスをミックスさせたデニムやレザー製の「ブラネス」。アウターとして着用可能で、フェティッシュな毒気を漂わせ、コレクション全体を引き締めていた。
ステラ マッカートニー(Stella McCartney)
「ステラ マッカートニー」は、ポンピドーセンターの目の前の広場を会場にショーを開催した。屋外での発表はブランドとして初だったそうだが、ポンピドーセンター前の広場(傾斜があるため、本来であればショーには不向き)を使ってのショー発表もパリコレクション史上珍しいケースとなった。2020年に「ステラ マッカートニー」がLVMHに買収されて以来、ステラの父親であるポール・マッカートニーはLVMHオーナーのアルノー家とは今回が初対面。和気あいあいと会場入りして着席し、ショーがスタートした。
ミニマルなフォルムとそこはかとなく漂うセンシュアリティは、このブランドのDNAと原点であるが、それを再確認するコレクションとなった。ドロップショルダーのジャケットを合わせたスーツで幕開け。インナーにチェーンタンクトップを合わせる、あるいはアシメトリーのスカートをコーディネートし、セクシーな側面をプラス。ワークシャツ風のブルゾンも、ドロップショルダーにしてウエストをセンタリングし、そのコントラストを強調しながらマスキュリン・フェミニンに仕上げている。
チャップスのようなエコレザー使いのデニムパンツとワイドシャツを着用したアンバー・ヴァレッタが登場。シャツにはニットワッペンで表現した奈良美智による少女の顔。今季は奈良美智作品がインスピレーション源の一つでもあり、客席には「Change the history!」と書かれたプリントが置かれていた。これは奈良美智作品に度々登場するスローガン。そのプリント自体に記名は無いものの、明らかに奈良美智による字体だった。その後、「Change the history!」の文字をインターシャで表現したダメージニットや、少女の絵をプリントしたアシメトリーTシャツドレス、絵の上からクリスタルを散らしたダイビングシャツなどが登場。
後半にはブルー、イエロー、レッド、グリーンといった発色の良い色を使用したスーツやドレスを見せ、黒のアイテムへ。「ステラ マッカートニー」らしい黒のジャンプスーツ型スモーキング風テーラードを着用したアンバー・ヴァレッタで締めくくった。
サカイ(sacai)
阿部千登勢による「サカイ」は、アンヴァリッドの広場に隣接する建築物内を会場にショーを開催した。
スリーブにカット入れた、タキシードジャケットとシャツをミックスしたハイブリッドアイテムでスタート。合わせられたプリーツパンツは身体にフィットしているが、裾に行くに従って大きくなり、シューズを覆う程の広がりを見せた。シャツのヘムはプリーツが掛けられ、カットを入れたジャケットのヘムが重ねられる。
ジャケットと一体型のシャツの袖は巨大化し、独特のシルエットを描き出す。スウェット型のスポーティなワンピースやリブを配したニットプル、ニットとのハイブリッドボンバーストップスなど、全て袖口が大きく作られ、そのアンバランスな中に見えるバランスが新鮮。フローラルプリントを配したトップスも異素材をミックスし、更にプリーツを掛けることで複雑さを見せる。トレンチのシリーズでは、それまでのルック同様、袖口を大きくしたものや、今季いくつかのルックで見られた外付けのポケットを配したものなどが登場。
メタルパーツをはめ込んだフリンジの黒のシリーズ、パープルやスカイブルーの差し色のアイテムを経て、白とシルバーのシリーズへ。プリーツイメージのスパングル刺繍のスウェットや、全体にプリーツを掛けたジャケットなどが登場。プリーツシャツとプリーツジャケットのハイブリッドノースリーブジャケット、そしてメタリックプリーツパンツをまとったベラ・ハディッドがウォーキングしてフィナーレへ。
トム ブラウン(THOM BROWNE)
「トム ブラウン」はオペラ座ガルニエ宮のロビーと回廊部分を舞台にショーを開催した。シンデレラをイメージソースに、ファンタジックで大振りのドレスを発表。ショー冒頭で、英女優のグウェンドリーヌ・クリスティが、豪華なゴールドのモール&コード刺繍を施したガウンをまとい、魔法の杖を持ってウォーキング。
様々なバリエーションを見せたシルクタフタのガウンドレスは、それぞれバックに番号が振られている。クチュールのテイストとスポーティな要素をミックスし、正にビザールな世界観を生み出していた。
BGMにバウ・ワウ・ワウの「I want a candy」が掛かると、ポルカドットのジャカード素材のリボンを配したドレスのシリーズへ。とにかく全てが大きく、モデルはすれ違えないため、回廊部分のランウェイは一方通行。そんなところに、アメリカならではの自由と雄大さを感じさせた。
ガウンドレスを脱いだモデル達が、中に着ているポルカドットのスーツを披露しに再び巡って来た。全てパッチワークでモチーフを描くという凝った作品。ジョーン・ジェットの「Do you wanna touch me」にBGMが変わると、髪の毛を逆立てたモデル達がアシメトリーのポルカドットのドレスをまとって登場。アレサ・フランクリンの「Freeway of love」が流れると、曲にちなんでピンクのキャデラックのチュール製張りぼてを伴ってモデルが出現。正に「トム ブラウン」らしい遊びを感じさせる演出で観客たちを魅了した。
シャネル(CHANEL)
ヴィルジニー・ヴィアールによる「シャネル」は、グラン・パレ・エフェメールを舞台にショーを発表。ブランド創始者のガブリエル・シャネルが衣装を手掛けたことでも知られる、1961年のアラン・レネ監督作「去年マリエンバートで(L’Année dernière à Marienbad)」からインスパイアされたアイテムで構成。マリエンバード、ヌーヴェルヴァーグ、ガブリエル・シャネル、カール・ラガーフェルド、フェザー、スパンコールといった「シャネル」にまつわるアイコニックなイメージをミックスし、リボンやボア、パステルカラーのツイードといった様々な要素をコラージュのように配して新しい「シャネル」像を提案。ショー発表時には、イネス・ヴァン・ラムスウィールドとヴィヌード・マタディンによるクリステン・スチュワート主演のモノクロのショートフィルムを発表。「去年マリエンバートで」とイメージを重ね合わせた。
古いモノクロ写真をプリントしたマイクロミニのスウェットドレスでスタート。マイクロミニの若々しいルックに続き、スポーティなパンチング素材のセットアップの流れで、ポルカドットのシリーズへ。レザーにパンチングして裏側から別の色のレザーを縫い付けてドットに仕上げた、繊細な手作業を厭わないアイテムも。
60年代風のツイードのジャケットには、オーストリッチの羽を刺繍し、ふんわりとした空気感をまとわせている。ピンクのグラデーションのツイードアイテム、ゴールドのドレスのシリーズはオプティミスティックな印象を与えるも、最後は黒のシリーズで引き締めている。
ただ、シースルー素材やレースで透け感を出し、またタンクトップ風のデザインで肌の露出を大きくし、若々しさと適度なセクシーさを演出。「去年マリエンバートで」で見られた厳格でフォーマルな黒のイメージからは距離を置き、新しい時代に変化していることを印象付けたのだった。
ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
ニコラ・ジェスキエールによる「ルイ・ヴィトン」は、ルーヴル美術館の中庭を会場にショーを開催した。アーティストのフィリップ・パレノがデザインした、巨大な花を中心にした円形のランウェイを特設。今季のテーマは、“フェミニニティ(女性らしさ)における複雑さの美化”。トランクのコーナーピースやラベル、ジッパーを限りなく大きくしたり小さくしたりしながら、「ルイ・ヴィトン」のDNAや歴史を再認識させる内容となっていた。
大きな引き手の付いた特大ジッパーを配した、韓国の女優チョン・ホヨン着用のベストとスカートでスタート。彫刻的なプリーツの装飾がフューチャリスティックな印象を与える。ドーナッツ状のプリーツ襟の付いたドローストリング付きのトップスやドレスも宇宙的。ベルトとファスナーをプリントしたネオプレン素材によるスーツはマニッシュに仕立てられ、少年のようなモデル達が着用。
ボックスプリーツのドレスは、その直線的なフォルムから折り紙をほうふつ。大きなスカラップの身頃の刺繍ワンピースも、モダンアートのようなアーティスティックな空気感を放っている。
刺繍や羽細工で覆った複雑な素材後世のランジェリードレス等を挟み、やはり大きなファスナーや大きなベルトがモチーフになったアイテムが続く。60年代風のコートドレスにも巨大なボタンが付けられ、レザーのブラックミニドレスには、特大のファスナーとバッグ用ベルトの特大サイズの留め具を配し、超現実的な仕上がりに。実物を目の前にすると、パーツそのものが持つ迫力に驚かされる仕上がり。現実を超えたものを形にしながら常に前進し続ける、ジェスキエールのマジックのような世界観に圧倒されたのだった。
ウジョー(Ujoh)
西崎暢による「ウジョー」は、11区にある劇場メゾン・デ・メタロでショーを開催。今季は、人の手による不均一さの中にある力強さを表現したという。
そのテーマに沿って、アーティストでジュエリーデザイナーでもある三野彰太と、アーティストの佐々木香菜子とコラボレーションし、手仕事の美しさや面白さを見せている。三野彰太による手や花をグラフィカルに描いたジュエリーは、合わせられたルックにアクセントを与え、佐々木香菜子によるアブストラクトなハンドペイントプリントは、アーティスティックな空気感を醸してルックに華を添えていた。
スリーブからドローコードが垂れるアシメトリーのジャケットと、ラップ状のパンツでスタートした。目を引いたのがトレンチをカットしたかのようなメタリックスカート。一見レザーのように見えるが、実は京都のちりめんに箔押したもので、ちりめんの持つ細かな凹凸がレザーのような風合いを醸し出していた。ドローコード使いは今季の特徴的なシステムで、フリルやギャザーホールの大きさが調節可能となっている。
フローラルモチーフのセットアップやドレスは、越前の手漉き和紙製。軽やかな印象だったが、その意外な素材使いに驚かされる。また、フューシャピンクのシースルーコートや、オレンジのジャンプスーツとジャケットのセットアップなど、これまでに無かった色使いが新鮮。見所の多いコレクションとなっていた。
2023春夏パリコレクションの傾向
各デザイナーがそれぞれ自由に創作したものをアウトプットするパリという土壌にあって、今季もまとまったトレンドを捉えることは困難だったが、薄っすらとした流れのようなものは垣間見えた。
華やかなカラーパレット
写真上左から:「クロエ」、「リック・オウエンス」
写真下:「シャネル」
先ず華やかな色である。今シーズンは毎晩のようにパーティーが開催されていたことはハイライト記事の初回で触れた通りだが、コロナ禍で耐え忍んできたエネルギーをここに来て全てぶつけたかのような享楽的なムードがあった。そして、それに連なるような発色の良い色が目に付いたのだった。特にピンクは、「ヴァレンティノ」が昨シーズンほとんど全てをピンクで統一したコレクションを発表して以来、ファッション業界に大きなインパクトを与えているようで、様々なブランドでその影響が見て取れた。ガブリエラ・ハーストによる「クロエ」では、「クロエ」らしからぬフューシャピンクのスーツが登場。少し色合いがプラム系になるが、「リック・オウエンス」もピンクのボールガウンドレスを発表。ヴィルジニー・ヴィアールによる「シャネル」も、パウダーピンクからプラムピンクまでのバリエーションを見せた。
写真上:「ステラ マッカートニー」
写真下左から:「ロエベ」、「トム ブラウン」
そして、SDGsに直結するグリーンも、相変わらず多くのブランドで見られた色。「ステラ マッカートニー」はキャンディカラーでショーの後半をまとめ、ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」も明るいカラーパレットを提案。「トム ブラウン」も色の洪水のような構成だった。
彩を添えるフローラルモチーフ
写真上左から:「ドリス ヴァン ノッテン」、「ディオール」
写真下左から:「ロエベ」、「ルイ・ヴィトン」
フローラルモチーフは様々なコレクションで彩を添える要素となっていた。「ドリス ヴァン ノッテン」はコレクションの終盤で自らのアーカイブに手を加えたプリントで、ランウェイを花園と化させ、マリア・グラツィア・キウリによる「ディオール」は、カトリーヌ・ド・メディシスをイメージしながらフローラルモチーフでドレスを彩った。「ロエベ」はアンスリウムをメインモチーフとし、ランウェイにも大きなオブジェを飾り、ニコラ・ゲスキエールによる「ルイ・ヴィトン」も、ランウェイの中央に花弁と花芯の立体的なオブジェを据えた。
装飾的で華やかな黒
写真上左から:「シャネル」「ステラ マッカートニー」
写真下左から:「ジバンシィ」「バレンシアガ」
その対照的な存在ともいえるのが黒。「ディオール」や「シャネル」の例に漏れず、礼服としてのそれではない、より装飾的で華やかな黒のアイテムが多かった。あるいは、「ステラ マッカートニー」のようにアシメトリーのスカートを合わせてカジュアルに崩す、「ジバンシィ」や「バレンシアガ」のように様々なギミックを加えてストリート寄りにする、などしてその多くがモダンにアップデート。それぞれ新しい黒のニュアンスと表情を見せていた。
コロナ禍は終わったとは言い難い状況にありながら、2年前とは明らかに違う行動の自由が戻って来ている現在、今季はファッションを華やかにしたいとする気運に溢れていた。しかし、戦争の影は依然として忍び寄っていて、コロナ禍の時とは違う新たな陰陽が生まれ、平和とも戦争状態とも言い難い状況に人々は置かれている。そんな中にあって、楽しさや華やかさを象徴する色やフローラルモチーフと、その対極にある黒が同時に存在する不思議な時代、それがちょうど今であるに違いないと認識したのだった。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供(開催順に掲載)