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2022.10.05
【2023春夏パリ ハイライト2】燃料問題、戦争、サステナブル・・・社会テーマを反映したコレクションが見られたパリコレ中盤
写真左から「バレンシアガ」「ロエベ」「クロエ」「リック・オウエンス」
今年2月のレディースコレクションが始まった時は、ロシアによるウクライナ侵攻のタイミングと重なり、年末に向けてその影響が色濃く出るに違いないと思っていた。しかし、今のフランスを見る限りでは、予想に反して経済が破綻することなく秩序が保たれている。夏に起きた、干ばつによる原子力発電所の稼働抑制による節電も解除。パリコレクション会期中に、物価高騰に対しての賃金値上げのための大規模なデモが行われたが、それ以外は何も起きなかった。丁度平和な時期にすっぽりと入ったのだろう。今季は毎晩のようにパーティーが開かれていたが、今のうちに楽しんでしまえという流れになったのかもしれない。
それはさておき、パリコレクション会期中、ジュエリー・デザイナーのマリー・エレーヌ・ドゥ・タイヤックが新作を発表した。ブティックでお披露目をしたのだが、その時にデザイナー自らが22金のゴールドのブレスレットを指差し、「こういったものを買っておくと経済危機の時に役に立ちますよ」と真顔で話していたことが印象的だった。憂いを避けるため、着々と準えている人々が多くいるに違いないと思った瞬間だった。今あるヨーロッパの平和が、束の間の事でないことを願うばかりである。
クロエ(CHLOE)
ガブリエラ・ハーストによる「クロエ」は、パヴィヨン・カンボンを会場にショーを開催した。ハーストは、グラス1杯の核融合燃料から、1つの家庭に800年以上電力を供給できるという説を引用しながら、環境への負担を軽減するために化石燃料ではない核融合が新たなエネルギー源になると主張。高温核融合炉の実現に向けた技術の1つで、超高温のプラズマを閉じこめる磁気閉じ込め方式の1つであるトカマクからインスパイアされ、今季はそれらにまつわる事象をデザインに落とし込んでいる。
持続可能性を追求するBコープ認証を取得するブランドとして、リサイクルされたカシミアによるカットアウトのドレスや、農薬の使用が抑えられるリネンによるブレザーなど、環境に配慮されたアイテムが勢揃い。
丸みと硬さを併せ持つシルエットは、トカマクの構造にインスパイアされたもので、特にフューシャピンクのスーツは、プラズマ核融合を表現しているのだとか。
これまでのベージュやホワイト、ネイビーといったベーシックな色を用い、マスキュリン・フェミニンな「クロエ」のイメージとは異なり、またガブリエラ・ハーストらしさというものも超える、新しい側面を引き出した意欲的なコレクションとなった。
リック・オウエンス(Rick Owens)
「リック・オウエンス」は、パレ・ドゥ・トーキョーの噴水広場を会場にショーを開催した。ショー冒頭、噴水の中央から水柱が上がり、水しぶきが風に吹かれて舞う中をモデル達がウォーキング。
コレクションタイトルは、今年6月に発表されたメンズコレクション同様、エジプトのナイル川西岸にあるエジプト神殿にちなんだ“EDFU”。多くの時間をエジプトで過ごすことが多くなっているというリック・オウエンスは、自身の両親が持っていた映画の本の中で知ったというセシル・B・デミル監督による作品や、セダ・バラ主演のアール・ヌーヴォー期のサイレント映画にもイメージを求め、様々な要素をコレクションに投影している。
今季も環境に負荷の掛からないクリエーションを志向。レザーアイテムには、食品産業から廃棄物として生じる牛革を天然グリセリンでなめしたものを使用。中盤で登場したボールガウンドレスは、海と埋め立て地から採取されたエコニルと呼ばれる糸で織ったチュール製。ドレス一着に200mの生地を使用している。
6月のメンズコレクション同様、世界で最も強いと考えられる特許繊維であるリップストップナイロンをガウンやジャケットの素材として使用。リブを付けたブルゾン類はスポーティーに仕上げられているが、大振りのクラシックスタイルのドレスとのコントラストが新鮮。「リック・オウエンス」の新しい側面が引き出されていた。
ロエベ(LOEWE)
ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」は、フランス共和国親衛隊馬術トレーニングアリーナを会場にショーを開催した。今年6月に行われたメンズコレクションでは、生の草をモチーフにしていたが、今季はボタニカル繋がりで、アンスリウムをあしらい様々なドレスに仕上げていた。
アンスリウムはその色の毒々しさや質感から現実離れした印象があるが、それをメタルや樹脂でパーツとして作り上げてドレスに飾り、シュールレアリスティックな表現を見せた。
ピクセルをニットで表現したトップスや、同じくピクセルをプリントしたパンツ、ボタンを掛け違えたかのようなレザー製ロングシャツドレス、ふわふわした素材を内包したパネルを組み合わせたジップアップカーディガンのセットアップ、フローラルモチーフを配したメタル製ボディスなど、そのどれもがシュール。そのシュールな作風はシューズにも及び、スポンジ状のアンスリウムやゴム風船をあしらったものが登場した。
シルクジャージーによるドレープのドレスや、水晶のような鋭角の連なりが造形的に表現されたレースのミニドレス、テニスウェアを思わせるフレアのミニ丈ドレスなど、形の面白さや素材自体の美しさを見せるアイテムもしっかりと盛り込み、そのコントラストが心地良さを生み、それがショーの終わりまで続くこととなった。
イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)
近藤悟史による「イッセイミヤケ」は、ヴィレット地区に位置する商業センターを会場にショーを開催した。BGMはフランス在住のピアニスト・作曲家の中野公揮が演奏。今年8月に逝去したブランド創始者、三宅一生へのオマージュ映像が流れた後にショーがスタート。コレクションタイトルは“A Form That Breathes -呼吸するかたち-”。自らの手で、自由に形を生み出すことの出来る彫刻創作をクリエーションの出発点としている。今季はボリュームやフォルムに大胆さが目立ち、造形的な美しさが際立っていた。
実際にデザインチームが手で作った彫刻のトルソーの形を表現した、正に彫刻的なシルエットを描き出したTorsoのシリーズ、デザインチームが制作した彫刻をプリントモチーフにし、手作業で刷ったTorso Juxtaposeシリーズと続き、ボリュームある肩のラインが特徴的なR Coat, R Shirtのシリーズへ。モダンなシルエットを描き、特にシャツルックはスモーキングにも通じるセクシーさがあり、新鮮に感じられた。
造形的に面白かったのがResonant Suit PBのシリーズ。生地を折った状態で部分的に円形のハンドプリーツ加工を施しているのだが、グリーンやパープルなどの色も手伝って、ランウェイには明るく楽しいムードが生まれた。このシリーズに使用された生地は東レとの提携で、100%植物由来のポリエステル繊維が使用されている。
リサイクルポリエステルを使用した有機的なシルエットのLinkageは、無縫製のニットシリーズで、上下に弾む様子がユーモラスかつ美しい。Assemblageと題した無縫製のニットシリーズも、その造形的な面白さが目を引く。身体をイメージした彫刻をグラフィカルなモチーフにして織り上げた、ニットシリーズのNudeが登場してフィナーレへ。ダンサーとモデルが一斉に登場し、会場は割れんばかりの拍手が響き渡った。
ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)
「ヨウジヤマモト」2023春夏コレクション
「ヨウジヤマモト」は、パリ市庁舎のボールルームを会場にショーを開催した。BEGINの「島人ぬ宝」のカバーを含む、山本耀司によるオリジナル音源がBGMとして流れた。
襟や身頃を造形的に解釈し、再構築したジャケットのシリーズで幕開け。そのスタイルは様々で、ジゴ袖のヴィクトリアンスタイルを踏襲したかのようなジャケットから、無作為にパネルを重ねたかのような全く新しい形状のジャケットまで豊かなバリエーションを見せる。西洋服飾史を紐解いたかのようなコルセットも、山本耀司の手に掛かると新しいボリュームとシルエットを形作り、コンテンポラリーなモードに変化するから不思議だ。
日本語の文章をプリントしたパンツやジャケットが登場。そこに書いてある文章の意味は汲み取れなかったものの、山本耀司自身によるメッセージ性ある楽曲と呼応しているかのようだった。
プリミティブな絵画や額縁のようなモチーフをプリントしたレギンスやパンツには、よりシンプルなジャケットやトップスが合わせられ、額縁の唐草モチーフはカットしたフェルトのパーツを繋いだアイテムに繋がっていく。コルセットやビュスティエのように身体にフィットし、所々肌を露出させた透かし彫りのようなトップスは、ドレス全体として見るとそこに静かに佇んでいるかのよう。このブランドらしい凛とした作品に仕上がっていた。
アン ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)
「アン ドゥムルメステール」は、レピュブリックに程近いアムロ地区のガレージを会場にショーを開催した。2020年にイタリアのセレクトショップ“アントニオーリ”のオーナー、クラウディオ・アントニオーリがブランドを買収。アーティスティック・ディレクターだったセバスチャン・ムニエはその直前に退任し、以来、スタジオチームがデザインを手掛けている。米女優・歌手のシェールの来場を待ってショーがスタート。
大きなテーマ性は見られなかったが、随所にスポーティな要素を配して、このブランドの作風はモダンにアップデートされていた。
オープニングのクルーネックのTシャツドレスは今季のキールックで、身体にフィットしたカッティングとジャージー素材の美しさを湛える作品。左右に掛けたショルダーバッグをポケットやマフのようにあしらったルックも目を引く。合わせられたのはロングスリーブシャツやバギーパンツ、シャツ仕立てのジャンプスーツなどで、スポーティなイメージ。ジャージー素材のドレスはシースルーに変化し、インナーにシャツやスリップをコーディネートしたルックも登場。ジャケット類のスリーブにはタックが施され、独特のドレーピングシルエットを見せた。
シャツドレスや布帛のドレスも登場したが、最終ルックはやはりニットジャージーのTシャツ型ロングドレスだった。
バレンシアガ(BALENCIAGA)
「バレンシアガ』2023サマーコレクション
デムナによる「バレンシアガ」は、シャルル・ドゥ・ゴール空港に程近い展示会場を舞台にショーを開催した。前回のショーでは会場に雪を降らせたが、雪が解けたら泥になることから、スペインのアーティスト、サンチアゴ・シエラと共同で泥のランウェイを作成。
今季は特にテーマを掲げることなく、デムナらしいシルエットに捻りを加えたバリエーション豊かなアイテムを披露。デニムパンツやパーカなどの多くに徹底的なダメージ加工を施し、ハイファッションへのアイロニーを感じさせつつ、戦争と隣り合わせのヨーロッパの現状を想起させた。
オーバーサイズのセキュリティジャケットをまとったカニエ・ウエストでショーがスタート。トップを極端に大きくし、ボトムは細くする、その逆にトップを小さくしてバギーパンツを合わせる、というコントラストを強調したスタイリングが今季の特徴。
造形的なニットはボンディングによって形を保ち、そのボリュームとは対照的なボディフィットのショーツが合わせられている。またパンツとシューズが一体となっているパンタシューズも多く登場。Tシャツの襟のリブを配したプリーツのドレスは、パンタシューズと一体型となっている。パンツが巻き付いているかのようなスカートの、トロンプルイユ(だまし絵)的なアイテムも目を引いた。
ボディフィットのメッシュ素材のトップスに、ハイブリッドパンツを合わせるルックもバリエーションを見せ、ビーズ刺繍でメッシュを表現したドレス、クリスタルメッシュチェーンを縫い合わせたドレスなど、クチュールの要素を漂わせるアイテムに連なって行く。バレンシアガのアイコンであるラリアットバッグを解体して繋ぎ合わせたかのような、ロングレザードレスで幕を閉じた。
ビューティフルピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)
「ビューティフルピープル」2023春夏コレクション
熊切秀典による「ビューティフルピープル」は、アラブ研究所のホールを会場に最新コレクションを発表した。服の内部に隠れていて意識することがない空間に注目することで生まれた、このブランド独自の仕立て法と型紙設計方法であるSide-C。今季はその9つ目のコレクションとなる。タイトルは“A NEW WAY OF CONNECTING”。断絶と摩擦がそこかしこに生まれている現在、CONNECTING(繋がり)こそが調和と喜びと平和を生む、とするメッセージを込めている。
ヴァイオリニストがBGMを奏でると、80~90年代に活躍したスーパーモデルのマリー・ソフィー・ウィルソンがミリタリールックで登場。ジャケットを脱いで、上下を逆さまにして着用すると、ヘムだった部分がボリュームある襟となり、新しいシルエットが生まれた。
そしてダンサーが登場し、スカートを脱いで上下を逆様に着用し、違ったシルエットを披露。また別のダンサーはパンツルックで登場し、そのパンツを脱いで逆さまにし、ネックラインのボタンを留めることでワンピースに変化させる。
マリー・ソフィー・ウィルソンが再び登場し、ミリタリーコートの身頃を外すと、オレンジのコートドレスに変化。続けて、ライナーを下げることで新しいシルエットを描くコートを着用したダンサーが現れた。背中からパラシュートを広げてウォーキング。そして、背中から.パラシュートを広げてウォーキング。最後はパラシュートの中央の穴に頭を入れ、そのままドレスとなる仕掛け。ショーのハイライトとなった。