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2022.10.04
【2023春夏パリ ハイライト1】62のブランドがフィジカルショーを開催 デジタル参加を続ける新進ブランドも
写真左から「CFCL」「ドリスヴァンノッテン」「コーシェ」「サンローラン」
9月26日より10月4日まで、パリにて2023春夏レディースコレクションが開催された。今年2月に行われた秋冬コレクションから9ブランド増え、今季は106ものブランドが参加。コロナ禍以降、デジタル配信に切り替えたブランドは多かったが、今年に入ってからフィジカルなショーを行うブランドが増えている。新進ブランドについては依然としてデジタル配信を続ける傾向があるものの、ハイブランドについてはほぼ例外なくフィジカルなショーを行った。106の内、62のブランドがショーを開催し、残りのブランドの多くがショールームや広いスペースにてプレゼンテーション形式でコレクションを見せた。
今季の特徴としては、ショーと共にアフターパーティの開催が多いことが挙げられる。「ケンゾー(KENZO)」のように、ショーをせずにパーティのみ開催するブランドも見られた。ただ、ファッションウィーク中のパーティは、基本的にその日の全てのショーが終わってからとなるため、当然ながらスタート時間が遅く、泣く泣く諦めなければならないケースが多々あった。
コロナ禍以降の大きな流れとして、密を避けるために屋外が会場となるケースが多かったが、その影響は依然として続いており、防寒が一つの課題ともなった。エッフェル塔を臨むヴァルソヴィー広場でショーを行った「サンローラン(SAINT LAURENT)」、スタジアムに一般客を招待してコンサート後にショーを行った「バルマン(BALMAIN)」、パレ・ドゥ・トーキョーの噴水広場でショーを行った「リック・オウエンス(Rick Owens)」、パリの植物園で雨の中ショーを行った「ジバンシィ(GIVENCHY)」など枚挙に暇がなく、パリコレクションは体力勝負であることを再認識させられた。
未だに日々の新規感染者が5万人に達しているフランスで、密にならないように気遣っての会場選びがある一方で、密になるパーティを敢えて開催する流れもある。依然としてコロナを脅威と捉える人々と、マスクをせずにコロナは風邪と同等と捉える人々が混在する現在、その相反する二つの考え方が表出したパリコレクションとなった。
シーエフシーエル(CFCL)
高橋悠介による「シーエフシーエル」は、パレ・ドゥ・トーキョーにてプレゼンテーション形式でコレクションを発表。今年2月末にパリでコレクション披露時にはマネキンに服を着せて見せたが、今回はコレグラファーのナイル・ケティングが演出し、モデルとダンサーによる出演でほぼショーのような形式となっていた。
高橋悠介は2014年から27歳の若さで「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」のチーフデザイナーに就任し、6年後に退任した後に「シーエフシーエル」を創設。3Dコンピュータニッティングによる一体成型のニットアイテムは、廃棄物質が排出されず、ほぼ全てにペットボトル由来の再生ポリエステルが使用されている。それを象徴するかのように、会場の至る所にペットボトルがオブジェのように置かれていた。
今年7月末にはアメリカ主導の持続可能性(サステナビリティ)認証である「B Corp」を取得。これは国内ブランドとしては初で、ファッション業界全体としては「クロエ(Chloé)」に続いて2例目となる。などと書くと、持続可能性に重きを置いたブランドと捉えられそうだが、「CFCL」がClothing For Contemporary Life(現代生活のための衣服)の略称であることからもわかる通り、何よりも洗練された現代の服をつくることに重きを置いている。
新しい質感を見せる作品はどれもクリーンな印象で、ドレス群はそのボリュームの出し方にハッとさせられ、シースルーニットとのコンビネーションも新しさがあり美しい。洗練された現代の服への志向は、帽子やバッグに至るまで、全てのアイテムが洗濯機で洗え、しかも速乾性があり、またトラベルバッグに丸めて入れることが出来るという新しい側面に反映されている。それは高橋悠介の古巣である「イッセイミヤケ」が生み出したプリーツ以来の革命とも言えるだろう。また、プログラミングをプログラマーに依頼し、それを元にニットを制作するため、パタンナーを必要とせず、縫う部分がほとんどないため人件費を大幅に削減でき、それがアクセスしやすい価格に反映されている。そんな全ての面において新しいファッションの在り方が、今後ヨーロッパのみならず世界のファッションに大きなインパクトを与えて行くに違いない。そんな予感をさせるコレクションとなっていた。
マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)
黒河内真衣子による「マメ クロゴウチ」は、パレ・ドゥ・トーキョーにてショーを開催した。日本の伝統工芸・伝統技術に造詣の深い黒河内真衣子は、これまでに染めや織りなどにこだわったクリエーションを見せてきたが、今季彼女が注目したのが日本の竹と竹籠、そしてそれらにまつわる文化的背景だった。
特に20世紀初頭に活躍した作家、飯塚琅玕斎(いいづか・ろうかんさい)の作品からインスパイアされ、飯塚が得意とした、1本の竹から編み上げる束編みの技術に触発され、今季のニットに生かされている。
また大分発祥とされる竹ビーズを復刻させ、グラデーションカラーに染めたものをニットにあしらい、竹そのものをアイテムに活用。様々な素材を裂いてリボン状にしたものを織った、いわゆる裂織りのジャケットには、陶製のトグルがあしらわれたが、これは有田町のとのコラボレーションで、黒河内本人が手捻りで成形したもの。
クラフトの側面に目が行きがちなものの、それらを引き立てるシンプルなジャケットやパンツ、ブラウスとのバランスは絶妙で、現代の女性の装いをしっかりと打ち出していた。
アンリアレイジ(ANREALAGE)
森永邦彦による「アンリアレイジ」は、マレ地区にある改装途中のスペースを会場にショーを開催した。コレクションタイトルは“A&Z”で、「アンリアレイジ」のアイコンであるパッチワークによるアイテムで構成。これまで以上に細かなパーツで構成され、ほとんどモザイクのようだった。
しかし、単純な原点回帰をしたわけではなく、そこに森永邦彦らしいひねりを加えている。ロックミシンを掛けた縫い代が出ている面を裏返しにし、同じモデルに着せて見せたのだった。YouTubeではその同じルックの表裏を着たモデルをシンクロさせた映像を発表しているので、そちらも是非参照されたい。
コレクション自体とYouTubeで発表された映像、それぞれ興味深いものとなっていたが、青山翔太郎によるBGMも先進性を感じさせた。NTTとのコラボレーションによってレシーバーとイヤフォンが配られたのだが、イヤフォンから流れる音と会場で流れる音が異なり、それぞれが重なることで一つの音楽となる、というもの。
コレクション、映像、そして音楽、と全てのメディアに革新的なアイデアが散りばめられていた今季。2年半のブランクの後、「アンリアレイジ」らしいクリエーションを実際に体感出来たことを嬉しく思ったのだった。
コシェ(KOCHÉ)
クリステル・コーシェによる「コシェ」は、旧証券取引所であるパレ・ブロンニャールを舞台にショーを開催した。
今季はGoogle ATAP(Advanced Technology & Projects )との共同研究プロジェクトを発足させ、科学とファッションにおける創造性を組み合わせるという試みを見せた。センサーによって光を放つシステムを開発し、それを服に刺繍。
光を放つ作品は4点のみだったが、コレクション全体はテクノロジーにインスパイアされたものとなった。ピクセル化されたパンチングレザーのブラトップや、細かなピクセルで構成された流線形モチーフのニット、直線的なラインで構成されたピンストライプのセットアップ、グリッドが交差するニット、そして何よりもデジタルをイメージさせるピンクやブルーのネオンカラーにその影響を見て取れるのだった。
これまではストリートスタイルとクチュールをミックスする作風を推し進めてきたが、そこにテクノロジーを絡めることに成功。新しい方向性を見せた意欲的なコレクションとなった。
サンローラン(SAINT LAURENT)
アンソニー・ヴァカレロによる「サンローラン」は、エッフェル塔を臨むヴァルソヴィー広場の噴水と特設した噴水を舞台にショーを開催。夜のパリを強くイメージさせる妖艶なコレクションを発表した。
モダンダンスのパイオニアの一人であるマーサ・グラハムによる1930年代の作品、「Lamentation(哀歌)」がインスピレーション源となっており、インナーのフード付きのアイテムはグラハムの衣装からの引用。
シルクジャージーやシルクサテンのインナーに、パワーショルダーのコートやロングジャケットをコーディネートし、素材の硬軟とアイテムのマスキュリン・フェミニンのコントラストを見せる。
更に華を添えたのが、イヴ・サン・ローランと共に数々のコスチュームジュエリーを創り上げてきたルル・ドゥ・ラ・ファレーズの作品からインスパイアされた、大振りかつ繊細なアクセサリー。「サンローラン」のイメージの一つともなっている、官能性を増幅させる重要なアイテムとなっていた。
アンダーカバー(UNDERCOVER)
高橋盾による「アンダーカバー」は、パリ8区のジョルジュ・サンク通りにあるアメリカン・カテドラルを会場にショーを開催した。破壊と再構築、そこに「アンダーカバー」らしいメッセージを込め、カジュアルからグランドソワレまでバリエーション豊かな絵巻を描いて見せた。
冒頭はテーラードのシリーズだが、切り裂かれたかのようなカットが入っている。しかし、そこにはオーガンザが貼られ、シルクフラワーが飾られ、繊細な手仕事が施されている。破壊された服に花が咲く。相反するイメージを持つ2つのものが今我々の生きている時代と重なったのだった。
ピンタックのシャツとパンツのセットアップや、スウェットとデニムパンツのセットアップにも切り裂かれた箇所が見受けられたが、そこにはオーガンザが貼られ、シルクフラワーが飾られる。アイテムによっては、傷をかばうかのようにビーズが刺繍されていた。
スパングルを刺繍したキャミソールドレスは、スポーティなディテールを加えてスポーティでモダンな印象。最後に登場したバルーン状のグランドソワレは圧巻。最終ルックのドレスは、切り裂かれたジャージーで構成され、やはりシルクフラワーが彩を添えている。「アンダーカバー」らしいパリファッションへのオマージュ、あるいはアイロニーが見え隠れした。
ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)
「ドリス ヴァン ノッテン」は、モンパルナス地区にある工事中の建築物内を会場にショーを開催。ウクライナ出身の画家カジミール・マレーヴィチの漆黒の絵画がインスピレーション源。対象を描くのではなく、無対象で色そのものが本質となるとするシュプレマティズム(絶対主義)の画家として知られるが、X線で絵画を解析した結果、黒の絵の具の下には様々な色が塗られていたことがわかったという。そんな逸話から生まれたのが、黒からパステル、そしてネオンカラーをはらんだフローラルモチーフの3つのパートで構成させる今季のコレクションである。
冒頭の黒のシリーズは、黒という色だからこそ素材のテクスチャーを直接的に感じ取ることの出来るルックで構成している。ハニカム状のスポーティなネオプレン素材のジャケット、フローラルモチーフのブロケード素材など、モダンなものとクラシカルなものを絶妙にミックス。
パステルのシリーズは、造形的なコサージュのようなデコレーションを飾ったシャツとパンツのセットアップなど、マスキュリン・フェミニンに仕上げている。
そして圧巻だったのが、フローラルプリントのシリーズ。これまでのプリント画を拡大・縮小し、新しいモチーフに生まれ変わったものを無数に組み合わせ、息を吞むほどの美しさだった。
重衣料的な黒のシリーズから華やかで柔らかなフローラルシリーズへの変遷は、コロナ禍を通過した現代のオプティミズムと重なり、我々の心に強く響き渡り、フィナーレでは会場から惜しみない拍手が沸き起こったのだった。
バルマン(BALMAIN)
オリヴィエ・ルスタンによる「バルマン」は、パリ16区に位置するスタジアム、スタッド・ジャン・ブーアンを会場にショーを行った。一般客も入れてのミュージックフェスティバルを催し、イギリスのラッパー&シンガーのShygirlのパフォーマンスで盛り上げ、予定から1時間押しでショーがスタート。冒頭に米女優・歌手のシェールが出演する映像が流れた。
アフリカをイメージさせる、ラフィアを編んだクチュールライクなドレスで幕開け。招待状にもあしらわれたルネッサンスの天井画や宗教画を思わせるプリントは、ビュスティエやボディースなど、ボディタイトなアイテムにあしらわれ、またピエール・バルマン時代に発表されたモノグラムジャカードにプリントされてコートに仕立てられたり、デニムにプリントされたり、様々なルックを彩った。レディースとメンズ、合わせて100ルック以上の力作。
最終パートでは籐やバナナの皮などの自然素材をあしらったクチュールコレクションを見せたが、こちらも色・素材からアフリカをイメージさせた。
フィナーレでオリヴィエ・ルスタンが登場し、ランウェイを戻ろうとしたところで「Strong Enough」が流れ、シェールがサプライズで登場。身体はすっかり冷え切っていたが、会場は異常な程の熱気に包まれた。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供(開催順に掲載)