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2022.10.02

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.83】 わき上がるエモーショナル フェティッシュや多幸感が交差 2023年春夏・東京コレクション

写真左から、「フミエタナカ」「フェティコ」「ヨウヘイ オオノ」「アンリアレイジ』

 

 「楽天ファッション・ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」として開催された2023年春夏・東京コレクションは、エモーショナルなファッション表現が東コレ全体を色めかせた。各ブランドが強みや持ち味を押し出し、オンリーワンの立ち位置を示すクリエーションが勢いを増している。「ポスト・コロナ」に向かう意識を強め、フェティッシュやノスタルジー、ハッピー感、ウィットなどを盛り込む提案が相次いだ。

◆フェティコ(FETICO)

◆フェティコ(FETICO)Courtesy of FETICO

 フェティッシュがトレンドに浮上する中、ブランド名にもフェティッシュを掲げるブランドが東コレデビューを飾った。デカダン(退廃的)気分とロマンティック感が交差。コルセットやビスチェをキーピースに選んで、官能的なボディコンシャスを印象づけた。チュール系の透ける素材で秘めやかなムードを演出。スリットやカットアウトが生身の妖艶さを引き出していた。

◆フミエタナカ(FUMIE=TANAKA)

◆フミエタナカ(FUMIE=TANAKA)©Japan Fashion Week Organization

 前半と後半で雰囲気を変えて、引き出しの多さを示した。前半はブラック主体の大人クールな装い。Vゾーンの深いジャケットとパンツのセットアップが凜々しい。後半はヴィンテージ愛とボヘミアンムードに包まれた。シアー仕立てのワンピースや透明素材のイヤリングが涼しげ。キャミソールドレスはノスタルジックな花柄で彩った。毎日ファッション大賞の新人賞を受賞して勢いに乗るブランドのパワーを示した。

◆ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)

◆ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)©Japan Fashion Week Organization

 ファニーな造型を試みた。ボディバッグをバッスル風に着たり、スカート裾をたすき状に背負ったり。甲冑のように連なる袖も披露。チュールの「反り返る裾」はタコ足ウィンナーからの着想だという。スリリングでウィットフルなルックが相次いだ。一方、ランジェリーライクな装いも提案。うっすらと透ける素材を用いて、エロスを遠ざけつつ、フェティッシュなムードに整えた。

◆エズミ(EZUMi)

◆エズミ(EZUMi)©Japan Fashion Week Organization

 クラシカルな装いが復活する流れを追い風に、ヨーロッパ宮廷貴婦人の出で立ちを現代的によみがえらせた。英国のヴィクトリアン朝、エドワーディアン朝時代の衣装に着想を得ている。ウエストのくびれをコルセットで際立たせた。バッスルやクリノリン、パニエで腰から下に量感を持たせ、古風なボリュームのめりはりを引き立てている。しかし、古典的な宮廷服のリバイバルにとどらまず、ほのかな色香の薫る形でモダナイズに成功していた。

◆サポートサーフェス(support surface)

◆サポートサーフェス(support surface)©Japan Fashion Week Organization

 強みのパターンとカッティングで流麗なフォルムをミニマルに切り出した。飾り立てていないのに、無愛想に見えない、シルエットのバランスが冴える。シアーなニットやチュールを生かして、ノーブルに素肌を透かし見せた。質感やディテールで大人っぽいフェミニンをささやくかのよう。ドレーピーなワンピースやパンツで気品とゆとりを示した。ノスタルジックな花柄やドット柄が落ち着いたムードを添えていた。

◆アヤーム(AYÂME)

◆アヤーム(AYÂME)©Japan Fashion Week Organization

 パリでクチュール技術を修めた俊英はブランド初のランウェイにもクチュール技を注ぎ込んだ。きらめきを帯びた箔素材やオパール加工が気品をまとわせる。シャーリングやシュリンク、凹凸などの風合いも布の表情を深くした。装いのムードは軽やかで伸びやか。素肌見せとレイヤードをマリアージュ。エアリーな立体的を引き出した。男性モデルもワンピースをまとった。

◆ホウガ(HOUGA)

◆ホウガ(HOUGA)©Japan Fashion Week Organization

 「エイジレス、ジェンダーレス、ストレスレスなドレス」を掲げ、様々な壁を超えた。デニム生地で仕立て、きらめき素材彩った「ストリートドレス」は華やかでたくましい。パンクロック風味を帯びたアイテムに、ラッフルやギャザーを添えて、甘辛テイストにミックス。反骨スタンスがコレクション全体に緊張感を与えている。パキッとしたピンクやブルーがアイキャッチー。「芽生え」を意味するブランド名(「萌芽」)にふさわしい伸び盛りの勢いを示した。

◆ユーシーエフ(UCF)

◆ユーシーエフ(UCF)©Japan Fashion Week Organization

 これまで通り、白と黒だけの構成だ。フォルムで曲線を描きつつ、過剰なボリュームを持たせて、アートフルでユーモラスなシルエットに導いた。ボールをたくさん詰め込んだ両袖がファニーな印象。逆に、身頃はショート丈トップスとマイクロ丈パンツでコンパクトに整え、量感コントラストを引き立てている。ふくらみスポットをいろいろと変えて、シルエットを揺さぶった。ボールを出せば、ドレーピーな姿に様変わり。メッシュ風の生地で全体に軽やかな風合いに仕上げている。

◆沈み(shizumi)

◆沈み(shizumi)©Japan Fashion Week Organization

 感情を揺さぶる、スピリチュアルな空気をまとった。深海ブルーの手染めウエアが情感を寄り添わせている。「夜がささやく」スカートや「静寂の花束」ドレスなど、アイテムそれぞれにナラティブなネーミングを施した。キーピースのワンピースは崩しカシュクール風でゆったりしたシルエット。ぼかしプリントがアンニュイなムード。裾にだけ模様染めを配して動きを出した。裾が斜めに流れる左右アシンメトリー服は動感が豊か。素足のウォーキングも目を引いた。

◆ネグレクト アダルト ペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)

 スウェットパーカやトラックパンツなどの「お約束」的なアイテムを並べて、一見、見慣れたストリート仕様にまとめて見せた。しかし、ネオンカラーや「NAP」ロゴ、チェック柄などで、ありきたりのヒップホップ風とは異なる、英国の労働者階級色やアナーキー感をにじませている。スポーツウエアやミリタリージャケットを生かしながらも、方にはまらない「小細工」を加えた。シルエットはタイトめに整えつつ、部分的にたるみや着余りを生じさせて、ずるっとした落ち感を漂わせている。

◆クードス/スドーク(kudos/soduk)

 メンズとウィメンズの両ブランド合同形式で発表した。メンズモデル2人のマリエ(ウエディング)で幕開け。異素材のアイテムを縫い付けるドッキングを多用。トリッキーなアシンメトリーやレイヤードで動きを加えている。左右の丈をずらしたパンツも見せた。キーピースはシャツ。テーラード技とエスプリを交じり合わせて、「きちんとおもしろい」服を仕立てた。スリットや切れ込みが入り組んだ立体感を生んでいた。

◆ベース マーク(BASE MARK

◆BASE MARK(ベース マーク)©Japan Fashion Week Organization

 「崩しレイヤード」で遊んだ。襟元が伸びきったTシャツのように、わざと隙間を用意して、内側に着込んだウエアをのぞかせている。本来のフォルムをゆがませて、ウィットフルなアンバランス感を生んだ。あちこちがたるんだりゆるんだり。着崩れた見え具合が抜け感を呼び込んだ。風合いの異なる素材の響き合いも穏やかなムードをまとわせている。いたずらっぽいファニー仕掛けがほのかなハッピー感も醸し出していた。

◆リコール(Re:quaL≡)

◆リコール(Re:quaL≡)©Japan Fashion Week Organization

 ブランドの原点ともいえる解体・再構築やテーラードをあらためて柱に据えた。トレンチコートやTシャツにエスプリの利いたリメイクを施している。倉庫に眠っていた廃品Tシャツのアップサイクルにも取り組んだ。鮮やか色のカラーブロッキングが装いを弾ませた。ノット(結び目)をあちこちに作って、動感を高めている。タッセル(房飾り)やフリンジも躍った。ほつれや毛羽立ちなどで風合いに変化を加え、シルエット以外でも持ち味を示していた。

◆ワタル トミナガ(WATARU TOMINAGA)

◆ワタル トミナガ(WATARU TOMINAGA)©Japan Fashion Week Organization

 ネオンカラーやサイケデリック色が躍った。千代紙ライクなマルチカラーがポジティブ感を盛り上げている。極彩色のイラストアートや和風柄もラブ&ピースな祝祭ムードを呼び込んだ。パジャマ風の落ち感シルエットにイージー感が漂う。イエール国際モードフェスティバルでグランプリを受賞した気鋭らしいモード感も備わっている。どこか民俗衣装やストリートウエアの雰囲気を帯びたアイテムがくつろぎや楽観を寄り添わせた。

◆ベイシックス(BASICKS)

 「CHRISTIAN DADA(クリスチャンダダ)」で知られた森川マサノリ氏が東コレにカムバックを果たした。「DHL」の物流施設をショー会場に選んで、廃棄予定だったユニフォームをアップサイクルしたアイテムを披露。優美なドレスも再生服で仕立てた。ブランドの軸に据えた、サステナブルなアプローチを印象づけている。シアー素材のトップスにブラトップを重ねるようなヘルシーセクシーな装いも提案。リスタートの成功を予感させた。

◆アンリアレイジ(ANREALAGE)

 ブランド20周年の節目に、軌跡を振り返るようなコレクションを発表した。ブランド名に象徴される、日常と非日常、リアルとデジタルといった、相反する世界を服で表現。超オーバーサイズ服、天地逆転ルックなど、奇想を詰め込んだアイテムが復活。コレクションのたびにチャレンジを続けた歩みを証明した。ネオンカラーの新ピースはデジタルアートやメタバースのムードを帯びた。最後に登場したパッチワークいっぱいの服はブランドの原点。ぶれなかった20年をプレイバックするかのようなコレクションだった。

 

 

 

 全体にエモーショナルなファッション表現が東コレを色めかせた。方向性はフェティッシュや反骨、ノスタルジー、多幸感など、思い思いに異なるが、装いを通して、気持ちを揺さぶるようなアプローチが目立った。参加した49ブランドのうち過半数がフィジカル(リアル)ショーを開催。新鋭とビッグネームが混じり合い、東コレ全体の多様性も広がった。

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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