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2022.09.30

【2023春夏ミラノ ハイライト3】シンプリシティ、センシュアル、楽観主義・・・世相を反映して浮かび上がるキーワード

写真左から、「フェラガモ」「ジル サンダー」「ドルチェ&ガッバーナ」「MSGM」

 

 2022年9月21日~26日に開催されたミラノ春夏ウィメンズ・ファッションウィークが幕を閉じた。

 

 今シーズンのミラノコレクションは概ねシンプルだ。色使いはとにかくモノトーンがメイン。そして体のラインに沿ったシルエットが目立ち、ボディコンシャスだったり、カットアウトやスリット、ボタン開けなどの肌見せが多用され、セクシーな雰囲気となっている。

 先シーズンも見られたシフォンやチュールで下着を見せるようなルックも継続していた。そんなシンプルなシルエットには、ウエストマークしたり(またはウエスト周りのディテールに凝ったり)、バッグや靴、アクセサリーに差し色や華やかさを入れるコーディネートが多い。

 素材では、ジャージー素材やソフトレザー人気の中に、粗いリネンやウォッシュドコットンなど、生の感じのする素材が登場しているのも気になったが、これもシンプルさにつながるのだろうか。コロナ禍以降、刺繍やレースなどの生産減、および価格急上昇しており、手の込んだ装飾を避けるのはそんな事情もあるのかもしれないが。

 

 ただ、その反面、スパンコールやメタリックなどの煌びやかなアイテムも多く、いくつかのブランドがハリウッドやLAなどをキーワードに挙げてアメリカのショービズ的華やかさをイメージとして取り入れているのが興味深い。戦争や物価高でなかなか厳しい現状に楽観主義やハッピームード盛り込もうとするブランドもあった。それもあってか明るい色使いも多い。

 

 さて、最終版となるハイライト記事3では、9月24、25日にショーを開催したブランドを発表順に追っていく。

 

 

 

エムエスジーエム(MSGM)

「エムエスジーエム」2023春夏コレクション

 

 

 

 インビテーションに添えられていたのは2つのリング、そして、会場のシートにはイタリアで結婚式や洗礼式の際のお土産の定番であるコンフェッティというお菓子が。「Forever, Always, Per sempre」というコレクションでは、ポエティックでアイロニックな空想上のウェディングが描かれる。「優しさと激しさを併せ持つ、型にはまらない自由なロマンティシズムを表現したかった」とマッシモ・ジョルジェッティは語る。1999年DAZEDの表紙を飾った花冠とベールを付けたミラ・ジョヴォヴィッチの写真やキル・ビルでウェディングドレスを着るユマ・サーマンなどがインスピレーション源となっているとか。

 

 クラシックな結婚式のイメージを脱構築し、スポーティなブラトップやTシャツ、ボディスーツにチュールスカートを合わせたり、ランジェリーをスキャンしフリースとジャージーニットTシャツにプリントしたり。コサージュがちりばめられたドレスはカットアウトされて肌が見える仕組みで、シースルー素材も多用されている。シャーリングやフリルで飾られたミニドレスは、ブラトップがレイヤードされているような視覚効果があり、ロマンティックな中にカジュアル感が漂う。

 

 ウェディングをテーマに選んだのは、この暗いご時世にハッピームードを吹き込むためだろうか。甘いイメージの中にひねりがある破天荒なウェディングから、エッジーで楽観的なメッセージが伝わってくる。

 

 

 

ジル サンダー(JIL SANDER)

「ジル サンダー」2023春夏コレクション

 

 

 

 いつもこれまでにショーで使われたことがないロケーションをセレクトする「ジル サンダー」は、今回、街の中心から外れたゴルフ場でショーを開催。草木の小道を抜けたところに俗世界とは隔離されたようにこつ然と現れる、ロマンティックに花で飾られたオープンエアの建物がショー会場だ。

 ただ、残念なことにショーの日は雨。モデルが傘を持って登場するというちょっと珍しい光景となった(が、モデルを雨の中、傘なしで歩かせなかったのはとても人道的だと個人的には思う)。

 

 ルーシー&ルーク・メイヤーは「思想と自由において進歩的で、幅広い可能性を提供する、新しく異なる世界」という点で、「西海岸が象徴するアイディアとフィーリングが出発点」だったと言う。「そこで、ワークウェアの幾何学模様とハリウッドの装いに見られるグラマラスな華やかさ、ロマン主義、現実主義など、さまざまな要素を融合させ、現代的なバランスを追求」したのだとか。

 

 そんなコレクションでは、切りっぱなしの裾にノーカラーまたはシングルポイントのラペルのボクシーシルエットのジャケットや、ゆったりしたシルエットのスリットの入ったパンツやクロップトパンツ、長めのシルエットのジレやシンプルなトップスが多く登場する。そんな中に、スパンコールのフリンジスカート、ミラー仕上げのランニング、フェザーをあしらったドレスなど、ハリウッド的なゴージャスな要素が差し込まれる。

 

 「ウィメンズウェアとメンズウェアの原型を融合させることで自由になれる空間をつくりだし、それが本質的かつ現代的に感じる」と語るルーシー&ルーク・メイヤー。これまでもテイストのミックスやマスキュリンとフェミニンの融合を得意としてきたが、今シーズンは男女混合ショーという形に戻し、メンズ、ウィメンズがテイストを共有する形で表現していた。

 

 

 

フェラガモ(Ferragamo)

「フェラガモ」2023春夏コレクション

 

 

 

 「フェラガモ」は新クリエイティブディレクター、マクシミリアン・デイヴィスによる初めてのショーを開催。旧ミラノ大司教座神学校で、同社のホテルグループ「ルンガルノ・コレクション」によって近い将来、「ポートレート・ミラノ」というホテルやセレクトショップの「アントニア」などが入った複合施設に変身する予定の建物の中庭に、「フェラガモ」の象徴的な赤の砂を引いた壮大なランウェイが作られた。

 

 このコレクションでは、「ハリウッドの文化を取り入れることで、サルヴァトーレの原点に敬意を表した」というマクシミリアン。「しかしそれは、エフォートレスとセンシュアリティ、サンセットとサンライズといった対極的なものや新旧が入り混じる新しいハリウッド」なのだとか。コレクションのメインとなっている赤は、新しいブランドカラーが使われており、また1959年に「フェラガモ」がマリリン・モンローのために作った赤い靴からインスパイアされた赤のルックも登場する。

 登場するルックはセカンドスキン的なボディスーツやチューブドレスやペンシルスカートなどボディコンシャスなアイテムが目立つ。ミニマルなブラトップやメンズのレザーのマイクロショーツ、透け素材を使ったチュニックなど、センシュアリティを強調するアイテムもある。

 温度によって色が変わる素材をつかったジャンプスーツや、アーティスト、レイチェル・ハリソンの作品 Sunset Seriesから抜粋したグラデーションプリントなどの色の遊びもあれば、その一方で、クラシックなスーツやトレンチをワントーンでコーディネートしているルックもある。

 

 小物では1988 年に発表され、サルヴァトーレの妻の名を冠した「ワンダ」バッグが新しいプロポーションで再解釈されたり、新しいガンチーニヒールのパンプスが登場した。

 

 ブランド名からサルヴァトーレを取って「フェラガモ」だけにし、ロゴも一新した。27歳の若いクリエイティブディレクターと共に、変革に向かって進む「フェラガモ」の今後に注目したい。

 

 

 

ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)

「ドルチェ&ガッバーナ」2023春夏コレクション

 

 

 

 「ドルチェ&ガッバーナ」は自社施設メトロポールにてショーを開催。今シーズンは、キム・カーダシアンをキュレーターに迎え、キムが延々と食事を続けるムービーを背景にショーを繰り広げた。

 コレクションは、キムがセレクトした1990年代から2000年代にかけてのアーカイブピースを、彼女からのインスピレーションを受けつつ、ドメニコとステファノが再構築したものだ。キムに体現される自信、独立心、スタイルセンス、そして官能性を称えるコレクションとなっている。

 

 例えば、1994秋冬に“New Rock’n Roll”というテーマで発表されたトレンチコートをテクニカル素材やPVCなど革新的な素材で再提案。

 1992年に“La Dolce Vita”というテーマで発表されたストレッチ素材のドレス、1999春夏の“New Ologram”からインスピレーション得たフェミニンで官能的なロングドレスでレースとチュールの世界、1995年のコレクションから着想を得たクリスタルメッシュ、1998年テーマ“Stromboli”と2007年テーマ“Sexy and roid”を連想させるシルバーとレースのインサート、そして1991秋冬の“Le Pin Up”で登場したクリスタル刺繍のビスチェが、ボディスーツや透明なシフォンやレース、チュールのドレスで表現されているのだとか。

 

 シチリアンブラックをメインに、パールグレー、ストーングレー、シルバー、そしてお得意のレオパードモチーフも見られるが、全体的にモノトーンのコーディネートで、シルエットはボディコンシャス、ランジェリー風アイテムが多いのが、今シーズンっぽい。それもこれもアーカイブに引き出しが沢山あるからこそできること。そしてちゃんと時代にマッチしているのも見事だ。

 

 

 

バリー(BALLY)

「バリー」2023春夏コレクション

 

 

 

 ルイージ・ビラセノールを新クリエイティブディレクターに迎え、ショー形式でコレクションを発表した「バリー」。実は20年ぶりのランウェイなのだとか。「ファブリカ・デル・ヴァポーレ」という複合文化施設にて、木と鏡で構成された曲線的なランウェイでショーを開催した。

 

 ルイージ曰く、「スイスの工芸品とヨーロッパの生活芸術を自身のアメリカの物語と調和させた」そうで、アメリカ人的な目を通した、ヨーロッパの贅沢や171年の歴史を持つ「バリー」が体現するクラフトマンシップを描く。

 サンタモニカからサンモリッツへ、スポーツウェアをイブニングウェアに。ソフトスエードからポリッシュドカーフスキン、ストレッチ ナッパなど、「バリー」ならではの上質な素材をベースに、様々なテイストのミックスや意外な組み合わせが繰り広げられる。

 

 ファーストルックのシルクベルベットのタイガープリントスーツに始まり、パイソンのジャケットやロングブーツ、メタリックのスイムウェアやサファリジャケットなど、パンチのきいたイブニング風アイテムが登場。それらがデニムやスエードのパンツ、マントヒヒ?の顔を描いたレザーバミューダなどカジュアルなアイテムとコーディネート。その一方で、ダブルのスーツやパジャマスーツ、ガウンやトレンチなどグラマラスなテーラードスタイルも繰り広げられる。カットアウトを施したニットドレスや、大きく開いた胸元にブランドの頭文字Bを組み合わせた金具を施したドレスなど、ボディコンシャスでセクシーな要素もふんだんに取り入れている。  

 

 ルイージが“ECDYSIS”と呼ぶこのコレクション。これは「変態、成長または形の変化を目的として外骨格を脱ぎ捨てるプロセス」という意味で、ブランドの変革を宣誓しているかのよう。老舗ブランドがこれからどのように変化していくのかが、注目される。

 

 

 

モンクレール(MONCLER)

 

 ブランドの70周年アニバーサリーを祝い、ミラノのシンボル、ドゥオモ広場にてイベントを行った「モンクレール」。ブランドのアイコン的モデル、マヤジャケットを70周年のために再構築した「モンクレール マヤ 70ジャケット」を纏った1952人(創業年1952年に因んでいる)のアーティストたち(700人のダンサー。200人のミュージシャン。100人の合唱団員。952人のモデル)が登場。

 ミラノ・スカラ座のプリマ・バレリーナ、ヴィルナ・トッピのダンスに始まり、合唱団の歌やオーケストラ演奏と共に演出家サデック・ワフの指揮によるコンテンポラリーダンスが披露された。最後には、「モンクレール」に因んだ雪のような紙吹雪が舞う圧巻のフィナーレ。このイベントは一般公開されたため、18,000人の一般客も集まり、ミラノ市を挙げてのお祝いとなった。

 とはいえ、これはまだ70周年祝賀のほんの幕開け。これから70日間、世界中、そしてオンラインで様々なプロジェクトが準備されている。今後、10月5日、ニューヨークのハイラインを皮切りに、ロンドン(10月12日)、東京(11月上旬予定)、ソウル(11月18日)にて、没入型エキシビションが巡回する。

 

  また、ドゥオモ広場でのイベントには白のバージョンが登場した「モンクレール マヤ 70ジャケット」が、特別なシルバーメタリックバージョンや、オンライン専用のブラウンを含んだ 12色のエクスクルーシブカラーで登場し、オフィシャルサイトやミラノ店等一部のショップではすでに販売が始まっている。

写真:モンクレール マヤ 70 ジャケット(MONCLER MAYA 70 JACKET)

 

 さらに、これまでブランドがコラボレーションしてきた 7 人のデザイナーを招いて、マヤ ジャケットを新解釈した7つのデザインが発表される。藤原ヒロシ、リック・オウエンス、ピエールパオロ・ピッチョーリ、フランチェスコ・ラガッツィ、ファレル・ウィリアムスなど「ジーニアス」で活躍中のクリエーター達から、かつて「ガム・ブルー」を担当したトム・ブラウンや「ガム・ルージュ」のジャンバティスタ・ヴァリまで。

 このシリーズはフランチェスコ・ラガッツィ(「パーム・エンジェルス」)のバージョンを皮切りに、10月15日から毎週発売される予定だ。

 

フェラーリ(Ferrari)

「フェラーリ」2023春夏コレクション

 

 

 

 「フェラーリ」としては3回目、ミラノファッションウィークでは2回目となるショーを、テアトロ・リリコ・ジョルジオ・ガーバーというシアターにて発表。写真家および映像監督のフローラ・シジスモンディ(過去には「グッチ(GUCCI)」のARIAコレクションの映像なども担当)による「The Dream of Dreamers」と題したショートムービーが流れ、それに続いて舞台から客席へとモデルたちが降りて来る仕組みだ。

 

 今回のコレクションで、ロッコ・イアンノーネは、“夢”をテーマとし、創業者エンツォ・フェラーリが築いた成功や彼が具体化した夢にコレクションを重ねた。フェラーリレッド、そして同様にシグニチャーカラーである鮮やかなイエローが、無地、またはムラ染めのようなプリントとして使われ、セットアップやジャンプスーツに。

 レーシングスーツのイメージからのジャンプスーツがそれ以外でも様々な色や素材、ディテールで登場し、関連スポンサーのロゴが多数入ったドンズバの物からシックなモノトーンのレザー製まで。「フェラーリ」のロゴが入ったトップスをスーツに合わせてクラシックなコーディネートに組み込んだり、サンバイザーはオーバーボリュームのパンツやミニフレアスカートのルックに合わせてストリートスタイルの一部となっている。

 

 このような正統派「フェラーリ」感溢れるコーディネートの一方で、煌びやかなスパンコールを施したドレスやセットアップが登場してラグジュアリー感を添える(が、よく見ると、マシンを連想させるネジのようなスパンコール?もあってやはりフェラーリの世界に戻るのだった)。

 

 前シーズンよりもブランドのシグニチャーをドンズバで強調しているアイテムが多いような気もしたが、総じてみると今っぽくてモーダ感漂うコレクションに仕上がっていた。

 

 

 

エリザベッタ フランキ(ELISABETTA FRANCHI)

「エリザベッタ フランキ」2023春夏コレクション

 

 

 

 これまでもよくショー会場に使っていた軍事学校にてショーを行った「エリザベッタ フランキ」。ブランドの熱狂的なファンたちが会場に押し寄せ、まるでコロナ前のようだ。今シーズンのテーマは“Nomade inside”で、ニューメキシコからアルゼンチンに及ぶ南アメリカ的雰囲気の中に、旅への強い欲求と再生への憧れを描いているのだとか。

 

 それを象徴するのは白、黒にバター、ダークチョコレート、ミルクなど、大地を感じさせるカラーパレット、そしてドレスやコート、パンツなど多くのアイテムに使われる南米風のグラフィックパターン、ミニスカートやコート、ドレスやジャケットの裾を飾るフリンジ、そして帽子やバッグだけでなくコートやドレスにも使われるラフィア・・・等々またはアルゼンチンタンゴのドレスのようなフロント部分に大きなスリットの入ったスカートも登場する。

 

 とはいえ、クロップド丈の上品なジャケットや白いシャツなどエレガントなアイテムとコーディネートされていたり、シルエット自体はボディコンシャスでシンプルなものも多いので、ノマドイメージ一辺倒というわけではなく、デイウェアとイブニングが融合されたような、ウェアラブルなコレクションに仕上がっている。

 

 今回も独自の路線を突っ走る「エリザベッタ フランキ」。フィジカルショー最終日の(ほぼ)最後を華やかに盛り上げて締めくくった。

 

取材・文:田中美貴

画像:各ブランド提供(発表順に掲載)

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田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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