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2022.09.29
【2023 春夏ミラノ ハイライト2】双子をテーマにした「グッチ」、新体制の「エトロ」、女神をイメージした「ヴェルサーチェ」・・・ミラノコレ中盤はビッグネームがコレクションを発表
写真左から「エトロ」「グッチ」「ヴェルサーチェ」
第二弾では9月22日後半~24日前半のハイライトをレポート。
中盤はビッグメゾンのショーが続く上、展示会も目白押しで、濃密なスケジュールとなった。今シーズンもショー会場が街の中心からかなり離れているブランドが多い上、それぞれの場所が離れているため、どこに行くにも大渋滞。ショーのスタートも総じて遅れ気味。前シーズンに比べ、世界中からの参加客が増えただけでなく、パパラッチ、出待ちの人々などすべてが増えているため、混乱ぶりもコロナ禍以前に戻っている。
モスキーノ(MOSCHINO)
毎回、ユニークなテーマを掲げる「モスキーノ」。今回ジェレミー・スコットは、現代人が直面している悲観的な現状に対し、「幸せのための空間も確保しなければならない」ということで、浮遊する感情をイメージしたとか。「インフレ」という言葉は、通常「物価の上昇」という意味に使われることが多いが、「膨らむ」という意味もあり、その言葉遊びから、昨今、我々の日常生活に打撃を与えているインフレを、膨らませて楽しむグッズにすり替える。ゆえにショーではビーチアイテム、救命ボート、ライフジャケット等の膨らむ物がいたるところに。
例えば、バッグや帽子、ヘアピースなどのアクセサリーはもちろん、テーラードジャケットのラペルやポケットのパッチ部分、タイトスカートのヘムなどに膨らむディテール使われ、ライフベルトや救命具を付けたドレスも登場する。そしてベアトップのイブニングドレスにはショールの代わりにビーチボートを巻き、マーメードシルエットのドレスにアヒルや魚の付いた浮き輪でウエストマーク。ただ、「モスキーノ」のコレクションではいつも言えることだが、テーラードジャケットやシンプルなチューブドレス、タイトスカートやパンツスーツなど、シルエット自体はクラシックなものが多い。また多くのルックが原色やパステルカラー、またはカートーンプリントでカラフルに装飾されているが、その一部で「モスキーノ」を象徴するハートやクエスチョンマークのディテールが施された、黒や赤のモノトーンのシンプルなスーツやミニドレスも登場している。
いつもウィットが効いて楽しい「モスキーノ」のコレクションだが、今回は特に楽観主義を強調している。こういう世の中だからこそ、ファッションをより楽しもうというポジティブなメッセージが伝わってくる。
ブルマリン(Blumarine)
今シーズンの「ブルマリン」は、深い海の底のイメージで、会場に砂を敷き詰め、その砂の丘の間をすり抜けるようにモデルが歩くランウェイを設置。人魚のような流れるシルエットの中にゴシックテイストが加わったダークなセクシーさを展開している。
それは十字架ロゴを使ったトップに、海の底で酸化したようなアシッドウォッシュデニムのローライズのベルボトムパンツをコーディネートしたファーストルックに象徴される。それ以外にもウォッシュトデニムはマーメイドドレスやスカート、パッチポケットがたくさんついたカーゴパンツとなって登場。またメッシュジャージーや光沢ビスコースのロングドレスやスタッズをちりばめたデニムで水の反射のような煌めきを表現し、たっぷりしたフレアスカートやチュールドレス、そして様々なアイテムを飾るトレーン、フリンジ、リボン、ストラップなどのディテールは水の中を揺蕩うようだ。貝殻のブラトップも人魚のようなイメージだが、あくまでダークでセクシー。
クリエイティブディレクターの就任当時はポップグラマラスな部分が目立っていたニコラ・ブロニャーノのコレクションだが、先シーズン辺りからこれまでの「ブルマリン」にはなかったセクシー路線に方向性が変わってきた様子だ。今回のコレクションは、それをさらに進化させたような形だが、ブランドのDNAは守りつつ、劇的にではなく徐々に自分の方向性を出していくのは、老舗ブランドを継ぐ若きクリエイティブディレクターとしては実に正しいやり方だと思う。
トッズ(TOD’S)
今シーズンはハンガービコッカという現代美術博物館の展示スペースにてショーを開催した「トッズ」。アンゼルム・キーファーの「I Sette Palazzi Celesti」という常設展示作品を活かしたランウェイは、これまでの緑に囲まれて自然光の入る会場とは一転して、光と影を活かしたドラマティックな演出だ。
今回のテーマは“ITALIAN FLAIR”。パウダーカラーやアースカラー、白や黒などニュートラルな色を多用したワントーンのコーディネートが多く、シンプルだからこそブランドの上質感が際立つようなコレクションとなっている。80年代後半から90年代のミニマルなイメージに、色鮮やかなシューズやバッグを合わせるのが特徴的だ。カーラ・ブルーニが纏ったファーストルックやナオミ・キャンベルが纏ったラストルックのようなオーバーボリュームのトレンチや、ゆったりしたハイウエストのスラックスもあるが、「トッズ」には珍しくボディコンシャスなレザーのシャツドレスや、帯のようなベルトやコルセットでウエストマークしたり、胸元の大きく開いたニットのセットアップなど、女性性を意識したアイテムも多い。
小物の新作としては、コントラストカラーの巨大なペブルソールが特徴的な「バブル バレリーナ」や、異なるレザーをモザイク状に手編みしたアップサイクルバージョンの「ディーアイ バッグ」などが登場した。
また、ファッションウィーク初日には、現代のイタリアのライフスタイルを称える写真集「アリア・ディタリア」の発売を記念したイベントがPAC(現代アートパビリオン)で開催された。これは2009年の「イタリアン・タッチ」、2012年の「イタリアン・ポートレート」に続く写真集の第三弾で、「トッズ」がテーマとして掲げる上質なイタリアンライフスタイルを描いている。これらの写真集の世界観に触れると、「トッズ」のコレクションをより深く理解することができる。
スポーツマックス(SPORTMAX)
今シーズンはセナート宮でショーを開催した「スポーツマックス」。出てくるものをつまもうとしているような大きな手の絵が描かれたゲートからモデルたちが登場する。
コレクションは「ブーバ」と「キキ」という、意味を持たない2つの言葉の印象についてのリサーチに始まっているのだとか。ほとんどの被験者が「ブーバ」を丸みのある曲線的な図形、前者の「キキ」をギザギザの図形と回答したそうで、そこから感覚刺激に対する本能的な反応である共感覚についての考察が行われた。
二元的な要素を駆使し、異質なものと馴染みのあるものをとミックスしたこのコレクションでは、1950年代のAライン、ローウエスト、ナローショルダー、ラージフレアシルエット、60年代の未来的なスペースエイジスタイル、さらにテクノミュージックやレイブシーンからサイバーパンクスタイルが生まれた90年代のカウンターカルチャールックが交錯している。クラップドのトップにボリューミーなスカート、未来的な光沢カラーのドレスやシャツ風ドレスは長いトレーンのレッドカーペットような仕上げに。セカンドスキンを始めとしたミニマルなボディコンシャスなシルエット多数登場するが、そこにはしばしばアシンメトリーなディテールが加えられている。
今シーズンは多くのブランドがモノトーン中心のコレクションを発表する中、鮮やかなカラーパレットやサイケデリックモチーフのプリントが繰り広げられ、刺激的なショーだった。
エトロ(ETRO)
LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン系の投資会社、Lキャタルトンが株式の60%を取得したことにより大変革が起こっている「エトロ」は、今シーズン、新クリエイティブ・ディレクター、マルコ・デ・ヴィンチェンツォが手掛ける初のコレクションを発表。ショーのインビテーションにはメタリックのバトンが、E-viteにもバトンを渡す手の写真が使われており、デザインがファミリーから新ディレクターに交代されたことが強調されている。
コレクションは「エトロ」と「ユートピア」からの造語“エトロピア”がテーマ。彼の故郷であるシチリアの風変わり貴族が、19世紀にパレルモからサンティアゴ・デ・コンポステーラまで徒歩で巡礼することになり、自分の庭に目的地までの距離を細かく分解した沢山の小道を作って、本当にその旅をするかのように装備することを思いついた…という話をヒントにコレクションを考えたのだとか。それは想像上の世界と現実世界を行き来するような不思議な旅だが、そこには「エトロ」の真骨頂だったノマドやエスニックなイメージはなく、洗練された都会的な雰囲気が漂う。
コレクションピースのメインはジャガードで、そこには花や鳥(前シーズンも登場した巨大化ペイズリーのように見えたがそうではなかった)、フルーツ(サクランボのように見えるが、実はリンゴなのだとか)が描かれる。それをブラトップとワイドパンツやフレアロングスカート、ショーツとニーハイブーツといったコーディネートで見せる。あえてペイズリーは使わなかったと言う新ディレクターの潔い決断だ。とはいえ、アルニカを使ったスカートやショーツとのセットアップ、またはバッグやシャツに施されたペガサスのモチーフ、アーカイブファブリックと最先端のリサイクルプラスチックで作られた「ラブトロッター」バッグなどブランドゆかりのモチーフはさりげなく登場。グラデーションのカシミアニットやビーズを使ったブラトップにもわずかながらかつての「エトロ」らしいエスニックテイストを感じたが、それもあくまでシンプルにまとめられている。
老舗ブランドの輝かしぎるアーカイブに、時として新デザイナーは引きずられ、変革の妨げにもなり得る。とはいえ、ブランドの歴史を全く無視したドラスティックな革新は、古くからのファンを失うことになりかねない。そういう面では、マルコ・デ・ヴィンチェンツォの初コレクションは、うまいさじ加減だったのではないだろうか。
グッチ(GUCCI)
「グッチ」は前シーズンに続いてグッチ ハブでショーを行い、「Gucci Twinsburg」コレクションを発表。1人の人間の表情を変えたポートレートが2~3パターンずつ一面に貼られた壁が設置され、観客は部屋の片側だけに座ってモデルはその壁に沿って歩く形のランウェイを設置。・・・だが、ショーの最後に実はその壁(仕切り)が取り払われ、対照的な同様のセットが組まれた反対側でも同様のショーが行われていたことが発覚する。モデルは同じ服を着たそっくりの68組の双子。最後には二人が揃って登場し、手を取り合ってランウェイの向こうに消えていく・・・。
前回は歪んだ鏡で左右を囲んだランウェイを設置し、幻想的な世界を演出していた「グッチ」だが、今回は、鏡はないのに、鏡に映し出された世界を見ているような不思議な錯覚に陥るフィナーレだった。
双子についての考察から、アレッサンドロ・ミケーレは「私たちの見ているものは必ずしも見えている通りではないという思考を駆り立てる」。「他者を認めること、自分が世界の一員でしかないと認識すること」は「この地球で旅を続けるための道標となる、共存や連帯を示して」いて、「自分が他者との繋がりの中で生きていることを認識できるかどうかが、私たちが共有する未来の可能性」だと言う。ちなみに、アレッサンドロの母は双子なのだそうで、これは彼が子供のころからの実体験による長い考察だったのであろう。
登場するルックも、様々なテーマが共存し、繋がっている。ウィンドーペーンのメンズライクなスーツから、シノワズリ調からフリンジやレイヤードプリーツのイブニングドレスまで。プリントもリバティもあれば未来調のグラフィックなポッププリントもある。トム・フォードへのオマージュを想わせるピースからアーカイブからインスピレーションを得たバッグまで。そして映画「グレムリン」のモグワイ(ギズモ)がバッグから覗いていたり、ウェアにプリントになって登場するが、それはモグワイがグレムリンに豹変する二面性を双子に重ねているのかもしれない。
今回も奥の深いテーマで、それは現状への教訓とも見て取れる。「グッチ」のコレクションはその背景を咀嚼することでより面白みが増す。
ヴェルサーチェ(Versace)
ホームコレクションやピアノ、キャンドルなどが置かれたガラスのキューブを設置したドラマティックなランウェイでショーを発表した「ヴェルサーチェ」。今シーズンのテーマは“DARK GOTHIC GODDESS”。それはドナテラが愛する反逆者的な女性であり、自信家で頭が良く、ちょっぴり歌姫っぽい女性だ。
多くのルックがオールブラック、または黒とフーシャピンクやパープルのミックス。「ヴェルサーチェ」が得意とし、今シーズンのトレンドともいえるボディコンシャスなシルエットのドレスが多いが、それには胸元に切り込みがあったり、スカートに深いスリットが入っていたり。またはハードなレザーのスキニーパンツや、フリンジやスタッズの付いたバイカージャケットも登場。その一方でアップサイクルされたシフォンのミニスカートやコート、レースやシフォンのボリューミーなドレス、そしてランジェリードレスにヴェールを合わせてウェディングドレス風にコーディネートするなど、ダークな中にシニカルな甘さを混ぜることで、コントラストを表現する。ショーの最後には、パリス・ヒルトンがモデルとして登場。ドナテラが今シーズンの女性像として挙げる「強く解放され、ゴージャスであり、自分もそれを知っている、自由な女神」にオーバーラップするかのようだ。
またファッションウィーク中には、ミラノ王宮にて「ヴェルサーチェ」が主催する、写真家リチャード・アヴェドンの100点余の作品を展示した「リチャード・アヴェドン:リレーションシップ」展がスタート。過去の「ヴェルサーチェ」の広告キャンペーン写真やジャンニとドナテラのインタビュー映像など「ヴェルサーチェ」ゆかりの展示も多い。
エルマンノ シェルヴィーノ(Ermanno Scervino)
「エルマンノ シェルヴィーノ」の今シーズンのキーワードは繊細さと無骨さ。大きなパッチポケットがついたローコットンのワークウェア風ジャケットや、手作業を活かしたコットンニットなど生の素材をそのまま生かしたようなルックもあれば、レザーのジャケットやコートドレスには3D効果のあるバラのモチーフが添えられていたり、スリップドレスにはマクラメ刺繍が施されるなど、職人芸を極めた繊細なディテールが光るルックも。
またサテンのスーツやローブコートなど光沢のあるアイテムや、スパンコールで覆われたジャンプスーツなど煌びやかなアイテムも目立つ。また、ブラトップやマイクロミニなど、「エルマンノ シェルヴィーノ」にしては露出度の高い、攻めたコーディネートも見られる。黒と白、ベビーピンク、シトラスイエロー、ライトブルーなどが使われているが、全体的にモノトーンのものが多く、シンプルにまとまっている。
取材・文:田中美貴
画像:各ブランド提供(発表順に掲載)
田中 美貴
大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。