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2022.10.10
【2023春夏パリ展示会レポート1】回復進むも、中国バイヤーの来場見込めず、出展見送りが目立つパリ・ウィメンズ・トレードショー
2023春夏のパリ・セカンドセッションのトレードショーが、2022年9月29日~10月3日にかけて、市内各所で開かれた。トラノイはパリ旧証券取引所、プルミエールクラス(PC)はチュイルリー公園のテント会場、ウーマンは以前開いていたリパブリック広場にほど近い、新会場で開催された。また勢いづくビーチ・リゾートウェアのスプラッシュ・パリは、PCと軒を並べ、チュイルリー公園にテント会場を設えた。
昨年同期よりは出展者、来場者ともに増えたと思われるが、2019年10月(2020春夏)のコロナ以前までの回復には至ってはいない。
トレードショーの全般的な傾向と日本からの出展者を一部紹介する。
※WSNは、フーズネクスト・プルミエールクラス(PC)を擁するWSNディベロップモン。
2016春夏のPCは、シュールモード(SUR)、ドント・ビリーブ・ザ・ハイプ、その後合流するザ・ボックス、カプセルとの合計。2019春夏は、SURが無くなり、PCには、ドレッシング(ウェア)のエリアができた。トラノイウイーク/リシュリューなどのショールームは含まず。
※2021春夏のWSNは、ファーストセッションのフーズネクストを中止し、セカンドセッションのPCと合流して開催した合計。
※2017春夏、2022春夏のデータは取得できていない。さらに2020春夏と2023春夏以外のスプラッシュのデータも不明。
中国バイヤーの回帰待ちで、出展見送り
表とグラフは、この7年間のセカンドセッション・トレードショー出展者数の推移(2017春夏と2022春夏のデータは、取れていない)だ。2015年10月の2016春夏からコロナ前の2020春夏までの4年間は、トレードショー全体で3割減とダウントレンドだったことが分かる。そして2020年3月に開かれた2020秋冬シーズンを終えた直後にロックダウンとなり、その半年後に開かれた2021春夏は、前年比78.9%減、2割強の出展者数まで落ちた。ここからは、まさにイレギュラーな展開と言わざるを得ないが、やはりコロナ前までの回復が見られるのかが今回の焦点となっていた。結論から言うと、表・グラフの最右欄にある通り、34.3%減、約6割まで回復したと言える。
では、元に戻るために必要なことは何か。それは、中国、アジア圏からのバイヤーが回帰することというのが、一般的な見方だ。常連だったブースの多くが出展を見送った理由は、これらアジア圏、特に中国のバイヤーが来ない状況下では、相対的に高いトレードショーの出展料を支払っても見合う効果が期待できず、であれば少ない費用で自社単独、もしくは複数ブランドによるショールームで、もう1シーズンは、やり過ごすという選択になった模様だ。
いつものパリ旧証券取引所(パレ・ブロンニャール)の1~2階を使って開かれたトラノイには、171ブランドが出展した。
ソウルファッションウイークがコーナーを作って出展していたトラノイ
カラフル&ビビッドな色合いで、回復基調の喜びを表現
来場者数も出展者数に比例していたようだ。欧米、ロシア、中東などからの来場は、前年から戻ってきているものの、総じて6~7掛けとの見立てだ。それでも、街を歩く人の中にマスク姿を見かけることは少なく、メトロでも1車両に4~5人程度と、ほぼコロナ前の日常を取り戻したパリでは、以前の「ファッションを楽しもう」というスタンスと喜びを色で表現するブースやティスプレイが目立った。パリコレのオーディエンスも含め、全体的にカラフルでピースフルな色彩で、気持ちの面での回復を強調するシーズンとなったようだ。
ビビッドなピンクやグリーン、オレンジなどカラフルなディスプレイが目立った(PC)
プルミエールクラスには、349ブランドが出展した。
円安メリットを打ち消す、原価と輸送費、出展コストの高騰
一方、極端な円安傾向が続く日本の出展者にとっては、価格競争力が付いて追い風となっているか。答えは否だ。円高に振れた際のリスクヘッジも考えると、あまりに現行レートに近い数字での値付けは、避けたいところだ。さらに圧倒的な原料高と輸送費の高騰によるFOB価格の上昇で、ドル・ユーロに換算してみると、さほど以前とは変わらない価格になってしまっているようだ。また出展料や出張費の高騰も重く圧し掛かる。結果として極端な円安がメリットになっているかといえば、否となるようだ。
中国生産のニットやイタリア生産の靴ブランドなどは、ドロップシップで円安メリットは、もともと無いとの声も聞かれた。
31ブランドが出展したウーマンには、日本からの出展者は無かった。
ビーチ・リゾートウェアのスプラッシュ・パリには、110ブランドが出展し、同展のみ、ほぼ回復したといって良い。
果敢に挑む日本ブランド
日本からは、プルミエールクラスに9ブランド、トラノイに8ブランドが出展した。以前は、それぞれ30ブランド程度の出展者が居たことを考えると、こちらも3掛けといった数字になる。ここからは、日本、若しくは日本人ブランドを幾つか紹介する。
■プルミエールクラス
日本からは9ブランドが出展したプルミエールクラス
マチュア・ハ(ture ha.)
コロナ下でも年に1度は出展を続けてきたという帽子の「マチュア・ハ(mature ha)」。従来は60~80社との取引があったが、今回は40~50社程度になる見込みだ。米国からの来場者が多いと感じているそうだ。さらに同社では、フランス通訳を入れることでフランスの個店が増えたという。同展に出る理由として、「いろんな国と取引する方がリスクヘッジできる」とメリットを感じている。
折り畳み可能なボックスド・ハットが人気
トゥ・アンド・コー(TO&CO)
原材料、送料、工賃の高騰で上代が10~25%上がったという靴の「トゥ・アンド・コー(TO&CO)」。22年3月にも出展し、その際には倍近い集客の感触を得たが個店中心だったという。今回は、大手が戻ってくることを期待しているそうだ。コロナを経て、オンラインでのオーダーも増えたと変化を実感している。
高級靴のようなバブーシュタイプのシューズが人気
ユーシーエフ(UCF)
上田安子服飾専門学校の学生によるブランド「ユーシーエフ(UCF)」は、既にトラノイ、プルミエールクラスと継続出展を続けており、既存の海外アカウントは、コロナ下でも5件を維持してきた。今回は、米国、イタリア、フランス、ギリシャ、スペインなど8ヶ国で10件を超えるオーダーを得られそうだ。
特に人気のあったのが有松の雲絞りブラウス
ミサハラダ(misaharada)
原田美砂(写真左)がデザインするロンドン拠点の帽子ブランド「misaharada(ミサハラダ)」は、PCの常連。
人気のベール付きキャップ
テン(TEN.)
福岡のアクセサリーブランド「テン(TEN.)」が初出展を果たした。
ガラスとシルバーを組み合わせたリングやピアス
メゾンエヌアッシュパリ(MAISON N.H PARIS)
パリ拠点の石坂紀子さんと佐々木ひろみさんが作るナチュラルテーストのバッグ・服飾雑貨ブランド「メゾンエヌアッシュパリ(MAISON N.H PARIS)」は、多くの大手セレクトショップで販売されている。
■トラノイ
ミュベール(MUVEIL)
マレ地区でショールームを開きながら、新規獲得に向けてトレードショーに初出展した「ミュベール(MUVEIL)」。2年半振りのパリでのリアルなセールス実施ということもあり、まずは状況の見定めとトラノイへのテスト的な出展を決めたそうだ。既存取引先で固まっていた部分を改め、ミュベールの強い個性が、新規の目にどのように映るのかといった評価を再認識するための出展という。
シー・ティー・プラージュ(C.T.plage)
既に85%が海外取引というニットの「シー・ティー・プラージュ(C.T.plage)」は、「コロナ下、エージェントに助けられた」と語る。イタリア、米国にディストリビューターを、フランス、スペイン、ドイツ、オランダなどにエージェントを持ち、500店舗に販売している。エージェントとの同志的な繋がりで、硬い取引を継続できている。中国生産のため、円安のメリットは無いという。
スリュー(SREU)
PR01ショールームとして出展したリメイクベースのブランド「スリュー(SREU)」。
取材・文:久保雅裕
アナログフィルター「ジュルナル・クボッチ」編集長/杉野服飾大学特任教授/東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)代表理事・議長
ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。「senken h」を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。
大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア「Journal Cubocci」を運営。2017年からSMART USENにて「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」ラジオパーソナリティー、2018年から「毎日ファッション大賞」推薦委員、2019年からUSEN「encoremode」コントリビューティングエディターに就任。2022年7月、CFD TOKYO代表理事・議長に就任。この他、共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。
コンサルティングや講演活動の他、別会社でパリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアの開催、合同展「SOLEIL TOKYO」も主催するなどしてきた。日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。