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2022.09.06

【2023春夏東京 ハイライト2】サステナブルやリサイクル、アップサイクルなどの流れから発想したデザインが増加 神秘的で土着的なムードも

写真左から「アンリア レイジ」「フミエタナカ」「ワタル トミナガ」「リコール」

 

 楽天ファッションウィーク東京2023(Rakuten Fashion Week TOKYO 2023)では、サステナブルやリサイクル、アップサイクルなどの流れから発想したデザインや自然からインスパイアされたデザインも続いている。また、デジタルとフィジカルの融合がキーワードになる中で、美しい自然だけでなく、アフリカやアニミズム、シャーマニズムなど、神秘的で土着的なムードや根源的なエネルギー、パンク、ロックなどのテーストなどを取り入れた力強いコレクションも目を引いた。

アンリアレイジ(ANREALAGE)

 「アンリアレイジ」は“A to Z”をテーマに、コロナの影響で2年間デジタル形式で発表してきたコレクションをステージ上でリアルなモデルとデジタルの両方を使って表現したコレクションと、森永邦彦の原点である数千のパーツをつないだパッチワークの新作コレクションを発表した。

 

 服と建築の境界線を越え、暗闇で光を放つテントドレス、昭和の特撮のように天井を歩くモデルと重力に逆らい、上に落ちていくような柄や形の服を着たモデルが同じステージに現れる。

 

 宇宙で人類が活躍する未来のファッション表現した服を着たモデルはデジタルで表現した月面を歩くように進むモデルと交差する。たくさんの三角形のポリゴンで作られた立体的な服。デジタルコレクション発表とフィジカルなショーが共存するという「アンリアレイジ」らしい見せ方だ。

 

 シーズンを超えた発表はパリコレクションでは出来ない、実験にも見える。そして、デジタルをすべて巻き戻し、ラストに登場したのは「アンリアレイジ」のクラシックであり、現在も進化し続けているパッチワーク。昨年開催された「DESIGN MUSEUM BOX展 集めてつなごう 日本のデザイン」で、鹿児島の奄美で祭祀を司(つかさど)った女性であるノロが着用した「ハブラギン」という装束をリサーチした森永だが、今回のパッチワークからはリアルや手仕事ならではの、作る人の込めれた思いや呪術的なムードなど、デジタルでは出来ない、不思議な力も感じられた。

 

 「リアルとデジタルを共存させたかった。次のステージに行きたいと思っているが、そのためにもブランドらしさ、得意なことを続けていきたい、という思いもあった。パッチワークを作って時代を超えるもの、また新たなものを作りたい」と森永。

フミエ タナカ(FUMIE TANAKA)

「フミエ タナカ」2023春夏コレクション

©Japan Fashion Week Organization

 

 「フミエ タナカ」はクリアシードをテーマに、不安な時代に種をまき花を咲かそうという前向きなメッセージを込めた。

 

 黒のスーツやドレスなどシンプルでありながら力強いシリーズからスタート。アフリカを思わせる柄を使った都会的でありながら部族的なムードも共存するデザインや花柄のドレス、土や大地のエネルギーを軽くシャープに仕上げたデザイン。種が光を浴び、花を咲かせたような、電機などで使われる資材用透明コードを編み込んで作り上げた半透明のドレス。

 

 ラストは金の花吹雪がキラキラと舞い踊る。春夏のショーは初めてだったため、抜け感を意識し、マイナスすること、力を抜いて表現することにチャレンジしたというが、そのデザインは透明感があり未来的でもありながら、エネルギッシュで力強い。

リコール(RequaL≡)

「リコール」2023春夏コレクション

©Japan Fashion Week Organization

 

「リコール」は80年代のアンコンストラクテッドジャケットの解体からスタートしたという原点に立ち返り、テーラリングに回帰したコレクションを発表した。

 

 また、祖母の絵から着想し、パターンブロッキングをキーワードにすることでブロッキングの造形美や配色の豊かさも表現した。クチュールとテーラリングのアップサイクルや前後逆の服にさらに服を重ねたようなデザイン、ハートに目を付けたブランドのパロディ、カラーブックを組み合わせた絵からインスパイアされた色使いとシャツをつなげたデザイン。

 

 ヨウジヤマモト社の「ワイルドサイド ヨウジヤマモト(WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO)」とコラボレーションしたパーカーや「ヨウジヤマモト」へのオマージュのようなステッチや糸をポイントにしたデザイン、ラグタグの倉庫から回収した商品に同ブランドならではのリメイク加工を加えたデザインなども登場した。

 

 本の服や「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」の影響を感じさせたコレクションなど、これまでのコレクションもそうだったが、一着の服、革新的なアイデアというよりコレクション全体とそのストーリー性、世界観で見せるといった感じのコレクション。ゼロからスタートし世界をリードした、かつての日本のデザイナーたちとは違う、サステナブルな時代にマッチしたコレクションかもしれない。

アブランクページ(ablankpage)

 タイのデザイナー、ラロパイブン・プワデトによる「アブランクページ」は、ステレオタイプをテーマに、色鮮やかなコレクションが白に変わっていくコレクションを見せた。タイの文字やテキスタイル、カラフルな色などタイらしさや、ごちゃごちゃした表現で、伝統的ではない、今のタイのムードを取り入れた服でスタートしたコレクションは、音楽がタイのヒップホップからクラシックに変わっていく中で、ユニセックスでありながら美しいシルエットの白いドレスに変わっていく。

 

 顔写真の目の部分を犯罪者のように黒く塗りつぶしたプリントはデザイナーの顔写真を使ったものだという。そして、「リトゥンアフターワーズ」以降とも言える東京の若手デザイナーとも共通するアバンギャルドなデザイン。

 

 10年以上前にタイのファッションウィークを訪れた時に見た伝統的な服や手仕事と原宿を模した商業施設に並ぶプリクラや世界の著名ブランドのコピーブランドなど、混沌とした中のエネルギーを思い出させる。デザイナーは「タイらしさを入れながら、自分のやりたいことをやりたかった」と日本語で話した。

ベイシックス(BASICKS)

 森川マサノリがデザインする「ベイシックス」。「ロジスティクスとファッションと業界は違っていても、環境への責任を果たすために、サスティナビリティへの取り組みが必要なことに変わりはない」ということから、DHLのサポートを受けた今回。初めてのファッションショーの会場となった東京ディストリビューションセンターに登場したのは廃棄されたDHLのユニフォームをアップサイクルしたクリノリンドレスやブラトップ、「リーバイス(Levi’s)」を再構築したベーシックなデザインやミリタリーをアップサイクルし、染め直したデザイン。アンブロ(umbro)とのコラボレーションアイテムも注目を集めた。

 

 トレンドであるアップサイクルやサステナブルを基本にしながら、ベーシックでリアルなデザインだが、「サステナブルを続けることが大事」という森川だが、ショーの後には「来年はクリエイティブに特化したものもスタートしたい」という考えも明かした。

ペイデフェ(pays des fées)

「ペイデフェ」2023春夏コレクション

©Japan Fashion Week Organization

 中野ブロードウェイ4階まんだらけ変やでコレクションを行ったのは「ペイデフェ」。デザイナーの朝藤りむは、彼女自身のルーツである「朝日の巫女」の伝承を出発点に日本各地に散在するシャーマニズムやアニミズム、その世界に生きた少女たちの関係性を溶け込ませ、幻想的かつ土着的な世界観を表現したという。

 

 新潟在住のRisa Mehmetの絵画に描かれた異形の人々を使ったテキスタイルを使ったデザイン。モデルたちは中野ブロードウェイの中を歩き、店内に入っていく。店内の商品とおどろおどろしいムードやシャーマニズムが交差し、クールジャパンを代表する漫画やアニメとは対照的な霊力、巫女の話から着想した不思議な世界観は新鮮で、コレクションを際立たせる。デザインや方向は違うが、独特のムードはかつての「クードゥピエ(Coup-de-Pied)」を思い出させた。

アヤーム(AYÂME)

「アヤーム」2023春夏コレクション

©Japan Fashion Week Organization

 「アヤーム」は“ゆだねる強さ”をテーマに冒険心をもって軽やかに、妨げなく前に進む、ビーチリゾートに行くようにゆったりとリラックスしながら道のりを楽しむ、「人生の新しい冒険」の形を表現した。淡い色のシアーな素材のレイヤーやマスキュリンとフェミニンの組み合わせで表現する強さ。シースルーの上には太陽光の強さも加わる。フラワーモチーフのカットジャカード。ショー演出は日本神話に登場する洞窟の天岩土をイメージしたという。

ホウガ(HOUGA)

「ホウガ」2023春夏コレクション

©Japan Fashion Week Organization

 石田萌がデザインする「ホウガ」は、フリルなどを使った同ブランドらしいデザインの中にロックやパンクテイストなど、ハードなムード、反抗する気持ちをプラスした。デニムやシルバーを使ったストリートドレス、ピンクやブルーなどの美しい色とプリーツやレース、装飾を駆使したデザインもノスタルジックやロマンティックでありながら同時に力強さを持っている。スイートな要素をこれでもかというくらい集めることで、甘さとは反対の力強さを生み出す今シーズンの方法論は「コムデギャルソン(Comme Des Garcons)」とも共通する部分があるが、変化を求めながら、服自体は同ブランドらしい世界観を生み出している。

ワタル トミナガ(WATARU TOMINAGAP)

 「ワタル トミナガ」は、プリントや色、自然のモチーフ、ストリートまで、おもちゃ箱をひっくり返したように、カラフルでパワフルなコレクションを見せた。白鳥や恐竜、鮮やかなマックのコンピューターをアクセサリーにしてしまったようなデザインなど、様々な要素が共存する。ストリートファッションの首都とも呼ばれる東京ならではとも、ダイバーシティとも、様々な解釈が出来る服。女性の体の美しさを強調した服やサステナブルなどのトレンドとは違うが、ポップでパワフル、今を感じさせる。

エム エー エス ユー(M A S U)

 女性の体を美しく見せる服や女性を夢の世界に導く服が新しく見える中で、「エム エー エス ユー」の後藤愼平は“ready”をテーマに、レッドカーペットをイメージしたコレクションで、今シーズンの流れを決定づけた。

 

 インスピレーションとなったのはマイケル・ジャクソン。ステージに立つ姿と、ストリートで顔を隠して歩く姿をパパラッチされたプライベートショットの両方がインスピレーションとなり、新しい表現に挑戦するきっかけともなった、という。日本の伝統的な絞り、マイケルジャクソンを象徴するスパンコールを使ったデザイン、フリルなどの装飾。そして、マイケルの子供時代を思わせる子供服とフードで顔を隠したようなデザイン。女性の体の美しさを強調したトレンドとは違うものの、性差を超え華やかさやコレクションが夢だった時代を感じさせる、オンタイムなコレクションだ。

 

 

 

 

 「ハイク(HYKE)」や「ヒロコ コシノ(HIROKO KOSHINO)」など、デジタル形式でコレクションを発表した人気ブランドや大御所ブランドも多く、来場者数の制限も続いているが、席と席の間隔を大きく空けるブランドは減り、海外から来日するデザイナーやジャーナリストもいるなど、通常の形に戻りつつある。体の美しさや動き、服や素材に込められたデザイナーや思いがこれまで以上に強調され、デザイナーや日本の原点やルーツに立ち返るブランドも目を引くなど、ウィメンズが中心となり、リアルなコレクションだからより感じられるデザインやメッセージがトレンドになった今シーズン。海外のファッションウィークはリアルなショーが中心になっているが、東京のファッションウィークもデジタルを経て進化しながら、通常の形に戻ることを期待したい。

 

取材・文:樋口真一

コレクション東京
https://apparel-web.com/collection/tokyo

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