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2022.09.08

【2023春夏東京 ハイライト3】新解釈テーラリング、POPなワーク、ルード・・・東京メンズまとめ

写真左から「ヨシオクボ」「ネグレクトアダルトペイシェンツ」「クードス」「レインメーカー」

  楽天ファッションウィーク東京2023(Rakuten Fashion Week TOKYO 2023)では、ウィメンズのフィジカルショーが多く、メンズブランドはデジタルの発表を選んだケースが目につく。その中でフィジカルショーを行ったメンズブランドの多くは支援プロジェクトによってなされたものであった。

  昨年の2022春夏シーズンに10月から8月下旬に前倒ししたのは、メンズブランドのセールスやデリバリー事情に合わせたものとされていた。しかし海外のコレクションで発表するメンズブランドは6月に、国内の先進ブランドは7月に展示会を行うケースが多く、8月下旬でもメンズブランドにとっては遅いのだろう。

新解釈テーラリングとPOPなワークカジュアルが2大勢力

写真左から「レインメーカー」Courtesy of RAINMAKER、「メアグラーティア」Courtesy of meagratia 

 

 フィジカル、デジタルを俯瞰して同ファッションウィークのメンズコレクションの傾向を見ると、よりリアリティのある方向にシフトしている。ベースとなるのはテーラリング、ワーク&アウトドアだ。テーラリングは新たな解釈と進化が進んでいる。パンデミック直前のスーツ回帰トレンドが寸断。新たなワークスタイルやドレスアップスタイルがどんどんデフォルト化している中で生まれたトレンドであり、今後も続くものと思われる  

ルードやモッズ、レトロポップはなどのルックも

写真左から「コンダクター」Coutesy of el conductorH、「フォーサムワン」Couretesy of FORSOMEONE

 日本のメンズ市場で最も大きなカテゴリーであるカジュアル。ストリートカジュアルと同時進行でトレンドとなってきたワークやアウトドアルックは、ハッピーな柄やコミカルなモチーフ、明るく鮮やかなカラーで新鮮さを出している。その一方で、東京のローカルトレンドとしてルードやモッズ、レトロポップはどのルックも散見される。
 

リミックス、リメイク、リフォーメーションの3Rは東京のお家芸に

写真左から「リコール」 ©JFWO 、「コンダクター」Coutesy of el conductorH、

 「2023春夏東京 ハイライト2」でもレポートされているように、メンズでもサステナブルやリサイクル、アップサイクルなどの流れから発想したデザインが増加している。もともと「もったいない」や「ボロ」の考え、古着文化などが根付いている日本らしいデザインだ。さらにそれらの発想を拡張させ、リミックスやリメイク、そして服を解体し再構築したリフォーメーションなどのアプローチが数多く見られる。さらに多機能性を謳うデザイナーも珍しくなく、モードとユーティリティーの共存も当たり前となっている。
 
 当たり前といえばジェンダーフリー。一時トレンドワードとしてもてはやされたが、ウィメンズブランドとして製作したアイテムを男性客が購入したり、メンズブランドでフェミニンな提案をしたとしても驚かないようになっている。
 
 

ヨシオクボ(yoshio kubo)

「楽天 by R」のもと初日にフィジカルショーを行った「ヨシオクボ」。久保嘉男デザイナーがここ数年追求しているジャポネスクをポエティックに深めたコレクションであった。
 
 舞台のように高いランウェイでは、幻想的なパフォーマンスの後コレクションを発表した。コレクションのテーマは、“HITODAMA(人魂)”。日本の子供たちが今でも聞く昔話、デザイナー自身も幼少期から伝え聞いた昔話からインスピレーションを膨らませてコレクションを作り上げたという。
 
 コレクションの中で何よりも目を引くのはカラフなシアー素材で製作した造形的なアイテム。狼をはじめとする動物を模したアイテムを被りもののように着用したルックは、昔話に登場する獣たちのようだ。他にも天女のようなルックなどもあり幽玄なムードに満ちたショーを進行した。
 
 月や星モチーフのアイテムも魅力的だ。星空に仄かに輝く銀河のような総柄ルック、遠くから見ると星雲のようなペイズリー総柄、龍のようなロープ柄のシャツなどもコンセプチャルだ。また、「ヨシオクボ」らしい、ワークやユニフォーム由来のルックも健在で、パープルのレースなどとレイヤードしたルックも登場した。
 
 

クードス/スドーク(kudos/soduk)

 同ファッションウィークに初参加となった工藤司。アントワープ王立芸術アカデミー卒の工藤デザイナーが手がけるメンズブランドの「クードス」とウィメンズブランドの「スドーク」の合同ショーを行った。
 
 ショーの招待客にあらかじめ、白というドレスコード、そしてショー会場でのスマートフォンによる撮影の禁止というルールが伝えられた。その理由は、ショーが始まるとすぐにわかった。このショーは、ウェディングパーティーに見立てたもので、招待客もショーのキャストとして参加させるものであった。会場の中央に招待客を座らせ、その間をモデルたちが縫うように歩くという仕掛けであった。
 
 初めに登場したのはウェディングのルック。ただしメンズモデルのカップルだ。2組のカップルが歩いた後に続くのが、今シーズンのコレクション。ワークやカジュアルの定番アイテムにポップ要素を吹き込んだレイヤードとミックスルックが中心だ。シルエットはオーバー気味で、捻りやシャーリングを入れて動きを出している。
 
 腕に骨のイラストをあしらったクルーネックのトップス、バストトップのあたりを三角形でくり抜いたニットベスト、子供が書いた落書きのようなイラストのトップスなどコミカルなモチーフが目につくが、人形の首を吊ったペンダントなどダークな仕掛けも見られた。

ネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATiENTS)

 ストリートウェアをベースとしながら、驚きの演出で毎シーズン話題となる「ネグレクトアダルトペイシェンツ」。今シーズンは、ショーの冒頭にレトロでポップなブリットユースルックを登場させた。
 
 永遠の定番アイテムをカラーやシルエットでアップデート。チェスタコート、ボンバージャケット、マウンテンジャケット、スキッパーなどをバイオレットやネオンカラーなどでパンチを効かす。シルエットはルーズになりすぎないコンフォートフィットが中心だ。同ブランドらしい遊び心も散りばめられ、男性器をキャラクター化したイラストをフロントにあしらったフーディーやプルオーバーも発表。
          

ゲンザイ(genzai)

 ZOZOグループのEC企業yutoriがオリジナルブランド「ゲンザイ」の2023春夏コレクションを代々木第二体育館で発表。ラップとダンスパフォーマンスを組み合わせたプレゼンテーションで、テーマのディストピアを表現した。

 暗黒世界を意味するワードをテーマにしながら、ブライトカラーを多く採り入れた。SNSを主軸としたストリートブランドらしく、プルオーバーやルーズフィットパンツ、アウトドアジャケットなどが中心で、スタジアムマフラーをアクセントにしたルックが印象的だ。
 

ハイドサイン(HIDESIGN)

 ワークユニフォームを手がけるデザイン集団が今年ローンチした自社ブランド「ハイドサイン」。様々な企業のワークユニフォームを手掛けてきたノウハウを生かし、ホワイトカラーやブルーカラー等に分類されない、グレーカラーを提案するという。

 グレーからホワイトのニュアンスカラーをベースに、ユーティリティーをモダンにアップデート。機能ディテールの代表であるポケットを遊び心たっぷりに活用。ミニバッグのようなポケットをフロントにいくつも装着したり、背中にペンホルダーをつけたりしたアイテムを数多く発表した。

アフロマティック トーキョー(AFROMATIC TOKYO)       

 「アフロマティック トーキョー」はアフリカの最新アートとファッションを日本に紹介することを目的としたプロジェクト。今シーズン最後のフィジカルショーとなった。

 ショーは「アイアムシアゴ(IAMSIAGO)」、「オルビイ・トマス(Olubiyi Thomas)」「ラブラム ロンドン(LABRUM LONDON)」の3ブランド合同で行った。「アイアムシアゴ」はアフリカの土着性を軸にしたコレクションを、「ラブラム ロンドン」はカラフルなテーラリングを披露した。

 中でも特筆すべきは「オルビイ・トマス」だ。レイヤードやリメイク的アプローチでルックを構築。アフリカの民族衣装を彷彿させる要素を入れつつも世界同時進行のトレンドを感じさせるコレクションだ。合繊繊維と天然繊維を融合とした素材づかいも印象的で、手織りの麻布に綿と絹を織り交ぜて、手編みのクロシェやパッチワークに再生プラスチックを合わせている。
 

ベースマーク(BASE MARK)

 「ベースマーク」は広角レンズの歪みからインスピレーションを得たコレクションを発表した。アシンメトリーや捻り、シャーリング、カーブなど、アイテムの多くが歪んでいる。それらを絶妙なバランスでレイヤードしたルックが魅力的だ。

 ブラウンベースの褪せた色合い、ニットのポロ襟やイタリアンカラーのトップスなど、レトロ要素の強いスポーツウェアやワークウェアを自由にミックス。ブラトップや肌見せアイテムなどで、ヘルシーでセンシュアルなルックも登場した。

 モデルは先シーズン同様、メンズモデルを多く採用。ウィメンズのフィット感で製作したアイテムであるが、幅広いサイズ展開でユニセックス使用が可能であり、購買客も男性客の比率が高いブランドだ。
 
 

ミツルオカザキ(MITSURU OKAZAKI)

 夕暮れの中、黒い覆面を被ったモデルがそろりそろりと歩きショーがスタート。ルックは少しルードなモードカジュアルだ。ロゴ刺繍のボンバージャケットやトラックジャケット、総柄のセットアップ、造形的なベストやスカートなどが登場した。ピースサインがキーモチーフ。モデル全員が覆面を取り、天に向かってピースサインをするという演出でショーを締めくくった。

 

ケイイチロウセンス(keiichirosense)

 由利 佳一郎が手がける「ケイイチロウセンス」はウェアラブルなバッグを軸にコレクションを発表。WOWと共同制作したCG映像をバッグにモデルのウォーキングとパフォーマンスで独特の世界観で魅せた。体の動きをアシストする軽量人工筋肉スーツや「ウォータースキン」オーガンジーで製作したボディスーツやドレスなども登場した。

沈み|shizumi

 伊豆味俊・伊豆味大作という兄弟デュオデザイナーによる「沈み|shizumi」。音楽活動をしていたデザイナーらしく、パフォーマンスを交えたショーを三部構成で開催。今シーズンは「夜の扉」をテーマに選んだ。一点一点手染め、ペイントを施しているという同ブランド。染めや柄でアイテムにストーリーを吹き込んだ。

 

取材・文:山中健

山中健 Takeru YAMANAKA

欧米、アジア、国内のコレクション取材やファッションマーケット調査を数多く行っており、国内外のファッションビジネスの動向を語ることができる貴重な存在として注目されている。

2009年にアパレルウェブコンサルティングファーム主席研究員、2011年にアパレルウェブ編集長就任。2018年より毎日ファッション大賞推薦委員を務めている。

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