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2022.09.05
【2023春夏東京 ハイライト1】アフターコロナのニュールック 新たな女性性を提案するデザイナーたち
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写真左から「ヨウヘイ オオノ」「フェティコ」「エズミ」「サポートサーフェス」
楽天ファッションウィーク東京2023(Rakuten Fashion Week TOKYO 2023)が2022年8月29日から9月3日まで渋谷ヒカリエと表参道ヒルズを主会場に開催された。楽天グループによる支援プロジェクトby Rで発表した「ヨシオ クボ(yoshiokubo)」と「アンリアレイジ(ANREALAGE)」を含め、49ブランドが参加。そのうち27ブランドが有観客のショーを行った今シーズン。ウエストを強調したデザインやボディコンシャス、透ける素材を使ったドレス、クチュールのようなドレスなどが目を引いた。また、原点回帰もキーワードになっている。
エズミ(EZUMi)
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「エズミ」2023春夏コレクション ©Japan Fashion Week Organization
インターメディアテクでコレクションを行った「エズミ」は、ニュールックを彷彿させるデザインを見せた。
原点に戻り、デザイナーの江角泰俊が学生時代に作っていた自身のスケッチブックにあったファッションの栄華を極めたヴィクトリアン時代の女性が現代にいたらというアイデアからインスパイアされたという今回。ウエストやバストを強調するコルセットやスモッキングなどを最新の素材と技術で今に蘇らせた。肩を出したデザインやボディコンシャス。
「エズミ」らしい異素材をドッキングさせたハイブリットなデザインやプリーツなどを使わず、得意とするデニムを使ったアイテムやマニッシュなアイテムもフロックコートやエドワーディアンジャケットのように女性の体の美しさを強調していた。
ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)
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「ヨウヘイ オオノ」2023春夏コレクション ©Japan Fashion Week Organization
「ヨウヘイ オオノ」はNational Museum of Nature and Scienceで博物館に飾られるオートクチュールを未来に進化させたようなデザインを発表した。
光る素材やバッスル、クリノリンなどをボディバッグなどで表現したアイデアやウエストを強調したデザインなどは大野陽平がこれまでも見せてきたものだが、今シーズンはこれまで以上に未来的なムード、宇宙的なムードをプラスした。裾などを飾った立体的なディテールは天井に飾られた恐竜の骨や未来的な光、フォノグラムなどを思わせたが、ウインナーの反り返る形から発想したものだという。
展示会やプレゼンテーションでは見られない美しさや立体感、エネルギー。パリで見ていたような気分にもなった今回。「エズミ」と同じインターメディアテクも会場の候補だったというが、デザインから会場選定まで、今後の海外での発表も視野に入れたようなショーだった。
フェティコ(FETICO)
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「フェティコ」2023春夏コレクション Courtesy of FETICO
舟山瑛美がデザインする「フェティコ」は女性の体の美しさを追求した。パリの夜の街を思わせる会場に現れたのはフリルなどの装飾やミリタリー、マニッシュなアイテム、ニットなどをベースにしながらも、透ける素材で肌を見せ、体の美しいラインを強調したデザイン。アバンギャルドや素材、アイデアが先行しがちな東京の新人とは違う、美しく正統的なコレクションだ。
レバークチュール(LEVER COUTURE)
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「レバークチュール」2023春夏コレクション Courtesy of LEVER COUTURE
ウクライナ出身のデザイナー、レシャ・ヴァーリンガーによる「レバークチュール」は、スペクタクルなドレスを並べた。ウクライナカラーのライティングに照らされた東京国立博物館表慶館に登場したのは、顧客リストにはレディ・ガガ、ミラ・ジョヴォヴィッチ、グウィネス・パルトロウ、ケイティ・ペリー、カーディ・Bなど錚々たる著名人が名を連ねるというブランドならではの、アイデアあふれるデザイン。
ゴールドのドレスやアシンメトリーな白や赤のドレス。泡をまとったようなバブルドレス、「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」を思わせるメタリックドレスや、かつての「エルベ エジェ(Herve Leger)」とも共通しそうな、体の美しさを際立たせるテープコンストラクションドレス。正統的なオートクチュールとも言えそうなウエストをマークしたデザインやプリーツドレス。そして、青や黄色など美しい色。アイデアを美しさに昇華させたドレスはコレクションが夢だった頃を思い出させた。
サポート サーフェス(support surface)
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「サポート サーフェス」2023春夏コレクション ©Japan Fashion Week Organization
研壁宣男による「サポート サーフェス」はストライプをドレープさせたデザインやチェックに変化を加えたデザイン、半透明の素材や花のプリントを使ったドレスなどを見せた。
リリースに「美しいものには無駄がない。無駄がないものが美しいとは限らない」と記した今シーズン。前後が違うパンツ、ドレープさせたコートなど、大きな変化ではなく、独自の世界を追求しながら、柄の違いやドレープの微妙な変化で今のムードを加え、大人の女性の美しさを強調しながら、少女モデルの透明感や体の美しさも同時に表現した服たち。
デザインやメッセージではなく、主役はあくまで着る人、女性を美しく見せることを目指したような服。ショーを継続している数少ないブランドならではのコレクション。
ユーシーエフ(UCF)
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「ユーシーエフ」2023春夏コレクション ©Japan Fashion Week Organization
「ユーシーエフ」はたくさんの球体を入れた白や黒の立体的なドレスを発表した。ガチャガチャの入れ物を思わせるたくさんの球体を入れたネットドレスは、オーバーサイズで体の美しさを強調するのではなく、変形させるもの。だが、かつての川久保玲のようにシュールではなく、学生らしく、あくまでも軽く、楽しい。ラストにはすべての球体が服から飛び出し、スポーティなデザインに変身。来場者を驚かせた。
最終日発表された「FASHION PRIZE OF TOKYO 2023」第5回受賞デザイナーは「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」の小泉智貴に決定。「TOKYO FASHION AWARD 2023」第8回受賞デザイナー発表会では、「フェティコ」の舟山瑛美が「JFW NEXT BRAND AWARD 2023」フィジカル部門グランプリに続き、パリ・ウィメンズ・ファッション・ウィーク時期支援デザイナーの一人に選ばれた。
戦争のあとにニュールックが生まれたように、社会不安が続く一方で、コロナがウィズコロナ、アフターコロナの段階に移ろうとする中で、女性の美しさを強調する服が新しく見えるのだろう。デザイナーたちも2020年代のニュールックを作り、原点に戻りながら未来を目指したデザインを生み出そうとしているようにも見えた。
取材・文:樋口真一