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2022.08.18
【2022パリ国際ランジェリー展】女性のエンパワーメントを背景にランジェリーも変わる
パリの街も開放的な気分に満ちていた2022年の6月中旬、ポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場で、「2022パリ国際ランジェリー展」が開催された。
本来、1月の開催予定が延期となったものだが、ふたを開けてみると、夏展(毎年7月や9月に開催されていた「モードシティ」および「ユニーク」展)と合体したかたちだった。製品(出展者200ブランド強)の主軸は2023春夏物、併設する素材のアンテルフィリエール展(同150社強)は2023秋冬シーズンの提案。
適度な規模感の中で、会期3日間とも盛況を見せ、久々にリアルで集うことのポジティブな雰囲気に包まれていた。来場者の55%は国外からと報告されている。
なお、「ランジェリー」といっても、同展はラウンジウエア、スイムウエア、アクティブウエアを包括するもので、「肌に一番近い衣服」の動向が一堂に見られる。
特に今回は2年半ぶりのリアル開催となったこともあって、継続する主要テーマがそれぞれ次のフェーズに進んだことが明確に確認できた。
■セダクションが戻ってきた!(Seduction is back!)
写真:シモーヌペレールのランジェリー(ボディ)
会場では、「Joy(喜び)」、「Pleasure (楽しさ)」、「 Super Sexy(超セクシー)」といったキーワードがよく聞かれ、まさにランジェリーの形容詞としてよく使われる「Seduction(誘惑、魅惑)」が戻ってきたシーズンといえる。
コロナ禍当初は、快適性、汎用性、日常性が強調されていたが、それらが基本にありながらも、例えばワイヤーレスブラやブラレットタイプであっても、よりエモーショナルで官能的な非日常性を求める段階に進んでいるということだ。個性的なレースやカラフルな色使いが、身に着ける高揚感を高めてくれる。
代表的なアイテムは、背中が大胆なひも使いになったようなボディ(ボディスーツやボディブリファー)、アクセサリーとしてのガーダーベルトなど、遊びのあるもの。
これも女性のエンパワーメントにつながるもので、女性が自信をもって生きているからこそ、セクシーさを求めるようになる。「フェミニズム」と「セクシー」は表裏一体というわけだ。
■多様性(ダイバーシティ)は当たり前に
写真:シモーヌペレールのスイムウエア
「ボディポジティブ」を起点に体型、年齢、肌の色の違いを超えるという視点はさらに進み、ファッションショーでは大きなバストのふくよかな体型、シニア、お腹の大きな妊婦といったモデルが特別視されることなく、当たり前のように自然に混ざってランウェイを歩き、それぞれに存在感を放っていた。つまり、どのブランドも多サイズ展開が当たり前になり、肌に合う色を選べる多色展開を特徴にしているブランドもある。
社会におけるLGBTの浸透にともない、今回はランジェリーにおいても「ジェンダーレス」「ジェンダーフリー」という意識が強まっているように思われた。
「あらゆる女性のために」から、ジェンダーに関係なく「あらゆる人のために」、誰も取り残さないという姿勢が求められている。
■「サステナビリティ」の次なるフェーズ
素材展を中心に早期から提案されてきた、ランジェリー産業における地球環境問題への取り組みも、確実に次のフェーズに来ていること実感した。
エコフレンドリー、サステナブル、エシカルをコンセプトに、前回の2020年に新しく設置された「O.R.G.A.N.I.C」ゾーンは継続。伝統的なナショナルブランドも、再生繊維や再生レースを積極的に取り入れ、CSR(企業の社会的責任)を意識するようにこの2年半で大きく変わった。
写真:スキャンダル・エコランジェリー
今回、展示会デビューを果たした「スキャンダル・エコランジェリー(SCANDALE ECO-LINGERIE)」は典型例で、生地メーカーとの独占契約によって、100%サステナブルなエラスティック素材(うち80%がリサイクル)を使用しているのが特長だ。もともとは1930年にリヨンで誕生したフランスの老舗ランジェリーブランドだが、グローバルにファッションビジネスで活躍してきた人物の手によって、実に今日的にブランド再生が図られた(昨秋に販売スタート)。
また、素材展の方では、最終的に溶けて土に還る「生分解性(BIODEGRABLE)」に関心が集まり、日本の副資材メーカー、ユタックスが紙のワイヤーを提案していた。
製品メーカーの間でも、製品回収にとどまらず、最終的な廃棄までを考えたサステナブルな物づくりが進みつつある
■女性のコミュニティが新しいビジネスを
写真:吸水型生理用ショーツの「レジャンヌ(REJEANNE)」Courtesy of REJEANNE
日本では「フェムテック」のキーワードで話題の分野だが、会場では「吸水型生理用ショーツ」のブランドが多く出展していた。前回の2020年にも生理用ショーツは2、3ブランド出展していたが、今回はその倍以上(フランスやブラジルから)。コロナ禍が女性のネットワークによる新しいビジネスを加速させていることは間違いない。
「フランスではこの3年間で生理用ショーツ市場が37倍に伸びた」という話を耳にしたが、今はブームともいってもいい現象を見せている。
いずれも女性の起業家が始めたもので、漏れ防止や肌ざわりなどの機能性にもとづいた科学的な物づくりから販売に至るまで、女性のコミュニティを活かした組織化が特徴となっている。
既にベーシックな定番に限らず、色や柄などのデザイン性、あるいは水着用なども幅広くそろえているが、女性の心身の健康や環境問題を中心に据えながら、今後は展開アイテムが広がっていくに違いない。
■次世代の未来に向けて始動
写真:初出展となった「リヴィ」のブース(EXPOSED内)
高感度ブランドを集めて人気の定着している「EXPOSED」をはじめ、前回から登場した独立系新世代ブランドゾーン「MILLENIALS」も展示会全体の若返りに貢献しているが、展示会全体を通し、次世代、若い世代に焦点が当てられている。今回はクラウドファンディングサイトと連携したゾーン「ULULE」も登場した。
伝統的な老舗ブランドも、次世代の市場開拓を見据えた取り組みに積極的。シャンテルは現代的で洗練された「シャンテルX」で、「ランジェリーに新しい風を吹かせたい」と意気込み、「シモーヌペレール(SIMONE PERELE)」は若々しくファッショナブルな「シモーヌ」ラインによって新しい顧客層の開拓を狙っている。
今回は、ランジェリー好きの間で近年注目を集めていた「リヴィ(LIVY)」の新規出展も話題といえる。同ブランドのコンセプトである「ランジェリー(インナー)とプレタポルテ(アウター)の中間」を狙ったモード感覚は、まさにランジェリートレンドの大きな方向性となっている。
写真:パリ国際ランジェーリー展会場(撮影:武田尚子)
デジタル化の変革の波の中で、ランジェリービジネスもECが定着する一方、改めてリアル店舗の重要性が再認識されている。オンラインの便利さを活用しながらも、リアルでしか味わうことのできない感動や体験が重要であることを痛感した今回の展示会であった。
次回の開催は来年1月となるが、主催者がフーズネクストのWSNに変更されたことが既に発表されている。ファッション合同展の有力主催者による新たなステップを期待したい。
文:武田尚子(フリー・ジャーナリスト)
画像:Salon International de la Lingerie et Interfilière Paris 2022 _ Crédit photo Mahana Prod
武田尚子
ボディファッション業界専門誌記者を経て、1988年にフリーランスとして独立。ファッション・ライフスタイルトータルかつ文化的な視点から、インナーウエアの国内外の動向を見続けている。執筆をはじめ、セミナー講師やアドバイザー業務も。特に世界のインナーウエアトレンドの発信拠点「パリ国際ランジェリー展」の取材を1987年から始め、年2回の定期的な海外取材は連続34年に及び、2020年のコロナ禍で一時中断したが2022年に再開。
著書に、『鴨居羊子とその時代・下着を変えた女』(平凡社)など。2021年3月に、『もう一つの衣服、ホームウエア ― 家で着るアパレル史』(みすず書房)を発刊。