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2022.07.10

【2022秋冬パリオートクチュール ハイライト】トップメゾンが見せつけるファッションの持つ力

左から「ディオール」「シャネル」「フェンディ

 2022年7月4~8日、パリにてオートクチュール・コレクションが発表された。フランスオートクチュール・プレタポルテ連合協会のカレンダーによると、30ブランドが参加、うち28のフィジカルショーが開催された。「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」、「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVÉ)」、「イリス ヴァン ヘルペン(Iris Van Herpen)」、「ジャンバティスタ ヴァリ(GIAMBATTISTA VALLI )」などがフィジカルショーに復活し、「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」の今回のゲストデザイナーは「バルマン(BALMAIN)」のオリヴィエ・ルスタンが務めるなどのニュースが。またオートクチュール前日の3日夜には、「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」、「パトゥ(PATOU)」、「アライア(ALAÏA)」がプレタポルテ・コレクションを発表した。

 

ディオール (Dior)

 

 ロダン美術館にて、ウクライナ人アーティストのアレシア・トロフィメンコによる“The Tree of Life(生命の木)”をモチーフにしたインスタレーションをセットにオートクチュール コレクションを発表した「ディオール」。この作品は刺繍によって生命の樹と花々のブーケを壁全体に描いているもので、同コレクションのインスピレーション源にもなっている。

 

 印象的なのはルックの大半に施されている様々な手法の刺繍。それによってアレシアの作品の花や植物が描き出され、フォークロアなイメージを与える。そしてそれはしばしばレースやギュピール、ビーズと一緒に使われることでより技術の高い職人技を物語る。

 

 全体的にサンド、キャメルやグレージュなどベージュ系をメインにブラックやブルーなど落ち着いた色が使われている。エアリーなシフォンのドレスは登場するものの肌の露出は極めて少なく、長めのスカートかドレスにレトロなレースアップシューズというスタイルだ。

 

 ビショップスリーブやベルスリーブ、フレアスカートやプリーツスカートがたくさん登場し、上品で控えめな雰囲気が。そしてコットンやウールのクレープ素材、シルク、カシミアなど、マットで素朴な印象さえ与える自然素材が多用されている。

 

 コレクションノートには、「生命の樹は、伝統そして手仕事の輝きを求める叫びであり、また警笛でもあります。たとえ一瞬だけでも、あるべきバランスを取り戻すことができるように」とあった。一般的にはあまり知られていないことかもしれないが、現在の世界情勢は、職人文化にも大きな打撃を与えている。そんな危機感がこのコレクションには込められているのかも

シャネル(CHANEL)
 

 今シーズンの「シャネル」のオートクチュール・コレクション[は、グザヴィエ・ヴェイヤンが演出した会場セットにて、巨大なスクリーンビデオに映し出されたファレル・ウィリアムズのドラムワークからスタート。 

 

 

 コレクションは、ガブリエル・シャネルが1932年にデザインした生涯唯一のハイ ジュエリー コレクション、「Bijoux de Diamants(ダイヤモンド・ジュエリー)」からスタートしていると言う。ガブリエル が 1930 年代に思い描いていたようなスーツや、身体に添ったロング ドレスが登場し、カール・ラガーフェルドが特に思い入れを抱いていたキーワードである、グラフィックな装飾の構成主義に共鳴する。

 

 

 丸みを帯びたショルダーライン、スクエア型に開いた背中、くるぶし丈のフレアスカートやプリーツスカート、ゆったりしたパンツルック、そしてジオメトリックなプリントや刺繍が全体に施されたアイテム達。その一方で黒やシルバーのクチュール感溢れるカクテルドレスなども登場する。

 

 「前回のショーの流れを汲みつつも、実験的余白を残しながらイメージを膨らませていった」とヴィルジニー・ヴィアールは語るが、モデルの足元にはカウボーイブーツが合わせられ、ショー会場となったエトリエ馬術センターとのつながりをもたせつつ、またシャルロット・カシラギが馬にまたがってオープ二ングを飾った前回のオートクチュールのショーにも呼応している。

 

 ちなみに、ガブリエル がデザインした「ダイヤモンド・ジュエリー」は、世界的な経済危機で暗い時代だった30年代に、ダイヤモンドへの関心を復活させるために依頼されて創ったもので、この作品によって業界全体が改革され、時代が活性化されたのだとか。このコレクションではそれを現在の危機的な状況にオーバーラップさせ、ファッションが持つ力への期待が込められているのかもしれない。

 

ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVÉ) 

 前回は感染拡大のためフィジカルショーの開催を見送った「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」も今シーズンは復活。“輝き”をテーマに、輝きに溢れるエレガントなコレクションを繰り広げた。

 

 インスピレーション源は1920 年代のタマラ・ド・レンピッカのように、強い意志を持ち、自立した聡明な女性像。その反抗的なエレガンスを、長めのジャケットにアンクルタイドパンツ、ビスチェ風トップにロングスカートなどミニマルで直線的なシルエットから、ウエスト周りや胸元に大きなリボンを施したドレスやスカート部分がレイヤードチュールやパニエ仕様になったボリューミーなシルエットにまでに反映している。多くのルックが光沢素材を使用、または刺繍、スパンコール、ビジューで装飾されたり、ビーズのフリンジを合わせて、動きに合わせてきらきらと煌めく。そんな中に、漆塗り風のシルクや東洋的なモチーフや格子柄のようなオプティカル柄など、ジョルジオ・アルマーニが愛してきた東洋的な要素も差し込まれる。

 

 そして、ショーの最後に挨拶に登場したジョルジオに、会場のスタンディングオベーションが起こっていたのが印象的だった。

バレンシアガ(BALENCIAGA)

 デムナ にとって 2 回目のオートクチュール・コレクションとなる、51st Couture Collection を発表した「バレンシアガ」。オープニングでは真っ黒な日本製の石灰岩ベースのネオプレンを使い、3Dプリントのパディングがなされたスキニーなウェットスーツに、メルセデスAMGがF1のために開発したコーティングポリウレタンのフェイスシールドのモデルたちが登場。音楽は、「バング&オルフセン(Bang&Olufsen)」とのコラボで、それぞれのモデルが持っている携帯型の最先端のサウンドシステム「スピーカーバッグ」で再生される。

 

 そんな高度な最新テクノロジーの連発から、コレクションピースは伝統的な職人技へと移行し、クリスタルビーズのフィッシュネットガウン、スパンコールのミニカクテルドレス、トレーンやリボンのついたドレープドレス、ジェットビーズのジーンズ、アニマルモチーフのフェイクファーコート、フェザー付きのマキシドレスなどが登場。それぞれのピースに職人技を効かせており、ビーズやスパンコールに手作業がなされているのはもちろんのこと、ドレープドレスは特別な色、特別に開発されたファブリックトリートメントが施され、レオパードのフェイクファーコートは150 キロメートルの糸が手作業で房状に仕上げられているのだとか。

 

 デムナらしいクチュールピースは、デニム使いやボンバー、Tシャツなどとして登場するが、これらも様々な技術が背景にある。Tシャツはアルミニウムで接着されて形状を保持する仕上げがなされ、デニムはインディゴセルヴィッチでウォッシュされ、サテンの裏地を施し、シルバーメッキのボタンで仕上げられた日本製のデニムを使用しているのだそうだ。

 

 そして最後には250メートルのさまざまなチュールで作られたベールに包まれたウェディングドレスが登場。これには70,000個のクリスタル、80,000個の銀の葉、200,000個のスパンコールを含む、25種類のパイレットとビーズを使用し、刺繍のためには 7,500時間を要すると言う。

 

 また「バレンシアガ」は同コレクション発表の日に、クリストバル・バレンシアガが最初にサロンとアトリエをオープンしたパリ8区ジョルジュサンク通り10番地に新しいクチュールストアをオープンした。
 

メゾン マルジェラ(Maison Margiela)

 オートクチュール「アーティザナル」コレクションのフィジカルショーを復活した「メゾン マルジェラ」だが、それは演劇と映画の世界が一体化したパフォーマンスを劇場内のカメラがとらえて映し出すという、ムービーとフィジカルのランウェイショーの間を行くような不思議な演出。

 

 シャイヨー宮にて行われたこの“シネマ・インフェルノ(Cinema Inferno) ”というタイトルのパフォーマンスは、ジョン・ガリアーノが考えるところの、ポストデジタル時代におけるフィジカリティへの願望に応える様々な分野を巧みに融合した新たなフォーマットなのだそう。物語はジョン・ガリアーノ によって創作されたオリジナルで、イギリスの演劇カンパニー「イミテイティング・ザ・ドッグ」が演じるという本気の作品である。

 

 この“シネマ・インフェルノ”では、その不幸なカップルの逃亡ストーリーを通じて、バラエティ豊かな登場人物たちによる様々なアイテムが登場する。カウボーイルックや切り裂かれたトレンチコート、縫い目を外に出したパワースーツから、クチュールテイスト溢れるビスチェカクテルドレスやコクーンシルエットのコート、ボリューミーなシフォンテールドレスまで。切り裂かれて繋ぎ合わされたアイテムや、19世紀のアンティークのベッドリネンや20世紀のオリジナルのパンプスがコラージュされた「レチクラ」のピースなど、「メゾン マルジェラ」 らしい遊びも入れ込まれている。

 

 コレクションピースが先に生まれたのか、話に合わせてそれらを作ったのかはわからないが、何よりもストーリーの中にうまくクチュールピースを落とし込んでいたのは見事。
 

フェンディ(FENDI)

 

 パリ旧証券取引所に設置された真っ白なセットでショーを発表した「フェンディ」。このコレクションについて、キム・ジョーンズは「今シーズンは、ローマから一歩離れて、少なくともローマという都市をグローバルなコンテクストの中に置いて見たいと思いました。さまざまな都市、つまり京都、パリ、ローマの断片に目を向けています。記憶のかけら、あるいは過去、現在、未来の印象といった、物事の断片的な性質がコレクション全体で繰り返し表現されています」と語る。そんな地理的に離れた都市たちの多様な文化がミックスされたコレクションをひきたてるのに、このニュートラルなセットがマッチしている。

 

 ショーはキャメルのコートやテーラードスーツのシリーズから始まり、それに京都に18世紀から受け継がれてきた型友禅を薄く裁断し、アシンメトリーにリフォームしたロングドレスが続くが、これは伝統的な絹織物を再構築、再解釈することで過去と未来が繋がることを表しているらしい。またそこにはフレンチ「ジャポニズム」のテイストで、パリの構築的な精神を反映した波状に輝くクリスタルケージが施され、東洋と西洋の融合がなされる。伝統的な日本の生地はスーツやドレスのインナーの裏地やキルティングとしても使われ、隠れた融合も見られる。

 

 そんな中にイタリアらしいビクーニャ、レザー、ファーを用いたパンツスーツやドレスが差し込まれ、その一方で透け素材によるドレスやチュニックが多く登場。ヌーディなチュールに、17世紀の「オード・トゥ・オータム」というファブリックデザインからインスピレーションを得たイロハモミジの葉のモチーフが刺しゅうされたアイテムが印象的だ。

 

 歴史ある3都市の美意識を抽出して融合したコレクションは、職人技が集結しているにもかかわらず、これ見よがしでない着やすくタイムレスなエレガンスを演出している。
 

ユイマナカザト(YUIMA NAKAZATO)

 

 パンデミック後、2回目となるパリオートクチュールでのフィジカルショーを行った「ユイマナカザト」。今回のテーマは“BLUE”。

 

 「このコレクションの色を何色にしようと考えた時に青い⾊をつけたいと思った。地球の青である。空や海は青く⾒えるが、それは現象として青いだけで、海の水に布をつけても青くは染まらない。目に見えているのに、まるで存在していないかのような不思議な存在なのだ。私は、青い服を纏うということは、化⾝たちが私たちに届けるメッセージを纏っているような、そんな感覚になれるのではないかと考えた」「東京のビルの隙間から⾒える青空から、私はまだ⾒ぬ青い地球の姿を想像し、そして、祈るように、このコレクションを創っていった」と中里唯馬は語る。

 

 心が痛むような様々な事象に溢れる現状を、大空を悠々と飛ぶ鳥や、別の世界と世界をつなぐ存在であるシャーマンにも思いを馳せながら創ったというコレクションは、古代世界のようにスピリチュアルであると同時に、ファッションの未来を考え、地球環境を守るための意欲的なアクションがなされている。

 

 まず、袖を交換したりつぎはぎをすることでリペアが可能で、また帯の位置を変えたり裾の⾧さを内側に巻き込むことで、様々な身長や体型の⼈が着ることができる着物に注目。そして着物が長方形で出来ているところからヒントを得て、生産時の生地ロスをゼロにすることができる長方形のパターンをほとんどのピースに使用している。さらにこのコレクションは余剰生地を集めて製作されているうえに、アップサイクルや衣服の焼却・埋め⽴て率を下げることを考慮して、できる限り1つの素材でできている生地を使用し、そして異素材同⼠を縫い合わせることもできる限りしない作りに。染めに関しては、繊細な手書きの質感をできる限り損なわずに生地に印刷するためと、刷版の洗浄などに膨大な量の水を使用することを避けるためにデジタル捺染を行った。また、針と糸を使わない特殊な付属により衣服を組み建てて、何度でも繰り返し素材同士を付けたり外したりすることができる、「ユイマナカザト」が開発するプロダクションシステムTYPE-1も駆使している。

 そのシルエットは「着る」というよりは「纏う」服。一人一人の人間に合わせて、洋服が人間の体の一部として変化する服を追求する中里の哲学がコレクションから伝わってくる。

 
 
画像:各ブランド提供(発表順に掲載)

「パリオートクチュール・コレクション」2022秋冬コレクション

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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