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2022.06.28
【2023春夏パリメンズ ハイライト1】84ブランドが参加 フィジカルとデジタルのミックスによって門戸を開く
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左から「ドリスヴァンノッテン」「ルイ・ヴィトン」「ディオール」
2022年6月21日から26日まで、メンズのパリコレクションが行われ、パリ各所にてショーとプレゼンテーションが開催された。
コロナ禍によって大きな変更を余儀なくされたパリコレクションは、デジタル配信による新作発表が主流となったが、今年に入ってから徐々にフィジカルなショーを行うブランドが増え始めた。フランスは未だ日に数万人の新規感染者を出しているものの、ワクチンパスポートは解除し、公の場でのマスク着用の義務も解消。そんな中にあって、今季は完全復活とは言わずとも、多くのブランドが実際にショーやプレゼンテーションを行うに至っている。
今年1月に行われたパリコレクションでは、主催するクチュール組合によるオフィシャルなカレンダーには76のブランドが掲載されたが、今季は更に増えて84ものブランドがラインナップされている。依然として、デジタル配信によるコレクション発表に高い可能性を求めて参入してくるブランドが多く、フィジカルなショーとデジタル配信の二極化が始まっているのかもしれない。
キディル(KIDILL)
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末安弘明による「キディル」は、フォブール・サントノーレ通り沿いのギャラリースペースにて、プレゼンテーション形式で最新コレクションを発表。
これまで通り、最初期のパンクやハードコアなどのミュージックカルチャーから引用される様々な要素を散りばめつつ、今季は映画黎明期のホラームービーのエッセンスを加え、人間の持つダークサイドを表現。会場には切断された手足が散らばり、モデルたちは屍のように横たわる。奥のスペースには、首を吊られたかのようなロープで支えられたマネキンが置かれ、プレゼンテーションの最後にはスモークが焚かれる中、モデルたちが起き上がってゾンビのように歩き回った。
そんな不穏な空気が立ち込めそうな演出ではあったが、最新作はフローラルプリントやサイケデリックなマーブルプリント、スコティッシュタータンチェックなど、色目の美しいファブリックで彩られている。ダークなイラストに対して、ナイーブな花の刺繍や猫と女性のイラストなど、ポップな要素をぶつけ、そのコントラストが不思議な調和を生み出して心地良い。またアントワープを拠点に活動するグラフィックデザイナー、トム・トセインとは「究極の偏愛」を感覚的に共有できるクリエイターとのコラボレーションになったといい、このブランドに新しい側面を与えている。岡山の縫製工場とのコラボレーションで、スタイリストの野口強がディレクションを手掛ける「マインデニム(MINEDENIM)」とのコラボレーションにも注目したい。
ターク(TAAKK)
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森川拓野による「ターク」は、屋根付きのアーケイドである、19世紀半ばに作られた2区に位置するパッサージュをランウェイにショーを開催した。
特にテーマを設定せず、モダンなものを作ることも目指さず、単に美しいものを追求したかったとする今季。美しい素材とカッティングによって、目に麗しいエレガントな作品が並んだ。
太い横糸を増減させることで生み出されるグラデーションによって、見た目の重量感が変化するジャケットやトレンチコート、朽ち果てていく瞬間を捕らえたような、独特の織りのファブリックによるスウェット、ジャカード織で凹凸とモチーフを表現したデニム素材によるセットアップ、毛足の長い糸が独自の揺らぎを見せるカットソーなど、ハッとさせられるアイテムばかり。
ショーが終わり、広場にモデルが並んで来場者に間近で服を見せたが、今季コレクションの美しさを巧みにアピールした瞬間だった。
ルメール(LEMAIRE)
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クリストフ・
シンプルなシルエットでベージュを基本色としたアーシーなカラーパレット、そしてノマド(遊牧民)的なボリュームのカッティングといった、「ルメール」らしい作風を踏襲。バギーパンツとオーバーシルエットのジャケット、ブラウンのスーツとコートのセットアップ、シャツとクロップドパンツのセットアップなど、どこかゆったりしたシルエットが、リラックスしたムードを醸し出す。
しかし今季は、これまでの「ルメール」のイメージを覆すかの如く、トロピカルプリントやアール・ブリュット(西洋の芸術教育を受けていない者によるアート)プリントが登場。バギーパンツにトロピカルプリントのシャツとサンダルを合わせてリゾートウェアのように仕上げている。後者は、パプア・ニューギニアのアーティスト、ノヴィアディ・アンカサプラとのコボラレーションによるもので、春夏らしいショートパンツと七分袖のシャツのセットアップなどが登場。
緊張と弛緩がバランスよく共存する「ルメール」の服だが、今季は春夏コレクションであることを意識してか、オプティミスティックで緩やかな時間の流れを感じさせる作品が目立っていた。
ジバンシィ(GIVENCHY)
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マシュー・M・ウィリアムズによる「ジバンシィ」は、エコール・ミリテールの中庭に水のランウェイを設置してショーを開催。パリのエレガントなブランドイメージとは距離を置き、徹底的にストリートを意識した作品を並べた。
シンプルなシルエットのルックが多いが、例えばデニムパンツにはGの文字を象ったスクエアのロゴをあしらった特注のジップをあしらい、細部にまでこだわりを見せるオートクチュールメゾンらしさを漂わせている。ピクセルモチーフのダメージ加工のセットアップは、やはりスクエアのロゴからの着想。その手の込んだ加工には目を見張る程。スウェット、パーカ、レザーのバイカージャケットなど、様々なアイテムにロゴが躍り、ストリートウェアのスタイルを踏襲。
アップサイクルされたレザーの切れ端をボンディングした素材のジャケットとショートパンツも登場。フラッシーなカラーのフェイスマスクとレギンスをコーディネートして、ストリートのイメージを強調。重ね着をしているかのようなトップスは、実はトロンプルイユ(だまし絵)で、袖だけを縫い付けたもので、フェイクレイヤードの遊びを見せている。
美しいシルエットのテーラードは、パンツの膝部分にダメージ加工を施し、敢えてクラシックなイメージにまとめずバッドボーイイメージに。最後までトラディショナル&オーセンティックなブランドイメージを覆す方向性を貫いていた。
オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE
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「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」は、ルーヴル中央郵便局の中庭スペースを会場に、まるでモダンバレエの公演のようなショーを開催した。コレクションタイトルは“Flowers and Vases”で、「繊細なものと堅牢なもののコントラストの探求」というサブタイトルが添えられている。
アーティスティック・ディレクションを手掛けたのは、パリ国立シャイヨー劇場のディレクターでもあるコレグラファー、ラシッド・ウランダン。カンパニーXYのメンバーをはじめとするダンサーたちを起用して、アクロバティックな演出を挟みながらのスペクタクルを見せ、しなやかで流れるような服の動きを披露。
花器のフォルムから着想を得たVASE、丸い方のラインが特徴的なMONTHLY COLOR MARCH、前にも背中にも、スナップボタンで逆様に留められるポケットが特徴のFLIP、天候や気分によって形に変化を加えることの出来るACCLIMATION COATのシリーズ、綿花をモチーフにしたプリントシリーズCOTTON BOLLS、植物の茎に着想を得たSTEM、フォーマルな印象のTUXEDO PLEATSといった、それぞれのシリーズをパートごとに見せた。
堰を切ったようにダンサーたちがランウェイに飛び出して走り、その迫力ある動きに観客は圧倒される。全てのルックが出終えて会場からは割れんばかりの拍手が起き、感動的なフィナーレを迎えた。
リック・オウエンス(Rick Owens)
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「リック・オウエンス」は、パレ・ドゥ・トーキョーの噴水広場を会場にショーを開催した。噴水にはクレーン車が設置され、ショーの間、3つの球体それぞれに火を付けて引き上げては噴水に落とす、を繰り返した。これはルクソール郊外のエドフ寺院の入り口の上部に、悪に対する善の勝利を表す神のホルスを象徴する有翼円盤の彫刻からインスパイアされたもの。
コレクションタイトルは、そのエドフ神殿にちなんだ“EDFU”。リック・オウエンスはエジプトを旅し、歴史的なモニュメントを前にして、現在の個人的な懸念と世界的な不快感は些細なものと感じたという。戦争についての情報に振り回せる現在、ある種の秩序と規則を提案すべく、世界で最も強いと考えられる特許繊維であるリップストップナイロンを使用。様々な素材とフォルムが、エジプト旅行によって導き出されていた。
極端に盛り上がった肩のシルエットは、クリスプコットンまたはシルクシフォンのレイヤーで作成されている。なめし工程でグリセリンを使用することでシースルー効果を出したレザーアイテムも登場。過去のコレクションでも使用している、アマゾンの森の先住民コミュニティによって食料源として漁獲され、廃棄物となったピラルクースキンのアイテムも見られ、サステナビリティを意識した素材使いをしている。デニムも、パリの職人の手によるアップサイクル素材。
玉虫やピンクなどのフラッシーな色使いも新鮮。それがコレクション全体をある意味オプティミスティックに見せ、「リック・オウエンス」の新しい側面が表出しているように感じられた。
ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
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デザインチームによって最新コレクションを発表した「ルイ・ヴィトン」。ルーヴル美術館の中庭に特設会場を設置してショーを開催した。前任のアーティスティック・ディレクター、故ヴァージル・アブローのスタイルを継承した今季は、アブローの幼少期の夢から着想を得て、ポップで楽しい内容となっている。
ランウェイは遊具をイメージし、黄色いレンガの道は巨大なおもちゃのレース場のよう。今季は1990年代のスケーターコミュニティの装いをインスピレーション源とし、その流れを汲んで会場は急こう配の孤を描いていた。
花ボタンのコート、折り紙の紙飛行機を飾ったスーツ、シフォンでナイーブな花を刺繍したGジャンのセットアップなど、子供時代の絵やおもちゃの要素が散りばめられている。
その一方で、19世紀に見られるロマンティシズムからの影響である 唐草モチーフをエンボスしたシリーズや、ジャカードでボタニカルモチーフを表現したシリーズは、シリアスな空気感をもたらし、コレクションを引き締める役目を担っている。
色鮮やかなモチーフが刺繍された極彩色のバッグ、コミカルなカートゥーン・バッグ、フォーチュンクッキー型クラッチ、サンドイッチバッグ風のショルダーバッグ、アルファベットのオモチャ風パーツが彩を添えるバスケットシューズなど、アクセサリー類も目を楽しませた。
ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)
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「ドリス ヴァン ノッテン」は、18区のガレージの屋上でショーを開催した。柔軟な素材と堅牢な素材のコントラストを強調した今季は、様々な男性像や時代をイメージ。カウボーイやガレージで働く人々、第二次世界大戦中パリで流行した“ザズー(Zazou)”といったカウンターカルチャーのモード、1980年代のアヴァンギャルドなファッションなど、様々なインスピレーション源を縦横無尽に行き来しながら、重層的で濃密なクリエーションを見せている。
メンズのランジェリーをイメージしたヌードカラーのニットアイテムは、クラシカルなスーツスタイルに合わせられ、パジャマパンツがブルゾンにコーディネートされ、ネクタイを締めたシャツとランジェリーニットにはワークウェアパンツが合わせられる。そのコントラストが、不思議なバランス・アンバランスを見せる。
大きなロゴを掲げた服がそこかしこに見られる今日、ドリス・ヴァン・ノッテンは安易に時流に乗るのではなく、あくまでも彼らしい手法を見せている。「Dries Van Noten」の文字は断片化され、文字の意味を読み取ることは出来ない。ロレム・イプサム・テキスト(グラフィックデザインなどで使用されるラテン語のダミーテキスト)がパンツなどに踊り、その意匠の強さから、どことなく1990年代のスローガンプリントを彷彿とさせた。
クラシカルなシルエットに心地良い逸脱を加え、エレガンスを保ちながらも、これまで通りの自由な創造を続ける姿勢を見せていた今季。アシッドハウスをBGMに、細長いバルーンがたなびく中、1990年代のレイブ全盛期の雰囲気でフィナーレとなった。
アミ パリス(AMI PARIS)
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アレクサンドル・マテュッシによる「アミ パリス」は、モンマルトルの丘に位置するサクレ・クール寺院前の広場にランウェイを設置してショーを開催した。コレクションタイトルは“CŒUR SACRÉ(クール・サクレ)”。サクレ・クール(聖なる心臓=キリストを象徴)とブランドロゴのハート「Ami de Cœur(アミ ドゥ クール)」に因み、パリの象徴でもあるサクレ・クール寺院を会場に選んだという。
コレクションは、モンマルトルの自由なムードとパリのブルジョワの洗練されたスタイルをミックスし、様々な国籍の人々を擁するコスモポリタン的なパリならではの折衷主義の雰囲気を出しつつ、ストリートウェアのエッセンスも加味。クラシカルでありながらカジュアルでもあり、エレガントかつエッジー。正にパリの人々を思わせるイメージでコレクション全体が貫かれている。
ファーストルックは、トレンチコートをまとった女優のオドレイ・トトゥ。客席にはカトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベアール、そして前シーズンキャットウォークを歩いたイザベル・アジャーニの姿があり、フランスを代表する女優4人が同じ会場に集合したことも大きな話題となった。
サクレ・クール寺院に隣接する広場には、似顔絵描きが集まることで知られるが、今回は前もって各招待者がポートレートを広報に送ると、似顔絵が招待状に添えられてくる、というサプライズがあった。全てにおいてモンマルトル、そしてサクレ・クール寺院が関連付けられ、印象深いコレクションとなった。
アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)
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ジョニー・ヨハンソンによる「アクネ ストゥディオズ」は、展示会形式で最新コレクションをショールームで発表した。コレクションはウェディングパーティがインスピレーション源。人々は結婚式に招待されると、服を仕立てたり、探したり、自ら作ったり、右往左往するが、そんな特別感と馬鹿馬鹿しさを一つのコレクションに落とし込んでいる。
リボンとバラ、そしてシェルが象徴的なモチーフとして登場し、ゴールドがアクセントカラーで様々なアイテムを彩っている。スーツに使用されるサテン地は、結婚式の夜にベッドに敷かれるシーツのイメージ。結婚式で使用されるナプキンのディテールがトップスに縁取られ、レザーのパンツにはスタッズやビーズが飾られる。その仕上がりは、DIY的で無造作。
そんな中、タイダイのアイテムやダメージニットなど、これまでにも見られた60年代的なヒッピーの要素が見え隠れする。
可憐でフェミニンな中に毒々しさも漂わせる作品を描くアーティスト、カレン・キリムニックによるネコのモチーフが、レザージャケットやバッグ、皺くちゃにアイロンがけされたかのようなシャツなど、様々なアイテムを彩っているのも印象的だった。
ポール・スミス(Paul Smith)
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「ポール・スミス」は、ディドゥロ大通り沿いのスペースでフィジカルなショーを開催した。コレクションはカジュアルでリラックスした雰囲気のルックが多く、春夏らしさが随所に見られた。
トロピカルプリントをあしらったリゾートウェア風のルックや、ピンストライプのパーカを合わせたデイウェア、フローラルモチーフのシャツとジオメトリックモチーフのショートパンツとジャケット、あるいはグラフィカルな染めプリントのカジュアルなコートなど、明るくオプティミスティックな空気をまとったアイテムが続く。
様々なルックに合わせられるピンストライプのシャツは、左右の身頃に異なるストライプをあしらい、カジュアルダウンさせている。
得意とするスーツもカジュアルに崩す手法が取られ、スーツと共布のVネックのノースリーブトップスが合わせられていた。トラディショナルになりがちなスーツに合わせることでルック全体をモダンに変化させているが、あくまでもエレガントな手法を用いているのがこのブランドらしい。
Vネックのノースリーブトップスは、その他のルックでも登場。適度なカジュアル感を出すアイテムとして、大きな存在感を発揮していた。
メゾン ミハラ ヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)
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三原康裕による「メゾン ミハラ ヤスヒロ」は、2区のガラスで覆われたアーケード、パッサージュ・デ・プランスを会場にフィジカルなショーを開催した。
異素材ミックス、異なるアイテムのドッキング、ダメージ加工など、様々な実験的姿勢を見せてきた三原康裕。今季は、1950年代から70年代にかけてのヴィンテージの要素を加えて、独自の解釈、再構築によるモダンウェアを披露して見せた。
オーバーシルエットのスーツには、ネクタイを首周りに縫い付けたシャツが合わせられ、ドローストリングのバギーパンツには、袖口に色褪せたかのような加工を施したジャケットをコーディネート。シャツとGジャンのハイブリッドアイテムには、所々にダメージ加工を施す。Gジャンのスリーブとデニムパンツには、スパンコール刺繍のドレスをプリントしたトロンプルイユ(だまし絵)のTシャツをコーディネート。ボンバースの袖にカットを入れて、ノースリーブとしても着用可能に。ボンバースとスカジャンのハイブリッドは、肩のラウンドシェイプが新鮮。カラーブロックのスェットの上下は、ヴィンテージを解体して再構築したかのような効果を見せている。
様々なディテールが重なり合い、混沌とした側面がある種の毒となっているが、それが各ルックに心地良いアクセントを与えている。このブランドらしい調和とバランスを見せる力強いコレクションとなっていた。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供
2023春夏パリメンズコレクション
https://apparel-web.com/collection/paris_mens