PICK UP

2022.06.25

【2023春夏ミラノメンズ ハイライト2】 リラックス感や自由さに溢れるスタイル 肌見せやデニムがキーに

 前シーズンは、感染爆発の影響でデジタルにてコレクションを発表したブランドも多かったが、今シーズンは大手ブランドのほとんどがフィジカルショーを行った。正直なところ、イタリアはもう数か月前からすでにほぼ普通の状態に戻っていることもあり、今さら再スタートへの気負いのないリラックスしたハッピームードだ。

 

 ファッションウィーク中のこの猛暑をデザイナーたちが予想したわけではないだろうが、夏やバカンスの雰囲気を意識したブランドが多く、夏にぴったりの軽い素材や暑さを抑えるようなハイテク素材(もちろんサステナブルも重視している)、空や海、緑や自然を意識した優しい色、トロピカルなプリントやモチーフが多くみられる。

 

 一方、バカンスというのは、ヨーロッパでは(少なくともイタリアにおいては)何もしないのが基本であるが、その「何もしない贅沢」という部分を強調したリラックス感や自由さに溢れるスタイルも多い。その流れを象徴してか、デニムがキーアイテムになっており、それらはウォッシュトやブロークン、ヴィンテージ加工がなされている。透け素材やクロシェ編みなどで肌を見せたり、マイクロ丈ショーツや、クロップト丈や胸元の開いたトップで露出の多いコーディネートも多い。

エトロ(ETRO)

 前シーズン同様、「エトロ」はボッコーニ大学をショー会場に選んだが、今回は新キャンパスの中庭を使用。この新キャンパスは、日本人建築家、妹島和世と西沢立衛が率いるSANAAが設計したもので、内部空間と外部空間の連続性による曲線的な美しさを持つ建物だが、それはコレクションの軽く流れるようなシルエットにも呼応している。

 

 今回のコレクションは「詩」の世界観をキーワードにしており、ショーの数日前には招待客一人一人に電話で詩の朗読が行われた。「詩の語源には作る、構成する、という意味があるように、詩には野性的で原初的な力があり、印象、気分、感覚を形にして、言葉によって表現しようとする人間の深い衝動から生まれる」ものだとキーン・エトロは言い、詩の創作をコレクション制作に重ねる。

 

 カフタン、チュニック、着物風ガウン、ベルト付きブレザー、マキシロングシャツやオーバーボリュームのシャツなど、「エトロ」らしいノマドのテイストは見られるのだが、あくまでミニマルにまとめられている。またそこにはアイコニックなペイズリーはほとんど使われておらず、その代わりのようにフラワーモチーフが多用されている。素材はシルクやリネンなど全体的にエアリーで透け感のあるものが多く、サンガッロレースのシャツや開襟シャツ、大きく胸元が開いたサマーニット、マイクロ丈のショーツなどによる肌の露出も多い。

 

 来シーズンからは、コレクションを新クリエイティブ・ディレクターのマルコ・デ・ヴィンチェンツォが手掛けることがアナウンスされており、これは現ディレクターのキーンにとって、かつエトロファミリーによる最後のコレクションとなる。そのせいか(あくまで個人的な意見ながら)コレクション自体がフェードアウトしていくかのような静かな引き際を演じているように感じた。ショーの最後に挨拶に登場したキーンとヴェロニカの兄妹の姿を見て、複雑な思いを抱いたのは私だけではないだろう。

プラダ(PRADA)

 ミラノのプラダ財団にてランウェイショーを行った「プラダ」。会場の内装は、紙でできた模型の家を大きく拡大したイメージで、ありふれた日常に素材とイメージから何か特別なものを作り上げることを示唆している。これはセレクトや表現の手段を重視し、さまざまな要素や衣服の組み合わせ、印象の形成、スタイルの創造に焦点を当てた今回のコレクションに通じる。

 

 今回のコレクションテーマは“PRADA CHOICES”。オーセンティックでシンプルなアイテムを、組み合わせによってインパクトのあるスタイルを提案する。往年の「プラダ」のようなスリムなスーツやマイクロ丈のショーツ、ノーカラーのシャツやコートなど、ディテールをそぎ落としたアイテムが多く登場し、最近のコレクションではよく登場していた三角ロゴ使いも今回は三角のステッチのみだったり、バッグにモノグラム的に使われているのみだ。そんな中にネオンカラーのストライプの入ったニットやカラフルなギンガムチェックのコートやシャツ、また今年のキーアイテムであるデニムのセットアップなどキャッチーなアイテムが加わる。

 

 あえて排除していくことで新鮮さや軽さを表現した今シーズンのコレクション。盛るより削ぐほうが作り手にとっては難しい作業なのではないかと想像するが、これこそが人々が本当に着られる服なのかもしれない。もちろん、着る人のスタイリングの技量に左右されるところではあるのだが。

モスキーノ(MOSCHINO)

 ミラノにて久々にメンズのランウェイショーを開催した「モスキーノ」。ストーリー性のある壮大なセットが組まれるウィメンズのショーに対し、メンズは直球気味で、中心地からちょっと離れた倉庫跡の建物の退廃的な感じをそのまま生かしたランウェイ。今シーズンは夭折したファッションイラストレーターのトニー・ヴィラモンテスの象徴的な作品にオマージュを捧げる。

 

 ジェレミー・スコットは、今回のコレクションの一部でヴィラモンテスの遺品とコラボレーションし、彼が描いた作品を洋服の上で再現。特に、ヴィラモンテスが雑誌「The Face」に寄せた記事やレイ・ペトリが率いた 80 年代のバッファロースタイリングがインスピレーションになったのだとか。

 

 アイテム自体は、テーラードジャケットやスーツ、コート、レザーやデニムのセットアップなど、テーラリングを活かした男性的なデザインが多く登場。そこにマイクロ丈のショーツやプリーツスカート、サロンなどのひねりが加わる。これらのアイテムにヴィラモンテスのイラストや、トロンプルイユのペインティング、または染めや洗いで独特の色彩を生み出す、多色使いが印象的だ。

ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)

 パリからミラノに場を移した記念すべき初コレクションだった前シーズンは、感染拡大のためデジタル発表となったため、今回がフィジカルショーとしては初となる「ジェイ ダブリュー アンダーソン」。このショーも街の中心から外れた倉庫跡がロケーションだ。

 

 コレクションで登場するのはTシャツ、スウェットシャツ、テーラードジャケット、バミューダ、ドレス、ジーンズなど、アイテム自体はベーシックながら、そこにはBMXのハンドルバーや作業用手袋、割れたスケートボードなどがトップスやスウェットシャツにくっついていたり突き刺さっていたり。これらは着られるものと着られないものを合わせることによる衝突を狙っているそうだが、それは見ている人がどう感じるか次第で、理由はないのだとか。またはバーコードやQRコート、レンブラントの自画像がプリントされているアイテムも多いが、「レンブラントの自画像は、今でいうところの自撮りであり、それが主観的なものか客観的なものかの判断についても、見ている者にゆだねる」という事なのだそうだ。

 

 ハンドルバーなどが付いたアイテムがどのような形で商品化されるのかはさておき、ボーダーシャツやニット、オーバーボリュームのトレーナーやパーカ、ウォッシュト&ブロークンのワイドデニムなど確実に今の流れを汲んだアイテム。一瞬、「?」と思っても、やっぱりかわいいし、着たいものが多いのが「ジェイ ダブリュー アンダーソン」の真骨頂だ。

トッズ(TOD’S)

 「トッズ」は今シーズン、メンズとしては久々のフィジカル展示会を、お馴染みのネッキ宮にて開催。展示はアイテムたちが光の枠の中に鎮座し、まるでミュージアムのようだ。コレクションは“シェイプス オブ イタリー”というテーマで建築物や自然の造形、現代的スタイルのシルエットに着目。特にイタリアの田園風景で眩い光と深い影が奏でるコントラスト、大地のブラウン、石巌のエクリュ、地中海沿岸の植物のグリーンから着想を得た自然色のパレットを表現する。

 

 レザーのインレイを施したアノラックやパーカ、ゴム引きコットンで作るレインコート、ラバーペブルを打ち込んだバイカージャケットやパンツ、ロゴをエンボスした超軽量のキルティングコットンの T-ジャケットなどが登場。

 

 Tタイムレスのメタルバックルがついたゴンミーニ バブルや、従来のラバー ペブルが巨大化したソールが登場。また、ソールにマキシサイズのラバースタッズが付いたスニーカー、トッズ ワンティーが新しい素材とカラーコンビネーションで登場。またアイコン的存在の ディーバッグから ディーアイバッグが誕生し、オーバーサイズのメンズバージョンにも名前を刻むことができる。

グッチ(GUCCI)

 「グッチ」はファッションウィーク中、ミラノの老舗ヴィンテージショップ「カヴァッリ エ ナストリ」にて「Gucci HA HA HA」コレクションを発表した。

 

 コレクションはヴィンテージショップの他の商品の中に混じり込むようにしてディスプレイされるユニークな仕組みだ。これは「グッチ」のアレッサンドロ・ミケーレと英国のシンガーソングライターで俳優のハリー・スタイルズの友情から生まれた特別企画で、HA HA HAには「Harry」と「Alessandro」のイニシャルを組み合わせて連続させたものであり、絵文字でよく使われている「笑い顔」を音で表したものでもあるのだとか。

 

 プリンス・オブ・ウェールズやガンチェックのスーツやコートなど英国風サルトリアテイストから、デニムジャケットやベルベットスーツなど、ちょっとレトロな雰囲気のものまで。遊び心あふれるプリントのパジャマやボウリングシャツ、フードやフロッグファスナーがアクセントを添えるライニング付きコート、調節可能なレザー ストラップ付きプリーツキルトなども登場した。

ゼニア(ZEGNA)

 これまでミラノメンズのオープニングを飾ってきた「ゼニア」だが、今回はフィジカルショー最終日のトリを務めた。ショーの開催地はミラノから車で約1時間半程度かかる同社本社。デジタル発表をしていた頃にも舞台として使われたことがあるウール工場の屋上にて、今回は招待客を招いてのショーを行った。「オアジゼニア(「ゼニア」所有の自然保護地区)を実際に皆さんに見ていただくことは長年の夢だった。「ゼニア」はこのエコシステムに始まり、すべてがここに帰って来る」とアレッサンドロ・サルトリは言う。

 

 そんなコレクションで使用したのは、土色、赤、黄、ハニー、ローズ、ビクーニャ色などオアジゼニアを象徴するアースカラー。これらがモノトーンやトーンオントーンでコーディネートされているルックが多い。いくつか登場するプリントはオアジゼニアの風景をそのまま取り込んだものだとか。そして、エンジニアードニット、テクニカルシルク、メッシュナイロン、メンブランシルク、テリーコットンなどの素材を使った全体に流れる究極の軽さとが表現される。ボックスシルエットのトップにゆったりしたパンツは、流れるようなシルエットを描く。またテクニカル素材の開発で、くしゃくしゃにしても元に戻るジャケットや、メッシュニット、コットンとリサイクルペーパーを50%ずつ使った素材のシャツも登場する。さらにアウターウェアとしても使えるシャツやトップスなど、内側と外側、アンダーレイヤーとアウターレイヤーの逆転がキーワードになっていて、そこにサルトリは新しいテーラリングの未来があると考える。

 

 オアジゼニアにインスピレーション源があり、この本社での製品開発にコレクションの強みがある。ゼニア本社へのツアーはそれをあらためて感じさせてくれるものだった。

 

取材・文:田中美貴

 

「ミラノメンズ」2023春夏コレクション

https://apparel-web.com/collection/milano_mens

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

■ アパレルウェブ ブログ

メールマガジン登録