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2022.06.24

【2023春夏ミラノメンズ ハイライト1】正常化したミラノ 開放的なムードの中61のブランドがフィジカルショーを開催

 2022年6月17~21日、「ミラノメンズ・ファッションウィーク」が開催された。事前のイタリアファッション協会の発表によると、25のショーを含む61のフィジカル発表、5ブランドのデジタル発表の計66ブランドが参加。ラインナップも今回は、「ヴェルサーチェ(Versace)」、「モスキーノ(MOSCHINO)」、「マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン(MARCELO BURLON COUNTY OF MILAN)」などが復活。先シーズンはコロナ禍で直前にデジタル発表に切り替えた「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」も、ミラノでの初のフィジカルショーを開催した。これ以外にも「44 レーベル グループ(44LABEL GROUP)」や「ドゥルーフ カプール(DHRUV KAPOOR)」など国外からの注目ブランドの参加も目立つ。そして、これまで初日のオープニングだった「ゼニア(ZEGNA)」は、最終日にミラノから100km以上離れた同社が保有する自然保護区「オアジ・ゼニア」にてショーを行った。

 

 ピッティ・ウォモと同様にミラノメンズでも、もはやパンデミックは過去のもので、ショー会場でグリーンパス(ワクチンパス)の提示を要求するところはなく、FFP2マスクの着用を促すブランドはあったが、ほぼそれも守られていないのが現状だ。会場内もすでに席の間に距離はなく、会場外もパパラッチや出待ちの人達で溢れていた。日々35度近い猛暑の中、多くのブランドが屋外(炎天下)や倉庫や工場跡(冷房ナシ)というロケーションを選んでおり、さらに会場の多くは街の中心から外れているため移動にも時間と体力を消耗し、肉体的な負担の大きいファッションウィークだった。

 

さて、ハイライト1では、そんなミラノメンズ・ファッションウィークの初日、2日目の様子をリポートする。

ディースクエアード(DSQUARED2)

 今シーズンのミラノメンズのオープニングを飾った「ディースクエアード」。“#D2SummerLove”をテーマに、前シーズンの山でのアウトドア(ハイキング)から、今シーズンはジャマイカでのサーフへ。ボブ・マーリー財団へのオマージュ的なプリントやパッチが各所に使われ、彼の故郷のナインマイルズを連想させるヴィヴィッドなマルチカラーと自然に溢れる雰囲気、そしてそれらを自由にコーディネーションした楽しく軽やかなコレクションが繰り広げられる。

 

 繰り返し登場するカラフルなプリントのサロンやサーフパンツを、オーバーボリュームのテーラードジャケットやニットとレイヤード。絞り染めがなされていたり、パッチワークやマリファナの葉のアップリケデニムがなされたフレアレッグデニムや、裾の部分がフリンジ上にほつれたデニムショーツやブロークンデニムも登場。これらにバイカージャケットやトラックジャケット、クロシェ網みのニットなどを合わせる。腰に巻いたニットや首からかけるミニポシェットなどにラスタカラーが差し込まれる一方で、パステルカラーのチェックやオプティカル柄など優しい色使いも。タイダイのシャツやハイビスカスのモチーフが付いたマキシショーツやサマーニットなども夏の海の雰囲気をプラスする。足元にはビーチサンダルだけでなく、ハイテクサンダルやバイカーブーツが合わせられているのが小さなコントラストを放っている。そんな中にHONDAとのコラボ?により、HONDAのロゴが入ったアイテムも登場しており、小さくバイカーテイストの要素を差し込んでいる様子だ。

 

 このように様々な要素が混じっているように見えても、それがやはり「ディースクエアード」風にうまく料理されており、今シーズンも絶妙なミックススタイルに仕上がっている。

1017 アリクス 9SM(1017 ALYX 9SM)

先シーズンからミラノに場所を移してコレクションを発表している「1017 アリクス 9SM」。今回のロケーションはミラノの中心から外れた現在は使用されていないプール。掃除もされていない状態で水を抜いたまま放置されたプールを囲む、落書きでいっぱいのプールサイドがランウェイとして使用された。

 

 猛暑の中、現地時間19時スタートとはいえまだかなり強い日差しがさす中の屋外ショーだったが、コレクションノートを見て納得。今シーズンは、特に素材の研究に力を入れており、それによって生まれた無重力と感じるほどの織りが特徴だとか。フーディーやパーカーに採用されているニットウェアは、熱帯での使用に耐え、極度の暑さの中でも気軽に着られるものだそう。またウィメンズのドレスの多くはスイムウェアのテクニカル素材で作ら得ており、着心地は快適ながらドレスアップできるシルエット。かつ、クールな着用感を保つのだとか。

 

 これらのウィメンズのドレスはボディコンシャスのマイクロミニ、かつレースアップサンダルなどを併せたコーディネートでかなりセクシーな雰囲気なのだが、その一方で、ユニセックスで使えるようなワイドシルエットのワークパンツスタイルも多く登場。同じモデルでウォッシュのかかったデニムのバージョンもある。これらをスリーブレスのジャケットやコートなどと合わせて、細長いシルエットでコーディネートしている。

 

 ブラックやホワイトをメインに、一部ローズピンクやイエローなど、いずれもトータルなモノトーンの組み合わせの中、サークルにブランドロゴのAを合わせ、平和のサインを埋め込むようにして作られた新しいグラフィックが印象的に登場する。足元も軽量のアッパーに取り付けられ、夏の暑さの中でも高い通気性と履きやすさを実現した新しいMonoシリーズと共にNIKEXMMW 005がプレビューとして登場した。

エムエスジーエム(MSGM)

  前シーズンは直前でデジタル発表に変更したが、今シーズンはフィジカルショーを復活させた「エムエスジーエム」。マッシモ・ジョルジェッティは、ミシェル・ウエルベックの長編作「ある島の可能性」の中の「時間の中に島の可能性がある」という言葉の引用し、「ディストピアをユートピアに変えるため、わたしたちはファンタジーの要素に火を灯していく必要がある」と語る。そんな人間と動物が共存する夢のような南の島がコレクションで描かれている。

 

 パームツリー、ハイビスカス、バナナ、空の雲などのプリントやモチーフ、レイのようなネックレスなどトロピカルな雰囲気を、バミューダやショーツ、クロップト丈のシャツなどで表現。そこにラグビーシャツやリボンタイ、太めのレジメンタルタイなどで、プレッピーなイメージを、トレンチコートやテーラードジャケットでクラシックなテイストも加わっている。カラフルな色も使われてはいるものの、黒をミックスしたり、グレーやくすんだブルーを多用しているので、シックな雰囲気も漂う。

 

 ちなみに会場は2026年冬季オリンピックの中心になる新開発地域として注目されているゾーンに2018年にできたピアッツァ・オリベッティという広場にある通信会社のビルの庭。ここに去る5月に建てられた「Tu sei Futuro(You are Future)」というインスタレーションが最近巷では話題になっているが、このメッセージに通ずるような、明るい未来への希望がコレクションに込められている。そして、今(そして将来注目)のミラノらしい場所を会場としてセレクトするのも実に「エムエスジーエム」らしい。

エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)

 前シーズンは感染拡大を受けて、いち早くデジタルへの変更に切り替えたアルマーニグループだったが、今シーズン「エンポリオ アルマーニ」はアルマーニ・テアトロにてフィジカルショーを開催。テーマとして掲げた“バスケットいっぱいの夏”とは、「都会においても休暇を楽しむ気分を盛り上げ、休暇で感じる安らぎや新鮮な刺激でいっぱいの当のバスケットのようなもの」なのだとか。

 

 そんな夏気分を表現するのが、全体的に流れる軽さ。シャツのように軽やかで、動きに合わせて流れるような光沢素材が多用されている。またはショーツやタンクトップ、素肌にそのままジャケットを着るスタイルなど、肌を露出したコーディネートも夏らしい。また大きなつばのハットやラバー製サボなどには夏らしい遊び心が見られる。同素材によるセットアップやトーンオントーンの一方で、白と黒のコントラストを強調したジャケパンスタイルや黒白のボーダー使いも。そこにネオンイエローやミントカラー、パームツリーやサンゴなどのプリントのアイテムが加わる。スリットが入っていたり、裾がジッパーになったパンツや、ドローストリングスパンツなど、現代の流れを反映したスタイルが多い。

 

 夏らしさ、軽さというのは今シーズンのキーワードになりそうだが、「エンポリオ アルマーニ」があえて打ち出すイージーな雰囲気は、やはりすべて計算されつくしたものなのだ。

ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)

 今シーズン、「ドルチェ&ガッバーナ」は“Re-Edition”をキーワードに、ブランドのアーカイブに目を向け、過去の作品を現代的に構築し直したコレクションを発表した。ランウェイの背景となる大きなスクリーンには過去の映像が映し出され、そんな中を1990年から2000年のショーで発表されたものを、シルエットやコーディネートでアップデートしたルックが登場。それぞれのアイテムにはそれが初めて発表された年とSS2023という表記がはいった「Re-Edition」というラベルがつけられている。

 

 白のタンクトップにアンダーウェアというファーストルックに始まり、「ドルチェ&ガッバーナ」を象徴する黒のテーラードジャケットやレースやメッシュのシャツにブロークンデニムのコーディネートが続く。デニムは繰り返し登場し、パッチワーク仕様やウォッシュトデニムのパンツやショーツなども。オールブラックのコーディネートやホワイトスーツ、ブロケードやスパンコールによる職人技のきいたジャケットも登場。最近ホームコレクションも好調な同ブランドゆえに、アニマルプリントのバスローブもしっかり登場。

 

 またスローガンやDGロゴ、マリア像のプリントなどキャッチ―なディテールも各所に使われていた。デヴィッド・ベッカムへのオマージュの「DAVID7」や「Calcio」と書かれたTシャツやランニングなど、サッカーとのつながりが深かった時代のアイテムも差し込まれる。そんな中、オーバーめのシルエットや、全体的にブロークンやヴィンテージ加工を多用した仕上げが、現代のテイストにマッチする。

 

 これまでは常に時代の先を見て、新しいチャレンジをし続けてきた「ドルチェ&ガッバーナ」だけに、今回のアプローチは逆に新鮮であり、またこれまで構築してきた絶対的なアイデンティティを改めて思い知らされるコレクションとなった。

フェンディ(FENDI)

 今シーズンも会場として使われたミラノショールームには、とてもシンプルなライトブルーのセットを設営。シルヴィア・フェンディが「何もせずただゆったりと過ごす贅沢さを再発見するような、時代に捉われない自由な感覚」を「華美な装飾とシンプルさのバランス」だと形容するように、自由な時間や自分自身を見つめなおす贅沢さを尊重した、ラグジュアリーなインフォーマルスタイルを提案した。

 

 そんな自由さを強調するアイテムとして、デニムが各所に登場。ウォッシュのきいたゆったりしたデニムのパンツやショーツやジャケットは、しばしばヘムラインにフリンジのようなディテールがなされていたり、レザーパッチがつけられていたり。またはトロンプ・ルイユプリントのようなデザインがあしらわれたプラッシュのローブやコットンツイルのシャツジャケットからデニムパンツをカットしたような「バゲット」バッグやボトルホルダーを備えたインディゴカラーの「ピーカブー」、そしてサンバイザーやハットにまで、デニムのテイストは様々に登場する。

 

 全体的にくつろいだ、夏のバカンスのような雰囲気。ブルーやアイスグレーなどの涼しげな色、またはイカットモチーフやカウプリントなどが使われ、ソフトフリンジやタッセルからテリー織のタオル地、ビーズを用いたデイジーチェーンなどのディテールが施されている。サファリテイストのシャツジャケットや大きなボストンやトートと共に旅のムードも感じられる。

 

 時代の流れを的確に読み、若い世代が求めるものも明確にキャッチすることに長けているシルヴィア・フェンディだけに、キャリアを追求するよりシンプルでプライベートの充実に幸せを感じ、シンプルなライフスタイルを好む今の若者たちのスタイルを反映しているのかもしれない。

マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン(MARCELO BURLON COUNTY OF MILAN)

 今年ブランド創立10周年「マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン」は3年ぶりにメンズコレクションをミラノで開催。その記念すべきショー会場として、ヴェロドロモ・ヴィゴレッリという競輪やアメリカンフットボールの競技場をロケーションに選んだ。ちなみに同ブランドがデビューする前の話だが、かつてはこのゾーンに国際見本市会場があって、ウィメンズコレクションをやっており、ここもショーでよく使われていた場所だ。

 

 さて、そんなロケーションが物語るように、コレクションにはスポーツテイストが感じられる。例えば、柔道着のようなセットアップ、パーカやスケーターパンツ、「カッパ(Kappa)」とのコラボによるトラックスーツ、パデルのラケットケースのようなバッグ、レーシングスーツのようなオールインワンなど。そして東京オリンピックの陸上男子100m金メダリスト、マルセル・ジェイコブスがモデルとして登場し、ガチのスポーツ演出まで(ちなみにマルセル・ブロンご本人もモデルとして参加していたが)。

 

 もちろんそんな中に、フォークロア、迷彩やアニマルプリントなど、同ブランドらしいテイストをミックス。パッチワークやタイダイ、ウォッシュトデニムなどトレンド要素もしっかり入れ込んだ。

 

 2014年にモトクロス会場を設置して行ったピッティでの初のランウェイショーのことも頭をよぎる。あのときよりずっと大きく洗練された会場で発表されたコレクションは、ブランドとしても大きく完成度をアップし、貫禄が付いたことを証明していた。

ブリオーニ(BRIONI)

 「ブリオーニ」はサン・シンプリチャーノ教会の回廊と中庭にてプレゼンテーションを開催。回廊で立ち話をしたり、柱にもたれかかったり、または庭の噴水に佇んだり・・・と様々なスタイルをとるマネキンたちが、「ブリオーニ」の本拠地であるローマのノンシャランな雰囲気を体現。“永遠の美しさ”をテーマに、リネン、シルク、シアサッカーなど軽やかで柔らかい最高の生地を使って、都会でも郊外でも使えるようなリラックスしたテーラリングを提案する。

 

 ローマの空や緑を連想させるナチュラルなカラーパレットで、3色以上は使わないというトーンオントーンを意識したコーディネーションも印象的。また2シーズン目となるウィメンズコレクションも併せて発表。メンズシャツをそのまま長くしたようなシャツドレスや、素材は同じで女性らしいプロポーションで作り上げたスーツなど、マスキュリンながらセクシーさが漂う。

ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)

 ピッティに続き、ミラノショールームでも展示会を行った「ブルネロ クチネリ」。テーマは“DEFINED BY NONCHALANCE”。伝統のクラフトマンシップに基づき計算された無頓着さで、さりげないエレガンスを演出する。

 

 スーツへの回帰は見られるものの、そこに合わせるのはTシャツやサマーニットで、色もジンジャーレッドやサーモンオレンジなどの明るいものを積極的に取り入れて、スポーティーテイストとの絶妙なバランスを提案している。生地は軽量で、リネン、ウール、シルク混の素材が象徴的に使われているのも、リラックスした印象を与える。そしてニュースとして、「ブルネロ クチネリ」がこれまであまり使ったことのなかった黒と白のコーディネーションが登場。これは年齢層若めのターゲットを意識してのことなのだとか。

 

取材・文:田中美貴

 

「ミラノメンズ」2023春夏コレクション

https://apparel-web.com/collection/milano_mens

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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