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2022.06.23

どうする、インフレによる過剰在庫! 米国企業の対応は!?

 昨年からのサプライチェーン問題での入荷遅れによって販売のタイミングを逃し、リードタイムを調整して商品不足に対応した多くの小売企業が、過剰在庫を抱えるという問題に陥っています。直近の四半期の発表では、「GAP(ギャップ)」の在庫は前年対比で34%、「Macy’s(メイシーズ)」は17%、「American Eagle(アメリカンイーグル)」では46%、「Urban Outfitters(アーバンアウトフィッターズ)」でも32%とそれぞれ増加しており、「Walmart(ウォルマート)」も32%も在庫が増加するなど、衣料品カテゴリーの過剰在庫は非常に深刻なものとなっています。パンデミック中は、トレーニングウェアやジョッパーなどのカジュアルな衣料品やホームグッズの消費がトレンドとなっていましたが、オフィスワークやイベントの復活で、ドレッシーなアイテムや旅行への消費にシフトしてきています。そのうえ、40年ぶりといわれるインフレにより生活費が高騰、ガソリン価格は平均1ガロンで5ドル前後値上げし、一般的なセダンタイプの車でも満タンに入れると65-80ドル、西海岸のエリアではガロン9.60ドルというところも! 食品や住宅費など、全般的に物価が上昇しており、今までよりも、1世帯あたり月に346ドルも上乗せして支払っていると伝えられています。このような状況で、米国の企業はどのような対応を示しているでしょうか。

スタート1年で、10億ドルの売上に成長したターゲットのヨガブランド「All in Motion」

ホリデーに懸けるターゲットは、一刻も早く過剰在庫を一掃!

 パンデミック時、売上をリードしていたアスレジャーや家庭用品は、新たなPB商品に投資までして在庫を増やした大注目のカテゴリーでしたが、現在は状況が逆転。同社は、過剰在庫を大幅に値引きして一掃することを決断しました。7月11日から13日には、会員以外も参加可能な、DEAL DAYS というオンラインビッグセール(今年で4回目)を開催し過剰在庫を一掃。家具やTVなどの商品も過剰在庫となっているため、大幅な値引きをして需要の高い商品のために棚をあけるようです。それに加え、海外のサプライヤーに注文した商品をキャンセルしましたが、これは年末商戦のための商品を新たに準備するのが目的と伝えられています。不良在庫を抱えて成長を妨げるよりは、早めの値下げで在庫整理し、年末に備えるという対策は賢明といえるでしょう。そのほかの食品や飲料、生活必需品、ビューティアイテムなど好調なアイテムは引き続き強化していき、それ以外に関しては、カテゴリー別に経費節減に向け精査していくようです。

 

ギャップのクリアランス売場

値下げによる損益は避けたい、ギャップやラルフローレンは持ち越し組

 多くの企業が利益の圧迫を覚悟し、値引きによる在庫一掃を行う中、ギャップ社では、2021年に販売出来なかった夏と秋の在庫を今年の販売時期まで保有する“パック・アンド・ホールド”という手段を取りました。その中には、姉妹ブランドの「Banana Republic(バナナリパブリック)」「Old Navy(オールドネイビー)」「ATHLETA(アスレタ)」の商品も含まれており、大幅値引きで販売することで消費者が割引頼りになることを避けるため、保管という手段を選んだようです。ラルフローレン社も同年、一部の商品の持ち越しを行っていますが、ベーシック商品であれば大きな影響はなさそうです。ただ、投資家の懸念としては、急速に変化する消費者の好みに、前年の商品がマッチするかという点です。

 

 ギャップ社はパンデミックで一時的に店舗を閉鎖したことにより、すでに在庫水準が上がっているため、季節外れ商品の一部は寄付にも回すようです。この場合、税金対策に充てることが可能となります。また、特定の商品やバリエーションを廃止して調整をおこなう予定で、オールドネイビーが推し進めてきたインクルーシブなサイズ展開も、過剰在庫を整理するために縮小、米国の75店舗、カナダの15店舗ではプラスサイズ(ビッグサイズ)の取り扱いも中止するようです。

サイモングループが運営するEllenton Outlet Mallで開催されたショッピングイベント

特別なショッピングの祭典でインフレをチャンスに!

 大手モール運営会社「サイモン・プロパティ・グループ」は、所有している90か所のアウトレットセンターを利用して、ナショナル・アウトレット・ショッピングデーというスペシャルイベントを開催。バナナリパブリック、Jクルー、ラルフローレンなどの約300の企業が参加し、全訪問客にはフリーギフトのほか、抽選で1等は電気自動車、2等は同センターで利用できる2万ドルの商品券などが贈られるといった特典により、消費者を集客しました。もともと2020年のアマゾンプライムデーの対抗策として計画されていたものが、パンデミックで延期していたようです。毎年恒例のショッピングイベントを提供することで、大幅な割引商品を求める消費者とテナントを結びつけるための施策となりました。サイモングループの収益の92%は家賃収入なので、テナント離れを助けることも目的としており、インフレ化でも消費意欲のある高所得者層へ、高級ブランドを多く扱うアウトレットならではのアピールを狙っていくようです。

 オフプライス店「TJマックス」で販売しているハイブランド

オフプライス業界は新規顧客獲得のチャンス!

 大手小売店の業績不振と比べると、オフプライス店は健闘しています。最大手のオフプライス店、TJマックスグループの直近の四半期の売上は前年比13%増。とはいえ、インフレによる影響もないわけではなく、在庫は35%増加しました。 ガソリンや住宅価格などの高騰で、オフプライス店での買い物に切り替えた顧客がいる一方で、お金を使うことに慎重で保守的になった顧客により相殺する結果となりました。そんな中、オフプライス店の「Burlington(バーリントン)」では、5月の決算時に、今まで仕入れたことのないブランドからの供給があることを伝えました。各ブランドの過剰在庫の放出はこの業界にとっては朗報です。顧客がより望むブランド品の仕入れとタイミングが新規顧客獲得の鍵となるでしょう。

 

 

 専門家の予想では、インフレが緩やかになったとしても2023年までは続く可能性があり、多くの米国家庭は昇給を上回る物価高に苦しめられると予想しています。過剰在庫を一掃して在庫レベルをコントロールしつつ、消費者の求める需要と供給のバランスを取っていくのは非常に難しくなりそうです。一方、消費者の利便性が重要視され、多くの企業がECやデジタルに投資していますが、実際のところは、流通コストのアップや返品コストで、利益は逼迫しています。今後は、実店舗とのバランスも重要な課題となりそうです。

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