PICK UP

2022.06.20

【2023春夏ピッティ ウォモ ハイライト】正常化し始めた紳士服の殿堂でもサステナブル、エフォートレス、機能性重視が「常識」として定着

写真左から「ウェールズ ボナー」「S|Style サステナブル スタイル」「ソウルランド」

 2022年6月14日~17日、第102回「ピッティ・イマジーネ・ウォモ」が伊フィレンツェのフォルテッツァ・ダ・バッソ要塞会場にて開催された。テーマは“ピッティ アイランド”。新型コロナウィルスの感染がかなり落ち着いている状況を受け、以前のような入場の際のグリーンパス(ワクチンパス)やPCR検査陰性証明の提示はもちろんのこと、マスクの使用も義務付けられておらず、会場内の雰囲気はパンデミック以前のような状態に完全に戻っていた。ウクライナの戦争の影響もあり、また中国などの一部の国はコロナによる渡航制限がある中、ピッティ・イマージネ協会の6月16日時点の発表によると、訪問客は約1万1千人、外国人比率は40%超を見込んでおり、2021年6月のフェアと比較すると、イタリア人バイヤー数は125%、海外からのバイヤー数は340%のアップだそうだ。出展ブランドも前回の約300から倍以上の700に増加した。

写真:会場に掲げた今シーズンのテーマ

ウェールズ ボナー(WALES BONNER)

 ピッティ ウォモが主催してきた様々な特別企画も再開。今回のスペシャルゲストとして、2016年にLVMHヤング・ファッションデザイナー・プライズでグランプリに輝いた「ウェールズ ボナー」がメディチ・リッカルディ宮の中庭にてショーを開催した。コジモ・デ・メディチが建てたこの建物は当初、外国からの賓客が集まる場所であり、また黒人との混血だったとも言われているアレッサンドロ・デ・メディチが邸宅としていた館だが、これはイギリス人の母とジャマイカ人の父というルーツを持ち、文化や芸術への深いリサーチによってヨーロッパと黒人文化をミックスしてきたデザイナーのスタイルとも呼応する。ガーナで作られたビーズのマクラメドレス、ロッククリスタルやリサイクルガラスのジュエリー、またはハンドダイのジャージーやコットンなど職人技を効かせた素材を多用し、それをシンプルでテーラードシルエットを活かしたデザインで表現した。

アン ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)

 また、ゲスト・オブ・オナーとして「アン ドゥムルメステール」が、フィレンツェのレオポルダ駅でデザイナー本人のキュレーションによるスペシャルインスタレーションを発表。2022年でブランド創設40周年を迎えた記念として、1月のピッティ ウォモにてショーを開催する予定だったが、コロナ禍により中止となったため、形を変えて今回のような特別プロジェクトとして実現することになった。アーカイブコレクションから40体、最新コレクションから6体のアイコニックなピースたちが会場内に一直線に展示し、暗い空間の中に浮き上がるような効果がなされていた。

S|Style サステナブル スタイル(S|Style sustainable style)

 一方、全体的なトレンドは、カジュアル&スポーティ路線が依然として続いている。パンデミック中には、今後、クラシックなスタイルが戻ってくると推測する声もあったが、ロックダウンを経て、エフォートレスで機能性重視というスタイルはもはや「トレンド」ではなく「常識」となったのかもしれない。今シーズンは特に軽さ重視で、リネン(またはリネンのコットンやウール混)を中心とした薄く軽い素材を使い、アンコン、製品染めなどイージーに着られるアイテムが多い。またリネンやコットンにポリエステルなどの化繊をまぜたストレッチ素材で快適さをアップしているアイテムも多く見られる。そしてサステナブルアプローチがなされた素材も今や常識となっている。その一方で、タキシードやドレスジャケットなどセレモニーラインに力を入れるブランドも見られた。これはコロナ禍でこれまで控えられていた祝祭イベント関係が増えることを見込んでの流れなのかもしれない。

写真:ブルネロ・クチネリ」のセレモニー服

 このようなカジュアル傾向を受けてか、ピッティ会場ではカジュアルラインだけをカプセル的に展示するブランドも見られた。例えば「ラルディーニ」はTシャツやスニーカーなどのスポーティラインのみ、「インコテックス」はデニムのラインだけを発表し、本コレクションはミラノのショールームにて披露するのだそうだ。

写真:ラルディーニ

写真:インコテックス(INCOTEX)

 いまやパンデミックがトレンドに影響を与える段階は終わりつつあるが、パンデミックを機に新作のプレゼンテーション方法を見直したブランドは多い。今回は出展を見送ったかつての常連ブランド達はまたピッティに戻って来るのか、次はどんな新しいブランドが加わるのか。やっと正常化し始めたピッティが、今後どのように変化していくのかが興味深い。

 

取材・文:田中美貴

画像提供:Pitti Imagine Uomo、Ann Demeulemeester、INCOTEX

 

「ピッティ ウォモ」2023春夏コレクション

https://apparel-web.com/collection/pitti_uomo

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

アパレルウェブ ブログ

メールマガジン登録