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2022.06.14

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.82】 勢い増したテーラードやレトロ あでやかさとひねり加えて~2022-23年秋冬ファッションの6大トレンド~

 2022-23年秋冬シーズンに向けた主要コレクションでは、テーラードやレトロに新しい解釈を試みる動きが広がった。国際情勢が不透明さを増す中、歴史や伝統をとらえ直すようなアプローチが加速。その一方で、ようやく「ポスト・コロナ」が現実味を強めてきたことを受けて、本気のドレスアップに誘う提案も相次ぎ、フォーマル服やドレスウエアにもひねりが加わっている。

◆ファニーフォーマル(Funny Formal)

 礼装やスーツ、夜会服に代表される、フォーマルウエアを、ウィットフルにひねる装いが現れた。正統派のテーラリングを軸に据えながら、ウエストシェイプやアシンメトリーなどでシルエットを揺さぶる。プレイフルなドレスアップはスーチングをざわめかせた。タイドアップ(ネクタイ姿)はウィメンズにも広がる。黒×白やチェック柄などの色・柄がオーセンティックな着映えに導く。

 

 貴族・上流階級風のクラシカルなムードが濃くなった。レディーライクな雰囲気をロンググローブが印象づける。フォーマルウエアからはタキシードまで持ち込まれ、お呼ばれシーンの復活を予感させる。古風なヘリテージ感を受け継ぎつつ、ファニーでゴージャスな気分を上乗せ。フォーマルの普段使いにいざなった。

◆レトロザッピング(Retro Zapping)

 レトロな時代感を下地に、複数のテイストを「つまみ食い」するかのようなミックススタイリングが勢いづく。ヴィンテージとスポーティーといった具合に、異なるムードを複雑に入り組ませて、タイムレス感を醸し出す新スタイリングだ。パンク、ヒッピー、グランジなどの気分も交わらせて、ノスタルジーに終わらない反骨マインドを織り込んでみせた。

 

 スポーティーのほかにミリタリーやストリートも組み入れている。MA-1ジャケットやベースボールブルゾン、トラックスーツが骨っぽさや元気感を添える。キャップやバラクラバ、ゴーグルサングラスが顔周りを彩る。グラフィックTシャツ、フリンジはロックな気分。タイドアップはカジュアル風に、スキーウエアは街着に姿を変える。

◆カーヴィーシェイプ(Curvy Shape)

 長くオーバーサイズ時代が続いてきたが、彫刻的、構築的でボディーコンシャスなシルエットが戻ってきた。アイコニックなコルセット(ビスチェ)はドレスにカーヴィーな曲線をもたらす。マーメイド裾やフロアレングスがグラマラスな造型を際立たせる。アウターではパフィーコートやケープが朗らかなフォルムを描き出している。

 

 襟・袖コンシャスやパワーショルダー、ハイウエストといったフォルムの起伏を印象づけるディテールが打ち出されている。体のラインを隠さず、自分らしい装いを選ぶ「ボディーポジティブ」の意識が背景にある。サイハイ(ニーハイ)ブーツが脚線を伸びやかに描く。スリット、ドレープ、ラッフル、ペプラムなどを施して、ボリューミーな動感を引き出すアレンジも目立った。

◆センシュアルクチュール(Sensual Couture)

 部分肌見せやトランスペアレント(シースルー)を取り入れた、センシュアル(官能的)な着こなしが装いを華やがせる。カットアウト、ミドリフ(チラ腹見せ)、スリットなど、演出は多彩。アイテムもブラレット(バンドゥ、チューブトップ)、ベビードール、メッシュトップスなどがそろう。ランジェリー系のキャミソール(スリップドレス)やガーターベルト、網タイツもつやめきを添える。

 

 クチュール感を高め、妖艶に仕上げるのが今のムードだ。ブラックドレスは目印的アイテム。スパンコールやルレックスなどのあでやかマテリアルでリッチ感を強調。シアー生地(オーガンジー、シフォンなど)やフェザーでアッパーな見え具合に整えている。

◆シュルレアルフェティッシュ(Sur-real Fetish)

 大胆なアート表現とのランデブーが意外感をもたらす。シュルレアリスムの技法やモチーフが謎めいた気配を醸し出す。ユーモア、茶目っ気が加わり、楽観が寄り添った。「Y2K」トレンドから盛り上がったガーリーさ、キュート感が装いを若返らせている。ダダイズム、デカダン、アールデコなどのアート趣味も装いの趣を深くする。

 

 レザーやエナメルがフェティッシュな面持ちを印象づける。アニマル柄やベルベットは押し出しが強い。スタッズ、メタリック、ビジューなどのスパークル(キラピカ)装飾がグリッター感を上乗せ。夜遊び気分のデコラティブをギルトフリーに楽しむ提案だ。

◆ソーシャルグッドネス(Social Goodness)

 あらためて人権や自由、平和といった、社会の「原点」を重んじる意識がファッション表現にパワーを与えている。すべての人の性自認を支持するジェンダーフルネスがユニセックスやジェンダーレスを押し上げ、ランウェイでも性別の境目を溶かすような演出が増えてきた。SDGsへの配慮も浸透。リサイクル繊維、オーガニック素材の活用が広がり、アップサイクルも勢いを増した。

 

 平和のメッセージが打ち出され、ウクライナの国旗色(青と黄色)は新たなシンボルに。オールブラックで弔意や抗議を示す試みも相次いだ。民族文化や手仕事へのリスペクトは、主張を帯びたモチーフ、手の込んだ刺繍などの形で盛り込まれた。その人らしさを尊重する態度は、気負わない自然体の着こなしにつながった。

 

 

 「ポスト・コロナ」への期待を込めて、ノスタルジーや現実逃避気分を絡めたハッピー感を押し出した2022年春夏コレクションに比べ、歴史性が濃くなり、夜遊びに誘うようなムードも強まった。全体的にはポジティブな気分を漂わせながらも、世の中のありように目配りして、様々なメッセージを服に託している。大量生産・消費の時代を超えて、本物や上質を求める気持ちに寄り添うような提案が目立った2022-23年秋冬コレクションだった。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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